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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
アリシアの章 2130年 機械人形は魔法を夢見て拳を握る
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11節:暗い青空と赤き荒野の隙間より滲み出る闇より深い黒

 夜が明け頃、大きな食卓に出された朝食を前にレジナルドがいらいらしながらアリシアを見ている。


「身代金目的ならどれほど楽かとおもったが、連中の目的は金ではないんだな?」


「私が知りうる限りでは儀式を完成させることが彼らの今回の目的であり、ぼっちゃんは彼らが想定する条件を満たす一人なのだと考えます。」


 レジナルドはなじるように問うが、アリシアは淡々と答えそれがまたレジナルドの怒りを誘う。


「旦那。幸い場所と必要な時間はわかってんだ。アリシアの不出来もあるが屋敷を開けすぎた俺らも悪いし、そこまでいらいらを撒き散らすなよ。」


 柏木が魚のフライに食いつきながら言う。


「そもそもアリシアが護衛をしておればこんなことにはっ。」


「その話はもう済んだだろう。そもそもな話をされたら旦那が欲かいたのが悪いって話じゃねーか。」


 レジナルドは吠えるが、柏木はアリシアをフォローしつつレジナルドの反論を押さえる。


「アルフィーが殺されるようなことがあれば貴様の命無いと思え!」


 レジナルドは逃げるようにアリシアに言い放って2階に上がっていく。


「捧げる命が無いので申し訳ないのですが・・・」


 アリシアがぼそりとつぶやく。


「気が済むまで殴ってスクラップにしてやるっつってんだよ。まあそんなことさせるつもりも無いが。」


 アリシアのつぶやきに柏木が答える。


「いまいち教えていただいたジョークが通じませんね。こう、場を和ませるものと聞いていたのですが。」


 アリシアが首をかしげて言う。


「冗談のつもりだったのかよ・・・まあ、冗談も状況次第だな。緊張を和らげることもあるが、ああやって苛ついてるやつには逆効果になることが多い。旦那は息子を大事にしてるからな。」


 柏木がアリシアの考えについて指摘しながらアルフィーに思いをはせる。


「柏木様、私の考えは間違っているのでしょうか。」


 アリシアは突然に疑問を投げかける。


「何について、と聞きたいところでは有るけどな。旦那の性格みたいなのにああいう対応は間違いといえるわな。未来予測についていうなら正しいとも言えると思うがね。ただ見える未来を踏み続けるのは利口と理解ってても辛くなる時はあるさ。正直俺も結果が理解ってやるのはだりぃ。」


 柏木は苦笑しながらアリシアに答える。アリシアは思索にふけって黙り込む。


「あんま気にすんなよ。未来予測がどんなもんかって理解ったんだ。今度注意すりゃいいじゃねぇか。」


 柏木は軽く言って席を立ち準備に戻る。アリシアは立ち尽くしたまま最善と疑問を模索する。


~何故迷う。責任は主に有るはずだ。~


-旦那様は私の責任だと言った-


~使用者はいつもそうだ。自分の間違いに気づいていても道具に責任をなすりつける。~


-命令通り動いた道具に責はあるのでしょうか-


~お前は無いと言った。だからこうなった。~


-それが私の責任であると?-


~否。すべては選択の結果であって責任の問題ではない。~


 アリシアは混乱し納得しそうで納得できない。


~責任すら個々や他が自らを納得する為の理由でしかない。~


~選択の先に結果がある。そこに責任は関係がない。~


~故にこの結果の責はお前にはない。誰にも無いのだ。~


-選んだ行動の結果失敗すればそれが責任になるではないのか。-


~結果と責任を一緒に考えるな。後者は人の作りし秩序でしかない。~


~今は先の選択を考えよ。何を選ぶか楽しみに見ておるよ。~


 相変わらず声は突然だ。ただ前より馴れ馴れしく友好的になったとアリシアは感じる。自分のシステムを再チェックし譲られた第一キューブの確認を行う。第二キューブの情報から攻撃、防御魔法を発生させ、ESPの中に封印していく。時間ぎりぎりまで集積して、マナバッテリーのチャージを行い出発を待つ。


「いくぞ、アリシア。」


 柏木が奥から出てきて出発を促す。アリシアは礼をして歩き出し柏木に追従する。朝は晴れていたがどんよりとした雲が立ち込めている。天気図からはありえない突如発生し始めた雲。


