表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
4章 春は死の臭いと共に
123/210

12話 供物④

「じゃあ次、さっきの第三の事件だね」


 現場での那由多(なゆた)の発言を思い出す。


「そういえば、ナユちゃんはなんで『暗い日曜日』のことを知ってたの?」


 あの時の彼女はやけに饒舌で、噂についても詳しかった。


「まぁ、そういう話が少し好きで……」

「そういう話って、ネット上で流れてる都市伝説…ネットロアだっけ、例えば『くねくね』とか『きさらぎ駅』みたいな?」


 恐らくこの二つの話は、どこで生まれた話なのかは知らないが大まかなあらすじを知っている人も多いだろう。

 インターネットの掲示板で匿名の人間が語る怪談、勿論ほとんどが創作なのだが……やはりそこで生まれた数々の怪異や怪奇現象には独特な魅力がある。私もその魅力に取り憑かれた一人だ。


「そうですね。『暗い日曜日』の都市伝説も、そういった話を調べている最中に知りました」

「私も昔よく見てたなぁ……」


 なんだか懐かしい気分になってしまったが、今はそんなことをしている場合ではない。犯人は『暗い日曜日』の都市伝説を知っていた。だがそれだけではなく、私たちにそれが通じることも知っていたはずだ。

 都市伝説を知らなければただ突然音楽が流れ始めただけだ。だが、その曲について知っている那由多や私が詳しく語ることで、恐怖心を煽ることが犯人の目的だったのだ。


 実際、十矢(とおや)億斗(おくと)の二人はそのせいでかなり追い込まれていた。

 だが、二人のどちらかは犯人のはず。ならあの様子は演技だったに違いない。


「そういえば、現場に落ちていたナイフ…なんか違和感があったんだよね」

「違和感ですか?」

「うん、上手く説明できないんだけど」


 千石(せんごく)の命を奪うのに使ったと思われるナイフ。そのデザインに特におかしなところはなく、どこででも売っているような普通のものだった。

 ……しかし、それでも私は違和感を覚えた。


「なんか、刃の部分が…()な気がするんだよね」

「逆……? そんなこと言われても、ナユには何がなんだが……」

「ご、ごめんっ! 多分、ただの思い込みすぎかな」

「でも、どうして犯人はナイフを現場に置いたんですかね? だって、殺害した場所はあの厨房じゃありませんよね?」

「たしかに、なんでだろう」


 殺害も解体も別の場所で行ったはずだ。それなのに解体道具はどこかに隠して、殺害に使った凶器だけを現場に置いた。それにはなんらかの意味があったはずだ。


「もしかして、犯人の自己顕示欲みたいなものなのかも……」


 そうだとしたらなんだか間抜けな気もするが、これしか考えられない。


「犯人はこれで三人殺したことになるけど、明確な他殺の証拠があるわけじゃないでしょ?」

「ま、まあそれはそうですが……」


 百華(ももか)は自殺、ハジメは狂言、かなり無理矢理だがそんな骨董無形で乱暴な推理をすることができてしまう。だから、犯人は千石殺しでわざと証拠を残したのだ。……自身の成果を見せつけるために。


「頭だけを厨房に置いたのも多分同じなんじゃないかな。だって、自分で自分の首を切り落として運ぶことなんてできないでしょ?」

「そして、更なる難癖…例えば共犯者による偽装などと言われないように殺害に使ったナイフも現場に置いた……ということですか?」

「……うん」


 流石に無理があるかもしれない。しかし、私にはこれくらいしか考えられなかった。


「そうだ。ナユから一つ提案があるのですが」

「何?」

「少し不謹慎かもしれませんが、偽物のおじいさまがいなくなった以上、警察を屋敷に呼ばせない理由がないのではと思って」

「うぅん……、どうなんだろう」


 たしかに偽物の四条(しじょう)(はじめ)がいなくなり、警察にその存在がバレるリスクは低くなったのかもしれない。だが、そう簡単にいくだろうか?


「十矢さんはあの様子だし、億斗さんもかなり取り乱してたから……、もしかしたら犯人じゃなくても警察は呼ばない方がいいって言いだすかもしれないよ?」


 ただ単純に警察を呼ぶことに反対した人間が犯人という話ではないのだろう。だが、もしかしたらという可能性もある。

 私は椅子から立ち上がった。


「さっき誰が来ても扉を開けるなって言っちゃったけど、試しにやってみよう!」

「はい!」


 希望を抱いて、私たちは扉を開けて部屋から出た。

 ……しかし、ちっぽけな希望は簡単に崩れ去った。


 私たちが隣の億斗の部屋の扉をノックしようとした瞬間、中で大きな音が鳴った。


『クソッ! 誰なんだよお前⁉ どこから入ってきた!』


 そして億斗の叫び声がする。


「億斗さんっ! 開けてください!」


 私は鍵のかかった扉に向かって叫んだが、扉の向こうでは億斗が何者かと争っている音が聞こえてくるだけだ。

 すると隣の部屋の扉が開いた。……十矢だ。彼は怯えた表情で私たちの様子を覗き込んでいる。そこにはもう昨日までの偉そうな態度の男はいない。


「……蹴破りましょう」

「そ、そうだね!」


 小屋の扉を破った時はただ見ているだけだったが、今は男手もない。だがこれくらいなら私たちだけでも破ることができるだろう。

 タイミングを合わせて、思いっきり扉を蹴った。


「億斗さん‼」


 扉が開き、中に入る。しかし室内はもぬけの殻で、犯人の姿どころか億斗の姿もなかった。

 部屋は荒れていて、椅子やテレビが横倒しになっている。億斗と犯人が争った証拠だ。


「億斗さん、一体どこに……」


 部屋は私たちのものと同じ造りだ。窓はあるが、はめ殺しになっていてここから出ることはできない。出入りが可能なのは私たちが無理矢理蹴破った扉しかない。


 ……つまり、億斗は犯人と共に密室からいきなり消失したのだ。

 だが、おかしいのはそれだけではない。


「俺たち、全員ここにいるってことは……」

「少なくとも、犯人はこの中にはいないということになりますね」


 一番の問題はそこだ。廊下には私と那由多、そして十矢がいる。

 百華、千石は死亡している。死者には犯行が不可能だ。

 ハジメと億斗は失踪した。そして、億斗は何者かに襲われていた。その何者かが犯人だ。なら犯人はおのずと絞り込まれる。


「となると犯人は……ハジメおじいさま。それかナユたちとは関係のない第三者ということになりますね」


 後者の可能性もゼロではない。しかし一番高いのは四条一を語る偽物、親族によって代役として用意された彼が犯人という可能性だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