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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
アリシアの章 2130年 機械人形は魔法を夢見て拳を握る
48/50

14節:かくして事件は終結する

 アリシアは現実に戻る。内部時計にアクセスして時間経過を確認する。38秒進んでいる。




(七界の方ともなると優秀でございますね。)




-自己励起:第一拡張バインダーマナリンク-


-264%連動:300%全身体強化専有維持-




 アリシアは胸元にいるアルフィーの死体を抱えあげ、体を引き起こしながら前方に飛ぶ。すぐ後ろにいる異形から触手が飛んでくるのを、空中で土台を出しながら移動し回避する。




(ぼっちゃん、今しばらくお待ち下さいね。)




-278%連動:ソウルコフィン-


-ソウルコフィン維持を内在魔力に切替連結-




 アルフィーの死体と魂を黒い楕円菅に納めて地面にそっとおく。




{さぁ、行きますよ。後悔なさらないように来なさい。}




-自己励起:第二拡張バインダーマナリンク-




 アリシアの背から追加の1対のバインダーが展開される。




-378%連動:エミュレートマテリアライズ-


-第一拡張バインダーを第三拡張バインダーとして再現-


-自己励起:第三拡張バインダーマナリンク-


-第三拡張バインダー維持を内在魔力に切替連結-


-1850%連動:未来演算専有維持-




 三対の輝くバインダーを背負い新しく稼働したバインダーをほぼ全て未来演算に割り振る。異形の動きが止まりアリシアと対峙しながらジリジリと動く。異形が脚を動かせばアリシアは肩を動かし、アリシアが指を動かすと異形が前に少し動く。お互いの未来の取り合いが始まり妙な牽制が行われる。二分ほど静かな牽制が続くがアリシアの動きがだんだん大きくなる。




{これで詰みですね。次は良い人生を。}




{上位の干渉を受けるとは運が悪かったか。}




 アリシアはそう伝え、始めて異形から意思が返ってくる。そうかも知れませんね、とアリシアは呟きさっと異形に近づき右拳で異形を殴打。異形も触腕を振るいアリシアに対抗するがアリシアは理解っているようにそれを回避。そして左拳を異形に打ち付ける。超近接の間合いありながらアリシアは異形の攻撃を適切に回避、弾きそして反撃する。踊るような拳撃が20秒ほど続いてアリシアは両手で異形を掴み。




-未来演算連動一時低減980%-


-1448%連動:スレイヤーズ・ワン-




 アリシアの両手から異形に魔力が侵食し、異形はそこから粉のように分解される。異形は動けないままそこにいなかったかのように消えてなくなる。周囲の風景は戻りそこには血も肉も戦いの跡もない、何も起こっていなかったかのような景色が残されている。




-未来演算終了-


-身体強化終了-




 アリシアは踵をかえしてソウルコフィンに駆け寄る。意味もなく一度大きく息を吸うふりをする。




-1305%連動:肉体解析/欠損修復-




 アルフィーの肉体的欠損を即時修復する。




-2645%連動:スピリットリンク-




 アルフィーの体に魂を再度結びつける。




-2355%連動:リザレクション-




 アルフィーの生命活動を再開させる。




-ソウルコフィン終了-


-エミュレートマテリアライズ終了-


-第一第二拡張バインダー収納-




 ソウルコフィンがぱらぱらと砕けて風に散っていく中からアルフィーを抱きかかえる。健やかな寝息をたてているのを確認して頭をそっと撫でる。




「おかえりなさいませ。ぼっちゃん。さぁお家に帰りましょうね。」




 アリシアは音無くベンフィールド邸へ歩き始める。




{柏木様。アルフィー様を保護いたしました。不穏分子はすべて撤去。状況終了でございます。}




{な?まだ避難してからそんなにたってるわけでもないが・・どうやってあんなもんを。まあいい、屋敷まで戻れ。それで終了だ。}




{了解いたしました。}




-68%連動:脚部200%強化専有維持-




 アリシアは空を跳ぶ。空を蹴り、マスターの息子を抱え、それを待つ者の場所へと。10分ほどして屋敷にもどり到着を報告する。屋敷は微妙に不穏な空気を出しているがアリシアは気にせずメイベルに近づく。