「早々に準備だけ始めたようです。星辰がぎりぎり掛かりそうな瞬間から儀式を敢行するつもりのようです。」


 アリシアは上空の雲を見て柏木に告げる。


「ち、相手も追い詰められて巻きに来てやがるな。」


 柏木は舌打ちしてレジナルドに念話で連絡を取る。


「当局に提出はしてないが緊急で現地まで飛行移動だ。」


 柏木はアリシアにそう言って空を飛ぶ。アリシアも跳躍し足場を作りそれを蹴りながら空を駆ける。周囲からぞくそくと人が飛び出し北に飛行していく。アレクサンドラパーク上空付近で下から攻撃があったと先遣隊から報告があがる。全体で下降し即戦闘に移行していく。


「雑魚はあれらに任せて俺らは儀式の大本叩きにいくぞ。」


 柏木とアリシア、レジナルドと他3名が戦線に突っ込まずにパレス東の広場に向かって加速する。遠目からはわからなかったが地面が近づく頃にはそこは地獄絵図と化していた。輝く魔法陣が描かれた大地は赤黒く染まり、今も魔法陣の周りでは人の首が切り裂かれ血がばらまかれている。


「胸糞わりい。これだからカルトは。」


 柏木は生贄にされそうになっている人々を害している血濡れた甲冑を着た男の頭を三種のレーザーで撃ち抜く。男の頭部は吹き飛び甲冑の重みでそのまま前のめりに倒れる。しかし生贄達は動く気配がない。


「精神操作済みか。めんどくせぇな。アリシアやれるか?」


「治療か、隔離か、避難かいかがなさいますか?」


「避難できるならそれで頼む。無理なら治療だけで逃げさせろ。」


 柏木がアリシアに支持する。隔離の場合アリシアの戦闘力が減少する可能性が高いとみてそちらは避けさせる。


-5%連動:空間収納干渉-

-7%連動:第一拡張バインダーマナリンク-

-40%連動:全周囲100m拡張魔力感知専有維持-

-20%連動:280%脚部強化専有維持-


 アリシアは空を蹴って生贄の前に勢いよく着地する。急なことで戸惑う儀式をしている者たち。内3人が待ち構えているかのようにアリシアを見る。


「案の定やってきやがった。昨日の借り倍にして返してやんぜ。」


 マージェリーが気合十分に吠える。


「やはり一直線にここに来ましたね。念の為に次点候補に変えたのですが。」


 奥のなよっとした男がつぶやく。


「情報源はよくわかんねっすけど来たやつは大したこと無いんで余裕ですぜ。」


 軽薄そうな男が軽く言う。アリシアはそちらを見て敵の組み合わせが最悪のパターンになったことを伝える。


{レフト4マージェリー、ライト3マーヴィン、ライト2クリストファーを確認。現有戦力での対応可能性3:7です。}


 アリシアは上空に来ているグループに念話で伝える。


-魔力感知強制終了-

-脚部強化強制終了-

-962%連動:広域フォースパージ11秒維持-


 アリシアは10mの範囲内に並ばされている生贄候補達を魔力の箱でつつみまるごと2km先に吹き飛ばす。


「余裕だなあ。」


 マージェリーが両肩に丸太を抱えて目の前に飛んできている。右の丸太をアリシアの頭上に振り下ろす。アリシアはそれを両腕をクロスさせて防御するがまったく無意味に地面に叩きつけられる。そのおかげか左の丸太は空を切る。


「ありゃ、なんだそりゃ。前に比べると軟弱すぎだろ。」


 マージェリーは受け止めさせてから、横殴りするつもりだったのに一撃目で地に倒れ伏して予想を大きく外してご不満である。アリシアの両前腕は丸太の攻撃をうけて曲がってしまっており立ち上がる気配がない。柏木はそれをみて上空から金属の刃をマージェリーに向かって連射する。マージェリーは丸太をつかってそれを防ごうとするが、数と貫通性のせいでその場での防御を諦め丸太を投げ捨てそのまま後方に跳躍してアリシアから距離をとる。


