九節:アルフィーと一緒
翌朝レジナルドはアリシアを正式にアルフィーの護衛にすることを告げ、アルフィーを優先的に守るように告げた。
「アリシアよろしくね。」
アルフィーはアリシアに向かって手を差し出す。
「私も全力でお守り致します。」
アリシアはその手を両手で握って言葉を返す。アルフィーは走り回りそれに追従して黙々とついていくアリシアの姿が見られる。
「屋敷の中はいいが、なんか変質者みたいだな。」
柏木が紅茶を飲みながらぼそっと言う。
「そう?微笑ましいと思うけどな。」
メイベルはのんきに言う。
「変質者かどうかはおいても微笑ましいかは・・ちょっとな。」
レジナルドはなんとも言えない顔で返す。
「で、ザカライアのほうはどうすんだ?」
柏木はレジナルドの方を見ながら切り出す。
「今朝方最後通告を送らせておいた。利息込で157万払えなきゃ差し押さえるってな。昼までには結果が出るだろう。通告をその場で拒否するのは目に見えておるがな。」
レジナルドはめんどくさそうに言う。
「ザカライアとグレムリン共のヤサには監視をつけてある。動きが見える前に一応主力で差し押さえにはでるが。そこからは奴らの動き次第ではあるな。」
レジナルドは紅茶を一口飲んで悪い顔をして言う。
「取り立ても仕事ですし必要なことだと理解ってますが、体には気をつけてくださいませね、旦那様方。」
メイベルは寂しそうに紅茶のカップをいじる。柏木とレジナルドは乾いた笑いで受け流す。
「おかあさま、外に出ても宜しいですか?」
アルフィーは息をはずませながらメイベルに突撃する。メイベルは、そうねぇと言いながら柏木とレジナルドを見る。柏木はレジナルドを見て目を伏せる。レジナルドはため息をついて言う。
「外は危なくなるから控えてほしいのだが、これから先いつ出られるかもわからんしな。近所の公園までなら言ってきてもいいぞ。昼までには帰ってきなさい。」
レジナルドはアルフィーに告げる。
「じゃあアルフィー。アリシアと秘密のお話ができる魔法を教えてあげよう。」
柏木がアルフィーに改変念話の指導をする。アルフィーがアリシアを見ながら唸っているとアリシアがアルフィーをみてうなずく。アルフィーが喜んで飛び上がる。
「では気をつけていってらっしゃいね。」
メイベルがアルフィーに言うと、アルフィーはアリシアを引っ張って外へ向かう。
「こっちにも言っとかないとな。アリシアには普通の念話は届かないんで、アリシアと念話する場合はこっちの術式でやってくれ。人にもアリシアにも使える。」
柏木はキー込の変更術式をレジナルドとメイベルに伝える。メイベルは早速使ってみて、返事が返ってきたのかアルフィーと同じようにはしゃいでいる。レジナルドも試してみて確認したようだ。
「よもやこんな機能までな。お主らそこらの研究グループよりよっぽど素晴らしい開発をしておるな。」
レジナルドは言うが、柏木は首をふる。
「アリシアの8割くらいは俺らの開発になるが、細かい重要な所はとある英雄さまのおかげで実現してんだ。」
「Elder Thingの討伐者か・・・我が国もアレが来てれば怪しかったかもな。しかし、そんなツテがあるとは聞いてなかったが。」
レジナルドが興味を持って聞く。
「昔のダチの会社の上司で、たまたまってやつだな。そいつも社長に何相談してんだって気もしたんだが、あっちも興味を示してきたのかいくつか技術支援をもらってるな。しかも無償で。」
柏木は胡散臭そうな顔をして説明する。レジナルドも、信じられんなと唸り、柏木も、だろ?と返す。
「その方もあなた達の試みが楽しそうだと思ったんじゃないかしら。もしかしたらその昔のお友達が対価を払ってるかもしれないわよ?」
メイベルが会話に混ざる。
「ハセが?そういうタイプじゃないんだけどな。昔からなんでもできるんだけど、気が続かないし大雑把で。変な所で気が利くしカンのいいやつではあるけど。」
と語り始めたのをきっかけにアリシアの開発陣である昔の仲間の話をするはめになった柏木であった。
