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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
平井徳子の章 2075年
7/50

序章六節:時間稼ぎと消耗戦

 高速道を進む徳子達。敵に見つかるまでは特に何もすることがないため、質問したりだべったり適度に緊張感を保ちつつ暇を潰して過ごす。


「そろそろ隠蔽が切れてしまいますね。貼り直しますか?」


 露がふと車を見上げながら確認をとる。


「たぶん大丈夫やと思います。最初の囮に引っかかれば、よほどの確証がなければ近くから確認せざるを得んはずです。もう一つは気配も弱めに作ってありますから、いろいろ悩んでも確認しにいくと思いますよ。」


 自動車を運転しながら徳子が魔法の仕込みについて話す。


「わざわざおかしな造りにしたかと思えば疑わせるためか。徳子はそういうことをしないものかと思ったがね。」


 凪の言葉に、悪戯の範疇ですよと徳子は軽く答えながら運転を続ける。二十分ほど走ったところで、一つ目が消えましたねと徳子がつぶやく。


「もう少し閉じ込められてくれば良かったのだが。少し間に合わないか。」


 凪は少し困ったように話す。


「このままいいペースで進んでも富士の当たりで捕まるだろう。ベスとバズエルには牽制と足止めを頼む。その間に分室までたどり着ければよいが、あとは状況次第だな。」


 ちらりと徳子を見ながら続ける。


「二つ目の囮が消えた時点で全員に分室の位置を指示する。我がたどり着くに越したことはないが、露と徳子には鍵を渡しておく。誰かがそこにたどり着けば我でなくてもなんとかなるはずだ。」


 不安そうに徳子はちらりと凪をみる。


「あくまで保険と思っておいてくれ。現状を考えると仕込める手はすべて仕掛けておきたい。」


 納得がいかないがうなずくしかなく、気を取り直して運転を続ける徳子。三十分立った頃、二つ目が消えたことを報告する。


「竜族とぶつかったか?思ったより時間がかかったな。バズエルはベスと合流して予定通り頼む。分室の詳細な位置はここで。」


 徳子の頭の中にさも知っていたかのようにイメージが浮かぶ。


「なんかわかりましたけど、思いっきり森の中じゃないですかー。」


「でぇわ徳子。がぁんばぇってくださぁいね。」


 バズエルは楽しそうに笑いながら空へと飛んでいく。


「バズエルさん達は勝てるんでしょうか。」


「無理だね。どう手を尽くしても相手を倒して無力化するという勝利条件は果たせないよ。それだけの差があるはずだ。だから足止めをお願いした。」


 凪は飄々と答える。徳子は驚いたように凪を見る。


「我には世界を維持する義務がある。その過程であれらの体がどうなろうと関知はしないよ。可能なら維持してやりたいと思うけどね。」


「そんなひどい・・・」


「徳子。誤解をしているようなので補足させていただきますが、我々はここで体を失ってもあなたが思っているような死を迎えるわけではありません。三界での活動体を失うだけで本体は元々の世界に残っているのです。四十、五十年はこちらには来られないかもしれませんが、思ってるほど大事ではないのですよ。」


 露が徳子を落ち着かせるように言う。


(最もあちらも本件で抗争中ですから安全というわけでもないのですが。)