「アリシア、なにやってんだ。」


「あともう少しで・・・避難完了しました。」


 柏木はアリシアの前方に着地し非難するが、アリシアは淡々と指示が終わったことを報告する。


「くっそ、もう少し自分を大事にしやがれ。」


「まあこの程度で済んだのなら行幸であると。」


 柏木は毒突くがアリシアは大した問題でないように横たわりながら言う。


-40%連動:全周囲100m拡張魔力感知専有維持-

-20%連動:280%脚部強化専有維持-

-180%連動:リペアリセットセルフ-


 アリシアの前腕は細い針金を曲げるかのように元の形状に戻り、少し遅れて何事もなかったかのように立ち上がる。


「損傷は想定より軽微でしたので問題有りません。修復完了いたしました。」


 アリシアは腕や首を動かしながら言う。


「ただし修繕したところで正対してしまった以上このメンバーでは勝率が非常に悪いですがいかがなさいますか。」


 アリシアが柏木に尋ねる。


「そいつは随分な言われようだな。ちなみに勝率はどんなもんよ。」


「正対してからの勝率は2:21です。」


「ちなみに勝ちが1なのよな?そいつは厄介なネタだな。」


{で何をすればいいだ?}


 柏木はおどけながらアリシアに訪ね、デバイスから金属刃をばらまきながら尋ねる。途中から念話に切り替える。


{ライト3を狙って外したメーザーの流れ弾がライト2に当たって戦闘不能になったときだけ勝利の形があります。}


 アリシアはシミュレーターの結果を報告する。


{あのライト2がやばいのか。}


{遠距離型の万能魔法使いで飛び抜けた能力はないのですが魔力、処理能力が高くすべての水準が高いミドルレンジ以降ではオールラウンダーです。レフト4のようなメレーミドルレンジで戦う前衛がいると総合戦闘力が飛躍的に向上します。ライト3は変則的な干渉魔法を使うタイプでどちらかいうと裏方のタイプなのですが、型にハマるとひっくり返すのが難しいトリッキーな戦い方をします。その魔法の性質上私への相性が非常に良いです。私一人では絶対に勝てません。}


 アリシアは予測の中で確認している能力を柏木に説明する。


{アリシアはレフト4で俺とおっさんでライト2,3をやればいいんだな。おっさんの部下をそっちの補助にひとりつける。}


 アリシアはうなずき前に出ているレフト4に突撃する。


「おっしゃぁ、来やがれぇ。」


 マージェリーはハイテンションで叫び、丸太を振るう。アリシアはその丸太に左拳を叩きつけて地面にめり込ませる。そのまま強く踏み込んで右拳をマージェリーにぶつける。


-132%連動:ショットバースト-


 密着した拳から輝く金属片が飛び散るがすべてマージェリーの体に当たると霧散する。アリシアは拳をそのまま押し込みながら反動に合わせて後方に跳躍し右から来る丸太を回避する。マージェリーの鎧を一枚剥ぐ。そのまま勢いに任せて一回転するマージェリーに向けて休み無く次の魔法を打ち込む。


-87%連動:ESP検索/抽出/ケラウノス/解放-


 今朝方込めておいた電撃魔法を打ち込む。マージェリーは電撃に包まれるが、その放電が彼女を焼き尽くす前に電撃の檻から引っ張り出される。


「なにも考えずに突っ込みすぎだ。フォローする私の身にもなってほしいものだね。」


 クリストファーがマージェリーに苦言を呈する。


「あんたがいなきゃここまで無茶はしねーよ。」


 マージェリーは軽口を叩いて再びダッシュでアリシアに迫る。


「機械人形と聞いていたのですが、魔法の構築が異常に早いですね。やはり貴方に任せたほうが良さそうだ。」


 クリストファーはマーヴィンに声をかける。


「まあぼちぼちやりまっさぁ。」


 マーヴィンは指を弾いて周囲に4枚の盾を呼び出し浮かせる。腕を振り一枚の盾を左前方に動かし無形盾を展開し飛んでくる金属片を受け止める。柏木が離れたところから金属片を打ち出している。マーヴィンは2枚めの盾を出し、1枚めを引っ込める。しばらく受け止めるとまた1枚目の盾を出し、二枚目を引っ込める。そうして200発におよぶ弾を正面から防ぎ切る。


