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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
Interlude
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6話 魔女の住む村 その惨:死体の順序①

「魔女様を殺したのはこれか……」


 近衛(このえ)刑事が凶器を見ながら言う。

 山路世津子(やまじせつこ)を殺害したのは拳銃。そこから弾が発射され、彼女の頭部を貫いた。

 しかし、凶器が落ちていた場所が一番の謎だった。


「……しかしなんで死体が拳銃を握ってるんだ?」


 凶器は山路よりも先に死亡したはずの御代(みしろ)の右手にしっかりと握られていた。


「御代さんが死亡したのは山路よりも先です。これは犯人による偽装のはずですが……、ならどうやって犯人はここから脱出したんですかね?」

「今のところ証拠になりそうなものは何も見つかってないな」


 近衛刑事がつまらなそうに言った。

 山路の部屋の扉に鍵がかかっていたのは私たちも確認している。そして窓もしっかりと施錠されていた。

 どこにも外部から何かを仕掛けたような形跡はない。


「……密室、か」


『密室殺人なんて存在しない』


 私が初めて遭遇した事件、その時あの少女が言っていたことを思い出す。しかし、今は感傷に浸っている暇はない。

 完璧な密室殺人なんて存在するはずがない。だからこそ、これは犯人による工作だ。ならどこかにその証拠が残っている。仮に本当にこの部屋が本当に密室だったとしても、遠隔で殺人をしたという証拠が必ずあるはずだ。

 そして私はテーブルに視線を向けた。


「コップ……?」

「それがどうかしたのか」

「いえ、ただ」


 机の上にはコップが置かれている。中に液体は入っていない。だがコップの側面には水滴が付着していた。恐らく死ぬ前に山路が飲んだのだろう。

 水差しはどこにもない。そして冷蔵庫やペットボトルも現場には存在しない。つまり別の場所でコップに飲み物を注いだはずだ。


「──誰が持ってきたんだろうって思って」


 一番考えられる可能性としては、山路の指示で信者の誰かが運んできたということだ。そしてそれをするとすれば側近の木本(きもと)だろう。

 私は部屋の外で待機していた彼に訊ねた。


「木本さん、ここに飲み物を運びましたか?」

「いや、何も……。多分山路様自身がここに置いたんだ」


 たしかにその可能性も高いだろう。山路自身の手でコップに飲み物を注ぎ、部屋へ運んでから飲んだ。事件とは何の関係もないただの日常風景だ。

 いくら考えても密室のトリック、そして御代の遺体がここにある理由は見えてこない。ここを調べるのは警察に任せて、私は別の作業をすることにした。


「刑事さん、私は関係者から話を聞いてきます。少し気になることがあるので」

「……好きにしろ」


 近衛刑事の言葉に甘えて、私は現場を後にした。そして控室に戻っていた二人を広間に呼んだ。



「まずは雪野(ゆきの)さんから」

「……私たちが事件に関係してないのはアンタが一番知ってると思うんだけど」


 雪野は不機嫌そうな目で私のことを見る。


「えぇ、だから今から訊くのは事件とは関係ないことかもしれません。雪野さんたちは何故山路たちのところで働いているんですか?」


 その理由次第では、彼女が山路を殺す動機に繋がるかもしれない。

 私は雪野のことを疑っている。当然今井(いまい)もだ。

 二人は私と行動を共にしていた。つまり犯行は不可能だったかもしれない。しかし、現状犯人がどうやって山路を殺害したかわからない以上、まだどんな可能性も完全には否定できない。

 もしかしたら、遠隔で殺す手段があったのかもしれない。

 例えば自動で発射する仕組みの拳銃を事前に用意していたとか。流石にその可能性は限りなくゼロに近いし、そんなことをすればすぐに警察に気づかれるだろう。だが、どんなに馬鹿らしく思える可能性も一応は考えなくてはならないのが辛いところだ。


「アンタと同じで、山路のインチキを暴いたの。まあ流石にあそこまで堂々とやってわけじゃないけどね。他の信者たちがいない状況でこっそりと」

「そこで勧誘が?」

「えぇ、それをバラさないなら協力金が、そしてここで働けば更に報酬を渡すってね。勿論快諾したんだけど、無理矢理整形させられたのは予想外だったわ」


 それで雪野久実(くみ)という女性は行方不明になった。

 しかしそれだと疑問が残る。行方不明者は他にもいる。恐らく雪野以外も顔を変えてここで働いているのだろう。

 そういった身元の確認は警察が調べればすぐに終わるだろう。だからこそ、疑問に感じていた。


「何故今まで誰も貴女のような存在に気付かなかったんですか?」


 行方不明者が何人も出ているというのに、そのことが発覚するまでかなり時間が経っている。

 彼らの親族、もしくは親しい人間が失踪のことを警察に伝えれば、すぐに山路たちの組織との関連性を突き止めていただろう。しかし、実際には警察は証拠不十分で手をこまねいていた。


「……私が消えたところで、気づいてくれる人なんていなかったから。多分他の人たちも似たような感じね」


 それを知っていて、山路は雪野たちのことをスカウトしたのだろう。

 元は彼女たちも悩みを持っていて、山路に縋ることしかできなかった人間だ。それが失踪事件が明るみになるのを遅らせていたのだ。


「事件直前で山路や木本の様子で気になったところはありますか?」

「御代を本当に殺したのもそうだけど、今思うとその前からそわそわしていた気がするわ」

「その原因に心当たりは?」

「悪いけど何も」


 流石にとんとん拍子とはいかないようだ。

 しかし、事件前の山路たちの異変については重要な情報だ。その原因を他の人間に訊く必要があるだろう。近衛刑事にもこのことを伝えるべきだ。


「そうですか、ありがとうございます。じゃあ次は今井さん」

「は、はい……」


 といっても、彼に訊きたいことは一つだけだ。


「何故貴方は御代さんを見殺しにしたんですか?」

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