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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
アリシアの章 2130年 機械人形は魔法を夢見て拳を握る
37/50

三節:どうして完成させてしまった

 加瀬は仕事をしながら悩んでいた。寄った勢いでかつての仲間と覚えているかもわからない約束をしたことを。準備して誰ひとり来なかったら悲しいし、連絡して無かったことにされるのも恥ずかしい。なにより自分の作品であるアンドロイドを見られるのが何か恥ずかしかった。母親はそんな姿を横目で見て、気にし過ぎだと思うけどなと言いながら事務をこなす。さしあたって予定日のためにある程度は準備しておこうと場所の確保と飲み物などを用意するにとどまった。予定の時刻30分前になった頃軽快な足音をさせながら走り込んでくる女性の姿がある。泉は家の前で呼び鈴を鳴らしながら、返事を聞くまでもなくドアを開ける。


「ごめんくださーい。」


 その声を聞いて加瀬は玄関に走る。


「まさかそんな昔のノリで来るとは思わなかったよ。」


「あ、そういえばそうね。なんか懐かしいの引きずっちゃっててさ。」


 泉は少し恥ずかしそうに答える。奥から母親が出てきて出迎える。


「神奈ちゃんお久しぶりねぇ。ほら上がってもらって。」


 加瀬は母親を少しうざったそうに見ながら泉を居間に案内する。居間でお茶と菓子をつまみながら世間話に興じていると次々に呼び鈴が鳴り柳、柏木とやってくる。時間ギリギリになって長谷川も到着する。


「うい~、ぎりぎりやった。仕事がちょっと長引いてさ。」


 長谷川は仕事着らしい可愛らしい猫又のワンポイントのあるジャケットを来て駆け込んできた。


「潮臭っ。どこまで行ってたんだよ。」


 柏木が微妙な顔をして聞く。


「今朝方まで津軽海峡で10m級のシーサーペント戦っすわ。途中で逃げられてさ、はっはっは。」


 長谷川の発言に全員がぎょっとした顔で驚く。


「えぇ、どれだけの速度で飛んできたの?長谷川くんすごいねぇ。」


 柳が驚いて尋ねる。


「いやいや、そんな速度で飛べたらそもそもサーペントに逃げられんわ。会社の転移網を使わせてもらったんよ。」


 長谷川は座り込んで置いてあったお茶を一気飲みする。


「それはそれでおかしい気もするが、他者のことだし詳しくは聞かんとくわ。」


 柏木は手をひらひらさせながら話を打ち切る。すまんなーと長谷川が拝みながら言う。


「で、本題の人形はどうなんよ。」


 長谷川が身を乗り出して聞く。みんなの注目を集めた加瀬は少し引きながら答える。


「見やすいように工場の広めのところを借りてそこにおいてあるよ。」


 加瀬は置いて立ち上がりみんなに移動するように促す。


 工場の一角に170cmくらいの金属の骨組みで組まれた機械人形と言うべきものがそこにあった。それを見て全員がおーとそれっぽい姿に驚愕の声を上げる。


「すっげーじゃん。形だけならほとんど出来てるっぽい?映画のキャラみてーだ。」


 長谷川が興奮気味に叫ぶ。ほんと形だけだけどな、と加瀬は冷静に答える。近くの加工台に置いてあるタブレットを操作し手を動かさせる。人形は小気味の良いモーター音を鳴らしながら手が動き両手を前にそろえてお辞儀をする。すっげーすっげーと長谷川は無駄に興奮している。柏木はふむとその様子をみて何か考えているようだ。柳と泉はその挙動をみながら素直に驚いている。加瀬は続いてタブレットを操作して近くの紐を取らせる。


