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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
平井徳子の章 2075年
4/50

序章三節:知らないのは彼女だけ

 一行は妙に神々しい小鳥に案内されて十二神社へと到着する。境内に入り凪は納得したかのように頷き何事かをつぶやく。そうすると周辺の景色は一変し、白い空間になっていた。徳子はあまりの変化に目をこすりながら周りをキョロキョロ眺めている。他の三人は思い思いの方法でだらだらと休憩している。凪はそんな中で手をふらふらと振っていたが、5分ほどして手を止めて振り返る。


「製鍵は完了した。徳子のこともあるのでここでしばらく休んでから明朝出発しよう。」


「え?ここで一泊するんですか?」


「動力はまだ余ってるからそんなには困らないと思うが。布団でも個室でも寝巻きでも好きなもの出して休んでくれていいよ。」


 目をぱちぱちさせながら何を言ってるかわからないという風の徳子に、露が実演を交えながら作業方法を説明し始める。その様子を微笑ましく眺めながら凪は言葉を続ける。


「予定通り富士の分室をめざす。移動は自動車でかまわない・・かな?代替品を経津主神が用意するというのでそれを使用する予定だ。邪魔がなければ昼過ぎくらいに付近に到着する予定だが、望みはだいぶ薄いと考えられる。ベスには同様に上空からの警戒と遊撃を継続してもらう。ほかは同乗で移動ということになる。改めて言ったが特に今までと何もかわらん。あと高天原から少量の支援を受けられるので各自に分配しよう。」


 そんな中徳子がおずおずと手を上げて申し訳なさそうに訪ねる。


「私ほとんど運転しかして無いんですけど。いいんでしょうか。」

「それを君以外の誰かがやろうとすると追加でコストがかかるから十分助かっているのだが、戦闘以外の貢献度では徳子の比率はだいぶ高い評価なのだよ?」


「それでもなんか申し訳ないなぁと思うておりまして・・・」


 指先をかりかり突き合わせながら徳子がつぶやく。そんな様子をみて凪は一息ついて何かを考える。思いついたかのように経津主神を呼び、半透明の三等身経津主神が現れる。目を輝かせながらそれをみる徳子をよそに、経津主神と凪は話し始める。


「んー・・・三界人ですからねぇ。武御雷でも憑けますか?」


「高出力だが容量から考えても明らかに一回限りの使い捨てになるだろう。徳子は素人ぞ?」


「剣なんで振ればどうにでもなると思いますが。少し現場で相談してみます。」


「頼む。味方ごと吹き飛ばすような事にならないようなものでな。」


 苦笑しながら経津主神は礼をして消える。「あぁ」となにか名残惜しそうな徳子の声がしたが凪は聞かなかったことにした。


「他に何かなければ朝まで各人休んでおいてくれ。」


 もともとなにか特別なことをしていたわけではない3人は目線を上げて軽く手を降ってから思い思いに休んでいる。徳子はどうするか悩んだすえ、先程四苦八苦して作った部屋で寝ることにした。凪はその様子を眺めながら座り込んで今後のことについて考えることにした。

 

 夜中、疲れていたとはいえ早く寝すぎた徳子はもぞもぞと布団から出て、寝ぼけた感触のまま部屋をでる。私服のまま寝るのも憚られたため、いつもの寝間着を想像してそれっぽいものを造って着込んでいた。が、自分の家でもないことを部屋からでて思い知る。部屋をでると顔を上げた全員の視線を一身に集め、その気配にびくっとしてしまうのだった。


 「どうしたんだい。眠れないのかい?」


 話しかけたほうが動きやすかろうと、凪は何気なく聞いてみる。


 「いえ、むしろ熟睡してました・・・寝るのが早かったのか起きてしもうただけで。何時くらいですかね。」


 徳子は気恥ずかしそうに答える。


 「きぃみたちでいうとぉころの、三時くぅらいかな。」


 バズエルはそういいながらコップを差し出す。徳子は礼をいいながらそれを受け取りぐいっと飲む。


 「起きてしまったなら出てもいいのだけど、高天原の準備が終わっていないのでね。もう少し時間を潰しておいてくれ。」


 凪は床に体育座りしながら指で床をいじりながら話す。


 「どうにかなるんですか?」


 と徳子が何気なく質問する。どうにかするしかないね、と凪は答える。


 「ああいうというかこの空間もそうですけど、魔法みたいですよね。」


 「そうだね。まさしく魔法だよ。神自身の力によらないものは全部魔法といってもいい。その神の力ですらここ三界で行使するには魔法に置き換えたほうが都合がいい。便利な力だよ。」


 凪はそう言って顔を上げて答え、どうぞと言わんばかりにソファーを創り出す。


 「良い機会だ。いろいろ気になることもあるだろうから思いつく端から言ってごらん。理解できる範囲内で答えよう。」


 凪がそういうと周囲からは良いのか?という気配が返される。


「トカゲ人さんはなんなんですか?人類からは攻撃も受け付けないみたいですし。」


 徳子は勢いよくソファーに座り込み質問する。徳子の質問に凪が苦笑しながら答える。


「トカゲ人とはまた哀れな。単純にいうとここではない世界の住民だね。そこにいる露やバズエルとも違う意味でもっと隔絶された世界の住民だよ。いわゆる竜牙圏の存在だ。攻撃を受け付けていないのは、この世界の住民が魔法が使えないせいだね。最もこちらの都合で使えなくしているのだけど。いわゆる魔法と言われる力に物理法則制御という作用があって、それを適切に行使すると魔法がかかわらない物理法則を任意に排除できるんだよ。」


