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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
4章 春は死の臭いと共に
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5話 遊戯世界:『那由多の魔女』

 この世界については、私よりもずっと前から何度も訪れている樹里(じゅり)の方が詳しいだろう。正直、私はこの世界のことをまだほとんど知らない。

 赤崎(あかさき)樹里という少女が孤独を埋めるために、心の中に生み出したもう一つの世界。樹里はこの世界を『遊戯世界』と呼んでいる。


「でも、ここは……」


 いつもの遊戯世界は古城のような場所だった。しかし今いるのはまるで子供部屋のような場所だ。カラフルな床に様々な玩具が散乱している。

 女児向けアニメのグッズに、ぬいぐるみやトランプ、ゲーム機もあった。


「今晩は、一二三(ひふみ)さん」


 声のした方を見ると、黒を基調としたドレス、所謂(いわゆる)ゴスロリ姿の少女が地べたに座りながら積み木で遊んでいた。

 ……驚きのあまり言葉が出てこなかった。

 それほどまでに、彼女の顔は現実世界のとある人物と酷似していた。


 遊戯世界には私と樹里以外にも住人がいる。住人の姿は決まって、樹里や私が出会った人間と瓜二つなのだ。


 第一の遊戯、俯瞰島で起きた事件では赤崎サチヱの若い頃の姿をした『幸運の魔女』がいた。しかし、彼女は事件の解決と共に姿を消した。

 結局私は彼女と一度も会うことはなかったのだが、『幸運の魔女』は樹里が遊戯世界を生み出した当初からいたらしい。


 第二の遊戯、螺旋塔で起きた事件では双子姉妹の鳩飼(はとかい)桔梗(ききょう)蓮華(れんげ)に似た『双貌(そうぼう)の魔女』が現れた。彼女たちの顛末を考えると、どうしても魔女が姉妹の生まれ変わった姿だと信じたい自分がいた。

 『双貌の魔女』は事件後も消えずに遊戯世界に残り続けているのだが、この場に彼女の姿はない。


 第三の遊戯、樹里が初めて遭遇した事件を聞いていた時、私の目の前にアーランドと名乗る吸血鬼が現れた。その姿は樹里そのものだったが、私は彼女を樹里から生まれた存在だとは認めていない。

 彼女はあれ以来姿を消している。私はできるだけ記憶から消そうとしていたが、どうしてもあの姿が脳裏にへばりついて離れない。


 そして……、恐らく今回が第四の遊戯だ。

 新たな魔女は、今日出会った少女の姿をしていた。その時着ていた黒い着物ではなく、ゴスロリ姿の彼女はまるでフランス人形のように見えた。


「ナユ…ちゃん……?」

「はい、ナユはナユですよ! でも、ここではちゃんと別の名前で呼んでください。ナユは『那由多の魔女』。貴女に謎を届けるために、ナユの世界にお呼びしました」


 四条(しじょう)那由多……ではなく、『那由多の魔女』はそう言うと満面の笑みで積み木を崩した。

 魔女はゆっくりと立ち上がり、近くに落ちていたウサギのぬいぐるみを拾った。そのぬいぐるみは彼女が長年愛用しているのか、全体的にかなり汚れている。


「謎……、それってもしかして、あの予言のこと?」

「そうですよ。一二三さんはもうどうやったか解っていますよね?」


 樹里に聞いただけなのだが、一応はどうやって犯人が予言の手紙を用意したか理解している。ただ、それを誰がやったのかまでは解らない。


「多分、箱の中には別のものが入っていたんじゃないかな。それとあの予言を犯人はすり替えたんだよ」

「その動機は?」

「それは…遺産を独り占めするために?」


 もしこれが合っているとしたら、箱の本当の中身を犯人は既に知っていることになる。それなら犯人が何故今日予言を披露したのか、その理由は箱の中身に隠されているように思えた。


 親族たちが集まる機会は別に今回だけというわけではない。わざわざ私が来るかもしれないタイミングでリスクを冒す必要なんてないはずだ。

 ……つまり、私がいなければならない理由があったのではないだろうか。


 四条家は今となってはただのハリボテ、だが赤崎家は今もサチヱが遺した莫大な遺産がある。

 雨で閉じ込められたこの状況……、私はいわば人質なのだ。


「肯定します。犯人の動機は遺産、勿論その遺産とは四条ハジメのものです。ですがそれだけではなく、赤崎サチヱが貴女に託した遺産も、現在は犯人の動機に含まれています」

「じゃあ、私が今日ここに来たのは犯人の目論見通りで、そもそも私が来なかったら犯人は何もしなかったのかな?」


 樹里は複数の紙を用意することで、予言を的中させたような演出をしたと考察していた。しかし、本当に犯人の目的が私だとしたら、複数の予言を用意する必要はなかったのかもしれない。


「否定します。恐らく犯人は一二三さんが来なくても別の予言を用意していたはずです。一二三さんが屋敷に来なくなったのは十四年前の四月、まだ貴女が七歳の頃ですね。犯人は一二三さんが来たらラッキー程度に考えていたでしょうね」

「なんでナユちゃんがそれを……?」


 魔女はまるで犯人を知っているかのような口ぶりだ。

 彼女が私が作りだした妄想だとしても、那由多本人だったとしても、犯人が誰なのか知っているのは明らかにおかしい。


 ……ある一つの可能性を除いて。


「もしかして、ナユが予言を用意した犯人だと思っています?」

「それは……、少しだけ考えたけど、やっぱりそれもおかしいかなって」


 確かに那由多が犯人だと考えれば、魔女の言動は納得できる。

 しかし、あの子には動機がない。親族たちを殺さなくても、少なくとも四条家の遺産は手に入れることができるはずだ。

 だからこそ、赤崎家の遺産目的で私を狙ったのではないかと考えたのだが、魔女の発言が正しければ……、やはり犯人は親族の三人の誰かである可能性が高い。


「そういえば、そろそろ起きた方がいいんじゃないですか?」

「……え?」


 私は仮眠のつもりで遊戯世界に来てしまった。

 現実世界では今どのくらい時間が経っているのかわからない。もしかしたらまだ数十分しか経っていないかもしれないし、もう朝になっているかもしれない。

 だが、強烈に嫌な予感がした。


「お、起きなきゃ!」


 樹里は意図的に目覚めるためのスイッチがあると言っていたのだが、私にはそれがなんなのかまったくわかっていない。


「出口はこっちですよ」


 突然、魔女が壁を指差した。すると何もないはずの壁に、徐々に扉が浮き上がってくる。


「また明日、盤上(げんじつ)でお会いしましょう」

「あ、ありがとう……」


 私は恐る恐るドアノブを握り、扉を開いた。そして外へ足を一歩踏み出した。

 ……そのまま私は落下した。


「うわあああぁぁぁっ⁉」


 子供部屋の外は、何もない真っ暗な世界だった。

 外に出てしまった私は奈落の底へ落ちていき……、そこで意識が途切れた。

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