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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
終章 盤上世界の少女は謎を求めた。
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8話 Justice③

「やっぱり樹里(じゅり)ちゃんも人間だよ。そう答えることができる時点で、犯人と樹里ちゃんは違う」

惚気(のろけ)話がしたいだけなら他のところでやってくれよ」

「……はい」


 岸部(きしべ)に正論で殴られてしまった。

 しばらくの間大人しく調査をしていると、現場に浦崎(うらざき)御剣(みつるぎ)の二人が入ってきた。


「なんでこんなところに……」


 これで外に出ていた刑事全員が集まった。

 恐らくこの中に犯人がいる。偽麗奈(れいな)だけでなく、一連の事件を引き起こした犯人がここにいるはずだ。

 現在の時刻は本来は樹里を偽麗奈に引き渡す予定だった午後七時だ。事件が起きたのは五時四十分頃、その時刑事たちは全員会議室にはいなかった。

 だからこそ、まずは彼らの行動の確認をしなければならない。


「皆さんは会議室を出た後、どこに行っていたんですか?」

「俺たちのことを疑っているのか?」

近衛(このえ)くん、仕方ないですよ。今回の事件、間違いなく内部犯によるものですから」


 浦崎が近衛を宥める。そして彼は一度咳払いをすると「まずは私から」と呟いた。


「お二人も知ってるとは思いますが、私は倉庫の方に行っていました。と言っても着いてすぐに樹里ちゃんから連絡があり、引き返してしまったのですが」

「倉庫に誰かいたのか?」

「いえ、軽く見た程度ですが倉庫に怪しい車両はありませんでした」


 やはり、予想通りだ。

 私は先程那由多(なゆた)から聞いたことを考えていた。


「ナユちゃんも言っていたんです。誘拐された時、偽麗奈さん以外の人はいなかったって。だから、多分今回の犯行は単独犯だと思うんです」

「じゃあ、引き渡しはどうするつもりだったんですか?」

「一人でもできなくはないとは思うけど……」


 どうしても歯切れが悪くなってしまう。

 たしかに一人でも不可能ではないはずだが、偽麗奈のいた場所が問題だ。私たちが署内にいる状況で彼女はどう外へ出て倉庫に向かうつもりだったのだろうか。

 彼女がここに自分の意志で侵入した以上経路は存在しているはずなのだが、脱出した後樹里を回収しもう一度ここに戻ると考えるとかなりリスクが高いように思えた。


「もしくはこれも計画通りだったのかもしれないな」

「それはどういうことだ」


 御剣が樹里のことを睨む。その眼光に私なら思わず震えてしまいそうだが、彼女の表情に変化はない。


「あの女は殺されることも想定していたんじゃないかという、ただの妄想だ。だが状況を考えれば二つの計画を用意していてもおかしくはないはずだ」


 なんらかの方法で警察署から脱出して倉庫に向かい、樹里の身柄を確保するAプラン。そしてそれが不可能と判断して大人しく犯人に殺されるBプラン。

 つまり今回偽麗奈はBプランを選択したということになる。だが、自身を犠牲にしてまで彼女がやろうとしたこととは一体……。

 いくら考えても答えは出てこない。少なくとも今は別のことを考えるべきだ。


「それで、他の三人はどうなんだ?」

「俺と近衛は外で聞き込み。俺は四条(しじょう)那由多の通ってる中学校周辺で、近衛は自宅周辺でだ」

「まぁ、ろくな情報は得られなかったけどな」


 時間が足りなかったのは勿論、監禁場所が警察署内だったせいで目撃証言があったとしても、証言からこの場所にたどり着くことはできなかっただろう。

 岸部と近衛の行動も確認できた。残りは一人、そして彼こそが一番怪しいと私は目論んでいる。


「御剣さんは何をしていたんですか?」

「あ? ……俺はずっとタバコ吸ってたな」

「一時間以上ずっとですか?」

「そうだ、早く現場に行きたかったが他のやつらにも指示を飛ばさなきゃならなかったからな」


 御剣が嫌そうな顔で頷いた。

 やはり怪しい。彼が犯人ではないのかという疑念が胸の中でドンドン大きくなる。

 タバコを吸いに行くフリをして地下室へ行きカメラを停止した。そしてショットガンで偽麗奈を殺害した後、壁に文字を書きメモを遺体の衣服の中に入れて現場を立ち去った。

 その後私たちが捜査を始め、樹里が刑事たちにメッセージを送った後で何食わぬ顔をして現場に戻ってきた。彼ならこの方法で犯行が可能なはずだ。


「そんなことより、もっと有力な情報はないのか?」

「あぁ、それならさっき那由多から話を聞いている。お前らにとっても有力なのかはわからないがな」


 樹里は特に御剣の怪しい行動を指摘したりはしない。もしかしたらしばらくの間泳がせるつもりなのかもしれない。


「犯人は男、年齢はわからない。その男が六巳百華(むつみももか)が事件にかかわっていたことも示唆していたらしい」

「やっぱり百華さんは……」

「あの女や犯人と同じ組織に所属していた可能性が高いだろうな」


 本物の麗奈が殺害された事件のトリックを暴いた時点でそれはわかっていた。しかし、その証拠が出てくるとどうしてもたじろいでしまう。


「それともう一つ。偽麗奈は那由多に対して『十九人目』と言ったらしい。実際那由多のポケットにプレートがあった」

「十九人目か……。たしかに犠牲者はこいつを含めたら十九人になるな」


 十年前の事件で十人。そして今回の事件で九人。合計で十九人もの人たちが犠牲になってしまっている。

 そして樹里が断言した。


「別に隠れた犠牲者がいるわけではない。だがこいつはわざわざ那由多に『十九人目』と言ったんだ。つまり、やつらは人数にこだわっている。最終的に何人殺すつもりかはわからないが、その数には意味があるはずだ」

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