表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
終章 盤上世界の少女は謎を求めた。
192/210

6話 After X comes Y.②

「十年前の犯人と今回の犯人。二人はどちらも警察関係者だ」

「なっ……」


 浦崎(うらざき)は信じられないといった表情をする。

 たしかに何の確証もなしにこんなことを言えば気が狂ったと思われても仕方がない。だが、私は以前にも彼と同じような会話をしている。


四条(しじょう)家の事件の時にも言っただろ。六巳百華(むつみももか)が起こした事件は警察上層部がかかわっていると」

「そうですが……。しかし今回の事件にも……?」


 まだ実行犯は上層部の人間なのか、それとも他に上層部からの指示で動く駒がいるのかはわからない。

 しかし、これだけは言える。


「事件はまだ起きる。あの二人はスケープゴートだ」

「……浦崎さん」


 携帯電話を持った岸部(きしべ)が現場に入ってくる。そして携帯電話を浦崎に手渡した。

 浦崎は恐る恐る携帯電話を耳に当てた。


「もしもし、お電話代わりました。……そうですか。かしこまりました。失礼します」


 浦崎はやけに素直な返事をすると、電話を切た。

 だが、その直後に彼は舌打ちをした。それだけで電話の相手、そしてその内容も全て理解できた。相手の方が先手を打ってきたのだ。


「捜査は打ち切り、連続殺人事件の容疑者は自殺……。これが上層部にとっての真実らしいです」

「……そうか」


 この一手のせいで、浦崎たちの動きは封じられてしまった。



「なるほど、たしかにそれなら殺人も可能だ。あぁ、犯人は六巳百華で間違いないはずだ。署で合流しよう。……切るぞ」


 スマートフォンをポケットにしまう。

 結局、一二三を巻き込んでしまった。その後悔が頭の中で蛇のように這いずる。


「これからどうするんですか?」


 運転席に座る浦崎が訊ねてきた。

 助手席に座る岸部は眠っていた。だからこそ彼の上司であるはずの浦崎が運転しているわけだ。私は後部座席を独り占めして思考を堂々巡りさせていた。


「まずは署で一二三(ひふみ)と合流する。それから……事件を調べる。私は警察組織のこととは全く関係ない。捜査を続けたとしても問題ないはずだ」

「えぇ、私の渡したデータ、有効活用してくださいよ」


 署で一二三と合流後、形式的な取調べを受けるはずだ。

 その後帰宅して浦崎から受け取ったデータを閲覧する。これは絶対に一二三には見せられない。彼女をこれ以上巻き込むわけにはいかない。そのためにはどうするべきか。


 答えは簡単だ。

 それは事件を解決すること。なら既にその条件は満たされていると言ってもいい。犯人は幸田権平(こうだげんぺい)堰遼(せきとおる)の二人、そして二人の死亡で事件は幕を閉じた。そう結論付けてしまえば、これ以上巻き込まれることなんてない。

 だが、これからも事件は起きる。犯人は相も変わらず自身の力を誇示するように、二枚のプレートを現場に残すのだろう。


「……私には関係ない」


 そう言ってしまえば済む話なのだ。誰が死のうが、私には関係のないことだ。勿論、一二三にも関係はない。


 逃げてしまえばいいのに。

 逃げることなんてできるわけがない。


 矛盾した二つの思考。まるでもう一人の自分が脳内にいるようだ。


「少し寝る。到着したら起こしてくれ」

「はいはい。ごゆっくりどうぞ」


 目を閉じる。シートベルトの圧迫感で寝心地は悪いが、昨晩のソファーよりは何倍もマシだ。

 しかし、このままでは混乱で頭がどうにかなってしまいそうだ。こんな時くらいは穏やかな夢を見たいのだが、その普通の行為は私には到底できない。

 普通の夢を見ることのできない私が唯一安らぐことができるのは一二三と共にいる間だけ。そして私が何も考えずに頭を真っ白にすることができるのは、彼女に滅茶苦茶にされている時だけだ。


「うぅ……」

「どうかしましたか?」

「何でもない! 放っておいてくれ!」


 昨晩のことを思い出して頭の中が沸騰してしまう前に、私は意識を沈めていった。



「結局、貴女は自分の意志で思考を止めることはできない」


 知らない女が目の前に座っていた。『双貌(そうぼう)の魔女』でも、『那由多(なゆた)の魔女』でも、そして『幸運の魔女』でもない。四人目の新たな魔女だ。

 だが、その顔には見覚えがあった。彼女は今の私が一番会いたい女と同じ顔をしていた。


宮森麗奈(みやもりれいな)……。いや、お前は誰なんだ?」


 宮森麗奈の名前を騙っていた謎の女性。彼女が新たな魔女として遊戯世界に姿を現した。


「そうね。じゃあここはこう名乗ろうかな。私の名前は『観測の魔女』。それ以上でも、それ以下でもない」

「『観測』か……。それにしてはお前は事件に介入しすぎだ。今だって事件を追う私をお前の領域に引きずり込んでいるわけだしな」


 私がいるのは月面。そのクレーターの上に置かれた赤いソファーに『観測の魔女』は座っていた。

 当然私たちが実際に宇宙にいるわけではない。魔女が再現した心象世界、それがこの場所なのだ。

 そして私は木製の椅子に座らされている。私の手足には枷がつけられていて自由に動かすことはできない。この場での立場の違いがハッキリと示されていた。


「それで、お前の目的はなんだ?」

「事件を整理しておこうと思って。ちょっとややこしくなってきたでしょ。親切心くらい素直に受け取ったらどう?」

「本当にそれだけならな。お前は私に別の目的があるはずだ。事件から手を引けとでも言いたいのか? あの脅迫で私が引かなかったから直接言いに来たんじゃないのか?」


 すると魔女は口角を吊り上げて嗤った。


「もしかしてあの写真のことを危惧してるわけ? だとしたら不正解。私たちは別に四条一二三のことなんてどうでもいいの。ただ貴女の壊れ具合を確認しておきたかっただけ。あの写真はそのためのもの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