50mの戦い
僕はゲームが大好きだし、ゲームは素晴らしいものだと思っています。
いきなり何言ってんだって思われるでしょうけど、拙作を読み進んでいただければ、僕が何を言いたいのか伝わると思います。
ーーゴールまで、あと50m。
俺の順位は今最下位。トップとは10m以上離れている。
頬から垂れる汗は鬱陶しいが、拭う暇すらない。
ーーゴールまで、あと40m。
「お前ら見とけ。これに勝ったら俺はプロだ……!」
『草』
『がんばれ〜』
『こんなん勝てるわけないやんw』
野次も声援もごちゃ混ぜなのは仕方ない。
現環境ではこの短距離で順位をひっくり返すのはほぼ無理だ。
ーーゴールまで、あと30m。
だが、100%不可能なわけじゃない。
最後のコーナーに差し掛かった。
ここが、俺の勝負所。
インコースを曲がっていくライバルたちを横目に俺は直進。
一切の減速なしでコンクリ壁に向かっていく。
普通なら衝突で足が止まるところだが……俺は違う。
「ここだぁっ!」
小ジャンプ入力。
そして即座に攻撃入力。
【Wall Kick!】
俺の口端が吊り上がる。
アクロバット成功のエフェクトが発生し、キャラクターがバク宙を決め方向転換。
これだけじゃ小ワザを成功させただけだが、俺が喜ぶ理由はここからにある。
ーーゴールまで、あと20m。
「俺のライナーならな、こっからトップに駆け上がれるんだよ!」
アクロバットを成功させれば、アーツポイントが加算される。
ポイントが貯まれば、キャラクターは固有の技ーーアーツを使えるようになる。
そして俺の使うライナーのアーツは……発動可能になった。
このレース中でギリギリまで貯めていたポイントが今、ここで火を吹く。
「行っけぇぇぇえええ!!」
『僕は、駆ける流星になる! ”シューティングスターライナー”!!』
カットインと同時に、ライナーの体に光が集まりだす。
夜の街、薄暗い通りの中心で輝くライナーは、かなりサマになっている。
『誰よりも疾く駆けるその姿は、まさしく一条の流星の様』なんてテキストの通りの眩しいエフェクトだが、ライナーのアーツは言わば”超加速”。
発動さえさせれば、ライナーはゲーム最速のキャラクターになる。
しかもコーナーは既に過ぎて、後は直線のみ。
俺のライナーは……もう、止められない。
10mを、流星が塗り潰す。
その間にいたライバルたちを置き去りにして。
ゴールだけを目指して、前に!
ーー残り10m。
全部の障害を抜き去って、トップの数mも俺が塗り潰す!
ーー9m、8m、7m、……
ーー3、2、1……
届いた。
【1st GOAL!】
【You Win!!】
「っしゃああああああああ!!!」
俺の、勝ちだ。