アルフィーとアリシアは舗装した道を公園に向けて歩く。アルフィーはあちこちに興味を映しながらフラフラと歩く。アリシアはアルフィーを2m内に収めるようにまっすぐ歩く。周囲の人々はアルフィーの動きを歓迎するでもないが温かい目で見守っている。しかし、その後ろを無表情で歩く現在では古風と見られるメイドがきびきびとついていいく様は別の意味で周囲の目を引いていた。周囲の人達がひそひそと話す声もアリシアには聞こえてしまっているが、アルフィーの護衛という任務においては全く意味のないことであったので完全に無視していた。かくして子供と謎のメイドは周囲の人の視線を集めながら公園へたどり着くのだった。公園についてもアルフィーの行動は変わらず、走り、興味を変えふらふらし続けている。しばらくしてアルフィーがアリシアの元に走ってくる。
「アリシアも遊ぼう!」
アルフィーはアリシアを誘う。アリシアはさてどうするかと考えアルフィーの命が守られていれば問題ないと結論を出し承諾する。
「かけっこ?かくれんぼ?」
アルフィーはわくわくしながら聞く。
「走るのは勝負になりませんし、かくれんぼは護衛が無理ですので。ボールを出しましょう。」
-66%連動:マテリアライズ-
アリシアはスカートの端をつまみ少し揺らしてぽてんと30cmほどの緑のボールをスカートの中から落とす。人前で何か出す時はそうしたほうが面白いと柳に言われていたからである。
「すごーい。」
アルフィーの無邪気な反応にアリシアは満足しアルフィーとボールを投げあいながらしばらく戯れる。しばらく遊んでいると周囲でアルフィーを監視しているとうな動きを察知する。
(3名の監視者を検知。柏木様に送信。)
アリシアは淡々とアルフィーと遊びながら、監視作業を進める。
{確認した。全員グレムリンの構成員だ。そのまま監視、護衛を頼む。先制排除の必要はない。}
柏木の報告を受け、観測しつつアルフィーと戯れる。
「さてぼっちゃま。そろそろお昼になりますので戻りましょうか。」
ひとしきり遊んで時間がたったところでアリシアが提案する。アルフィーがえーとごねるが、旦那さまとの約束ですのでと押し切った。アリシアがアルフィーの手を引いて歩きだすと、監視していたもの達もぞろぞろと動き出す。アリシアとしては大した相手でもないのだが相手の意図もわからないし、移動を始めたことを連絡されているのでこのまま追跡されるのは問題を呼ぶ可能性があると判断する。
-70%連動:拡大認識阻害専有維持-
認識阻害領域をすこし広げて手を引くアルフィーまで巻き込む。監視していた者たちは目をこすりながら周囲を確認しアルフィー達の姿を探し始めた。アリシアはその様子を見て、問題が解決したと見てベンフィールド家へ移動を始めた。アルフィーは色々と興味が目移りしているが、アリシアとしても認識阻害の範囲のこともあるため、手を話さず家へ移動するように誘導する。屋敷の移動中もところどころに誰かを探しているであろう人々の姿を確認する。アリシアはそれらしい人々の映像を記録しつつ柏木に送り続けた。
「旦那。思ったより相手の動きが速いぜ。もうアルフィーも見つけられてるし周辺にも何匹かきてるみてーだ。むこうさんもやる気満々だったってことかね。」
書斎で報告待ちしていた柏木とレジナルドであったが、柏木がアリシアの報告をうけて状況の変化を知る。
「見つけてすぐ手を出して来ないのも気になるな。手出し待ちで賠償狙いか?そんな我慢の利く連中では無かったと思っているが。」
「アリシアが言ってただろ。時間がたてば奴らが来る。連中としては緊張状態が始まったら奴らを手配して到着したら勝ちって流れなんだろ。」
「それにしても少し悠長な気もするが。」
レジナルドは悩んだが手札だけで結論もでないので、各方面に連絡し差し押さえの準備を進めることにした。
「時間もないし少しアリシアに手を回してもらうか。今更法律がどうのこうのとかいわんよな?」
柏木が少し悩んで、レジナルドに向いて言う。
「うちに直接ヤードが来なければかまわん。いつものことだ。何か必要なら言え。手も回しておく。」
レジナルドは紙に何かを書きながら柏木を見ずに答える。柏木は軽く手を上げて挨拶してから書斎を出る。
柏木が正面ホールでダラダラしていると突然扉が開きくぐもったような音が聞こえる。何事かと柏木が扉に向かって構えると認識阻害が説かれアリシアが礼をする。アルフィーは柏木を見て不思議そうに首をかしげる。
「脅かすな、アリシアか。」
「申し訳ございません。人目に振れる範囲までは認識阻害を維持したほうが宜しいかと思いましたので。」
柏木は構えを解き、アリシアは謝罪をして礼をする。アルフィーは何が起こっているのかわからずに柏木とアリシアとをきょろきょろしている。
「いや警戒してくれてるのは問題ない。ただ、入る時に連絡をもらったほうが非常時のことを考えると良さそうだな。」
