5話 とある人間の独白
クソッ、やってしまった……。
血に染まった自身の両腕を見る。そしてベッドに倒れている赤崎加奈子の亡骸。彼女の背中にはナイフが深々と刺さっている。
私が彼女を殺した。その事実を受け入れる。冷静に今後のことを考えた。
不思議と焦りはない。俺の心は穏やかだ。いつかこんな日が来ると思っていた。
残りの生存者は六人。私は最終的に、七人もの人間を殺す大悪党になるのだ。
肉塊の指を使ってメッセージを残す。
……色欲。それが赤崎加奈子に与えられた罪だ。
どうせ全員殺すのだから、偽装はそれなりのものでいい。だが、問題はこの血で汚れたシャツだ。途中でバレてしまっては元も子もない。
俺はシャワールームで血を洗い流し、そして新しいシャツに着替えた。これで見た目の問題はなくなった。次は私に疑いの目を向けられないようにすることだ。
そのためにはあいつが必要だ。そして俺はとある方法で密室を作りだした。
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「マスターキー、持ってきました! うわっ!」
こちらに走ってきた蔵之介が足を絡ませて転ぶ。……まったく、こんな時に頼りにならないやつだ。
私は落ち着いて周りを見る。
ここには島にいる全員が揃っている。つまり第三者が島に侵入していたという話にでもならない限り、室内に犯人が隠れていたということにはならない。そうなると疑いの目は、必然的にマスターキーを使うことができた使用人二人へ向かうだろう。
そして扉が開く。俺が殺した女の肉塊が露わになる。
……耳をつんざくような悲鳴。四条一二三が目を大きく開きながら、叫び声をあげ、室内の惨状を見ていた。他の人間たちも概ね同じような反応だ。
ただ一人、私だけが笑いをこらえている。うまくいった喜びが身体中を駆け巡る。
……いや、俺以外にも驚愕の表情を見せない人間がいた。赤崎樹里、彼女はこの島で一番のイレギュラーだ。
樹里は興味深そうにこの光景を眺めている。
一二三も初対面で十分ダークホースな存在ではあったが、あの様子なら問題ない。
そして私の予想通り、赤崎家の人間たちは使用人を疑っている。
だが、樹里だけが納得していない様子だ。……やはり、俺にとって彼女は最大の障害となる。
私の復讐……。今後の展開は樹里次第で大きく変わるだろう。
だが、計画が変わることはない。もう始まってしまったのだ。……止まることはできない。
最初の動機がどんなにくだらないことだとしても、最後には美談になるだろう。
……そんなの言い訳だ。俺はただの殺人鬼、それは変わらない。
そして私は第二の事件の準備を始めた。いや、始めざるを得なかった。