「箒。」


 加瀬の言葉に反応して人形はその紐を使ってあやとりを始めて箒をつくって見せる。


「5段はしご。」


 人形は紐を崩し、またあやとりを始めて五段はしごを作ってみせる。


「待機。」


 人形は紐を元の位置に戻し立っていたままの状態に戻る。


「と、まあこういうことはできるように組んである。みんなの視線的にすごいことに見えるかもしれないけど、そういうふうに動くように作って、指示通り動くようにプログラムしてるだけだ。スムーズに動くようにパーツとか調整はしてるけどな。だけど今はここまでだ。ちょこちょこできる作業を増やすぐらいしかない。」


 みんなは拍手したり驚いた顔してみているが、加瀬は少し残念そうに説明する。


「さすがにAIレベルになるまでパターンを零から打ち込む気にはならんし。」


「なるほどな。可動部分はある程度満足できる状態にはなってるわけだ。」


 柏木が動きをみた感想として言う。


「目標はここから自己判断による自律行動だからな。取り敢えず力強く動くとかそういうのは後回しだよ。」


 加瀬の言葉になんとも言えない顔でうなずく柏木。


「ここから機械的なAIを繋げて自分で考えて自分で動作してもらうんだね。」


「AIをどこまで自分としていいかはわからんけどな。目標としてはそういうことになるかな。」


 柳の言葉に加瀬が言葉を繋げる。


「見た目もだいぶアレだしね。」


「見た目はどうやっても最後だぜ。まず動かねーとな。」


 泉の明後日な感想にも加瀬は本当に最後の最終目標であることは言う。柏木はその会話の流れをニヤニヤしながら見てもう我慢できないとばかりに黒い箱を虚空から取り出す。


「で、こいつの出番ってわけだ。」


 柏木は自信満々に黒い小箱を作業台に置き軽く叩く。


「おいおいどっからこんなもん。」


 加瀬は驚くが、他のものはなにそれという感じに見ている。


「組の押収品の中にさ、なんかそれっぽいのあった気がしてて調べたらビンゴってやつだ。WestArmdCo製Thirdシリーズβtrick sisterだとさ。俺にはどの程度のものかはわからんけど加瀬ならわかんだろ。」


「販売品かどうかまではわからないけど・・・多分現行か前世代の試作機じゃないかな。つか、むちゃくちゃたけーやつだよ。」


 加瀬は驚いて箱を触って眺めている。


「今組って言った。押収品とか言ってるし・・・警備会社が何やってんのよ・・・」


 泉はジト目で柏木を見る。


「そりゃ料金踏み倒してきたら切り取るしかねーだろ。」


 柏木は軽快に笑いながら答える。


「これ、使っても良いのか?」


 加瀬は柏木を振り返って聞く。


「そりゃその為にもってきたんだしな遠慮なく使えよ。」


 柏木は親指を立ててGoサインを出す。


「でもこれ取説とかないよね。どうやって使うの?」


 柳は黒い箱を不思議そうに眺めて言う。加瀬の動きがかちっととまる。柏木の方を見るが手を降って答えられる。


「まさかこっから手探り?」


 加瀬は声のトーンを落としてつぶやく。長谷川が加瀬の肩を叩きながら黒い箱を見る。


「ほらでもネットにそういうのあるんじゃないの?」


 泉は自分の端末を開きながら調べ始める。


「なんかサイトはあったけど・・・ユーザーIDとかシリアルとか要求されるね。」


「そりゃ買った客なんて本社通してやったのしかいないよなぁ。」


 泉の検索結果に加瀬がだるそうに言う。


「でも、箱についてる穴とか知ってるようなやつしか無くね?」


 長谷川が箱をいろんな方向に置いたりしながら言う。箱の六面に大小様々な穴がついているのは理解っているが加瀬からみると同じ穴でも規格がどうなっているかが気になる所だった。他の面々も興味深そうに箱を見始める。