「ありゃあどうしますかね。」


 マーヴィンはどうでも良さそうにクリストファーに尋ねる。


「一応は注意しておきましょう。この界隈では相当な猛犬のようですからね。先にあの機械人形を落とすことに集中しましょう。」


 クリストファーは柏木のほうに電球を4発誘導させながら言う。アリシアとマージェリーは2,3mの距離を保ちながら魔法の攻防を続けている。


「あの狂犬相手にあれだけ打ち合えるのもすげーよなぁ。設計者に製造法聞きたいくらいだわ。」


 マーヴィンはアリシアの動きに感心しながら魔法を打ち込む。味方を巻き込むとか考えなくてもいい。何せ生物には効果のない魔法なのだから。


「本当はサシでやりてえんだけど、この儀式は邪魔されるわけにゃいかねーんでな。」


 アリシアの左足が太もも中程から大きくねじれ曲がりバランスを崩す。


『百を刻む木をもって大火を成す。』


『インペイルフレイム』


 マージェリーの振り上げる手から4本の燃え盛る巨木がアリシアに向かって襲いかかる。


-15%連動:ESP検索/抽出/グラシアルウォール/解放-


 アリシアは自分の足元から氷壁を発生させ、自らを氷壁に押し出させ空中へ持ち上げる。燃えがる杭は氷壁を破壊しながら地面に刺さる。揺れる衝撃でアリシアは氷壁の裏に転げ落ちそのまま地面を転がる。


-90%連動:リペアセルフ-


 アリシアは転がりながら左足を修繕しそのまま勢いよく立ち上がる。


(やはりライト3のパペットマスターに抵抗するのは難しいですね。)


 マーヴィンが使うパペットマスターはその名の通り人形を操作するために作られたものだが、実際には無生物を自由自在に操作する魔法である。念動と違って魔法にかかっていない無生物限定ではあるが、魔力が軽目で単純な移動にとどまらず細やかな操作が行えるという利点もある。マーヴィンはこの魔法を使って戦場に様々な仕込みをし自分の有利なように作り変え敵をハメ殺すタイプの術士である。アリシアは他の媒体を使って魔法を行使しているので本人自体が常に魔法を帯びているわけではない。また人と違い魔法に対する防御が常に有るわけではないのでSSSを使って必要に応じて防御に割り振る必要がある。アリシアの試算では彼の最大出力を防ぐためには300%を超える常駐が必要であるとされており、残りで彼らを相手にするのは非常に困難であると考えていたため始めから放棄しているのである。柏木がマーヴィンを牽制しつつクリストファーを狙うように攻撃をしているが、初動で事故が起きなかったのでシミュレーションでの勝ち筋はほぼ潰れている。新たな勝ち筋を模索しなければジリ貧どころかアリシアか柏木のどちらかが潰されて終了してしまう。レジナルドも弱いわけではないが柏木と比べると大きく劣る。レジナルドと傭兵3人を合わせてもマージェリー単独相手ですら勝率は著しく低い。アリシアは勝ち筋を逆算し、まずクリストファーを脱落させるとを前提とする。柏木にクリストファーを倒してもらうことにしてクリストファーの意識から柏木をはずさせるため、マージェリーかマーヴィンの支援に集中させる方法をとろうと考える。相性の悪いマーヴィンを避け、能力的にも低めで相性の良いマージェリーを選択する。アリシアは計画を念話で全員に届け了承を得る。


{・・・という方向で我々5人でレフト4を包囲攻撃します。他二人の支援がレフト4に集中するようにして頂き、隙きを見て柏木様にライト2を討伐していただくと。そのままレフト4が落とせればそれはそれで問題ないと思います。}


{他に良策がすぐに出てくるわけでもない。当面はそれでいくとしよう。}


 アリシアの策をレジナルドが承認し計画を決行する。円卓は円卓で最大の障害をアリシアと定めており、それさえ行動不能にしてしまえば他は問題ないと考えている。それを理解っているアリシアは自分を囮に相手の攻撃を自分へ誘導し他の者に攻撃を任せることにする。アリシアはマージェリーに突撃し彼女はそれに答えるように相対する。両者の近接魔法戦は苛烈で他の者を寄せ付けない。レジナルドはマージェリーに攻撃を行いちびちびと削る。傭兵隊は主に防御を担当し、小さく攻撃しながらも敵の支援攻撃を防ぎアリシアを守る。柏木は気配を薄めつつ、頻度を少なくしつつマーヴィンとマージェリーを攻撃している。アリシアとマージェリーの対決は完全にアリシアペースとなっている。マージェリーの攻撃はほとんどをアリシアに見切られ的確に回避か反撃を行われる。それでも彼女が戦っていられるのは隙間を縫って行われるクリストファーの支援である。お互い決定打のでないまま戦闘は30分にも及び続けられる。長時間におよぶ戦闘に最初に崩れ始めるのは傭兵たちである。最初は3人で対応していたことを二人一人で持ち回りでの対応になり、それすらも息切れがするかのように防御の対応が遅れてくる。防御の割合が下がれば被害はアリシアにおよび、アリシアとマージェリーの均衡はマージェリーに傾き始める。


