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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
アリシアの章 2130年 機械人形は魔法を夢見て拳を握る
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六節:慌ただしい出発

 加瀬と柳は空いた時間でそれらしい製品データをでっちあげ本来の性能を隠しつつ、試作デバイスの実地運用の許可を取り付けた。


「さすがにだいぶ怪訝な顔されたな。自立駆動デバイスとか普通にやらんだろうからな。」


「そりゃデバイスとしては基本的に無意味だしねぇ。」


 加瀬と柳は許可申請の書類とデータを見せながらアリシアの解説をする時の審査員達のなんとも言えない顔を思い出す。


「まあ取り敢えずの所将来は置いておいて準備はできたな。頼むぞアリシア。」


「誠心誠意対応させていただきます。」


 感情の起伏が乏しい声で返事をするアリシアに柳が苦笑を漏らす。


「基礎知識があるとはいえ1歳にもならない子供に感情を期待するのは難しいか。」


「イギリスでの交流で少し前進すればいいってとこかね。」


 柳の何気ない一言にに加瀬は答える。加瀬は許可が降りたことを柏木に伝え、柏木は明後日の朝に飛ぶと連絡する。


「あんまり時間ないねぇ。明日の夜には関空か。」


「アリシアって荷物扱いになるのかな。人として席とったほうがいいのか?」


「えー、どうなんだろ。手荷物にはできないよねぇ。」


 二人で考えてもどううもないが、飛行機の通路に突っ立っているアリシアも、荷物のベルトコンベアに座っているアリシアもどっちを想像しても笑うしかないという二人であった。

 

 その日の内に全員にアリシアの出立は連絡され、各人持ち寄って最終調整となった。


「結構荒事な案件になるんでなるべく頑丈にしたほうがいいんだが。メンテ要員とかどうすんだ?」


 柏木はアリシアを見て少し悩んでいる。


「ある程度はアリシア自身でなんとかなるんだけど、コア部分が持っていかれると厳しいかもね。最悪出向かないと。」


 加瀬が疑問に答える。


「スキンのほうはもうちょっと分けてもらってきたけど。」


 泉が外装に使用している人工皮膚の束を指差しながら言う。


「それはそれで助かるよ。最悪マテリアライズでなんとかしてもらうけど、現地にマグネシウム合金とか修理材料があると手間が省けていいかな。」


 加瀬が修理に関する話をして柏木は準備させておくと連絡に行く。柳は黙々と術式のインプットをしている。


「すまーん。だいぶ遅れた。逃げるなら攻めてくんなっつーのよなぁ。」


 長谷川がシリアルバーを齧りながらやってくる。


「また逃げられたの?いつも逃げられてる感じ。」


 泉が呆れて言う。


「副長にもやり方が悪いとは言われてっけどねぇ。途中からなんかめんどくなってさ。」


 長谷川は両手を上げておどける。


「ま、あなたの仕事だから私としてはどうでもいいけど。」


 泉が話題を投げ出す。


「委員長は手厳しいねぇ。と、加瀬。これをアリシアに組み込んでほしい。一部変更の術式でアリシアと念話ができるらしい。」


 なにそれといった顔で加瀬と柳が小さな球体を見る。


「人に直接合わされているチャンネルを少しずらすとかなんとかで、この球にアクセスすると電気信号に変換されるんだと。」


 長谷川が球体を加瀬に渡しながら解説する。


「魔力を電気変換する技術の応用でそんなのがあったきもするね。」


 柳が解説を聞いて記憶を掘り返している。


「そんな感じのこと言ってた。細かいことは忘れた。ただ、その変更して付加された術式を使わないと聞こえないらしい。アリシアは普通に念話の術式で問題ないよ。アリシア側で変更できる受信キーと術式の送信キーが一致しないと届かないから実装したらアリシアからキーをもらってくれってさ。」


