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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
平井徳子の章 2075年
6/50

序章五節:怪獣大決戦on琵琶湖

 3時間後の春日神社周辺。

 エルフ達20人ほどが仮設陣地を構築し、隔離地域周辺で作業を行っている。30分ほど前から行っている解呪儀式が身を結び閉じ込められた男女のエルフの姿が現界する。姿が見えると全員が敬礼するかのようにし直立し左手を斜め上に伸ばす。現れた女エルフが右手を水平に胸元に追手それに答える。


{救援ご苦労であった。状況の報告を。}


{周辺半ラ範囲内は掌握済み、現地点を仮拠点として構築済みです。目的の制御室は現地点以外は不明。本制御室の魔力残量はなく補給も不可。利用できない状態です。本地点から移動したと思われる捕縛目標はT2方向の湖を湖沿いに移動しています。回復用の新酒はこちらに。}


 報告を聞きながら女エルフは容器を受け取り飲み干す。少し考えてから。


{現拠点は廃棄しT4の山岳に拠点を新設し周辺の再制圧に当たれ。目標がみつかったゆえ、現地民への配慮は無用。武力制圧を解禁する。その後T20-4方向に拠点を追加しつつ、竜どもの牽制に当たれ。こちはら目標捕獲と制御室制圧に向かう。}


 エルフ達が敬礼し行動に移る。


{我らも行くぞ。}


 男エルフに声をかけ、同時に北方に飛翔していく。

 20分後、それらしい気配を捉えて琵琶湖東沿岸を北上していくエルフ。前方の視野の中に移動中の自動車を捉える。


〔そこの鬼人の支配者よ。大人しく捕獲されれば悪いようにはせぬぞ〕


 相手からは返答はない。


〔ならば瀕死くらいにはなってもらうかねっ。〕


 女エルフが弓を構えて打ち込もうとした時、前方から突然火の塊が飛んで来てそれを男エルフが細剣で破壊する。エルフ達がそちらに目を向けると200m先に20mにおよぶ緑色の鱗をもった細長い龍が1体。追従するように10mの緑龍が3体ほど姿を現す。


〔隠遁術か。偉大なる龍様のわりに随分姑息ではないか。〕


 女エルフは龍に向かって侮蔑を込めて念話を送る。


〔おぬしらだけには言われたくはないがな。姑息だの卑怯だのなぞおぬしらの為にある言葉であろう。〕


 大きな緑龍はため息をつくように返す。


〔どちらにせよ『あの獲物』はわしらのもんだ。おぬしらにおいそれと破壊されては困るでなぁ!〕


 小緑龍が大緑龍の周りで舞うように動き、大緑龍が口から5mになろうかという火球を放つ。女エルフは舌打ちしながら持っていた弓ですばやく矢を火球に打ち込むが、矢は火球に吸い込まれるように消えてゆく。


『無形障壁』 Immatériel barrière


 男エルフは自分たちの全面に純粋な魔力障壁を左斜め気味に展開する。障壁に火球が当たり障壁に沿って炎がうねり、僅かながら熱気と炎がエルフ達を焦がす。続いて障壁に軽い衝撃が続き小さな爆発が起こり、その衝撃と爆発の数が急激に増え続け3秒もしないうちに障壁を破壊し、エルフ達に向かって無数の石礫が飛来する。礫はエルフ達に当たりその身を打ち付けえぐる。


〔おまけじゃい。枯木らしく地面に落ちておれ。〕


 小緑龍が舞い、大緑龍が唱える。


【大雷】


 エルフ達は礫を防御しようとし前面に樹木の盾が現れ始めた頃、頭上から一条の落雷が落とされる。本来形の無い落雷に押されるように地面に打ち付けられるエルフ達。受け身を取ることもできずに地面を跳ね、転がされる。


〔ふむ、まだ息があるとは。さすがに大木ともなると頑丈よな。〕


【豪雨冷却嵐雹】


 小緑龍は舞い、大緑龍は唱え指し示す。当たりは即座に暗い雲に包まれ冷たい豪雨となる。豪雨に混じりエルフ達を狙うかのように大きな雹がエルフ達を打ち据える。


『樹城創造』 Création Arbre château


 男エルフは震える手で自分たちの四方から大木を急成長させ枝葉を張り、振ってくるものを妨害する。そのまま男は手を掲げて自分と女エルフの治療を行う。女エルフも即座に起き上がり治療を行う。