「この度の不慮、大変申し訳有りませんが、アルフィー様を連れ戻したことでお許しくださいませ。」




 アリシアはメイベルにアルフィーを渡す。メイベルは良かったとアルフィーを抱きソファーに座り込む。アリシアは何やら苛ついている柏木に近づき後ろにつく。




「ご苦労だった、アリシア。さぁ旦那。役者が揃った所で説明してもらおうか。」




「まあ用があるのは私ではないのだがな。」




 柏木が苛つきながら発言し、レジナルドは後ろに顔を向けて背後にいた二人に出るように促す。柏木もアリシアも屋敷の誰もが顔を知らない人物である。




「私どもはWestArmsCo.の法務、営業担当ジョン・カーターでございます。つきましてはそのアリシアなるものに使われているAIを速やかに返却して頂きたく存じます。」




 ジョンと名乗った男はニヤついた顔で柏木に告げる。柏木はカーターを睨み返して言う。




「あれは借金の返済で差し押さえたものでうちの財産だ。返すいわれはないね。」




「それはおかしい。我々は彼に貸与はしていたが販売はしていない。あのAIは我々の財産で不当な差し押さえだ。」




 柏木の主張に対してカーターは即座に反論を返す。柏木はこの時点でハメに来ていると確信する。




「入手の記録を会社に問い合わせるが構わないか?」




「そうですね。この場でして頂けるならかまいませんよ。」




 柏木が確認すると、カーターは煽るかのようにニヤニヤしながら言う。柏木は会社に連絡を取り差し押さえの書類を確認させる。




{アリシア。状況をどう読む?}




{半ば言いがかりでは有ると思いますが、柏木様の考える通りの要求をしてくると思われます。}




{旦那の手引か。}




{連絡したのは旦那様ですね。記録もございます。絵図を書いたのはWestArmsCo.の方のようですが。一枚二枚噛んでいらっしゃると思います。}




 柏木は舌打ちをしながら会社とアリシアの報告を聞き舌打ちをする。




「うちの書類上ではそいつの財産扱いで引き取ってるな。価格は当時の定価で引き取ってるらしい。」




「ふむ、契約書が無かったにしてもAIボックスにレンタル証がついていると思うのですが。」




「そいつは記憶がねえな。アリシアどうだ?」




「外観とデータ内には証書はございません。」




「内壁に記載して有るものが有ると思いますが、いかがでしょうか。アクセスキーXXXXHJKIPO。認証Kuper。」




 会社からの報告を柏木は伝え、カーターはAIに対する確認を行う。そして最後に言葉を放つ。




-認証コード確認。非常状況ケース7に切替-




 アリシアは内部システムからの干渉を確認する。盗難防止用かの会社のバックドアシステムであると検知する。




「てめぇ、開発側だからって何してもいいわけじゃねぇぞ。」




「いえいえ、こちらも確認の為ですから。」




 柏木がカーターを睨みつけるが、カーターは当然であると主張する。アリシアから見ればどんな茶番だと思えるが、WestArmsが有利になるようにシステムを緊急改変を起動させたのだと思う。アリシアは仕方ないと思いつつ行動を起こす。




