表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
Interlude
165/210

20話 嵐の孤島、幸運の魔女 その捌:始まりの事件の終わり②

 『三〇三号室』の扉に『三〇二』のタグが付けられた鍵を挿し込む。そしてゆっくりと回す。

 するとカチャリという音が鳴った。そしてサチヱは先程のようにドアノブをひねるが、扉は開かない。

 ……これが真実だ。こんなことをできた人間は、部屋の主しかあり得ない。


「なんで、お前が……。なんでお前がやったんだよッ!」

「ち、違う……。僕は……」

「何も違わないさ。富田(とみた)、アンタが犯人だ」


 大きな雷が近くに落ちる。それと同時に富田の顔が険しくなる。


「アンタはタグを付け替えて、あたかも現場の中に『三〇二号室』の鍵があったと思い込ませたんだ。そして後でもう一度入れ替えを行うつもりだったが、アクシデントが起きた。私が鍵を持ちだしてしまったことだ。取調べの時も内心は焦っていただろうな」


 富田は黙ってサチヱの推理を聞き続けていた。


「まずは第一の事件からだ。アンタは岸部行村(きしべゆきむら)のことを知っている。だからこそこいつが捜査をすぐに切り上げることをわかっていたんだ。これこそが岸部を島に呼んだ本当の理由、つまりは私の妨害をするためだ」

「妨害……?」

「あぁ、神楽坂門司(かぐらざかもんじ)に脅迫状が送った結果、彼は私に依頼をした。そこでアンタたちは考えたんだ。私という探偵の行動を阻害することのできる存在を呼ぼうと。それが岸部行村、そして浦崎隼人(うらざきはやと)の二人だ」


 私と富田は五年前からの知り合いだ。つまり彼は私がサチヱの捜査を妨害することを予想していたのだろう。

 実際途中までは彼の考え通りに進んだ。しかし、彼には誤算があった。私がサチヱの力に頼ったことだ。


 勿論、第一の事件だけだったら彼女の力を利用しようとはしなかっただろう。だが第二の事件のせいで事情が変わった。

 犯人が西天音(にしあまね)樋野針汰(ひのしんた)の二人だと考えた私は、二人がこの島にいる人間を皆殺しにするつもりだと予想した。それを食い止めるためには、どんな手を使ってでも犯人を捕まえなくてはと考えた。だからサチヱの行動も見逃したのだ。


「第一の事件を終えた後、アンタは二人がもう不要な存在になった。だから殺害した。そしてそれと同時に遺体消失を演出して私たちに見せつけたんだ」

「ぼ、僕がどうやって二人を……?」

「まず第一の事件の後アンタの手引きで共犯者を外へ逃がし、私たちが現場に戻ってくるのを待った。そして私たちが現場から二人が消えていることに気づき、二人を捜している間にアンタは神楽坂櫻子(さくらこ)紫藤寛人(しどうひろと)を殺害した。その後外へ出て合流、用済みになった共犯者を殺害したんだ。第二の事件で現場の窓が開いていたのは、窓から脱出した犯人も無事ではないと思わせるためだ」


 すると富田は悲しそうに笑いながら私のことを見た。

 正直否定してほしかった。たしかに鍵の入れ替えという決定的な証拠があるとはいえ、もしかしたら真犯人に巻き込まれているのかもしれない。


「何か反論はあるか?」


 ……そんな私の願望はあっさりと打ち砕かれた。


「僕の負けです。二人…いや四人を殺したのは僕です」

「どうして……、どうしてお前がこんなことを!」

「先輩二人は神楽坂門司への復讐だったそうですけど、僕は違います。岸部さんは勘違いしてますよ。僕はいい子なんかじゃありませんから」


 ずっと私は富田のことを誠実な人間だと思っていた。だが、それは私の一方的な思い込みだった。


「そもそも五年前のあれも、自分の意志でやったことなんですよ。まぁ周りには命令されたように思われるよう仕向けたんですけど。岸部さんも簡単に騙されてくれましたよね」

「……これで閉幕、退屈な事件だったな」


 こうして嵐に閉じ込められた島での事件は終わった。

 私はこの事件を通して自身の愚かさに気づき、そして犯罪者を憎む感情が強まった。



「これでこの話はおしまい」

「……その後はどうなったんですか?」

「雨が止んだ後警察が駆けつけて、西天音と樋野針汰の遺体を林の中で発見。西の後頭部には硬いもので殴られた形跡があったみたいだよ」

「つまり、第一の事件で生きていたのは祖母の予想通り西さんってことですね」


 なんて救いようのない話だ。

 岸部行村刑事はこの事件がきっかけで考え方を変え、捜査に手段を選ばなくなったのだろう。そんな父親の姿を見て、息子の岸部政宗(まさむね)刑事は私たちに反感を抱いてしまったのかもしれない。

 今となっては彼らの真意を知ることはできないのだが。


「そういえば、富田さんは今も獄中に?」


 勿論出所できるはずがない。死刑にでもなっていない限り、富田は今も服役中のはずだ。

 しかし、琴子(ことこ)は首を横に振った。


「──死んだよ」

「そうですか……」

一二三(ひふみ)ちゃんが想像してるようなものじゃないと思うよ。富田は獄中で自殺したんだ」

「自殺……?」

「そう、自ら首を切ってね」

「それも、もう一人の犯人っていう人から聞いたんですか?」


 再び首を横に振って否定を示す。


「こっちに来てから少し調べたんだ。そしたらすぐに当時の記事が出てきてね。自殺したのは十三年前、丁度最初の事件が起きた直後だったよ」

「最初の事件……」


 事件というのは琴子が私に求めているもの、『AZ事件』のことだ。その最初の事件は十三年前から始まり、そして二年前に終結した。

 その結果、私は大切なものを失い、今この場に立っている。


「じゃあ、次は一二三ちゃんの番だよ」

「……はい」


 琴子が何故この話を私に聞かせたのか、その理由は序盤に気づいていた。私はバッグから一枚の紙を取り出した。

 これは以前に浦崎から渡されたデータを印刷したものだ。ここには琴子の求める情報が載っている。


「ここに事件による犠牲者の全員が載っています。最初の事件は二○○八年三月、()()()()()()()()()。頭を斧で叩き割られて死亡していますね」

「そこはどうでもいいかな」

「どうでもいいって……」


 不謹慎にも程がある。

 しかし、たしかに琴子にとってこれは重要な情報ではない。彼女が求めているのは二年前の事件、その犠牲者たちについてだ。


「二〇〇九年四月、岸部行村刑事が大通りで何者かに腹部をナイフで刺されて死亡。そこから十年間事件は起きていません」

「でも二年前に突然事件は再び幕が上がった」

「はい。二〇一九年四月に芦田(あしだ)恭一(きょういち)さんが住宅街で殺害されています」


 そして惨劇は続き、何人もの人が死んだ。


「二〇十九年五月、浦崎隼人刑事が警察署内で犯人に襲われ……()()()()()()()。そしてそれから数日後、最後の事件が起きました」

「それが一二三ちゃんがそうなった原因ってわけ?」

「……はい。犯人と争った結果胸部を銃で撃たれ意識不明……、樹里(じゅり)ちゃんは()()()()()()()()()()です」


 これが私と樹里の最後の事件。それはとある人物の死から始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