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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
4章 春は死の臭いと共に
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4話 四条那由多という少女①

 ……退屈だ。

 私はスマートフォンの画面を見ながら、脳内で樹里(じゅり)のよく言う台詞(せりふ)を呟いた。

 ソーシャルゲームのスタミナ消費を終え、強くなる一方の天候を眺めることしかやることがなかった。


 暇つぶしのために部屋から出て広間に行くと、少女が一人床に寝転がっていた。

 少し苦手意識があるのだが、私は勇気を出して彼女に話しかけた。


「ナユちゃん、何してるの?」


 四条(しじょう)那由多(なゆた)がスマートフォンを操作していた。着物姿の彼女とスマートフォンがミスマッチで、なんというか少し予想外だ。


「どうかしましたか?」

「ちょっと暇でね……って、ナユちゃんそのゲームやってるんだ」


 那由多のスマートフォンに表示されているのは、私もプレイしているゲームの操作画面だった。


「始めたばかりですが、ここで少し手こずっていて……」

「あぁ、ここはね……」


 自身のスマートフォンを取り出して、私もゲームアプリを起動する。


「このキャラがいると楽に攻略できるよ」

「すみません、ナユはあまりキャラも揃っていなくて……」

「だったら、貸すから使ってみて」


 大抵のソーシャルゲームと同じように、このゲームにもフレンド機能が存在している。フレンドになった相手の設定しているキャラを借りることで、ある程度楽に攻略をすることができるという機能だ。


「これ、私のID」

「あ、ありがとうございます!」


 那由多がIDを入力して私にフレンド申請を送る。私はそれをすぐに承認して、私たちはフレンドになった。


一二三(ひふみ)さんのおかげでなんとかなりそうです、えへへ」


 そう言いながら那由多が子供のように笑う。こうして彼女の年相応な面を見れて、私もにやけてしまう。

 外は激しい雨が降っているのだが、室内では穏やかな雰囲気が流れている。しかし、そんな状況もすぐに壊れてしまった。


「那由多ッ!」

百華(ももか)さん……?」


 六巳(むつみ)百華が激高した様子で広間に入ってくると、無理矢理那由多の服を掴み立ち上がらせた。

 そして何かを怒鳴っているのだが、那由多の表情は一つも変わらない。しかし、手がわずかに震えていた。


「あの、そのくらいにした方が……」

「部外者は黙っていて!」


 ……意味がわからない。

 今の百華は明らかにおかしい。私が怒鳴られた時もそうだが、やはりこの親族たちは何かを隠している。


 親族たちは那由多のことをどう思っているのだろうか。

 那由多は養子……。つまりは血の繋がっていない赤の他人だ。しかし、もしハジメが死ねば彼の遺産は那由多が受け継ぐ可能性が高い。他の親族たちからしたらたまったものではない。


「……すみません、ちょっといいですか?」

「今度は何……」

「少し二人で話したくて……」


 怒鳴られている那由多が不憫に感じたのも事実だ。しかし、私の中で渦巻いている疑問を解消したいというのが本音だ。


 百華の腕を掴み、那由多から引き離す。

 そして二人で広間から出た。



「……それで、話って何」


 不機嫌そうな顔で百華がライターでタバコに火を灯した。相変わらずのヘビースモーカーのようだ。


「ナユちゃん…、那由多ちゃんのことなんですけど、百華さんたちはどうなってるかなぁって思って」


 那由多のことを口に出した瞬間、百華の表情が更に歪んだ。それだけで彼女が那由多のことをどう思ってるのか理解できた。


「まあ、確かに邪魔ね。当主様が死ねば遺産は私たちが受け取るはずだったのに、下手したら全額那由多に渡るかもしれないし」


 そこまで言うと、百華は一度タバコを深く吸い、紫煙を吐き出しながら「だけど」と呟いた。


「だからってあの子に何かするわけじゃないけどね。……あんなの、ただのイタズラよ」

「予言のこと、やっぱり信じていないんですか?」

「当然でしょ。十矢(とおや)億斗(おくと)も同じことを思ってるに決まってるわ」

「で、でも……」

「もういい? 最後に一つ、予言のことはこれ以上詮索はしない方がいいと思うけど」


 携帯灰皿に吸殻を入れると、広間に戻ってしまった。

 最後の言葉は忠告のつもりだろうか。……勿論素直に従うつもりはない。


「十矢さんと億斗さんの二人にも聞かなきゃ」


 早速忠告を無視して、私は行動に移した。



「那由多? なんでいきなりそんなことを」


 談話室で雑誌を読んでいた十矢に百華にしたのと同じことを聞くと、彼も機嫌が悪そうに那由多の名前を口にした。

 彼はため息を吐きながら、雑誌をテーブルの上に置いた。


「別にどうでもいい、遺産も最低限もらえれば後は誰がいくら受け取ろうが俺には関係ないしな。……それにガキは嫌いだ」

「教師なのに?」

「……教師の仕事はとっくに辞めた」

「え? や、辞めた?」


 思わず聞き返してしまった。


「何年か前に体罰で訴えられてな。だから最近の軟弱なガキは嫌いなんだ。軽く殴っただけで親に泣きつきやがって」


 ……やっぱり。

 彼は言動通り、前時代的な教師だったようだ。関係ないとは言っているが、彼も金には困っているのだろう。


「あれ、お二人でなんの話をしてるの?」

「なんだ億斗か。一二三が那由多の話を聞きたいんだとよ」


 億斗がスナック菓子を食べながら談話室に入ってきた。菓子の油でベトベトになった手で十矢が読んでいた雑誌を開く。


「那由多ちゃんねぇ……。別に俺はなんとも思ってないよ。大人しすぎるとは思うけど、俺子供苦手なんだよね。だから大人しい分には手間がかからなくて楽だよ」

「でも、遺産がもらえる額は減るんですよね?」

「まあそうかもしれないけど、俺は十矢兄さんと百華みたく金には困ってないからさ」

「はぁ⁉」


 声を荒げる十矢を無視して、億斗が笑いながら菓子を口に放り込んだ。

 彼はFXで稼いでいた。どうやらそれは今も変わらないらしい。

 たしかにそれなら、親族たちの中では一番遺産問題から遠い位置にいるだろう。


「そういえば、ナユちゃんっていつ頃からいるんですか?」

「……多分、一二三ちゃんが来なくなってからしばらく経って……大体二、三年くらい前かな?」

「まぁ、つまり那由多はお前の代わりってわけだ」


 私の代替品……。別にそのことはどうでもいいのだが、どうしても違和感がある。

 そんな理由で簡単に養子を引き取ることができるのだろうか……。

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