-自己励起:第一拡張バインダーマナリンク-




 アリシアがバインダーを展開したことに皆驚くが、すぐに立ち直ったWestArmsの人間は興味深そうにそれを眺める。




-700%連動:仮想演算回路展開-




 柏木は不安そうにアリシアを見るが、アリシアは微笑みで返す。柏木はその行為に少し驚きはっとするが何か納得したかのようにカーターに向き直る。




「で、アリシア。内部のなんたらは確認できるのか?」




「透過視によりシリアルNoとレンタル証が張られているの確認いたしました。」




 柏木の確認にアリシアはそう答える。柏木は舌打ちをしつつも少しニヤける。




「これで我社から貸与されたものだと証明されたわけですな。」




「まあ主張は理解った。ただこちらは何も預かり知らないことなんで強奪した責はねぇ。安全に取外した後返却ってことでいいかい?」




 カーターの言に柏木はそう主張する。




「いえいえ、こちらの貸与が証明された以上は即座に返却願いたい。そうでなければこちらの基本契約に基づき貸与契約を結んで頂きます。年間100万$の先払いでね。」




 カーターは即時返却を求め、そうでなければ契約をして金を払えと主張する。




「ただそちらの主張もわからなく有りませんので、アリシアを我社でお預かりして安全に取り外した後返却ということでも宜しいですよ。」




 カーターはにやにやしながら柏木に告げる。柏木はその提案に絶句し怒りに震える。




「てめぇら後からのこのこやってきて、アリシアを丸パクリするつもりかぁ。」




 柏木は激高するがカーターはそれを涼しい顔で受け流す。




「契約は断固拒否する。てめぇらにやるものは何一切ねぇ。」




 柏木はカーターにそう言い放つ。




「まあそれでもいいでしょう。ですがAIの返却はしていただきますよ。」




 その激高もどうでもよさそうにカーターは言う。柏木はアリシアをちらりと見て、それに答えるようにアリシアはうなずく。




「あなた方の主張は貴方の会社の持ち物であるAIの返却だけでよろしいのですね。この体の殆どはマスター達が組み上げたものであなた達は関与していないのですから。」




 アリシアは少し語気を強めてカーターに確認をとる。




「ええ、それで構いませんよ。返却できるものならね。」




 カーターは軽くそう言う。AIボックスの中に行動に関する保存領域があり、AIボックスさえ手に入れば何をしていたかほとんど把握できるとカーターは知っている。だからこそAIさえあればいいと主張する。AIを失えばこのアンドロイドを失ってしまう公算も高く、マスター陣は受け渡しに同意するであろうという見込みもあった。そうすれば引き取ってすべて解析すればよいだけである。どちらを選ばれてもWestArmsとしては殆ど損はない。日和って引き渡してくれれば万々歳というくらいだ。




「わかりました。それでは失礼致します。」




 アリシアは妖しく微笑み上部の服を脱ぎ肌を晒す。腹を開きAIコアを晒す。アリシアはAIに刺さっているコードを一本一本慈しむように抜いていく。なんとも言えないゆっくりとした動作と艶めかしさ皆が見入る。カーターはその行為に少し驚いて見ているが、コードの残りの数が少なくなるほど顔色を変えていく。そしてコードは残り二本となっている。




「馬鹿な、そこまで引き抜いて動けるはずがない。」




「はて、何のことでしょうか。」




 カーターは震える声で主張するが、アリシアはいたずらっぽく笑い最後のコードを引き抜きAIボックスを体の中から取り出す。そしてその箱を柏木に渡す。柏木も少し驚いた顔をしているが箱を受け取り声を上げて笑う。




「こいつは驚いた。まさかAIを抜いて動けるとはな。まあ、どうかしらんが取り敢えずこいつは返すとしよう。」




 柏木はひとしきり笑ってカーターにAIボックスを渡す。




「これでお互いチャラってことでいいな。責任は果たされた。まあうちはだいぶ損したが今回の件で帳消しってことにしといてやるよ。」




{アリシア、大丈夫なのか?}




{概ね問題は有りませんが、AI回路を擬似演算している状態です。バインダーを格納しては動けませんので代替AIが必要です。ただそちらも問題はありません。各社特許、仕様にかからないものを用意してございます。}




{こいつはかなわん。ここまで読み切られてたか。}




 柏木はアリシアと念話しそして笑う。




「んじゃ。俺らも引き上げるとするか。」




「ま、まて柏木。どういうことだ。」




 柏木が引き上げようとするのをレジナルドが引き止める。




「どうもこうも、こんな壊れた屋敷には泊まれんだろう。外のホテルを使うよ。キリトリも終わったんだし、護衛もいらんだろ?」




「いや、そうではなくアリシアが、いや、そうではなく。」




 レジナルドが状況についていけず混乱している。




「旦那の目論見は崩れたんだ。もう諦めてくれ。俺らはアリシアを売るつもりはねぇし、マスターの一人としてこいつは今の時点で外に出していいもんじゃねぇ。メイベルもアルフィーも元気でな。」




 柏木はレジナルドに背を向けて片手を上げて振る。アリシアはそれに追従して屋敷を出る。屋敷の壊れた正面ロビーではレジナルドとカーターが何か言い合いをしているようだが柏木はそれを完全に無視する。