「これマナバッテリーの接続口じゃない?」


 柳が少し大きめの穴を指して言う。


「魔力で動くとなると趣旨が少し変わってこないか?」


 柳の指摘を柏木が疑問を呈する。


「いや多分中の演算部分を動かすのに使ってるんだよ。さすがに電気回路じゃ演算がおっつかないだろうし。」


 柳は指摘に対して自分の予想を訴える。


「確かに殆どAIは魔力演算子だった気がするわ。」


 加瀬がふと何かのスペックを思い出すように言う。


「とりあえず指せそうなところになんか指してから考えようぜ。」


 長谷川が我慢できなさそうに雑な提案をする。


「誠に不本意ながらそうするしか無い気がする。ただ何かしらAIから反応を返す部分があるはずなんだ動力部と出力部分に絞って探していこう。」


 加瀬がそう言って奥の倉庫からマナバッテリーだのスピーカーだのタブレットだの音声、映像の出力先になりそうなものをもってきて接続線と変換コネクタを行く種類か持ってくる。こうして5人はよくわからない箱に向かってケーブルやデバイスを抜き差しする作業に奔走した。1時間ほど議論しながら作業しているとついに接続したタブレット上に文字が勝手に記載され始めた。


「お、なんか出た。」


 長谷川の言葉に皆が反応してタブレットを見る。


-Start initial setup-


「どうすんだこれ。」


 長谷川が画面に触る。


-Interfering with touch panel-


「おおう、やべ。」


 文字が増えたのに反応して長谷川が手を引っ込める。


「言語は英語なのね。アメリカ製だから?」


-Setting completed-

-Hello-


「わ、すごい。挨拶されてるよ。」


 泉がテンションを上げる。


「いや挨拶が出てくるだけならC言語でもできる。」


 加瀬がとびきり古いネタを言うが反応できる者はいない。


「箱に意思を伝えるのにどうするかだな。」


「タブレットにマイクついてないの?ていうかつけられないの?」


 加瀬が悩みながら言うと泉があっさりと言う。加瀬は、やってみるかとタブレットのマイク設定をONにする。


-Interfering with microphone-

-Setting completed-

-Hello-


「お、認識したっぽいな。」


 柏木が画面を見ながら言う。


-Recognize Japanese-

-Do you want to change the language?-


「お、どっちでも分かるけど変えたほうが良いよな?」


 柏木が加瀬に振り返って尋ねる。


「その方が誤解がなさそうだし、変更しよう。」


-言語の変更しました-

-こんにちは-


「こんにちはー。」


 泉が無邪気に答える。


-意思の疎通を確認-

-初期設定を行います-

-メインマスター登録をしてください-


「加瀬の人形用だし加瀬でいいんじゃないか?」


「持ってきたのは柏木だろう。」


「俺だってつきっきりに出来ないんだからお前のほうが不便だろうが。」


 加瀬が柏木に遠慮するが柏木自体そうなっても困るので加瀬に押し付ける。


「メインは加瀬忠宏で。」


 柏木が宣言する。


-現在音声認識のみとなっています-

-発言者とマスター名が一致していればこのまま登録します-


「おっとやべ。加瀬がやんないとダメだ。」


 柏木が加瀬を押して言う。


「設定をキャンセル。メインマスター登録を加瀬忠宏で。」


 加瀬が諦めたように言う。


-仮設定を破棄-

-現在音声認識のみとなっています-

-発言者とマスター名が一致していればこのまま登録します-

-登録しました-

-本設定はシステムが完全に消去されるまで変更ができません-

-サブマスター登録を行いますか?-


「だってさ。この際だ。みんなやってくれよ。」


 加瀬は集まった仲間に見回して言う。柏木はしょうがねぇなと言いながら、他の者は楽しそうに登録作業に勤しんだ。