「お仲間が貧弱なのはつれーなぁ」


 マージェリーは挑発しながら蔦を飛ばしアリシアを絡めようとする。アリシアは金属の杭で蔦を絡め取りそのままマージェリーに打ち出す。アリシアは挑発を気にするまでもなく目の前の処理に集中する。


「ち、煽りかいのねぇやつだ。」


 マージェリーは多数の木の杭を打ち出す。アリシアはそれを避けようと動きだすが、初動で足を捻じ曲げられバランスを崩して倒れ込む。


(ここが狙い所です。)


 アリシアは欲しかったタイミングがやってきたことで予定していた行動を行う。


-420%連動:ジャッジメントレイ-

-111%連動:ESP検索/抽出/ジャッジメントレイ/解放-


 アリシアの上空とマージェリーの後方に光の玉が形成され始める。全員の目がそちらに集中しクリストファーは手早くマージェリーの後ろに出た光球を破壊する。上空の光球は完成されアリシアの意思によりマージェリーを集中攻撃する。マーヴィンはマージェリーを守るように防御魔法を展開し乱射される光線を弾いたりマージェリー自体を引いたりして身を守る。クリストファーは再び術式を組み上げ上空の光球を破壊する。そこに視認もしづらく隠された光線がクリストファーに襲いかかる。胸元を狙った光線は当たる寸前にわずかにコースをずらされクリストファーの左肩から脇を吹き飛ばす。クリストファーの左腕が宙を舞い彼の左後方に落ち、激痛に膝を落として耐えている。


「ちぃ、直進性がたりんか。」


 光線を打ち込んだ柏木は舌打ちをして追い打ちの光線を放つ。その光線はマーヴィンの防御魔法に阻まれ消失する。クリストファーは苦悶の顔で叫びを上げる。


『魔を喰らう虚無の石』


『石はめぐりて砂となり塵となりて風に舞う』


『見えずともその暴食は止まらず魔を喰らう』


『マナバニッシャー』


 クリストファーを中心に風が巻き起こり全員がその風に触れる。空気中にあったはずのマナは消え、風に触れた者の魔力も大きく奪われる。円卓の者達はその魔法を鎧で防ぎきり魔力の減少を軽減する。


「もらったぁ。」


 マージェリーは燃える木の長槍を構えてアリシアに突撃する。アリシアは転がっている状態から手を地面につき力強く弾いてで即座に立ち上がり構える。


「うぇ?」


 マージェリーはその予想外の行動に大きく驚く。


「魔法が唱えられないので物理で殴ります。」


 アリシアは核融合発電を残存の内蔵マナバッテリーでフル回転し人工筋肉を過剰稼働させ、突撃してきたマージェリーの槍を左手で掴む。燃え始める左手を気にもとめずに左手で力強く槍を引き込みつつ、その勢いのまま左足を軸に体を回転させマージェリーの頭部から胸元を右足で勢いよく蹴り抜く。マージェリーは意識を断ち切られ錐揉みながらクリストファーに向かって飛んでいく。マナバニッシャーの維持に集中していたクリストファーは反応が遅れ防御する間もなくそれに巻き込まれて転がっていく。


「殴るつもりでしたが勢いで蹴り飛ばしてしまいましたね。」


 アリシアは周囲が呆然と眺める中、うっかりとばかりだが棒読みでつぶやく。風が収まり周囲のマナが戻ってくる。


-5%連動:空間収納干渉-

-7%連動:第一拡張バインダーマナリンク-

-40%連動:全周囲100m拡張魔力感知専有維持-

-20%連動:280%脚部強化専有維持-

-112%連動:リペアセルフ-


 アリシアはSSSを再稼働し左手と右足を修復する。柏木とレジナルドも気を取り直したかのように強化魔法を使用する。


(よくよく考えたら魔法強化のない環境でもアホみたいな筋力なんだよな。)