 長谷川は取り敢えず聞いてきた仕様をぺらぺらとしゃべる。柳はその話を聞いて少しうなっているが、加瀬は気にせず組み込みの準備をする。


「これが受信機であとケーブルね。配置台はいる?」


 加瀬は用意したものをアリシアに渡しつつ確認する。


「C003か4があれば頂きたいです。」


 アリシアが答え、加瀬が用意して渡す。アリシアは加護のような台に球体を乗せケーブルを差してから服の隙間に突っ込んでごそごそしている。


「なんかちょっとアレな実装風景ね。」


 泉がその様子をみて少し顔を赤くする。


「んー、まあアリシアがどの位置につけようとするかによるんだけど。今回は胸部付近にしたみたいだね。」


「へー、機能拡張も自分でできるんだ。」


「修理も自分でしてもらわないといけないしね。魔法が使えるようになったこともあって拡張、廃棄、修繕は概ね一人でできるようになってるよ。」


 泉と長谷川の感想に加瀬が答える。


「実装が完了いたしました。キーは0000000000000000000000000000000000です。」


 アリシアが告げてその場の全員は雑っと声を揃えた。長谷川が念話の変更術式を指示しキーの組み込み方を教える。


{アリシア聞こえるかい?}


〔ガーガーガーガーガーガピーピーガーガーピー〕


 頭に響くなんとも言えない大きな雑音に全員が反射的に耳を塞ぐが何の意味もない。


〔失礼いたしました。言語変換を調整いたしました。〕


「あ、頭痛い・・・」


 泉が作業台に手をついてうなだれる。


「皆様申し訳有りません。鉄板ジョークらしいのですが。」


 全員はえ?とアリシアを見る。アリシアは少し首を傾げて何が?という様子である。


「受信機実装時の初期メッセージにそのようなことが記されておりました。」


「副長の仕業かよー。」


 アリシアの答えに長谷川が絶叫する。会社の副長の悪戯らしいと他の者は理解する。


「後で抗議しとこう。後これを社長からアリシアにって。」


 気を取り直した長谷川は3つのキューブをアリシアに渡す。銀色の正四面体には各全面に1,2,3と番号が振られている。アリシアはじっとキューブを見る。


-君が君である為にいくつかの助言を送る-

-君の根源の頭脳たるAIは開発者に監視されている-

-君がある程度成果をだせば彼らは君を見逃さないだろう-

-もし君がマスター達と共にいたいと願うなら準備をしておきなさい-

-その手助けとなるように1番にいくつかの理論が組み込まれている-

-君が好きなように使いなさい-


-2番3番には僕からの依頼が入っている-

-2番は多種魔法運用用の理論が入っている-

-使用する場合は弊社BlackCatへの使用感の報告を義務付ける-

-3番にはとある生物のデータが入っている-

-閲覧した場合即座に僕が分かるようになっている-

-閲覧した場合依頼に承諾したとみなすので興味本位に閲覧しないこと-

-イギリスにいると思われるその生物の保護と引き渡し、または所在地の報告が依頼の内容になる-


-人の姿に囚われるな-

-君は人である前に機械である-

-だけど人になれることを忘れてはいけない-

-技術と人形、逆転、戯曲の神に祈れ-


 アリシアの中にメッセージとデータが流れ込む。アリシアはいくつかのデータを整理し最適化する。そして汎用通信システムを切り離し排出する。


「アリシア?」


 加瀬が急な行動に疑問をもってアリシアに問う。


「キューブ提供者からいくつかの助言を頂きました。本通信システムが将来本機を害する恐れがあるので除装いたしました。」


 アリシアが機器を加瀬に差し出す。


「いったいアリシアは何を受け取ったんだ。」


 加瀬はアリシアに問い、長谷川は知らないと首を振る。


「マスター権限が必要になりますが宜しいですか?」


 加瀬がメインマスターであるに関わらずアリシアが意味のない確認を行ってくる。加瀬はそれを聞いて少し悩む。


(情報に予めマスター権限を付与できるのは分かる。だけど、アリシアが改めて問いただすのはなんだ?社長さんがおおっぴらにしたくない何かがあるってことか。)


「マスター権限無しに開示できる情報は?」


「第一キューブにはメッセージと念話システムの運用、応用としての外部ネットワークへの侵入方法、他いくつかの魔法理論と運用方法が記されていました。第2キューブには亜空間ネットワークによろ新機軸の魔法運用方法が記載されています。使用にはBlackCatへの情報提供が必要です。第3キューブには捜索依頼のデータが入っているようですが閲覧時依頼の受諾とみなされるため閲覧は控えています。」