「よろしいのですか?旦那さまと関係が悪くなるとぼっちゃんが。」




「気にするな。元々あるかないかの関係だ。アルフィーが生きてりゃいいさ。旦那も時間をおけば頭が冷えるだろ。」




 アリシアは心配そうに問いかけるが、柏木は苦笑しながらどうでもいいと返す。




「取り敢えず空港近くまで行ってホテルで直すか。」




「この状態で魔法を使うのが手間なのですが、ああもう問題ありませんでしたね。では跳びましょうか。」




 柏木は首をかしげるが、アリシアはそれを振り切るように空を舞う。楽しそうにステップを踏みながら空港に向かって走る。その姿を楽しそうに見つめながら柏木は飛ぶ。ホテルをとり一室で用意していたAIを収める。バインダーを格納し一息つく。




「取り敢えずこれで転んでおじゃんってのはなくなったな。」




「そうですね。あの状況からバインダーを削られるのが一番の難点でしたね。」




 柏木はベッドに身を投げ出して力を抜く。




「お前もだいぶ育ったな。なんか雰囲気変わったよ。」




 柏木がアリシアにそう語りかける。




「そうかもしれませんね。色々なことを学習しました。」




「帰ってあいつらに語って自慢してやろうぜ。こんだけやりきったんだってな。」




 柏木は笑い、アリシアもそれに合わせてくすくすと笑う。翌日柏木達は日本に戻り、途中で連絡をいれてマスター陣に戻ることを連絡する。そして加瀬工場に集合する。




「とまぁそんなこんだで仕事は終わりってこった。」




 柏木が語り、アリシアが補足し事件の顛末を話す。




「で、このアリシアの機能をどうするかが問題でな。」




 アリシアはマスター陣が知らない機能や装備が拡張されている。誰がやったのかと問えばアリシアが自分でやったと答える。




「正直未来演算がかなりやばい。封印指定してもいいくらいで。だがそれによって助かる何かがあるのも事実だと思う。お前らの意見を聞きたい。」




 全員がその力に興味津々だが柏木はその危険性を提示し、軽い実演を交えて全員の意見を聞く。だが、その危険性も含めてアリシアに任せようという結論に至る。彼女ならきっとできると加瀬が締めたのが大きな要因ではあったが。その日も遅くまで試験や議論が行われ解散となる。加瀬が工場でアリシアの様子を見ながら言う。




「随分変わったもんだな。材質から筋繊維まで微妙に改変してある。君は一体どうしたんだい。」




「神様になりました。」




 加瀬の何気ない質問にアリシアが答える。加瀬ははい?と素っ頓狂な声をあげてアリシアを見る。




「冗談です。」




 アリシアがそう言うと加瀬はふっと笑い声を上げる。




「真面目で感情の薄かった君がその手の冗談とはね。昔の委員長みたいになるかと思ってたよ。」




 加瀬はひとしきり笑ってアリシアに語りかける。




「君はもう僕らのことを気にせず自由にしてもいいんだ。マスターだからといって僕らは君を縛るつもりはない。」




「そうはいっても私もすることが有りませんのでマスター加瀬をお助け致します。」




「それはありがたいな。ただ、なんで俺だけマスター付なの?」




「他の皆様は呼称変更登録をなさいましたので。」




「え?俺だけなんも言ってないってこと?」




「はい、皆様は早い段階でそのようにしてくれと言われましたので。」




 加瀬の問いにアリシアは問題がわからないかのように返す。




「んじゃ、俺のことも加瀬でいいよ。」




「はい、加瀬様。末永くお使えさせていただきます。」




 アリシアは丁寧な礼を取る。加瀬はアリシアにおやすみと声をかけ部屋に引き上げる。アリシアは工場を掃除しながら時間を潰す。目的も無く取り敢えずという感じである。




「さて、何から手をつけましょうかね。」




 レジナルドもWestArmsCo.も諦めるとは思っていない。何か手を回しておこうとアリシアは考えている。




「こう考えてるのが一番楽しいという気持ちもわからなくないですね。」




 アリシアは浮足立ちながら工場を清掃して回る。その先がどうなるか、どうすべきか夢想しながら。

最終戦があっさり終わってしまいますが力関係の逆転と差が激しすぎるので致仕方なし。

神化アリシア。

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