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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
終章 盤上世界の少女は謎を求めた。
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6話 After X comes Y.④

「アハハッ! どうやら忘れていたみたいだけど、貴女も人殺しなのよ。赤崎(あかさき)樹里(じゅり)、私と貴女は同類。だからきっと、私たちはわかり合えると思うのだけれど。日守琴子(ひもりことこ)より、そして四条(しじょう)一二三(ひふみ)よりもずっとね……」

「そんなことが…あるわけ……」


 無い。その言葉が出てこない。

 もしかしたら琴子の時のように、一二三のことも……。


「次の事件だ。関係ない話は不要だ」

「そうやって必死に考えないようにするわけ?」

「……黙れ」


 今は余計なことを考えている暇はない。


「第三の事件の被害者は宿毛(すくも)右今(うこん)。死因は毒だ」

「彼は貴女の目の前で彼は死んだわけだけど、誰がどうやったと思う?」

「犯人は最初から宿毛を殺害するつもりだった。そして私たちがあの時間帯に罠を仕掛けることも知っていたんだ」


 私たちの計画を知っていた犯人は紙コップの中に毒を仕込んだ。恐らく毒は遅効性のものだ。私が宿毛の嘘を暴いている間に毒は彼の身体を巡り、そして命を奪った。

 だが何故犯人は私たちの計画を知ることができたのか。

 計画を知っていたのは私たちの他にはあの晩倉庫街で待機していた警察官たちしかいない。つまり、答えは一つ。


「あの中に犯人がいた。それが私が今回の事件の犯人が警察官だと考えている一番の理由だ」


 あの時いた警察官たちの顔を一人一人思い出す。しかし、誰もあの時怪しい素振りをしたものはいなかった。

 毒を仕込んだのは宿毛の来る前、私が冷凍倉庫で待機している間だ。

 監視カメラには事前に危険物がないか調べるために警備室に入る警察官の姿が何人も記録されている。その中に犯人がいるはずだ。


「絞り込まれたとはいえ、それでも容疑者は十人程度。まだ多いな」

「そこまで絞り込むことができたのなら十分だと思うのだけれど」

「お前に褒めれても気色悪いだけだ。……最後に第四の事件、これが今のところ一番新しい事件だ。被害者は幸田権平(こうだげんぺい)堰遼(せきとおる)。幸田は栄一(えいいち)殺しの共犯者の一人だった。あいつの運転するトラックから犯人は栄一の遺体と氷を倉庫に運び込んだはずだ」


 今のところ……。そう言ったのは私の中に確信があるからだ。

 事件はまだ続く。犠牲者は更に増えるはずだ。


「幸田は自殺かもしれないが、堰は間違いなく他殺だ。そしてその犯人はお前。少なくとも私はそう考えている」

「なるほどねぇ……。でも何のために?」

「宿毛と同じだ。犯人は幸田のことが不要になったんだ」


 そして浦崎(うらざき)たちを牽制するための一手でもある。

 堰を実行犯ということにしてしまえば、これ以上の捜査は無意味になり継続する価値もなくなる。つまり、現状動くことができるのは組織とは無関係な私だけなのだ。


「あぁ、認めるよ。私はお前たちと同類の人間……いや、バケモノだ」


 バケモノ退治はバケモノにしかできない。なら私以上の適任者はどこにもいないだろう。……私しかいない。


 感情を押し殺す。

 人殺しの私が人並みの幸せを得ようとしていたのだが間違いだった。私にはそんなものを得る資格なんてない。

 そのことを忘れ、今までずっと図々しく生きていたことを恥じるべきだ。


 身体が芯から冷えていくのと共に、私の意識は急浮上した。



「起きてください。到着しましたよ」


 浦崎が私の肩を叩く。時計を見ると寝てから三十分程経過していた。

 私はシートベルトを外して、パトカーから出た。


「お前もさっさとしろ。それともそこでずっと寝ているつもりか?」

「……うるさい」


 岸部(きしべ)が一度私のことを睨むと、大きく欠伸(あくび)をした。

 そして、私の降りたパトカーの隣に停まっているもう一台の車から、女性が降りてきた。


「樹里ちゃん!」


 女性が駆け寄り、私の手を握り締める。


「……一二三か」

「どうかしたの? なんか様子が変だよ」


 ……やめてくれ。私に構うな。そんな目で私を見ないでくれ。

 そう願っているのに、一二三の体温が私を惑わせる。彼女の温かさに縋ろうとしてしまう。


「問題ない。それよりさっさと用事を片付けて帰るぞ」

「わ、わかった……」


 不服そうな表情で一二三が手を離す。……それでいい。

 私は胸の痛みを無視して警察署内に入った。


 再び会議室に通され、安物のパイプ椅子に座る。そして私は今一番気になっていることを浦崎に訊ねた。


「お前はこれからどうするんだ? 捜査はもうしないのか?」

「私がですか?」


 浦崎は警察組織側の人間だ。当然組織内の規則には従わなくてはならない。しかし、同僚を殺されている彼の犯人への恨みは並大抵のものではないはずだ。

 だからといって、協力を強制することはできない。あくまで彼の意思次第というわけだ。


「……まぁ、続けますよ」

「ちょ、ちょっと浦崎さん!」


 それに異を唱えたのは岸部だ。

 近衛も困惑した顔で浦崎の表情を窺う。


「たしかに、私も上の命令を無視して大掛かりな捜査をするつもりはありません。ただ、個人的な調査はこっそりと続けるつもりです。今まで通りね」

「まさか、浦崎さん前からずっと……」

「やはりな」


 浦崎は前々から事件の調査をしていた。

 年が明けた直後に私たちが捜査した、配信者の女が犯人の事件。恐らくあの時に彼の協力を得ることができなかったのは、あの時彼が十年前の事件を調べていたからなのだろう。


「……聞き捨てならないな」


 そう言ったのはいつの間にか会議室の入口に立っていた短い白髪の男。彼の顔に深く刻まれたシワのせいか、カタギの人間のようには見えない風貌には見えない。まるで彼ら警察が捕まえるような暴力団の幹部にいてもおかしくなさそうな顔立ちだ。

 私は彼の顔は知っているのだが、名前までは知らない。

 会ったのは宿毛に罠を仕掛けた時だ。あの時彼が倉庫街にいた警察官たちに指示を出していたのを覚えている。


御剣(みつるぎ)警部補……」


 浦崎が気まずそうに男の名前と階級を呟く。


「御剣義元(よしもと)だ。よろしく、小さな探偵さん」

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