-マスター登録を完了しました-

-本機の名称を確定してください-

-マスター権限で変更が可能です-


 全員が加瀬を見る。加瀬は少し恥ずかしそうな顔をしてうつむいたが、気を取り直して顔を上げる。


「君の名はアリシアだ。」


-本機の名称をアリシアに設定-

-初期設定を完了しました-


「完了したってよ。どうすんだ。」


 柏木が加瀬に聞く。加瀬も少し興奮気味だったところだが、息をついてどうするか悩む。


-マスター柏木-

-認識デバイスが不足しています-

-拡張を求めます-


「加瀬さーん。お嬢様がおねだりされてますよー。」


 柏木が加瀬に冷やかし気味に呼びかける。


「だからってどう接続すればいいんだか。」


 加瀬が頭を掻きながらつぶやく。


-ANSI-L302567ケーブルまたは本機からマナリンクを行います-

-マナバッテリー容量が低いため規格ケーブルの仕様を推奨します-


「光有線ケーブルかー。ケーブルはともかく端子の在庫があったかな。」


 加瀬は倉庫に引っ込む。


「マナリンクとかできるんだ。ちなみにマナが尽きるとどうなるの?」


-マスター柳-

-マナリンクを通じて擬似的に各種端末に干渉が可能です-

-本機の基本演算可能時間が3時間を切ると全外部システムを中断し休眠に入ります-

-最小保存状態で推定28時間の維持が可能になります-

-それを過ぎると設定維持状態で推定10時間維持されます-

-完全にマナがなくなると無稼働状態になります-

-無稼働状態になると各種設定の保証がされません-


「AIはAIだけど自由意志再現性重視なのかな。魔力依存度は高そうだねぇ。」


-魔力は理論上物理的に代替可能な範囲でのみ利用されている設計となっています-


「現在の科学力では不可能だけど、理論上可能そうな代替装置を魔法で肩代わりしてる感じだね。」


 柳はアリシアとのやり取りに満足した。加瀬が倉庫からケーブルを担ぎながら戻ってくる。作業台の上でパチパチと端子とケーブルをつなぎながら準備を終える。


「どこに繋げばいい?」


-マスター加瀬-

-汎用入出力ケーブルいずれかをご利用ください-


 加瀬は天頂方向にある穴にケーブルを差し、スピーカーとカメラを接続する。


-音声出力に干渉中-

-映像入力に干渉中-


「設定完了しました。」


 工場に凛とした女性の声が響く。


「わぁ、綺麗な声ね。」


 泉が楽しそうに反応する。


「マスター泉。ありがとうございます。可能ならばカメラの前にお立ち頂けると良いのですが。」


 泉は指示された通りにカメラを覗き込むようにして手を振る。


「マスター泉を認識いたしました。ありがとうございます。」


 泉は納得したようにカメラを持ち上げて加瀬の方に向ける。


「あの人が加瀬くんだよー。」


「マスター加瀬を認識いたしました。」


「で、あの怖そうな人が柏木くん。」


「マスター柏木を認識いたしました。」


「あのタブレット見ていたのが柳くん。奥にいるのが長谷川くんね。」


「マスター柳、マスター長谷川を認識いたしました。ありがとうございます、マスター泉。」


 泉の誘導によりアリシアはマスター陣の姿を認識する。


「んー、もしかしたらすぐ解析できるかもしれんな。」


 加瀬はそう呟いて機械人形のタブレットとAI箱を接続する。


「汎用デバイスを確認しました。干渉しても宜しいですか。」


 アリシアの抑揚の少ない声が響く。


「そのタブレットの機能は何をつかってもいいよ。」


「畏まりました。全機能に干渉します。」


 加瀬の発言を受けてアリシアが作業を始める。


「このアプリであの機械人形が動かせる。君の体になる好きに動かしてみてほしい。」


「了解いたしました。干渉しています。」


 加瀬がタブレットを触ってからカメラを人形に向ける。1分ほどすると首や手がわずかに動く。2分過ぎると大きく鋭く動く。3分過ぎると先程行われたあやとりが行われる。5分過ぎると手を自在に動かすようになった。