{大分調べられているようだな。苦手な展開を続けられた。引いて立て直す手もあるが?}


{目標を見つけておいてそれはあるまい。叩き潰す。}


 女エルフは武器を構え龍がいるであろう上空を見上げる。


〔いつまで隠れておるつもりだ。いい加減根が生えてきたか?〕

【万小雷】


 大緑龍は軽く煽りをいれつつ、樹城と周囲に多数の雷を落とし続ける。雷は樹城を焦がし、樹木と大地を通じてエルフ達を焼く。突然の衝撃に声にならない声を上げるエルフ達。お互いの顔を一瞬見合わせ、地面をすべるかのように低空で飛び両端から樹城の外へ飛び出す。女エルフは雷と雹を避けつつ細剣を一振りして


『樹林生成』 Génération forestière zone


 周囲に無数の細めの樹木をまさに林のように発生させる。雷はそれらに誘導されるかのように生成された樹木に当たり狙いがつかなくなる。それを見て龍は雷と豪雨を止め、飛んできた矢を手に帯びさせた魔力で振り落とす。


(まだ出るか。これは予想より大分持ち込んでおったな。)


 大緑龍は初手からの一連の流れによる攻撃で打ち倒すか撤退まで追い込めると思っていた。が、ダメージのほとんど回復させ素早く反撃に転じてきたエルフ達を見てどうするか悩んだ。相手の残存魔力はどうか、自分の残存6割で仕留めきれるか。撤退も視野にいれつつ魔力を練り上げ、眼下の林に手をかざす。


【高熱波】


 手をかざした林の当たりから高熱の空気の塊が発生し渦を巻きながら高速で広がってゆく、熱に煽られて水は一気に水蒸気となり、揺らぐ熱波となってさらに周囲を侵食する。直に樹木は燃え上がり熱波に砕かれ、熱波の渦と共に転がり塵になっていく。熱波を維持しつつ、残りの林と林の跡を注意深く観察してエルフを探す。少なくなった林の中から魔力のゆらぎを感知し、手を振ってそちらに熱波を流す。熱波と共に男エルフが飛び上がり、弓を構えて龍に向かって撃ち込む。


『三射九閃』 Trois tirer neuf tournage


 400m先から撃たれた九つ矢だが、半ばのところで龍に操られた熱波によって消し炭となる。合わせて男エルフにも熱波が向かうが素早く回避する。その瞬間後方から魔力を感じ魔力障壁を展開するが、飛来物はやすやすと障壁を貫通し二匹の小緑龍と大緑龍に刺さる。刺さったものは急激に成長し龍の体に根をはり、体を破壊しながら急成長し大輪の花を咲かせる。小緑龍は咲かせた花を散らせながら力なく落下していく。見据えた後方には周囲に無数の花びらを舞わせた女エルフが細剣を大緑龍に向けて構えている。


〔我々も急いでいてね。お前も頑丈そうなので一気に決めさせてもらうぞ。〕


 大緑龍は吠えるように熱波を女エルフに仕向ける。女エルフは指揮をするかのように細剣を動かすと花びらが一枚、二枚とひらひら前方に動く。花びらが熱波にあたると燃え上がるが、そこで熱波を押し止める。花びらは続けてゆらゆらと前へ進み、熱波を阻み続ける。小緑龍が舞い動こうとしたところで、すっと斜め上から飛来物を打ち込まれる。それを守るかのように大緑龍は手お動かし魔力手で飛来物たる小さな種子を叩き落とす。


〔さすがにそこは守るか。だが、そこが大事と証明したようなものだな。〕


 熱波を押し留めつつ、さらに小緑龍を中心に種子を打ち込んでゆく。大緑龍は飛んでくる種子をいくつか叩き落とすも、一つ二つと体に被弾し花を咲かせられる。叩き落とした種子にしても


