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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
Interlude
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20話 嵐の孤島、幸運の魔女 その捌:始まりの事件の終わり①

 大きないびき声で目が覚める。

 広間の床に大の字になって寝ている浦崎(うらざき)を見て私はため息を吐いた。耳障りないびき声の原因は彼だ。

 時刻は朝の五時。私を起こしてから交代で仮眠するという役目を果たすことはできなかったようだ。


「サチヱさん、まだ起きてたんですね」

「あぁ、アンタもまだ寝ていていいよ」

「いや、大丈夫です。サチヱさんこそ寝てください」


 一切疲れた素振りを見せないが、サチヱも限界のはずだ。

 幸い仮眠のおかげで私の体調は先程よりマシになっていた。彼女にも浦崎のように仮眠を取らせるべきだろう。


「私は平気だよ。それより少し話を聞いてくれるかい?」

「話、ですか。まさか事件について何か解ったんですか?」

「そうだ、第二の事件のトリックが解けた。そしてその犯人もね」

「犯人……。それって西(にし)さんと樋野(ひの)さんのどちらか、もしくは両方じゃないんですか?」


 するとサチヱはニヤリと笑って床を指差した。


「それは違う。犯人はこの中にいる。……恐らく二人は既に死んでいるだろうな」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 二人が死んでいる⁉ じゃあ遺体が消えたのは別の犯人が?」

「……これに関しては証拠があるわけじゃない。私の憶測だ。午後七時、西天音(あまね)と樋野針汰(しんた)が倒れているのを発見した時、片方は生きていたんだ。脈を一時的に誤魔化す方法ならあるはずだ」

「ゴムボールを脇に挟めば不可能ではないですね。でも片方だけ……?」

「流石に二人両方が死んだフリをしてたのは無理がある。一人が行動できればそれで十分だからな。それに長時間捜査すれば気づかれる可能性も高い。だが実際はすぐに捜査は終わり現場の保全にシフトした」


 その判断は間違っていないはずだ。しかしサチヱはそんな私の考えを無視して勝手に動き回った。第二の事件での鍵を持ちだしたのだってそうだ。


「犯人は二人いる。一人は西か樋野のどちらか。そしてもう一人はそいつに助言して第一の事件を裏で操っていたんだ。……ここから先は聞かせるべきじゃないな」

「どうかしたんですか?」


 サチヱの表情が曇る。その顔は初めて見るもので困惑したが、すぐに彼女が何を言おうとしているのか感づいてしまった。

 犯人が彼だと、彼女は言おうとしているのだ。


「……聞かせてください。覚悟はできています」

「そうか。なら続きを話すとするかね。犯人は──」



「すみません。途中で寝ちゃったみたいで……」


 浦崎が申し訳なさそうな顔で頬を掻く。

 時刻は午前八時、外を見ると雨は昨日より若干弱まっていた。


「大丈夫、浦崎が寝ている間もサチヱさんが見張っていてくれたから」


 私は壁際に立つサチヱのことを見た。彼女は壁に寄りかかり、立ったまま寝ている。……器用だ。

 彼女が眠ったのは数十分前、やはり限界だったのだろう。

 そして浦崎に続いて宿泊客たちも目覚める。全員疲れは全く解消されていないようだ。


「……おはようございます。今日こそ助けは来てくれるでしょうか」

門司(もんじ)さん、おはようございます。雨は順調に弱まっていますから、予報通り昼には船も出せるんじゃないでしょうか」


 実際はそんな保証はどこにもない。しかし不安にさせるようなことをわざわざ言う必要はない。


「全員起きたのかい」


 サチヱが目を開き欠伸(あくび)をする。今起きたのかずっと寝ているフリをしていたのかはわからない。

 そして彼女はソファーに座り足を組んだ。

 私は数時間前に彼女からこの事件の真相を聞いている。私にはにわかに信じがたいものだったが、その証拠さえ確認できてしまえば犯人は彼しかあり得なくなる。


「結論から言うと、犯人が解った」

「ほ、本当ですか⁉」


 横になっていた富田(とみた)が勢いよく立ち上がる。


「しかし、犯人はいなくなった従業員の二人なのでは……?」


 渡井(どい)が三時間前の私のようなことを言う。しかし、二人に第二の事件を起こすことは不可能なのだ。

 マスターキーと部屋の鍵は一つずつしか存在しない。現場のテーブルにはマスターキーと『三〇二号室』の鍵が置かれていた。つまり鍵を使って外部からの施錠は不可能になる。……彼以外には。


「まずは第一の事件からだな。あれは二人のどちらかが生きていれば説明ができる。仮にここでは西天音が生きていたことにしよう。西は樋野を殺害した後、自身も命を絶ったような偽装をした。縄を自身の首に巻き、ゴムボールを脇に挟んで死んだフリをしたんだ」

「でも……、もしじっくり調べられてたら生きてるってバレちゃわない?」

「たしかにそうかもな。だが実際はそうならなかった。岸部行村(きしべゆきむら)が早々と切り上げることを、もう一人の犯人は知っていたからだ」

「もう一人……?」


 私が形式に囚われている刑事だということを知っている人間、勿論浦崎ではないのだが、ここにもう一人そのことを知っている人間がいる。

 私のことを何年も前から知っている人間が、ここにはいるのだ。


「次は第二の事件だ。現場は『三〇二号室』、扉には鍵がかかっていた」

「脱出方法は窓だけ、しかし窓の下は大荒れの海で脱出は不可能ですよ。そんな中犯人はどうやって……?」

「どうやって? そんなの簡単だよ。犯人は外から鍵を使って扉を施錠したんだ」

「はぁ? 鍵は現場の中にあったんですよ。それを知らないわけじゃないですよね?」


 鍵を使っての施錠は不可能。犯人は私たちにそう思い込ませたのだ。

 するとサチヱは鍵を取り出した。昨晩現場から盗んできた『三〇二』のタグが付けられた鍵だ。


「鍵に付いているタグは簡単に付け替えることができる。つまりは別の部屋の鍵を『三〇二号室』の鍵だと見せかけることも可能というわけだ。ここまで言えば、私が何を考えているかアンタたちにも解ると思うのだけれど」

「まさか……」

「少し実験してみようか」


 サチヱはいきなり広間を出て階段を上り始めた。私たちは戸惑いながらもそれについていく。

 そして彼女は第二の事件の現場となった『三〇二号室』ではなく、『三〇三号室』の前に止まった。彼女は一度ドアノブをひねって扉を開けると、すぐに閉じた。現在は扉が施錠されていないことの確認だ。


「さて、実験開始だ」

「そ、そこは……」


 『三〇三号室』の扉に『三〇二』のタグが付けられた鍵を挿し込む。そしてゆっくりと回す。

 するとカチャリという音が鳴った。そしてサチヱは先程のようにドアノブをひねるが、扉は開かない。

 ……これが真実だ。こんなことをできた人間は、部屋の主しかあり得ない。


「なんで、お前が……。なんでお前がやったんだよッ!」

「ち、違う……。僕は……」

「何も違わないさ。富田、アンタが犯人だ」

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