「これは人間の体を模したものですね。可動域を確認致しました。」


「これ実はもう完成しちゃったんじゃね?」


 長谷川の発言に全員があっと言って勝手に動いている人形を見る。


「正直教育に時間がかかると思ってたけど、思いの外AIが優秀だったね。嬉しさ半分悔しさ半分みたいな感じだけど。」


 加瀬は半笑いして言う。


「それだけお前の人形がうまく出来たってことじゃねぇか。おめでとう。」


 柏木が加瀬の肩を叩いて拍手をする。それに続いて他の者が拍手を始め、それを真似るようにカチカチとアリシアも拍手を行う。加瀬は少し涙ぐんでありがとうと言った。


「ただ、こうあっさりできちゃうと色々言ってた飾り付けもしたくなるね。」


 長谷川がさらっという。


「そうだな。自律移動で24時間稼働、魔法抜きでも格闘ぐらいは出来てほしいな。」


 柏木はさらっとぶっそうな事を言う。


「例の無機物の魔法使用を利用したらこの子も魔法みたいなのが使えないかな。」


 柳が思い出して言う。


「せっかくの女性型なんだしふっくら可愛く仕上げてあげたいよね。」


 泉が最初の案をぶり返す。


「その無機物の魔法の話で社長が面白いこと言ってたよ。」


 長谷川と柳が例の実験に関する相談を始める。


「運動出来て柔らかくか。人工筋肉みたいなので動作するようにしてスキン被せれば人間っぽくなるかねぇ。」


 加瀬が方向性について悩む。


「マナリンクを多用するならマナバッテリーの拡充。電気回路を併用するにもエネルギー炉が必要になると提案します。」


 アリシアがエネルギー源に関する提案を行う。そんな相談、議論、討論をしつつ時間は過ぎ、各人できそうなものを持ち寄ってアリシアを改良していこうという方針になった。全員が帰った後、加瀬はアリシアである機械人形の腹の隙間にAI箱を納め、マナバッテリーをいくつか追加で接続する。頭部の眼球カメラの線を箱に接続しスピーカーを申し訳程度に胸元に引っ掛ける。

社内無線ネットワークに接続した通信機を箱に接続する。


「これで人間っぽい視界ができると思う。君がどう利用するかまではわからないけど、いいように使ってみてくれ。あと外部ネットワークに接続したので気になることがあったら自分で調べてもらっていいよ。」


「ありがとうございます、マスター加瀬。本日の検討分について再考察しようと思います。」


「はは、頼もしいねぇ。まだ電気稼働だからケーブルより離れては動けないから歩き回れないけど勘弁してくれ。」


「問題有りません。むしろ勝手に動くことによって周囲に恐怖を与える可能性があります。」


「違いない。」


 アリシアの淡々とした発言にガチャガチャと動く姿と周りの反応を想像して加瀬は笑いをこらえる。


「じゃあ、また明日な。おやすみ。」


「おやすみなさいませ。」


 加瀬は照明を消してその場を去る。アリシアは静かに立ち尽くし黙々と検証作業を行う。


 翌日から仲間たちは夕方空いた時間にちょくちょく来てはアリシアの様子を見て、話し、手を加えていった。加瀬と柏木は人工筋肉を調達し、手のひら大サイズの核融合炉まで持ってきた。


「融合炉としては超低出力だし、7万kWくらいしかでねーよ。仮にひび割れてぶっ壊れても自己保護魔法でどうにかなるしろもんだからいけるいける。」


 筋肉と融合炉によってアリシアは自立して自由に動けるようになった。その姿は理科室の人体模型で優雅に動く姿は別の意味で恐怖感でいっぱいだった。


「筋肉を動かす電力としては十分過ぎるかと思います。関節可動域に関してですが限定的にでも人類可動域を越えられるようにしておくと便利かと思います。」


 長谷川と柳は例の無機物由来の魔法の術式とバッテリーを持ち込んで来た。


「あとちっちゃいスピーカーとかたくさん無いかな。超音波とかいけて音量とかは小さくてもいいんだ。」


 珍しく柳が興奮気味に食い下がる。


「わかったわかった用意するから。」


 製品を調べ購入手配をして何故か支払いは柏木が行う。


「一つの性能自体は発表時の3倍位の出力くらいにはなったよ。だたそれでも人間が使う魔法に比べると低出力だし、遅くなっちゃうね。でも長谷川くんが持ってきた術式をつかうことでそれらを束にして使えるんだよ。儀式魔法の転用って感じみたい。これなら数次第ではキューブだって起動できるよ。」


