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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
4章 春は死の臭いと共に
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2話 予言の箱②

「……封が破れていますね」

「ただの偶然でしょ。そもそも千石(せんごく)さんに預けている時点で私たちは手出しできないんだし」


 百華(ももか)の機嫌が悪そうな声に那由多(なゆた)は「すみません」と呟くと、座布団に座りなおして何事もなかったように食事を再開した。

 確かに謎の箱の中身は気になるが、正直私にはあまり関係のない話だ。百華たちの話を聞き流しながら、温かい味噌汁を喉に流し込む。


 もう四月で春なのだが、朝から降っている雨のせいで濡れて冷えていた私の身体が味噌汁で徐々に温まる。


 しかし、食事に集中しようとしても、自然と耳は親族たちの会話を聞こうとしてしまう。

 好奇心が私の中で暴れているのを感じた。


「とりあえず、開けてみようよ」

「……そうね。十矢(とおや)、さっさと開けなさいよ」

「俺がやるのかよ。仕方ねぇな……」


 十矢は一度舌打ちをすると、恐る恐る箱の蓋を開けた。

 箱の中身を見た親族三人が、困惑の声を上げた。


「紙……?」

「え、これだけなの?」

「あ、あぁ……」


 流石に中にまた箱が入っていたわけではないようだ。封がされていた箱の中には、一枚の紙が折りたたまれて入っていた。

 億斗(おくと)がそれを受け取って広げた。


「な、なんだよ、これ……」


 ここからではなんて書いてあるのか見えない。だが、どうやら碌な内容ではないらしい。

 紙を広げて見ている三人の表情が青ざめていく。


「何かあったんですか?」


 興味が抑えきれなかった私は立ち上がり、三人の後ろから紙に書かれた内容を覗き込んだ。

 書かれていた内容は、遺産のことでも、親族たちやハジメへの恨みでもない。


 ……それは既に死んでいるはずの四条フミが知ることのできない、まさに予言とも言えることが書かれていた。



四条(しじょう)家の皆様へ


 久しぶりに一二三(ひふみ)が屋敷に帰ってきて、本当の意味で家族全員が揃うこと、大変喜ばしく思っています。しかし、その時には私はもうこの世にはいないでしょう。それだけが残念です。


 それはさておき、雨が止まず皆様は明日の夜まで屋敷に閉じ込められているようですね。

 私は全てを知っています。皆様の未来を見ているのですから。


 一人は閉ざされた部屋で、生きたまま焼かれるでしょう。


 一人は全てを諦め、森の中に消えるでしょう。


 一人は誰にも気づかれず、その肉体を失うでしょう。


 残った人間も、最後はバラバラになる。その光景を私は死の淵で見ました。

 それでは皆様、また彼岸でお会いしましょう。


四条フミ



 箱の中身はこれだけだ。他には何も入っていない。


「……なるほど」


 本当にフミが書いたのだとしたら、これは予言としか言いようがない。しかし、もしこれがまったくの別人が書いたのだとしたら、……これは犯行予告だ。


 犯人はまず三人を三通りの方法で殺し、そして生き残った人間も殺す。結局は誰も生き残れない。それが犯人がこれから行おうとしていることだ。


「あの婆のイタズラに決まってるだろ」


 当然、親族たちはこれを信じようとはしなかった。


「で、でも、なんでフミおばあさまが、一二三のこととか天気のことを知ってるの……?」

「偶然だろ。……くだらねぇ」


 そう言い残して、十矢は広間から出ていってしまった。そしてそれに続いて他の人達も一人ずつ出ていく。

 私も広間に漂う嫌な空気に耐えられず、急いで昼食を完食して部屋に戻った。



「……ってことがあって」


 部屋に戻ってすぐ、私は樹里(じゅり)に再び電話をかけた。

 フミの残した手紙が何故今の状況と的中しているのか、彼女の考えを聞くためだ。


『……ふむ、恐らくだが、犯人はあらかじめ手紙を複数枚用意していたんじゃないか?』

「どういうこと?」

『例えば、雨が降って屋敷に閉じ込められると書いた手紙と、逆に雨が止んだと書いた手紙を用意したんだ。それで直前に状況を確認してから中身を入れ替えた。そうすれば、まるで未来を予言したかのような演出が可能だ』


 箱の封が破れていたことを思い出す。確かにあれなら中身の入れ替えは簡単に可能だったはずだ。千石が預かっていたといっても、常時監視していたわけではない。隙を見て入れ替えるタイミングはいくらでもあったはずだ。


 私がここにいることを当てたのも、同じような仕掛けかもしれない。

 四条一二三が屋敷に来たパターンと来なかったパターン。この二種類と樹里の言った天気の二種類との組み合わせで、犯人は最低でも四種類の予言を用意したことになる。

 もしかしたら更に細かい別バージョンがあるのかもしれないが…それはともかく、これで予言を用意した人物は四条フミという可能性は更に低くなった。


『私も少し調べてみる。何かあったらすぐに連絡してくれ』

「うん、わかった……」


 本当は樹里に助けてほしかった。

 しかし、隣に彼女はいない。


 ……なら、本当に予言通り事件が起きたとしたら。謎を解くことができるのは私だけだ。

 私だけの力で、犯人を見つけなければならない。


「でも、誰がなんのために……」


 脳裏に和服の少女の姿が浮かぶ。

 四条那由多……。ただの直感だが、彼女が今回の出来事と密接に関わっているような気がした。



 電話を切り、タクシーから降りる。

 本当なら、一二三が一日いないこの日にただ会いに行くだけだった。だが、彼女からの電話で明確な目的ができた。


 私は美鈴(みれい)の家を出て、刑務所に来ていた。ここでこれからとある人物と会う約束をしていた。


 警備員に案内されて、面会室に入る。既にガラスで隔たれた向こうで男が座っていた。男は私の顔を不気味そうに見つめた。

 彼は私が解決した事件によって逮捕され、ここに収監されている。私と一二三が初めて会った事件、島で起きた連続殺人事件の犯人……。


「……ひさしぶりだな。赤崎(あかさき)栄一(えいいち)

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