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遊戯世界の吸血鬼は謎を求める。  作者: 梔子
3章 吸血鬼たちの暇潰し
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27話 ネクストプロローグ:祖父

 幼い頃の夢を見た。

 祖父母の家……といっても、彼らと私の間に血の繋がりはほとんどないと言っていい。


 四条(しじょう)家、赤崎(あかさき)サチヱの夫である赤崎零弥(れいや)が育った家だ。赤崎家を追放された父は四条の姓を名乗り、そして零弥の弟の四条(はじめ)が祖父だと、幼い私に偽った。

 私は父の嘘をつい最近まで信じていた。というより、それが当たり前だと思っていた。


 私が赤崎家の人間であるのを知ったのは父の死後だ。

 ……そのおかげで、樹里(じゅり)と出会うことができたのだが。


 夢の中で私は、四条家の屋敷にいた。山奥にポツンと建っている古い家だ。

 目の前にはハジメが座っている。だが、その顔はぼやけていてはっきりと輪郭を認識することができない。最後に彼と会ったのは十年以上前だ。薄情なことに、私は祖父を名乗っていた男の顔どころか声すら記憶から薄れていた。


「……一二三(ひふみ)


 ノイズ交じりの声で、ハジメが語りかけてくる。


「もうこの家には来るな」

「……え?」


 突然の発言に困惑してしまう。当然夢の中なのだから、唐突に何が起きても不思議ではないのだが……。


「私はもう長くない。お前が一人でこの家にいるのは危険だ。寂しいかもしれないが、武司(たけし)が入院している間も東京の家にいなさい」


 ……そうだ。これは私が最後にハジメとした会話だ。

 まだ小学生だった私は、何故彼がこんなことを言い出したかわからなかった。ただその剣幕に圧され、素直に従ったはずだ。


 今なら彼の言葉の理由がわかる。

 四条家は元々は名家だったのだが、今はただのハリボテだ。一族の人間は金を求めて、赤崎家の人間である私を狙うかもしれない。そう考えたのだろう。


 ただ、一つ疑問が残る。

 あれから十数年経った今でも、四条一が死去したという報せは届いていない。もう長くないと言っていた男はまだ生きている。


 ただハジメは正式に余命を宣告されていたわけではない。別に彼に死んでほしいわけではないのだから、今も生きているのならそれに越したことはない。


 そこで私は夢から目覚めた。



「一二三、電話が来てるぞ」


 樹里に起こされ、スマートフォンを手に取る。彼女の言う通り、スマートフォンは着信音を鳴らしながら震えていた。

 知らない番号、いつもなら切れるまで放置してその後も無視するか、怪しいところからではないか調べた後にかけなおすのだが、寝ぼけていた私はつい電話に出てしまった。


「……もしもし」

『……一二三か?』


 しゃがれた老人の声がした。


「どちら様ですか?」

『……四条一』

「え?」


 ……もしかしたら、あの夢は虫の知らせだったのかもしれない。


『フミが死んだ』

「おばあ様が⁉」


 四条フミ、ハジメの夫で私の祖母代わりだった人だ。そんな人が……死んだ。

 確かに彼女もかなり年老いていた。いつ迎えが来てもおかしくなかっただろう。

 最後に会ったのは十年以上前、そして当時の私とフミの関係が良好だったとは口が裂けても言えない。だとしても、やはり突然の別れは辛いものだ。


『もう何年も帰ってきてないだろう? こんな時だが、ひさしぶりにお前の顔が見たいんだ』


 ……強烈な違和感。夢の中の彼の言葉と矛盾している。

 しかし、あれはあくまで夢だ。何年も経つ中で心変わりした可能性もあるし、そもそもあんな会話を実際にはしていない可能性だってある。


「……わかった。来週なら行けると思う」


 私はカレンダーを見ながら答えた。来週から四月が始まる。


 ……春の始まりと共に、三度目の魔女との遊戯が始まる。

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