『開種樹槍』 Germination arbre lance

『開種火爆』 Germination feu explosion


 隙きあらば男エルフが種子を中心に魔法を起動し撹乱する。


【遁甲宙壁】


 大緑龍が展開した魔法によりエルフ達からみた大緑龍の姿が大きく歪み、種子や矢の攻撃があらぬ方向に曲げられ龍に届かなくなる。


{ふむ。空間障壁かいささか面倒ではあるがそれほど長くは持つまい。引きこもるつもりもなかろうし、こちらも詰めるとしようか。}


 女エルフは細剣を振り、花びらを障壁の周りに覆うように展開していく。歪んだ空間の龍は青い炎に包まれ空間の中は青いゆらぎに包まれる。空間からにじみ出るように炎がちらつき始めた頃に歪みは消え、両者が同時に動き始める。


【万雷蒼炎乱舞】

『槍華絢爛』 Amaryllis cluster magnifique


 現れた青い炎を中心に雷が荒れ狂い渦を巻くように周囲に広がってゆく、中心の炎から大小様々な火球が全周囲に飛び出し帯電、放電しながら周囲空間を蹂躙する。青い炎を包囲していた無数の花びらは細身の槍のように変化し炎の中心に向かって飛んでゆく。さらに自分の周りに展開していた花びらも槍に変わり炎にむかって打ち込まれてゆく。槍は火球に当たり爆発し、雷を吸い寄せるように絡み取り帯電し、龍に向けて射ち込まれてゆく。


〔火はともかく雷は悪手。そのまま落ちるがいい。〕


 花びらは炎と雷の侵食を食い止め、その領域をどんどん狭めていく。中心の炎は小さくなっていき龍の体が露出し始める。小緑龍の姿は無く、体の所々はえぐれ、無数の花を咲かせたその体は満身創痍の気配を漂わせかろうじて浮いているように見える。


〔よもやここまで差があろうとは。一体どれほど仕込んできたのやら。〕


 大緑龍はため息をつくように念話を飛ばし、手を動かそうとする。


『発華一閃』 Éclater fleur un coupé


 男エルフの魔法により手の付近にあった花から体ごと手を寸断される。


〔お前もここまでさせて随分長持ちしたと。考えるのも苦しかろう。止めはくれてやる。〕


〔力足りず貴様らの悔しがる顔を見れなかったのは残念よなぁ。〕


 女エルフが剣を振ると花が一斉に輝き大きく開いてから散っていく。龍の目から光が失われ、体はやせ細りそのまま落下し、着地とともに軽目の音と衝撃を起こしてばらばらになった。


{少し使いすぎたな。目標の戦闘力はゴミみたいのものだから問題ではないが。}


{周囲に大きな反応はありません。目標は以前T2方向へ移動中。}


 エルフ達は顔を見合わせると自動車を追いかける。ほどなくして自動車をみつけると、男エルフは無言で矢を打ち込み樹縛で自動車を捉えて動けなくする。


〔さて、降伏の準備はできましたかな?〕


 女エルフが呼びかけながら自動車付近に着地し、男エルフが追従する。女エルフが覗き込むほんのり輝く自動車の中にはぼんやり気配のある光る玉。


〔これは囮というやつか。やってくれる。〕


 女エルフは手を掲げると、自動車は爆散して塵になる。


{弱者なりの努力ということですか。同種の気配が二件あります。距離の近いほうからT6方面に弱め、T8方面に強めにでていますね。}


{一方はまた囮なのだろうな。最初に感知できなかったのだから隠蔽をかけていたからのだろうが、距離か探知性能の差がでたか。普通に考えれば反応が弱いほうが本命であろうが・・・}


{それらもすべて囮の可能性もありますね。ただ、そこまで魔力に余裕があるとは思えませんが。}


{これ以上情報が増えぬならしかたあるまい。無駄なく近場から行くとするか。}


 エルフ達は諏訪方面にむかって飛び立つ。飛び立ってしばらくした後、大緑龍の干からびた死体の中から肉を割り、這い出てくる小緑龍。大緑龍を一瞥し北へ向かって飛んでいくのだった。

Tは水平方向、Fは鉛直方向円周右回り0~23のメモリで運用されている方向単位です。

体の大きさは物理的な力の差になってきますが、少なくない魔法で埋められる差になります。龍は魔力補給が難しい環境下で侵攻していて、エルフは比較的容易な環境下にあります。その差が戦闘力の差になっています。龍が50の内20を使って初手から追い込みをかけましたが、エルフの残存量が130と100ほどあります。この後再生と反撃に総計7割ほど消費することになっています。

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