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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
Interlude
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4話 魔女の住む村 その壱:マガイモノ③

「それでは次は貴女の番ですよ。赤崎(あかさき)一二三(ひふみ)さん」

「名前、知ってたんですね」


 これも女将から聞いたのだろう。特徴的な見た目なのだから、すぐに名前と顔が一致するだろう。

 三杯目が注がれ、それが私に渡される。視線が一気にこちらへ集まった。

 ……大丈夫。中に入ってるのはただの水のはずだ。きっと貴女にもまだ信仰心が残っているなんて言い訳をするつもりなんだ。

 それか私が怖気づいて逃げ出すとでも思っているのだろう。


 毒なんて入っていない。大丈夫、大丈夫だから……。

 私はゆっくりとコップを傾け、喉に水を流し込んだ。


 ……違和感。本来無味であるはずの水なのに、味覚が何かを感じとった。


「……うっ」


 私が飲んだのは水ではない。

 それを理解した私はその場に屈み、口に含んでいた液体を吐き出した。カーペットに液体が染みていく。


「げほッ…ぇほっ……」


 咳き込んだ私は口を押えながら、山路(やまじ)のことを睨んだ。視界が涙で滲む。


「おぇっ……しょっぱい。たしかにただの水じゃありませんね」


 毒は入っていない。しかし、多量に摂取すれば劇物であることには変わりなかった。

 ……私が飲んだのは塩水だ。しかもかなり濃度が濃い。


「本当に毒が入ってると思いました? そんなことをしたら私が人殺しになってしまうじゃないですか。だからこそ私は水を塩水に変えたのです」


 あくまで山路はこれを魔法だと言い張る。

 しかし、これはただのトリックだ。いや、トリックですらない。子供だましのような方法で彼女は私にだけ塩水を飲ませたフリをしたのだ。


「それはただ初めから……」

「初めから塩水だっただけじゃないですか!」


 私がそれを言うのを塞ぐ形で、突然私の後ろにいた御代(みしろ)が口を挟んできた。

 そして彼の言葉は私が考えていたことと同じだった。


「御代さんの言う通りです」

「……続けてください」

「水差しには最初から塩水が入っていたんですよ。液体は透明ですから、それを飲んで何もリアクションをしなければ、周りからはただの水を飲んだようにしか見えません」

「しかし、貴方たちは一つ見落としをしてます。私もそう言われると思って、自分で飲んだ後別の女性に」

「あの人もグルなんでしょう⁉ なら、私にも飲ませてください!」


 先程までは私を止めようとしていたのに、何故御代は唐突に山路のことを糾弾しているのだろうか。それが私には理解できない。

 しかし、彼の考えは恐らく正しい。所謂(いわゆる)サクラというやつだ。

 客の中に自身の息のかかった人物を紛れ込ませることで、客側の意識を誘導する。詐欺師の常套手段だ。山路が水を飲ませた入信希望の女性も、そのフリをした山路の協力者と考えれば説明できる。

 あの女性も塩水を飲み、なんの反応も示さないことで水を飲んだ演技をしたのだ。


「……後悔することになりますよ」

「脅しですか?」

「いいえ、これは警告です。私が魔法で真水を塩水に変えたのは慈悲、やろうと思えば本物の毒に変えることだってできます。貴方たちがこれ以上私の邪魔をするのなら、容赦しません」


 そして水差しに手をかざし、先程コップにもした呪文を唱え始めた。

 先程よりもずっと長い時間をかけて、山路は魔力を水差しの中の液体へ注いでいる。勿論それは形だけで、実際は何もしていない。つまり中身は何も変わっていないはずだ。

 私の考えが正しければ、中身は最初から塩水。それを飲んだところで死ぬことはない。


 ……なのに、嫌な予感がした。

 何故山路は御代に飲ませようとしているのか、そして側近の木本(きもと)もそれを止めようともしない理由がわからない。普通に考えれば御代が水を飲めばトリックが暴かれてしまう。

 だからこそ、何かを見落としているような気がした。


「はぁ…はぁ……。お待たせしました」

「……騙されないぞ」


 私たちが使ったコップに水が注がれる。同じコップを使っている以上、コップにも細工はないはずだ。当然水差しにもできないとなると、やはり毒を仕込むことは不可能だ。

 それを受け取った御代が中の液体を見つめる。彼はゆっくりとコップを傾け、水を口の中へ流した。


「どうですか、お味の方は?」

「……やっぱり」


 飲み終えた御代が勝ち誇った笑みを浮かべる。

 そしてコップに残っていた水を一気に飲み干した。


「やっぱりだ! 中身はただの塩水! この女はインチキ……ん?」


 ……その時だった。カーペットに赤いシミができた。

 全員がカーペットの汚れとその出所を見た。……赤い液体、すなわち血液は御代の口から流れていた。

 彼の手からコップが滑り落ちる。コップが床に激突し、音を立ててバラバラに割れた。


「あ…ぐぇ……」


 そして御代は首を押さえ、苦しみ始めた。


「どうして……」


 一人を除いた全員が困惑しながら御代の様子を眺めていた。ただ山路だけが、怪しい笑みを浮かべながらコップの破片を拾った。


「だから、私は警告したのですよ」

「な…んで……」


 その言葉を最後に御代は倒れ、動かなくなった。

 広間に信者や来訪者たちの悲鳴が響く。その中で私は山路のことを睨んだ。


「どうやって……、だってあれはただの塩水のはずじゃ」

「何度も言わせないでください。私の魔法で水を変質させたんです。そして罪深い御代さんが飲んだ結果、それは彼にとって毒になってしまったのです」


 ……違う。

 山路が呪文を唱えている間に何かを水差しの中、もしくはコップに仕込んだのだ。だがその方法がわからない。


「皆様! 一度広間から控室に戻ってください! 世津子(せつこ)様、こちらへ」

「それではみなさん、またお会いしましょう」


 御代の遺体を放置して、山路は再び奇妙な装飾の椅子に座った。


「ま、待って! 話はまだ……」

「これ以上世津子様の邪魔をするな!」


 山路に近づこうとするが、木本に阻まれる。

 そして私は信者たちに身体を掴まれ、広間から追い出されてしまった。

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