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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
平井徳子の章 2075年
9/50

序章八節:座布団・・・舞う

 森の中を走る凪と徳子。突然上から枝が正面を塞ぐように降りてくる。凪はとっさに躱して走る。徳子も回避しようとするも枝にひっかりバランスを崩して減速する。とっさに徳子は願いを使い、勾玉が一つ輝き割れる。


「凪さんスクナさん先に行ってください。」


 凪が振り返るも、徳子は首を振って進むように促す。走る凪の横に走る人影が現れる。


{少名毘古那神か。良いのか徳子についておらんでも。}


 少名毘古那神は静かに首を振って並走する。


{それが彼女の意思です。というより彼女の策の一つです。あの娘、面白いくらいいろいろ考えてますよ。いやー、道中もいろいろ魔法や世界について聞かれましたし、なかなか面白い娘でしたねー。運悪く居合わせただけと聞いていましたが、運命的なものを感じますね。さすがにサルスエルフ相手には歩が悪いと思いますが、私的にもまさかがあると思いたいくらいには考えてますよ。さしあたってはそういうことですので、走る以外何もできませんがしばらくお供いたしますね。}


 少名毘古那神はくすくす笑いながら凪に向かって口早に答える。凪はそうかとつぶやいて走りに集中し始めた。少名毘古那神は隣で無駄話をしながら追従していった。

 数秒経って男エルフが徳子正面の樹上に現れる。


〔今度は貴様が足止め役か。見た所魔力を纏っただけの三界人か。小石ですらないな。〕


 男エルフは呆れたように念話を送る。


「水たまりでも侮ると足元すくわれますよ。」


 徳子は手を向け2cmほどの鉄球のようなものを飛ばす。男エルフはそれを躱すも鉄球は通り過ぎたところで緩やかに曲がり男エルフに向かって再度飛んでいく。男エルフはそれを確認して細剣で鉄球を砕く。


〔何を言っているかわからんな。よもや念話ができないのか。〕


「まさかの言語の壁!」


 徳子は少しばかりショックを受けながら、鉄球を二つ取り出し左右に分けて男エルフに飛ばす。男エルフはため息を突きながら鉄球を難なく切り払う。切り払うついでに術式を軽く解析。着弾捕縛系の術式と認識する。


〔確かにそのまま放置しておくには少し鬱陶しいか。〕


 男エルフは弓を構えて狙いをつける。


『二射四閃』 Deux tirer trois tournage


 徳子に向かって高速に矢が射ち込まれる。徳子は慌てず願う。


『矢避けの加護』


 勾玉は割れて守りの魔法が発動する。矢は2m手前で大きく逸れて地面に刺さる。徳子はくすっと笑って返すように鉄球を一つ飛ばす。男エルフは舌打ちして弓を離し、細剣で鉄球を切り捨てる。そのまま細剣を徳子に向けて。


『樹縛』   lierre ligoté


 徳子の周りに蔦が伸び絡め取る。徳子は蔦に締め切られる前に願う。


『解き放たれる自由』


 勾玉は割れ魔法が発動すると、締め付けた蔦が滑るように徳子をすり抜ける。その様子をみてホッと一息つく。男エルフは少しめんどくさそうな顔をして、鈍く光る勾玉を見て納得いったようにニヤリと笑う。


〔魔力の無い三界人が中々と思ったが、借り物の力ということか。〕


『二刃四翔』  Deux lame quatre choc


 男エルフは細剣を二振りし、徳子を囲むように衝撃を飛ばす。徳子は慌てるようにそれを回避し走り出す。


(種に気ぃついたら防御されない手段での遠距離から別攻撃。だいたい聞いとった通り。後はちいと頑張る。)


 徳子は時折方向を変えながら度々飛んでくる衝撃を回避しつつ機会を待つ。鉄球を反撃するかのように適度に投げ牽制する。その攻撃は当たる前に細剣で砕かれる。少し離れてはエルフに追いかけさせる。そして鉄球を投げる。またちょこまかエルフを周るように逃げて少し離れる。衝撃の至近弾を受けてバランスを崩しながらも、なんとか追撃を回避し逃げ回る。そう単調に三度繰り返した頃、少し離れてエルフが追いかけて来ようとするタイミングで徳子は反転して、エルフの下を駆け抜けるように移動する。反転するときの手持ちの鉄球7つをばらまきながらほぼ同時に投げ込む。枝から枝へ飛ぼうとしていたエルフは少し驚いて、鉄球をどう弾くか考えて移動先で迎撃を完了するつもりで枝を飛ぶ。細剣を一振りし、衝撃で一つ落とす。後ろから迫ってくる鉄球の動きを魔力感知しつつ枝に着地し振り返りざまに三つの鉄球を切り払い、下方から飛んでくる残りの三つを切り払う。徳子は下をくぐって振り返り左手をエルフに向けて唱える。