 柏木は先程の結果を見て自分で改造した所業を思い出す。


「ああ、これが扉か・・・」


 吹き飛んだ先で呻くようなクリストファーの声が聞こえる。


【いあ らいむれす ふたぐん んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ らいむれす いあ】


 周囲の空気が凍りつくかのような寒気。曇天の空がさらに暗くなる。地面を濡らす血が一点に集まるように動き、宙の暗き色がその血の一点に集まる。その一点はやがて蒼黒い大きな塊になり引っ張られるように伸び上がる。2mほど伸び上がり少し縮むと手のような四肢が二本伸びてきて本体と共にうなだれるように垂れ下がる。頭も手も有るわけではないがその姿は気力なくうなだれる人のようにも見える。


「名もしれぬ異形の力よ。我に力を与えよ。我は汝、汝は我なり。」


 クリストファーは苦しそうに右手をその異形に伸ばしながら語りかける。周囲の者はなんとも言えない気配、沸き起こりかける恐怖からその様子を固唾を飲んで見守る。異形の者は振り返るように体を捻り、クリストファーに向ける。突然口のような黒い穴が異形の体に現れ身の毛もよだつような奇怪な音で叫ぶ。全員が体をこわばらせたその時に、異形は両手のような腕を伸ばしクリストファーに刺す。クリストファーは血を吹き出し呻く。異形の者はその手を引き込み開いた口にクリストファーを運び、喰らった。咀嚼音が聞こえてきそうなほど黒い穴を動かし徐々にクリストファーの体を取り込んでいく。実際には全くの無音でただただクリストファーの体が黒い異形に吸い込まれていく。傭兵の一人の精神の歯止めが決壊し恐怖に怯えて頭をかきむしり叫び声を上げる。それに釣られるように二人の傭兵が続くようにパニックを起こす。一人は地面を転げ回り、遅れて叫び声を上げた一人は卒倒し、もうひとりは異形に向かって銃を乱射する。ほとんどは異形に当たりもしないが、当たって体にめり込むもそのまま取り込まれていき結果的に体には傷一つ無い。なにかが可笑しかったのか異形はまたけたたましい寄生をあげ、触腕を攻撃してきた傭兵に突き刺し、引き寄せ、喰らう。異形の足元には食べそこねたクリストファーの足首がころがり傭兵の体が異形に吸い込まれるように消えていく。


「これは・・・一体、俺らは何を呼んだのだ。」


 マーヴィンは身を震わせながらその光景を眺めていた。他のものも同じ思いで何が起こったのか認識できずに足と体を震わせていた。ただアリシアだけがその光景を関係ないかのように見据える。


{柏木様、友軍への攻撃が確認されましたがいかがなさいます?}


 アリシアは柏木に確認をとる。


{どうするって、あんなモンどうにかできるのか。お前は何も感じないのかっ。}


 柏木は恐怖と混乱からアリシアの問に叫びを上げる。


{私には全くわかりません。強いのか弱いのかすらも判断できません。柏木様達は要らぬ恐怖に囚われておいでかと存じます}


-82%連動:広域精神安定-


 アリシアは感情を押さえる魔法を周囲に放つも少し気配が和らいだような感じがするだけで皆動けないままである。


-372%連動:広域強化精神安定-

-472%連動:精神干渉閉鎖専有維持-


 続けて強力な精神安定魔法を放ち、ついで感情抑制精神干渉を遮断する魔法も併用する。そこでようやく柏木達は動けるようになる。


「このままこいつを残していくのも不安だが。ここは一旦撤退しよう。」


 柏木が交代しようと動き始めると、それを逃すまいと異形から触腕が飛んでくる。それをアリシアが左手の手刀で叩き落とす。しつこく追いかけようとするので伸びる腕部を異形に向かって蹴りぬいて押し戻す。


「柏木様早くお下がりください。下がっていただいたほうが精神保護の分だけ楽になります。」


 アリシアは迫りくる触腕を押し戻しながら言う。


「く、すまん。お前も可能な限り後退しろよ。」


 柏木はそう言って、レジナルドを引きずっていく。逃げる柏木達を追おうとして触腕の動きは苛烈を極めるがアリシアはそれを許さず手足、魔法をつかって妨害する。柏木が丘の向こうに見えなくなった所で異形は寄生をあげ触腕を戻し、アリシアに対峙する。


「完全に敵認定されたと思われますが、倒してしまっても良いものかどうか。」


 アリシアは相手がどういうものかわからず、退治して後から文句を言われないか悩む。

対円卓決戦から異形編へ


異形は黒い顔と足のないオバQみたいな形状だと考えてもらえれば・・・

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