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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
平井徳子の章 2075年
5/50

序章四節:ここは私達に任せて

 周囲が明るくなる頃、神々に見送られて出発することになった。


「おっとそうだ、徳子。これを飲んでおきなさい。今日一日は空腹についてはなんとかなるはずです。疲労回復を早める効果もあるので後々楽になるでしょう。」


 経津主神がそう言って竹筒を差し出す。徳子は礼をして受け取ってからぐいっと飲み干す。


 ベスが上空に上がり、一同は車に乗り込み発進する。


「さて、我らは南のサルスを釣るとしようかのう。」


「分体ではかなり厳しい相手ですが、よろしいので?」


「凪様が負けてしまえば、我らとてどういう扱いになるかわからん。なれば今は分体を捨てても時間を稼いだほうが良かろうて。」


 そういって天照大神は南西方向に向けて神気を放つ。20分ほどすると高速で二人の人影が飛んでくる。弓と剣を携えた金髪の耳の長いエルフの男女。


〔大層威嚇されたと思えば天照の分体ではないか。そんなちゃちな魔力で私達をどうにかできると思ったか?〕


 威勢のいい女性の念話が飛ばされる。

〔それでも乗ってきたのは少しは目にかけていただけているんでしょうなっ。〕


 経津主神は準備していた術式を発動し、周囲の空間を並走世界に隔離する。周辺が暗灰色に暗くなる。


〔つまらん。無駄に力をつかって時間稼ぎか。軍神がやることにして小さいことよ。〕


〔今はその時間に意味があるものでしてね。少し付き合っていただきますよ。〕


 経津主神は剣を取り出し構える。天照大神も剣を取り出し構えをとる。それを見て女エルフは左手を持ち上げ


『樹縛』 lierre ligoté


 経津主神の足元から50近い数の蔦が伸び体に絡みつかんとして襲いかかる。経津主神は剣を三度振り蔦を切り払う。切り払らわれた蔦はそれを気にすることもなくさらに伸び続け経津主神の体に覆いかぶさり締め付ける。締め付けた蔦の塊は直にきゅっと細身になり中の物を押しつぶす。と同時に女エルフの後ろに現れた経津主神が胴体に向かって剣を横薙ぎにする。それを男エルフが細身の剣を振り上げ上方に弾き飛ばす。天照大神は剣を上段に振り上げ一言つぶやき振り下ろす。


【焼き払え】


 剣閃の方向に従って上空から幅2mの光の奔流が溢れその先20mを焦がす。エルフ達と経津主神は互い違いの方向に分かれるように回避。経津主神が回避地点から即座に女エルフに斬りかかる。女エルフは細身の剣を右手に構えて待ち受ける。


『『四射八閃』』 Quatre tirer huit tournage


 二人のエルフから重なるように魔法が紡がれると、二人の上3mに浮上していた弓から輝く矢が8本ずつ放たれる。経津主神は反射的に右斜め前方に加速。矢が地面を穿つ。


『四閃樹槍』 Quatre piquer arbre lance


 迎え撃つ女エルフが経津主神に向かって間合いを詰め、鋭い突きが放たれると共に、地面に刺さった矢が木材のように変化し経津主神の背中に向かって鋭く伸びる。


【輝き、燃やせ】


 天照大神は剣を掲げて唱えると上方から直径1mほどの光線が経津主神の周りにいくつも降ってきて木の槍を燃やし尽くす。が、光の隙間を縫って飛んできた矢が経津主神の脇腹に刺さる。男エルフが手に持った弓で静かに矢を放っている。経津主神はそちらを一瞥した後、そのまま女エルフの突きを上段から切り落とし、即座に首に向かって切り上げる。


『残矢火爆』 Raté flèche feu explosion


 舌打ちした男エルフが一足早く魔法を紡ぎ、経津主神の脇腹の矢が爆発し女エルフ共々吹き飛ばす。経津主神は5mほど吹き飛ばされて地面を転がり、転がりながら飛び起きて男エルフに向かって正眼に構える。女エルフは吹き飛びながらもそのまま着地し、飛び跳ねるようにして男エルフに合流する。天照大神も滑るように経津主神の左前に移動する。