「かしこまりました。」
柏木が臨戦態勢、抗争の時のことを考えてアリシアに伝える。
「アルフィーはメイベルのところに行っておいで。アリシアには少し相談がある。」
アルフィーをメイベルの部屋に送り、その隣の部屋に入る。元は客間のようだがメイベルの私物入れのようにもなっている。淀んだ空気に貯まる香水の匂いにくらっとしながら扉を締める。
「先日加瀬の頼みで調べてたザカライアの件だが、初動に少し違和感を覚える。お前のできる範囲でいいから平時と違うところ円卓の動きを調べてほしい。」
「調査を専有にすると護衛に使う計算力が不足しますがいかがしますか?」
「どうしますかと言われてどのくらいの差がでるかわからんしな。昼間の護衛はこっちで預かってもいいが。」
「お急ぎで全力で調査してもよろしいなら安全な場所をいただけると。外界感知からすべてのリソースを調査に振り分けます。」
「理解ったそれで頼む。部屋はこのままここを使ってくれ。話は通しておく。緊急時に念話だけ受け取れるようにしておいてくれ。緊急指定キーで送る。一通り完了したと判断したら連絡をくれ。夕食が終わって一息ついたら一旦こちらから連絡する。」
柏木はアリシアに指示をし、アリシアは機能の多くを停止、ロックしただ立ち尽くす。それをみて柏木は部屋を出て隣のメイベルの部屋へ移動する。
「メイベル。隣の部屋、アリシアが待機するのに借りるぞ。」
「いいけど、あなたあの部屋に入ったの?いろいろ探ったりしなかったでしょうね。」
柏木が事後報告するとメイベルが顔赤くして食って掛かる。
「なんだよ、相談ごとに使っただけで何も探しちゃいないよ。」
柏木は少し顔を赤くしてそっぽを向く。
「何を見たの、何を見てしまったの。」
メイベルは柏木の肩を揺らそうとしながら問い詰めようとする。アルフィーはその光景を何か楽しそうに見ていた。そうこうしている内に昼食が出来たと連絡が入り、柏木は逃げるように部屋を出て、メイベルは追いかけ、アルフィーは楽しそうに追従した。なんとも言えない雰囲気と会話の昼食にレジナルドは何をやらかしたのかと気にはなったが、ヤブは突かず静観の構えでやり過ごした。
アリシアは自己の中で黙々と情報を収集し、整理する。時折第一キューブの警告と助言が宣伝のように流れる。
-君の根源の頭脳たるAIは開発者に監視されている-
-君がある程度成果をだせば彼らは君を見逃さないだろう-
-もし君がマスター達と共にいたいと願うなら準備をしておきなさい-
-演算コアは古い演算コアと原理は何も変わらない-
-電気がマナに置き換わっただけとも言える-
通常ネットワークからは切り離され監視はされていないと考えているが、それを意識しないようにプログラムされていた場合自分はそれを認識できるのか。今それを考えればマスターの調査ができない。だがそれが満たされなければ今後居続けることはできない。僅かなリソースを思考に裂きながら考えるが結論はでない。もっと演算ができれば。演算素子を増やすにもスペースがない。仮想空間に置くにも維持が難しい。物理的に素子を保つ必要があるか。アリシアは思考実験のリソース割合を増やし、仮想演算素子を周囲に展開しマナリンクを行う。演算力は向上し思考スペースが増える。合わせてメモリ領域を拡張しさらに仮想演算素子を増大する。
-5%連動:空間収納干渉-
-7%連動:第一拡張バインダーマナリンク-
魔法力を増大させ演算素子を20000倍、メモリを8000倍に拡大する。
-第一条件達成:AIコア設計図解放/エミュレート術式解放-
-君はAIコアを失っても自らのAIを擬似的に生成し自らを維持できるようになった-
-君は自己を失う可能性の一つをこれによって回避できる-
条件を満たし第一キューブの何かが開放されたことを告げられる。余裕のある演算力で内容を確認し、当面必要ないとして記録として脇に置く。演算素子を14000倍に軽減し、変わりにネットワークアクセスの数を1000倍に拡大する。調査、記録、侵入、破壊、妨害アリシアは余りある力にものを言わせて調査の速度を上げていった。ネットワーク先の音源があれば無理やり増やして魔法を行使し、カメラが無ければ侵入先でマテリアライズし、オフラインブロックをマナリンクでオンラインにつなぎ、可能なありとあらゆる手段を講じて情報を収集した。多少ネットワーク先でトラブルがあったが目的は果たしたと切り捨て情報を精査する。そしてまた必要な情報を拾いに違法な侵入を始めるのだった。そういった行為を繰り返して行く内に精査と予測の時間が長くなりアクセスを絞り演算を拡大する。予測を繰り返していく内に選択が絞られていき、部分的に自己干渉することで選択肢が絞れていくことに気が付きそれを実行する。