『それは世界樹と共に在りし物。寄り添いて喰らう物。』


 男エルフはそのわからない言葉の響きを聞いて驚く。


〔閉じられた世界でなぜ詠唱などっ。〕


 エルフは詠唱について上位の存在から力を引き出し、借り受ける手段として認識している。よって現在のこの世界のように他の世界から閉じられている世界では意味のない手段であるはずだった。竜族とエルフが開けた穴があるにせよ、そちらは許可のない力が通過するのは困難であるため考慮に値しない。エルフの認識と調査でもまだこの世界は閉じられているはずだった。


『それに我が身を通して彼の若木を見せる。』


 徳子はドライブしながら少名毘古那神に世界のこと、魔法のこと、エルフのことと疑問に思ったことを確認、相談していた。なにせ何か願おうとして勾玉に接触するだけなら何も消費しないのである。少名毘古那神の内在に気がついてからは積極的に疑問の確認を行っていた。魔法を強化する手段として詠唱を知った。だが詠唱を献上しても力を借りる先に届かないという。曰く世界が閉じられているから。ではなぜ閉じた世界にバズエル達は来れたのか。曰く凪には魔法でない上位の権限があるという。なぜ凪はその場ですぐにその権限ですべてを解決せずに回りくどい手順を行っているのか。その先の質問は少名毘古那神ではわからない。彼はそのことについては常識として身についており、疑問に思うことをしない。だが徳子にはおかしなことに思えた。いくつか別の質問をしても行き着くところは凪がどうしているかがわからないといことにたどり着く。ではなぜ「我々」は閉じた世界の例外足り得ているのか。


『それは彼の若木に寄り添わんとして手を伸ばす。』


 「我々」だけ例外的に世界から完全に閉じられていない。呼び込んだ時に世界に穴を開けてしまっているはず。けれどその穴は世界の中で観測できないという。穴はどこにある。「我々」が死んだ時その情報は元の世界に帰るという。けれど世界は閉じられている。「我々」に対する世界の穴はどこにある。


『我はその希望を満たさんとその手を取る。我は汝に彼の若木を喰らうことを願う。』


 世界に穴は観測できずとも世界を渡れるのなら、「我々」だけが世界を越えてきたのなら、世界を通るための穴は「我々」の中にある。徳子が世界を渡っていなくても、世界を渡るための穴だけは開いていた。誰も通っていないその穴を通るならこの世界に接続されている他世界にだけは開かられているのではないかと。


『それは神の世界に有りて取るに足らないとされたもの。けれどその身は神をも殺しうる刃足り得る力となる。』


 エルフは身を守るか、徳子を打ち倒すか迷う。数に限りがあるとはいえ、彼女にはまだ身を守る手段があると考え、自分の身を守ることを選ぶ。樹盾を増やし敷き詰める。圧倒的物量を準備して敵を蹂躙していることからしても、彼らは実に堅実である。不安定要素があるならリスクを取らずに様子を見ると考えた徳子の読みどおりに。


『我が身を通りて顕現せよ。その名を』


 徳子は鈍く輝く左腕を枝の塊に向けたまま唱え終わる。


『ミストルテイン!』


 勾玉が輝き、徳子の左腕を突き破って20を超える細い根がエルフに向かって伸びていく。その激痛にふらっとしながらも歯を食いしばって耐える。素早く伸びていく根はエルフの樹盾に接触し周囲と内部を侵食しながらエルフに迫り寄る。樹盾では防げないと判断したエルフはその場から離脱しようと後方に飛ぶ。その瞬間に樹盾を侵食して喰って増えた根がエルフのいた位置に殺到する。根同士がぶつかり合い絡まりあい、そして枝を増やし、エルフの方向に向かって根を伸ばす。エルフは次の枝に着地し、また別の幹に飛びとミストルテインの根から逃げようと木の間を飛び続ける。元々魔力を持たないものが無理して作り出した魔法であるので長くは維持できないと判断しての時間稼ぎであった。そもそも魔法で防御しようにも魔力の質的にミストルテインを防ぎ切ることは困難であったからでもある。根はエルフ以外の方向にも徐々に伸び、木と木の間を縫うように枝をのばしていく。その枝にエルフが近づけば、追加で根を生やして伸ばし追撃を始める。徳子の周囲はミストルテインの網で囲われつつあった。少し根の速度が落ちてきて、そろそろ限界かとエルフは徳子を観察する。