{やはり攻めきれませんな。もう少し魔力を持ち込めれば良かったのですが。}


{しょうがないのう。予定通り短時間で使い切って痛手だけ与えて流れに任せるとしようかのう。}


〔無駄な相談は終了したか?何も無いならそろそろ終わりにするぞ?〕


 女エルフの念話に合わせて天照大神が剣を掲げる。経津主神は男エルフに向かって走り出す。


【鏡華顕現】


 全員を囲むように直径50cmほどの円鏡が無数に現れる。女エルフが舌打ちして剣を構えて備える。


【煌めけ】


 天照大神から幾条もの光が溢れ四方八方に広がる。直接エルフ達に向かう光もあれば、周囲の鏡で反射、分割されさらに別の鏡に反射して最終的にはエルフを目指して直進する。


『分枝樹盾』 Branche bouclier


 エルフの持つ剣の根本から樹木が広がり光を防ぐ。光は樹木をいくつか焼き焦がすが、多くの光は樹木に当たってもなんの変化もない。


(必殺の陣を目くらましに?さすがに維持し続ける魔力がないか。)


 女エルフは剣を小刻みに動かして光から身を守り考える。そうして反撃を試みようとする頃に、男エルフの正面の光から経津主神が斬りかかる。


『瞬二切』 Moment deux couper


 男エルフが経津主神にすばやく斬りかかるが、その剣戟は手応えなくすり抜け経津主神の姿が揺らめく。


(光の陣は魔力感知の撹乱が目的かっ)


 目視、振動、魔力などによる相手への索敵機能が光線によって大きく阻害されているのを感じる。男エルフは後ろからくる気配を感じ、振り返りながら横薙ぎに斬りかかる。剣にかかる反応から切り捨てたと思った時、


(鏡?!)


 切り捨てた銅鏡の視界の隅に、飛び交う光の中を悠然と足音も気配もなく女エルフの背後に歩いてゆく経津主神が見える。経津主神は左下段に剣を構え斬りかかろうと踏み出す。


【五桜決殺】


 五度相手を斬りつければ必ず死に至らしめる呪殺の剣技。圧倒的格上なら効果を無効化することはできても、現保有魔力量に圧倒的に差があるだけで、現界している分体の能力差は女エルフが高いもののこの呪いからみれば大きな差ではない。


「XXXXX!」(姉さん!)

『甘露霊薬』 Mystérieux sève enhancer


 樹海圏で多用される強化魔法。普段から魔力を別の形で保管していおいて、様々な形で追加強化する魔法である。男エルフは叫ぶと共に身体能力を絶大に強化し、女エルフと経津主神の間に割って入る。1、2、3と呪殺の剣を受けた頃に男エルフの振った剣が経津主神を吹き飛ばす。そのまま余剰魔力をつぎ込み追い打ちをかける。


『一射爆滅』 Un tirer ecraser explosion

〔残念。至らぬか。〕


 経津主神は吹き飛んだ体の体制を整えようとしながら軽く笑って、高速で飛んでくる矢に貫かれる。同時に大きな爆発が起こり、爆発が晴れる頃には経津主神の姿はどこにもなかった。男エルフは膝を落とし、肩で息をしながら切られた傷を見る。


「CCCCCCC」(すまん助かった。完全に受ければ持ちこたえられなかった。)


「XXXXXX」(姉さんが無事なら良かったです。)


 女エルフは光線を防御しつつ周囲を警戒する。


〔あれが決まれば理想的だったが・・・まぁ当初の予定通りゆるりしていっておくれ。〕


 天照大神は剣を流れるように振り回す。光線を反射しながらその動きに合わせるように鏡が動き整列する。


【鏡面離宮顕現】


 周囲が光り輝き、数秒して光が収まるころにはエルフ達の周りは鏡で覆われた狭い空間になっていた。


{さらに別の並列空間に隔離されたか。確かに脱出するには少し手間と魔力がかかるな。奴らとしてはどちらで時間が稼げても問題ないということか。これは完敗だな。}


 女エルフは嘆息して剣を鞘に収めて弓を置き、どさっと地面に座り込む。


{天照の保有魔力から考えてもさほど長くは持たないでしょう。『連結』が途絶えれば後方部隊も出てくるでしょうし、待機して体の調整をするほうが良いでしょう。}


 男エルフも武器を片付け、地面に座り、肩から胸に受けた傷の治療を始める。


{呪いの方は大丈夫そうなのか?意味から考えれば傷以上のことは無いと思うが。}


{強力な呪いですが1ロールもすれば霧散するでしょう。すでに術者がいない以上、高天原の拠点に近づかなければ問題ないはず。傷の治療だけで十分です。}


 エルフ達は座り込んで治療や今後の展開について計画を立てながら時間を潰していくことにした。


樹海圏のエルフたちは創造主から始まり個から個へすべて『連結』と呼称している魔法的な繋がりを持っています。上位から下位へは一方的な認識権限があり、下位から上位へは許可された状態だけを認識できます。連結は同じ世界内でなら距離は関係ありませんが、魔法的に隔絶されると一時的に切れてしまいます。

エルフの魔法併記はフランス語の羅列で構成されています。文法上読めない可能性があります。そういう雰囲気だと感じていただければ。

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