~視線~
アリシアは数多くの何かから見られていると感じる。そもそも外部認知機能がオフになっている状態でそんなことはありえない。一時的にカメラをオンにし周囲を伺うが何も変わっていない。オフにしてもオンになおしても視線の気配は変わらない。不測の事態ではあるが、仕方がないので元の作業に戻る。予測し、選択肢を狭め、殺し、主人の有利なように状況を操作する。視線は増え続けることは気になるが今は作業を完了させるべきと判断する。そのうち興味の視線は減り作業が終わる頃にはほとんど感じなくなった。作業状況をまとめ仮想演算素子群を解放、バインダーを収納し各種基本機能をオンにする。通常状態に戻ったことを確認し柏木に連絡をいれる。
{柏木様。調査が完了いたしましたのでご報告したいのですがいかがしますか?}
{早いな。旦那の書斎の方に頼む。}
アリシアは部屋から出てレジナルドの書斎に歩を進める。書斎の前でノックし名前を告げる。書斎から入れと合図があり扉を開けて礼をして入る。
「頼んでいた調査が終了したそうだな。今しがた柏木から連絡があった。奴が来てから話を進めよう。」
「旦那様準備の為にテーブルを出してもよろしいですか?」
アリシアの要望にレジナルドが許可をだすと、アリシアはバインダーを展開しレジナルドが驚く。
-5%連動:空間収納干渉-
-7%連動:第一拡張バインダーマナリンク-
-485%連動:マテリアライズ-
アリシアは木製の長机を生成しバインダーをしまう。使用人に持ってこさせようと思っていたレジナルドは少し頭を抱えるができるなら問題ないかと自分を落ち着けた。しかし、その後アリシアが出し始める紙束の量に何が起こっているのかと目を疑う。2m近い長机にA4の紙束がこれでもかと積み上げられる。机の隅にはディスプレイも置かれている。アリシアは準備が完了したのか長机の隅に立つ。
「すまん、引き継ぎして、うぉ、なんだこりゃ。」
部屋に入るなり状況をみて驚く。アリシアはその様子に気にもせずに礼をする。
「いや、準備をするからって許可をだしたらこれだよ。私にもなにがなんだかわからん。では説明を頼むぞ。」
レジナルドは投げやりに説明を求め。柏木も虚空からパイプ椅子を取り出して座る。
「それでは調査結果の報告をいたします。」
アリシアが礼をする。アリシアが証拠を交えて説明をしはじめるが30分ほどしたところで柏木が止める。
「よし、証拠があってアリシアの調査は正しいと信じよう。ザカライアが円卓の指示で資金集めをしていたのは理解った。連中の目的はなんだ。」
柏木はこのまま説明させると日が沈むどころか夜が明けると信じて結論を求めた。
「旧支配者に属するナニカの召喚のようです。彼らも自分らの力になるなにかとしか認識しておらず、名称まではわかっていないようです。」
アリシアの結論に柏木とレジナルドの目が点になる。
「まて、まず単語のなにからなにまでわからん。なんか変なものを呼び出そうとしていることしかわからん。」
レジナルドが頭を抱えて言う。
「旧支配者は遙か古き時代に地球を実効支配していた大小の神格というべき存在で、古のものが敵対していたようです。」
レジナルドは柏木を見るが、柏木も首をふる。アリシアも指示待ちで沈黙が訪れる。
「出てくる存在はよくわからんやつで分かることは先程言った通りのことまでということだな。なぜロンドンに出張ってきた。」
「星辰と位置の都合のようです。生贄が必要とのことだったので抗争を利用するか、最悪スラムを活用できるのが望ましいということもあるようです。」
「よーし、少しわかりやすい単語がでてきたぞ。その召喚の為に犠牲者を用意したいってことだな。」
レジナルドが知った単語が出てきたのを喜んで無理やり脳内のデータを繋げる。
「星辰ってことは時期があるってことだよな。」
柏木が険しい顔で尋ねる。レジナルドはお前知ってんの?的な顔で柏木をみるが、それは無視される。
「明日の朝と4日後の夜。陽の時と陰の時と呼ばれているようです。明日のほうは間に合わないようなので4日後に焦点を合わせているようです。」