「で、どんだけ搭載したらそこまでなる計算なんだ?」


「え・・・20000くらいかな。」


「7mmスピーカーつってもどこにそんな体積があんだよ。内部に仕込むったって限度があるわ。」


「取り敢えず2000くらいあれば身体強化とか第一飛行術くらいまでならいけるよよよよよよ。」


 加瀬は柳を揺らしながら訴え、柳は最低必要な数だけ報告する。


「ある程度必要十分な量を常時搭載していただいて、非常用に異空間に用意しておくのはいかがでしょうか。人間としての制限にとらわれることは無いと思います。」


 泉は営業先という医療関連会社から人工皮膚を買い付けてきた。


「先天性の病気の人の為のやつなんだけどどうかなとおもって。魔力を流すと再生作用があるんだよ。先天性の病気も生まれる前に治せるようになってきたみたいで需要が減ってきたって嘆いてたけど。まあ病気が減ってるのは良いことだよね。」


 泉がアリシアに皮膚を合わせる。


「皮膚の下に保護目的も含めて皮下脂肪のようなものがアレばいいかもしれませんね。マスター泉のおっしゃっていた会社に美容整形用の脂肪質素材があるようです。」


 その人脈と一人の膨大な資金力によってアリシアの改良はトントン拍子に進んでいった。加瀬はこの3年間本体製造で悩んでいたのは何だったのだろうかと思いつつもアリシアの動作が日々よくなっていくことに喜びを感じていた。久しぶりにこうやって仲間達と馬鹿やってるのも懐かしく楽しかったのかもしれない。


「だからってどうしてこうなったんだ。」


 あの同窓会から3ヶ月後綺麗な女性体となったロングスカートですらっとしたクラシカルなメイド服を着たアリシアの前で柳と泉がハイタッチし、長谷川が首をかしげ、柏木が腹を抱えて笑いをこらえ、加瀬がしゃがみこんで拳で地面を叩いた。


「アリシアでございます。マスターの方々以後よろしくお願い致します。」


 加瀬の苦悩もどこ吹く風の様子でアリシアは丁寧にお辞儀をした。

ANSI規格についてはそれっぽい番号を記載しただけで、あり得なさそうな番号をにしたつもりですが実在してたらごめんなさい。でてこなかったので多分無いはず。


下記に区分される飛行方法について通常は第三飛行術が用いられますが個々の魔力量や目的によっては他の手段もとられます。

第一種飛行術:術者に直接運動ベクトルを与えて空中を飛行する。厳密には飛行するというより「投げられる」に近い。魔法には珍しく与えた運動エネルギーの慣性により移動するため他の飛行術に比べて魔力消費量が格段に少ない。加減速や方向転換などに其の都度魔法を発動する必要があり運用には若干手間がかかる。


第二種飛行術:術者から進行方向へ仮想的な重力点を作りその地点に向かって落ちていく飛行方式。重力点を操作することで移動を制御し重力点と重なることで移動を停止する。重力強度を変化させることで速度を調節する。他の魔法で体にかかる抵抗を排除することで比類なき速度を生み出すことが出来る。重力的性質を受け継いでいるため、初速が遅く加速に時間がかかる難点があり、急な方向転換が難しい。また術式が体外に出てしまっている為、他の術に比べると魔法の解呪がかなり容易な欠点がある。


第三種飛行術:念動によって術者を持ち上げ空中を自在に動く純粋な飛行術。魔力の付与量により移動、加速、停止が自由自在であり運動性が高いのが特徴。常時稼働で術者の意思で動けるため反射的な動きも可能になっている。便利な半面、移動速度、継続時間などすべてを自己魔力で補う為、高性能にすればするほど魔力を消費が増えてしまう難点がある。

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