 徳子は混乱するように頭を悩ませていたが、とりあえず大丈夫なんですねと切り替えて落ち着かせた。高速を降りて一般道に入るも少し強めにアクセルを踏み急ぐのだった。


-----

 上空でベスとバズエルが合流し、北西の山脈方向へ気配を強めに出しながら飛行する。


{じわじわ時間稼ぎってのはちょっと無理だろうし、叩き落とすつもりで全開でいくよ。あんたもしっかりやんな。}


{HAHAHA、最後まぁで無茶をいいまぁすねぇ。}


 山の頂上に差し掛かろうとするころに、前方に二人のエルフが飛んでくる気配を感じる。


〔どいつもこいつもちびちび時間稼ぎばっかり。そんなゴミみたいな力で我らに立ちふさがるなぁ。〕


 女エルフの絶叫のような念話と共に百近い矢が飛んでくる。


{ずぅいぶんごぉきげん斜めのぉようでぇ。}


 バズエルが少し前に出て手を掲げると矢は勢いよく下方に軌道修正し落ちていく。ふぅっと一息つき幅広い剣を一振り取り出す。正眼に構えて祈りを捧げる。


〔後ろから殴られたくなかったらあたいらの屍を超えていきなぁ。〕


 ベスは大声で金切り声をあげ、女エルフに飛びかかる。その声にしかめっ面をしつつ、女エルフは細剣から樹盾を作り出しベスの爪攻撃を絡め取る。同時に盾から七本の樹槍を囲むように打ち出しベスを襲撃する。ベスの周りがキラリと光り、樹槍は光の壁に受け止められる。その隙きにバズエルは後方に脱出し、樹槍は何もなくなった空間を通り過ぎる。ベスは再び勢いよく飛び出し女エルフに爪を振り上げ襲いかかる。男エルフから8本の矢が放たれるもいくつかは払い落とし、避けて行く。


『火と風の加護を以って矢避けの守りとならん。』


 バズエルはこっそり祈り自分たちに矢への防御を施す。ついでに飛んできた8本の矢は1m程手前で急激に進路を変えてあらぬ方向に飛んでいく。その様子をみて男エルフは舌打ちをしつつ弓を浮かせ、細剣を構えて女エルフと切り結んでいるベスに襲いかかる。


{むっふー。かぁくしたぁにもきぃほんにちゅぅじつでなぁにより。でぇすが。}


 バズエルが手を前に出しバチンと指を鳴らす。


{ちぇぇぇっく。}


 ベスの周辺5mが真空となる。それに呼応してベスが女エルフの背後に周り、腕をふり首に爪をたてるが極端な硬さに傷をつけることもできない。それを悔やむも瞬間的に切り替えて武器を持つ右手を肩から切り落として、さらに切り落とした腕を切り刻みいくつか吹き飛ばす。ついで背中から体の中央を手で突き刺し貫通させるも納得いかないような顔をして手を抜き下方に蹴りつけてながら男エルフの方に飛びかかり、右肘を砕いてちぎり、手をあらぬ方向に吹き飛ばしてその場を離れる。空気の壁を突き抜けパァンと甲高い音がし、真空に空気が流入し爆風が起こる。


{頑丈すぎる。頭は落としておきたかったんだがな。}


 ベスはちっと舌打ちしながら念話でぼやく。


{しぃかたあぁりませんねぇ。植物生命体はそぉこがむぅずかしいでぇすからぁ。}


 バズエルはどうしようもなさそうに受け答え、手にした槍に炎をまとわせ女エルフに向かって投げるも、暴風の中から蔦が伸びて槍を受け止め投げ捨てる。


{まぁだまぁだおげぇんきのよぉですよぉ。}


 バズエルはお手上げですと言わんばかりの仕草をしてベスを見る。


〔こぉのゴミどもがぁぁぁ。〕


 女エルフが絶叫し怒りに満ちた目でベス達を睨む。腕からたくさんの緑の蔦が伸び触手のようにうごめく。胸の穴は粘性のある液体がながれ隙間を埋めようとしている。男エルフもため息を突きながら右肘から蔦が伸び手のような形に成形しようとしている。


〔そのゴミに無様な姿にされてりゃ世話ないねぇ。〕


 ベスは笑いながら挑発する。その挑発に呼応するように女エルフは右肩をベスに向け蔦を伸ばして襲いかかる。ベスは笑いながら回避し、反撃に転じようと襲いかかる。腕をふって蔦を切り裂き、隙きをぬって頭部に手を伸ばすもコォンと小気味の良い音を出して爪を弾く。