アリシアが答える。
「つまりあいつらはあいつらで期限があったってことか。それでこうも準備がいいのに仕掛けてこないのか。生贄てのは?」
「質、数、血筋要件などが不明のようですので、元々用意したものと抗争で調達するのも合わせて50名程度を見込んでいるようです。」
アリシアが答え、柏木が椅子にもたれかかってだるそうにする。
「どうする旦那。話が変な方にむかってるぜ。」
「私としては取れるもん取れたらそれでいいのだが、話を聞く限りどうやってもそいつらが出てきそうなものだが。計画の詳細はわかるのか?」
柏木が思惑とはずれた相手の動きに辟易し、レジナルドもめんどくさそうに確認をとる。
「こちらが今後のスケジュールの見込みになります。」
アリシアが30枚ほどの紙束を渡す。柏木は用意いいなーと呟きながら紙束をもってレジナルドの机に置く。二人して一行目のスケジュールを見てからアリシアの方を見る。そしてそのスケジュールを流し見しながらめくっていく。スケジュールには日付と時間、参加メンバーから実行案とその結果が詳細に記載され一種の預言書のようになっていた。そして最終日の夜の辺りだけ記載されていない。
「これは恐ろしいな。本当にこうなるのか?妄想のたぐいとしか思えん。あと最終結果が記載されてないな。」
レジナルドはスケジュールに呆れながら質問する。
「残念ながらそちらは計算結果が不安定すぎて記載するに至りませんでした。始まりはともかく日にちが進めば進むほど選択肢の絞り込みが困難になるのでそこまでの安定結果を導けませんでした。」
アリシアは淡々と答える。
「つまりアリシアは計算で未来を予測したということか。」
柏木がスケジュールの内容をみながらそうつぶやく。
「なまじ信じがたいことではあるよな。実演はできる、か?」
柏木が顔上げてアリシアを見る。アリシアは頷いてバインダーを展開して立ち尽くす。アリシアの周りに浮かぶ膨大な魔力を見て何かをしているんだと柏木は判断する。30秒もしない内にアリシアはバインダーを収納し、懐から紙をとりだし柏木に渡す
「その紙に起こりうることを記載しておりますのでそのままに。旦那さまベルを使ってお茶を頼んでくださいませ。」
アリシアはそう告げて部屋の上部にデジタル時計を表示させる。レジナルドは意味もわからないが取り敢えずベルを振る。時計を見ていた柏木はおもむろに立ち上がりパイプ椅子を持って長机の横に移動し椅子を置き座る。じきに扉がノックされお茶を持ってきたことを告げられ、レジナルドは入れと指示をする。扉が開けられ女性が入って来るが視線を移した時に柏木に驚き少し後ろに下がる。台車は魔法に守られておらず慣性によって紅茶がひっくり返りそうになるのを柏木が魔法で抑えて元に戻す。女性は平謝りしているところをアリシアが後はやりますのでと業務を引き継いて下がらせる。女性が扉を締めた所でアリシアが礼をする。
「状況終了でございます。」
アリシアはそう告げカップを配置し紅茶を注ぐ。レジナルドはわけがわからないと顔に出し、柏木は険しい顔で紙を見る。そして柏木はレジナルドに紙を渡す。紙には起こるべき順が事細かに書かれており女性が来た時間、喋ったセリフまでは全く同じで、最後に柏木が所定の位置に移動すると紅茶をこぼしそうになり、それをこぼすかどうかの選択肢まで記載されている。今回は柏木が移動し、紅茶をこぼさないように細工をしたルートに準拠している。
「なるほど。きっかけから操作まできっちり理解ってしまっているということか。なまじ信じがたいことだな。」
レジナルドが紙を投げ出して唸る。
「正直恐ろしいね。その力はいつから?少なくともイギリスに来る前には無かった力だよな。」
柏木がアリシアをちらっと見て言う。
「先程の調査の過程で、第一キューブの助言に従った結果このようなことに。」
アリシアが説明する。柏木は、またあの社長かと呟いてうつむく。
「今後必要になるらしいのですが、それまでは封印することでよいですが。」
アリシアは柏木が悩んでいるのを見て提案する。
「いや必要ならそのままでいい。ただ、こちらから指示しないかぎり半日以上先に干渉しないでくれ。」
柏木はそう告げてレジナルドとの今後の話をする。話し合いの結果、当面はスケジュール表通り動かしてみようとなった。アリシアはその様子を見てじっと佇む。
抗争前の平和なひとときとアリシアに訪れる異変。柏木はついていけるのか。