「はー、そこで竜牙圏なんですね。ここは鬼人圏なんですね。三界とか四界とか言ってたのは?」


「あの竜人の一言をよく覚えていたね。ここは鬼人圏だよ。我はここの管理者の末端といったところじゃな。いろいろあって徳子に会うまで幽閉されていたんだ。で、三界は徳子たちがいる世界。四界はそうだね、徳子のいう可能性の世界かな。」


 徳子は可能性という言葉にピンときていないようだが深く考えないようにしているようだ。


「三界とは別の概念を含んでいるところだから説明が難しいね。そういうものだと思ってほしい。無いものは説明できないからの。」


「私にも露さんみたいにしっぽが生える可能性があるということですか?」


 徳子のそんな言葉を聞いて凪は吹き出す。


「そうきたか。面白いけどそうではないね。露、の根源たる崑崙は別の世界にある存在なんだよ。そういう可能性もあったことがある世界かな。徳子のいるところは銀河系というべきかな。厳密には違うけど別世界だと思って欲しい。」


 徳子は、残念尻尾は生えないんですね、とぼそぼそ。凪は、こだわるね、と笑いながら切り返した。


「分室っていっているこの部屋はどうなんです?」


 徳子は天井を見回しながら聞いてみる。


「三界に干渉をするための施設だね。魔法を使えなくしているからこういう非常用に結構な数を置いてあるんだ。ただ、使い方がわかると誰でもできてしまうから作業の上限値が小さく取られているんだよ。出雲みたいに大きいところもいくつかあるけどね。旅立ちの際にも言ったと思うけどここで管理室の鍵をつくって、その鍵で分室の扉を開けると管理室に入れる。そこで三界のマナを開放する形になる。そうすれば四界から援軍も呼べるし敵の排除も簡単にできるはずだよ。」


「だんだんわからなくなってきとるけど、思いの外責任重大!」


 徳子はショックを受けている。


「何、そこまで気にしなくても最悪・・・上がなんとかするさ。最悪の形にはなるけど。」


「え、どうなるんですか?」


「脅すつもりもないけど知らないほうが幸せかな。」


 凪が笑いながら手をひらひらさせてごまかすが、徳子はまた悩み始めていた。


「なんで魔法があるんでしょうか。」


 徳子はほとんどすべての疑問に絡んでいた力にさらに疑問を持った。


「経緯は難しくなるけど、力自体について簡単にいうと『下位界を観察と試行をするため』の技術だよ。とある七界の者が開発して、それが便利だったから全世界、全異界に広まった。今の君たち三界のものたちにとってみれば電気と電化製品みたいなものかね。」


 凪は立ち上がって背伸びをしながら答える。


「ま、もっと突っ込んで知りたくなったら開放作業が終わった後に詳しいヤツを紹介するよ。」


 そうすると分室に経津主神と見知らぬ女性が入って来て、凪に一礼をする。


「車の修理、補強と、皆様方の補給品の準備が終わりましたので持ってまいりました。」


 経津主神が露達に3cmほどの勾玉を配って回る。女性はいつの間にか手に持った首飾りを持って徳子の前に立つ。


「あなたにはこの祈念の勾玉を授けます。首飾りにある13の数だけあなたがしたいと思うことを勾玉が実行してくれます。ただし一つで実行できない事柄を願えば使える数は余分に減っていくので注意なさい。使った数だけ勾玉は割れていきます。目の前の敵を打ち倒すくらいなら問題ありませんが、人を生き返らせようとしたり、時間に干渉しようとすれば、通常なら実行できませんが、願い方によってはすべての勾玉を失うことになります。高天原の代表としてつつがなく任務を遂行することを願いますよ、徳子。」


 女性は微笑みながら首飾りを差し出してくる。徳子は非常に緊張しながらそれを受け取る。いつのまにかそんなだいそれたことになったのかと言わんばかりに凪のほうを見る。


「天照。あまり脅かしてやるな。それでなくても余計なことを話して消沈しておるのに。」


 凪は笑いながら天照大神に言葉を投げかける。徳子は驚いて彼女を見る。


「余計なことを御話して脅かしていたのは凪様でございましょうに。」


 天照大神はコロコロと笑う。徳子は凪と天照大神を交互に見ながらどうしようという感じにおろおろしている。


「正直、剣や弓を持たせるだの俺が行くだの随分もめました。結局は現社会の法などや素人なのが考慮されて、手間はかかりますが今の形に。」


 経津主神は苦笑いしながら解説する。


「その勾玉は所持者の願いや意図を読み取って力を発揮します。原初の魔法に近い原理なので出力は低めですが、そのぶん汎用性は高いです。その首飾りに使いたい意図を向けながらやりたいことを願えばそれで発動します。体に身につけていない時、落とした時などでも願えば実行されます。ただし、距離が離れているとあなたが集中しづらいのと、術は勾玉から発動するので注意が必要です。何か気になることはありますか?」


 経津主神の言葉に恐縮しながら徳子は首飾りを両手握りしめて聞いている。


「出力が低いっていうのはどのくらいなんでしょうか・・・」


「そうだなぁ。攻撃的には千年物の杉を切り倒すことはできても消し炭にするのは難しいな。治療的にはちぎれた腕を取り付けて治癒することはできるが、失った箇所を再生するのは一つでは難しいな。」


 経津主命は例を悩みながら答える。徳子はそれで低いんだと思いながら解説を聞いていた。


「よし。それでは予定より早い時間ではあるが、出発するとしよう。」


 凪がそう宣言して手を叩く。と、そんな中徳子は着替えてきます、と部屋に引っ込み一同の笑いを誘った。

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