〔こぉの化石頭どもめ・・・〕


 ベスはめんどくさそうにぼやく。上方から男エルフが左手をベスに向けて吠える。


『八射開花』 Huit tirer floraison


 大きな牡丹のような花が花びらを撒き散らしながらベスに飛んでいくも、手前で軌道をそらされてあらぬ方向に飛んでいく。ベスは怪訝そうにそちらを一瞥して一歩引く。


『送風領域』 Vent léger zone


 緩やかな風が10mの区域を循環しうち漏らした花びらを領域全体に舞わせる。あっとベスが反応し、男エルフはニヤリと笑う。


【星間領域展開】


 ベスは己の最終手段を発動させる。中心から100m範囲の空気が失われ、風が止まり、気温が失われ、プレアデスの魔力が満ちる。もう打てる手がほとんど無くなった今、本来の用途通りに撤退すべきであった。だが主に求められたことはすべての力をもって足止めすること。勝てないのは理解られている。自分でも理解っている。なすべきは情報を自世界に持ち帰ることか、姿見を失って数秒の足止めを追加することか。一瞬の逡巡の後、周囲を見渡す。エルフ達の周りには花びらが散りばめられている。バズエルは次の行動のための準備を慌てて行っている。


{先に行ってるよっ。}


 気合を入れて念話を飛ばし、女エルフに向かって手で頭部をかばいつつ一直線に突撃する。体に当たる花びらは腕を切り裂き身を切り裂く。触れて瞬間的に爆発し、衝撃が起こるが今は物理的な障害がなくなるため、むしろそのほうがベスとしては良かった。腕が折れ吹き飛び、翼を傷つけ、最後の顎をもって女エルフを噛み砕こうと口を開ける。


〔残念だが、種は割れているよ。ビヤーキー。これでおしまいだ。〕


 女エルフの周りには空気があった。パァンと空気の壁を打ち破った音がした後、右手の蔦に全身を絡め取られる。蔦は絡み、ベスの体を締め上げる。唸り声を上げるも抵抗らしい動きも取れずに締め切られる。領域は消失し、蔦の間からぼろぼろとベスのばらばらの体が地面に向かって落ちていく。バズエルはその様子を悲しそうに見つめ十字を切る。


〔そんな暇があるのか?大天使。〕


 男エルフが間合いを詰めてきて手にした樹槍を胸に突き立てる。


〔しぃしゃに、友ぉとして祈りをぉ捧げるのぉに時間なぁど惜しくはあぁりませんなぁ。〕


 男エルフは理解できないと言わんばかりに首を振り


『樹針』 Branche aiguille


 槍から無数の棘が伸びバズエルの体を内部外部から貫く。


〔主よ、使命半ばでありますが今身元に参ります。〕


 男エルフは怪訝そうにバズエルを見る。先程のおかしな口調はなんだったのか、戦闘中に発言を表にださなかった普段の言葉を彼は知らない。そしてバズエルはそれを見て微笑む。


〔ちぇぇっくとぉいいたぁいところですがぁ、ルークくらいはいただぁきましょうかねぇ。〕


 バズエルから光が溢れ物悲しい旋律が流れる。死に際の天使の歌。天使に仇なすものは天罰を受ける。バズエルが光になって消えるころに見える結果が訪れる。


〔魔力が奪われた?消えた?〕


 男エルフは樹槍を持ったまま土台を奪われたかのように自由落下を始める。その様子をみて女エルフは慌てるように飛びつき男エルフを捕まえ、そのまま地上の森に降りる。


{魔力霧散どころか完全消去とはな。置き土産としては最悪の部類か。}


 手を握ったり開いたりしている男エルフを見ながら女エルフは問う。


{障害のたぐいはないようですが、魔力は完全に無くなってしまいました。申し訳ありません。}


 男エルフは申し訳無さそうに謝る。女エルフはため息を突きながら手と指を動かし術式を組む。


{かかってしまったものは仕方がない。補給に戻るにも時間がなさそうだ。私の魔力の4割を分け与えよう。索敵状況からしても奴らにはもうそれほどの戦力はない。展開している部隊には竜族の牽制に向かわせよう。}


 魔力を与えられ再度手の動きを確認し、両エルフ共に失った手を成形、再生し元に戻す。ある程度体の状況を再確認し、お互いうなずきあって追跡の為に地面を蹴って飛行を始める。

第二回ここは任せて先にいけ。自分たちは勝てなくても後に戦う者の為に少しでも力を削りに行きます。

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