「もう~~~・・・ひとーつ!」


 徳子が叫ぶと別の勾玉が光り、元の勾玉が割れる。根の伸長速度が急に早くなり、細い一本がエルフの左腕に接触する。エルフはとっさに細剣で切り裂こうとするもゴムのように伸びて切りきれない。逆に剣の接触部から出てきた根が剣を絡め取り侵食し始める。そうしているうちに次々と後続の根が追いつき、剣と左腕に接触し侵食を始める。エルフはまだ敵が残っていることから消耗を抑えたことを悔やんだ。相手が三界人ということから油断もあった。それまでの不手際は仕方なしと切り替えて、細剣を再召喚し、肘まで侵食されている左腕を肩口から切り落とす。即座に飛行し、その場から離脱。左腕の傷口から蔦を生やし変わりの腕として成形。苦悶の表情を受けべながらミストルテインを操る徳子を睨む。


〔油断から始まったとはいえ貴様はよくやった。確かに侮っていた。貴様を障害として認めよう!〕


「できればそのまま悟らずに逃げ帰って欲しいなぁと思うてるんですけど。」


 徳子の希望も伝わること無く、エルフは細剣を構えて振り抜く。


『火炎舞踏』  La dance flamme


 剣の動きに合わせて大きな炎が吹き荒れ、周囲の木々を焼いていく。地面の枯れ葉が燃えあがり、剣を振るたびに木や葉も徐々に火を吹き燃え上がる。ミストルテインも周囲に比べれば燃えにくいものの、何度も炎に叩かれているうちに焼かれて灰になる。エルフは迫りくる根を概ね排除した後、周囲に張られた根の網をかいくぐり徳子に向かって駆け出す。魔法の維持だけで手がいっぱいの徳子はどうすることもできずにエルフの接近を許してしまう。どうしようもなく追加で根を二つ出し、エルフに取り付かせようとするも三振りで焼き尽くされる。エルフは徳子の目の前に降り立ち、剣を振り下ろしてその左腕を切り落とす。叫ぶ徳子をよそに払うように蹴り、5m先の木に吹き飛ばす。ミストルテインの動きは即座に鈍くなりしおれるように垂れ下がるだけとなる。


〔どんな手で上位から力を引き出したかはわからんが、貴様の体から切り離してしまえば維持もできんようだな。〕


 左肩を抑えて呻いている徳子を見てこんなものかと嘆息する。しかし徳子の直ぐ側に落ちている光る二つの勾玉を見て気を引き締める。慎重に彼女に近づき勾玉を剣で引っ掛けて自分の後方に飛ばす。左肩を抑え涙目でうずくまっている徳子をじっと見て剣を引いて腹部に刺す。がっと一声呻いて人差し指をエルフに向ける。


「理解ってて覚悟もしてたけど痛いものは痛い!でも条件は揃いましたよ。」


 最後の力を振り絞り願う。


『汝の身に起こりし結果を一つ再現する』


 エルフのすぐ後ろにある勾玉が輝き、そこから伸びる一つの光線がエルフの背中を照らす。エルフは振り返って勾玉を見てその割れる様子を確認し、すぐに徳子に振り返った。


〔貴様一体何をした、ぁぁ。〕


 胸元から腹部辺りに現る三本の剣傷。エルフの体から急速に力が抜け徳子のそばに倒れ込む。肌は黒ずみ始め、各所にひび割れを生んでいく。ひびは全身に広がり細かくなっていき、ぱっとエルフの全身を粉々にした。ミストルテインで接触した時に呪いが残っていることは確認した。あの時の戦闘の話は聞いていたし、その呪いの話も聞いていた。だからあの時半端に当たっていた五桜決殺を再現した。三回当たっていた。そして追加で三回。五回当たれば必ず死ぬ。予備の手段で終わってよかったとほっとして激痛を覚え、少し慌てて癒やしを願う。勾玉が光ると腹部から剣が抜け腹の傷を治す。少し離れたところからずりずりと這ってくる自分の左腕に軽く恐怖しながら、右手を添えて体に引っ付ける。ひどい鈍痛の後は特に感じることもなく、左手が動く感覚に安堵する。


「全部つかっちゃいましたね。ありがとうございます。」


 勾玉にお辞儀をしてそれを拾って首にかける。手を上に組んで人伸びして、よしっと気合を入れ直して分室の方へ走り始めた。

通常格差のある戦いでは起こり得ないジャイアントキリング。のように見えますが開始時点の保有魔力量では両者にそれほど格差がない状態になっています。ですが回数制限や明らかな技術差があるため徳子は圧倒的に不利な状態にあります。それを策を用いて相手のカードをめくりきる前に、自分のカードをすべてめくることで勝利につなげています。

サブタイトルは相撲で横綱がかなり格下に負けるとままある行為です。

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