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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
終章 盤上世界の少女は謎を求めた。
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6話 After X comes Y.①

 監視カメラを確認してからしばらく経ち、何事もなかったかのように捜査が再開される。

 一二三(ひふみ)が慌ててどこかに行ってしまったのは心配だが、ある意味好都合かもしれない。

 私は浦崎(うらざき)にあの話を切り出した。


「過去の事件についてのデータ、用意できたんだろうな」

「えぇ、できていますよ。……どうぞ」


 浦崎がUSBメモリを手渡してくる。この中に過去の犠牲者たちの名前や死因、現場の状況が載っているのだろう。

 機密漏洩という確実にアウトな行為だが、もはや手慣れたものだ。周りの警察官たちも見て見ぬふりをしている。


「最初に起きた事件は二○○八年三月十八日、被害者の名前は神楽坂(かぐらざか)門司(もんじ)。自宅で斧のようなもので頭を割られているのが、近くの住人によって発見されました」


 浦崎は話を続ける。


「次は同年五月一日、被害者は木下(きのした)直弥(なおや)。凶器は爆弾、部屋が吹き飛んでほとんど何も残っていませんでした。そして翌月十四日、女子高生の狩野(かのう)二奈(にな)が自室で手首から血を流しているのが発見されました」

「……その女子高生の事件、自殺じゃないんだな?」

「えぇ、最初は自殺として処理される手筈だったのですが、ここで事件の共通点に気づいた刑事がいたんです」


 事件の共通点。恐らく現場に残された『A』と『Z』のプレートのことだ。これらは犯人からのメッセージであることには間違いないのだが、その意図がわからない。


「その刑事は誰なんだ?」

岸部行村(きしべゆきむら)、先日聞いたとは思いますが政宗(まさむね)くんのお父さんです。彼が現場に残されたプレートに気づいて、まったく関係がないと思われていた三つの事件、そしてそれから起きる事件たちを繋ぎ合わせたんです」


 アルファベットのプレートなんてありふれたものだ。ただ現場にあるだけなら、家具だと思い込んでしまうだろう。

 しかも三つの事件の現場は全て被害者の自宅。だれも犯人からのメッセージに気づいたりはしない。きっと政宗は優秀な刑事だったのだろう。

 ……しかし、今はこの世にいない。彼は犯人に殺され、そして十年もの間犯人は行方をくらましていた。


「四件目の事件は九月三日、被害者は三邨(みむら)佳樹(よしき)。山中で喉にゴミを詰められた状態で発見されました。死因は窒息死です。そして同月十二日、外宮(そとみや)平次郎(へいじろう)が当時運行していた急行列車に轢かれて亡くなりました」

「いきなり現場が変わったな。今までは自宅だったが、その二つは外だ」

「えぇ、そしてプレートも変わらず残されていました。恐らく犯人は事件が別々のものであると処理されることを危惧していたのでしょう。だから明らかに不自然な状況でプレートを残した。これで捜査している人間全員が事件の繋がりを理解したんです」


 犯人は自己顕示欲が強いのか、それとも何か目的があるのか。事件を同一犯によるものだと明確に示す必要があった。

 だからこそ現場にアルファベットのプレートを置いたのだ。


「六件目は十月一日、佐藤(さとう)玖美(くみ)。火事ですが焼け残った自宅の跡地にプレートが残っていました。次は翌月末、嘉戸(きど)啓吾(けいご)がガラスで首を切られているのが彼の職場で発見されました。当然プレートも。そして年が明けて一月十日、二野瀬(にのせ)加子(かこ)が薬物の中毒症状で亡くなりました。九件目は二月十八日、大良(たいら)紀佳(のりか)が尖らせた氷のようなもので背中を滅多刺しに。……そして次が十年前の連続殺人の最後の事件です」

「……被害者は岸部行村」

「はい。二○○九年四月の初め、腹部から血を流して倒れているのがパトロール中の警官に発見されました。凶器は小型の折り畳みナイフ、所謂ジャックナイフってやつです」

「そしてそれ以降、十年間同様の事件は起こらなかった……」


 だが何故、犯人は行村の死後姿を消したのか。最初から岸部行村がターゲットだった? なら十年経った今犯行を再開した理由がわからない。

 なら犯人は別にいる? だがアルファベットのプレートは捜査にかかわった人間しか知らない。つまり犯人は一人……。


 ……いや、違う。犯人が一人とは限らないはずだ。


「今回の事件、特に栄一(えいいち)殺しの一件は共犯者が存在していた。つまり十年前の連続殺人事件にも共犯者がいた可能性がある。……なら十年前と今回で犯人が別の可能性だって否定はできない」

「どういう意味ですか?」

「事件を引き継いだんだよ。最初の犯人は岸部行村を殺害し、目的を達成した。だから新たな事件を起こす必要がなくなった。だが共犯者はそれでは満足できなかったんだ。きっと十年で再び仲間を集めて、そして準備が整った当時の共犯者は主犯となって最初の事件を起こした」


 それが十年経ってから再開された最初の事件。芦田恭一(あしだきょういち)が殺された事件だ。


「しかし、一体誰が……」

「それはまだわからない。だが絞り込むことはできるはずだ」


 犯人は過去に行村によって逮捕され、彼に恨みを持つ人間か?

 違う。それならわざわざ無関係の人間を殺す必要性も、メッセージを残す必要もない。殺すとしてもその対象は行村の関係者になるはずだ。


「今回の事件には、宮森麗奈(みやもりれいな)を名乗る偽物も関わっている。そして一二三が調べに行ったのは恐らく本物の宮森が殺された事件だ。更に言えば、本物が殺された事件は六巳百華(むつみももか)が関係している」


 事件は別の事件と密接に関係していて、その事件もまた別の事件と繋がっている。

 ややこしいが紐解いていけば、一つの答えが見えてくる。


「六巳百華が関わった事件は全て警察が重要な情報を揉み消している。つまり……」


 陰謀論もいいところだ。

 しかし、栄一を脱獄させることができる職業は限られている。少なくとも幸田(こうだ)(せき)の二人には不可能だ。なら犯人は……。


「十年前の犯人と今回の犯人。二人はどちらも警察関係者だ」

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