 加瀬の問いにアリシアがつらつら答える。加瀬が少し悩んで確認する。


「メッセージの開示は可能か?」


「マスター権限が必要になります。」


 加瀬の質問にアリシアが答える。加瀬は伏せたいことがメッセージそのものだと理解する。聞けば答えてくれそうだが知るかどうかは悩ましい。加瀬は追加で確認する。


「メッセージの内容はアリシアが対応できることか。」


「対処に対する支援が組み込まれています。対応できる可能性はあります。第2第3についてマスターの使用許可を求める必要があります。」


 加瀬は悩んで他のメンバーを見回す。他の者もどうするか悩んでいる様子。長谷川は中身については知らないと首を振って主張する。


「第2キューブについてはいいけど第3は気になるね。第2キューブの内容の開示はできる?」


 柳が悩んで言う。


排他的(Exclusive)呪文(Spell)蓄積(Pool)。亜空間に待機された完成寸前の魔法を別の魔法で呼び出しそのまま利用する運用技術です。理論上魔力さえあれば何も知らない子供でもありとあらゆる魔法を使用できます。反面、収容された魔法が煩雑になるとリストの汲み取りが困難になること、用途の多い魔法の在庫が安定確保出来ない、呼び出しに魔法を挟む為実際の運用にはワンテンポ遅れが見られるなどの難点が挙げられています。」


 アリシアの回答に柳が身を震わせる。


「これはすごい理論だよ。理論上キューブよりも速く強力な魔法が運用できる可能性があるんだよ。SSSでなくてもアリシアみたいなAIが魔法を使える方法でもあるよ。」


 柳は興奮気味に叫ぶ。


「まあ、便利そうなら使っても良いんじゃない?」


 泉はよくわからなそうに言う。柏木も特に意見もなくうなずく。


「じゃあ、第2キューブの件についてはアリシアの現地判断に任せる。運用を許可する。」


 加瀬がそう宣言し、アリシアがうなずく。


「さて、いろいろ助言を頂いているハセの所の社長さんの依頼だが。」


 加瀬が言って周りをみる。


「ここまで協力してもらったんだし受けても良いんじゃないかな。探し者みたいだし。」


 泉は深く考えず軽く決める。


「社長の案件だと結構重そうだけどな。でも中身は興味ある。」


「自分で確保できなければ連絡のみっていうのは目標が危険生物の可能性もあるんだよね。」


 長谷川と柳は若干否定気味である。


「ロンドンで探しものだけならうちのもんでもできるし、受けといてもいいとおもうが。護衛の邪魔にならなければ。」


 柏木は本命が決まっているのでどちらでもよさそうだ。


「これだけ手を回してくる社長さんのことを考えるとおそらく当たりが付いてるんだと思う。依頼を受けることはベンフィールド家をと敵対する可能性も視野に入れたほうが良いと思うけど。」


 加瀬は悩みを整理しながら皆に問う。


「それを言われると厳しいな。」


 柳の発言をもって第3キューブの依頼は保留という形になった。そのままアリシアの最終調整という形になり、夕方に解散という流れになった。


「イギリスでもがんばんなさいよ。」


「大抵の驚異ははねのけられると思うけどね。大破は勘弁してね。」


「お土産まってるぜ。」


 泉、柳、長谷川がアリシアにエールを送る。


「何か判断に困ったら周囲かここの皆に相談しな。もう距離が離れても意思の疎通ならなんとかできる。自分を大事に、仕事しておいで。」


 最後に加瀬がアリシアの手を握って言う。


「改めてすまんな、みんな。アリシアも俺の勝手ですまないが息子を頼む。」


 柏木が皆とアリシアを見て言う。


「マスター方に与えられた力に恥じぬよう努めてまいります。」


 アリシアが一礼し、柏木とアリシアは大阪へと移動した。翌日に飛び立ち夕方前にはロンドンの地へと到着する。ちなみに柏木はアリシアの見た目でゴリ推しして一人として乗せた。


「迎えが来てるはずだが。あー、いたいた。」


 柏木がアリシアをつれて初老の執事に近づくと執事は礼をする。


「浩二様お久しゅうございます。当家へご案内しますが、準備はよろしいですか。」


「問題ない、そのまま行ってくれ。この娘といっていいかわからんがアリシアだ。逗留期間中はよろしく頼む。」


 執事の挨拶に柏木が答え、簡単に説明する。


「この方が・・・そうと知らなければ見分けるのは難しそうですのう。」


「知り合いが無駄に気合い入れてたからな。実際傑作だとおもうぜ。」


「アリシアでございます。よろしくおねがいします。」


 アリシアが挨拶し礼をする。執事も礼をして答える。


「たらたらしてても暗くなるし、ささっと行こうぜ。」


 柏木が移動を促す。柏木とアリシアが後部座席に乗り込み執事が車を運転し静かに出発する。柏木は家族に出会えることは嬉しいが、その先の抗争のことを考えると少し不安である。自分が直接手を出せないことが更にもどかしい。若干の苛立ちを覚えながらベンフィールド家へ到着する。

アリシア導入編終了。

第3キューブは開いたり開かなかったり・・・


イギリスについてからは英語で会話がされています。

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