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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
4章 春は死の臭いと共に
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8話 ハハオヤ②

「あっ、ナユちゃん、ちょっといい?」


 談話室に行くと、那由多(なゆた)がソファーに寝そべりながら退屈そうに本を読んでいた。私はコーヒーカップをテーブルの上に置き、彼女の向かいのソファーに座った。

 那由多はこちらに視線を動かすことなく、ただ頷いた。


「昨日のことなんだけど」

「今はそういう気分じゃないのであまり話したくないです」


 昨晩と打って変わって、那由多は冷静だった。あの時の彼女は、ある意味深夜テンションのようなものだったのかもしれない。それでも、異常の一言としか言いようがないのだが。


「じゃあ別の質問をするね」

「まぁ、それならいいですよ」

「ナユちゃんって結構大人びてるけど何歳なの?」

「……それ、事件と関係ありますか?」


 やっと那由多がこちらを見て言った。


「ナユちゃんのこと、ちゃんと知りたくて」

「そうですか、……今年で十四歳になります」

「じゃあ春休みが終わったら中学二年生?」

「はい、まぁ不登校なのであまり学年の実感はありませんが」


 やはり、那由多は私が屋敷を出ていった直後に産まれたようだ。

 私は思い切って、もっと踏み込んだ質問をすることにした。


「ここに来る前は、どこにいたの?」


 すると那由多が眉をひそめた。当然だが、あまり彼女にとっては気分の良いものではないだろう。それでも、彼女の出自を知らなくてはならなかった。


「答えたくありません」

「じゃあ本当のお母さんは?」

「何故そんなことを? ナユのことを知りたいにしても失礼だと思うのですが」

「ご、ごめん……」


 私のことを睨む那由多の瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。どうやら私は本当に踏み込みすぎたようだ。思わず謝ってしまったが、だからといって調べるのを止めるつもりはない。

 ……変なところで樹里に似てしまったなと、少しだけ後悔してしまう。


「話はそれだけですか?」

「うん、じゃあ私は行くね」


 コーヒーの残りを一気に飲み干した。

 あまり気乗りしないのだが、事件の解決のためにも、あの部屋を調べなくてはならない。


「ナユは今日はずっとここにいる予定なので、何かあったらまた来てください」

「今日は何も演出しないの?」

「……内緒です」


 那由多はつまらなそうに呟いた。



 コーヒーカップを片付け、私は百華(ももか)の部屋の前に立っていた。

 一度深く息を吸い、覚悟を決めてドアノブを握る。そして扉を開いた。


 室内は私が泊っている部屋とほぼ同じ、特に変わった点はない。百華も都内にある家からこの屋敷に来ているのだから、変わっている点がある方がおかしいくらいだ。


「失礼します」


 誰もいない部屋で一人呟き、百華のバッグを開いた。中に入ってるのは化粧品にスマートフォンの重電機器。


「でも、百華さんのスマホはここにない……」


 昨日の昼間、百華はスマートフォンをいじっていた。しかし現場にも、この部屋にも彼女のスマートフォンは存在しない。

 恐らく十矢たちが回収したのだろう。……もしくは犯人がしたのかもしれない。


「……アルバム?」


 バッグの底に、一冊の本が入っていた。開くと写真が何枚も貼り付けられていた。

 撮影場所は百華の遺体を発見したあの焼却炉。そこで当時の使用人たちと一緒に一人の赤ん坊が写っている。


「この子、もしかしてナユちゃん?」


 まだ確証はない。

 だからこそ、それを得るためにページを捲った。

 赤ん坊は徐々に大きくなっていき、撮影場所が焼却炉からどこかの家の中に変わった。どの写真もカーテンが閉められていて、外がどうなっているかわからない。

 更に大きくなって、写真に写る子供が小学校低学年程度の大きさになった頃、私は違和感に気づいた。


「これって、まさか監禁……?」


 外で撮られた写真が一枚もない。全ての写真が室内で撮られている。

 子供の成長を記録したアルバムには当然あるはずの、入学式でランドセルを背負う我が子を撮った写真もない。ただ淡々と、何も背負っていない子供の写真が何枚も貼られている。


 特殊な内容のアルバムという可能性もあるのだが、どうしても監禁……つまり虐待の可能性を疑ってしまう。


 不安を感じながらページを進めると、更に子供は大きくなっていた。そしてその顔は、現在の彼女の顔によく似ていた。


「やっぱり、ナユちゃんの写真だったんだ」


 このアルバムは四条(しじょう)那由多の成長を記録したものだ。


『まぁ不登校なので』


 先程の彼女の言葉を思い出す。

 私はただ単に中学校に自らの意思で通っていないだけだと思っていた。しかし実際はずっと家に閉じ込められていたとしたら……。それはもう立派な児童虐待だ。


 そんな私の憤りとは裏腹に、最後のページは四条家の屋敷で微笑む那由多の写真で終わっていた。恐らく彼女がハジメの養子としてここに来た頃だろう。


「でも、なんでこれを百華さんが?」


 口ではそう言ったものの、答えはもう解っている。だが、にわかには信じがたい。

 那由多が産まれたのは十三年と数ヵ月前。それが本当だとしたら……、百華は()()()()なのだから。


一二三(ひふみ)お嬢様ッ! ここでしたか!」


 千石(せんごく)が息を切らしながら扉を開けた。


「な、何かあったんですか?」


 彼が焦っている答えなんて一つしかない。つまり、またあの予言が的中したということだ。

 今度は一体誰が……。犯人の狙いが遺産なら、十矢か億斗もしくは那由多なのだが、千石の言葉は私の予想を裏切るものだった。


「当主様が…、ハジメ様がどこにもいないのです!」

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