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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
アリシアの章 2130年 機械人形は魔法を夢見て拳を握る
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二節:普通科高校3年2組の同窓会

 加瀬は現場に出たがる父に経営を投げ出され社長となった男である。技術屋としても能力は高くないわけではないが、少なくとも父親よりは大きく経営能力に優れていた為皆に推されて社長に就任した。事実交代して5年で利益は5割向上した。


「いや親父が何も考えて無さすぎなだけだから。」


 加瀬はみんなが手放しで褒める中、当時のあまりにひどい経営管理を省みる。自分も多少は現場にでるものの経営管理と営業が今の主な仕事である。タブレットに収支を打ち込みつつ今の納期と次の仕事を考える。ちらっと別の端末に来ている同窓会の連絡を見て背伸びする。近くで補佐をしいる母親がそれを見ていう。


「気になるなら言ってくれば良いのに。」


「そうはいっても仕事もあるしさー。」


 加瀬はお茶を飲みながら答える。


「今はそんなに忙しくないはずだし。時間は取れるでしょう?」


 気楽にいう母親だが自転車操業ほどでは無いとは言え、受注が滞ればすぐにでも坂道を転がり始めかねない状態なのだ。


「営業ならお母さんだって出来ない無いわけじゃないんだから、行ってきなさいって。」


 母親はあくまで楽観的だ。そういう説得もあってか参加の方向に気が向いて同窓会に出席することになった。


---------------------

 夕方から神戸市に出て会場の居酒屋に向かう。


「おう加瀬か。おつかれさん。」


 発起人である幹事の長谷川健太である。当時のグループ仲間の一人でもある。


「ようハセ。生きてたか。」


「この通り健康そのものよ。」


 力強く腕をクロスして挨拶して加瀬は店内に入る。奥の座敷に案内されると結構な数が集まっている。全クラス24名で18名の出席だとか。懐かしい雰囲気の面々が揃っている。席の隅にキザっぽい小男を見つけて近づく。


「何湿気た面してんだよ御曹司。」


「加瀬かよ。御曹司はやめーや。」


「若のほうがいいか?」


「もっとわりーわ。」


 加瀬は小男の隣に座って笑いながら拳を合わせる。柏木浩二。一年のころから浮いていた男だったが大喧嘩した後、にらみ合いが続いた半年後にもう一度ぶつかり合って意気投合した。常にグループの中にいたわけではないが大きな火遊びをするときは必ずいた。そもそもその発案者が柏木だったからだが。民間警備会社柏木グループ社長の息子。金持ちで喧嘩強く、平たく言うと旧態勢時代のヤクザ。魔法発生の黎明期に暴力に暴力を重ねて町の治安を支配した男達の息子である。手が早くてガラが悪いが力に訴えようとしなければいい人達である。今現在でも神戸市とその周辺の警備を受け持っている。雰囲気は少し悪いが治安はいいのである。


「相変わらず景気良さそうな服きてんのな。」


 加瀬は柏木の服の端をつまみながら言う。


「見た目で多少はなんとかなる商売だしな。そっちもわりかしいいんだろ。」


 加瀬はおまえんとこほどじゃないけどな、と返しながら水を飲む。


「やっと怖く無くなったですよ~。」


 四つん這いでやってくる小太りの男、柳流星。臆病な小心者であるが頭はいい。魔法関係の成績がとくによく、今でも開発の仕事をしているようだ。グループの仲裁役であったが性根のせいで柏木とは少し相性が悪い。仲間だった柏木だが少しぴりぴりしていたので近づきがたかったのだろう。


「この小動物が。なに遠慮してんだよ。」


 柏木は柳の頭をかき回しながら笑う。


「柳どうなんだ。魔法の開発してるとか聞いてたけど。」


 加瀬は柳に聞く。


「ま、まあ。いろいろ。既存のヤツ簡易化とかが主かな。新理論でも出てこないと新しいのは難しいよ。長谷川くんみたいなのがいれば別だけど。」


 表で案内している長谷川の名前が出る。学業の成績は決して良くなかったが、おかしなことを考える疑問に思う、変な発想に長けていた。答えを出すのに教えられた過程以外の事で再現して先生方をよく困らせていた。確かにああいう斜め上の答えの出し方の人間がいれば新規開発はうまくいくのかもしれないと加瀬は思った。だが、同時にうまくいくかはギャンブル的な所があり経営者としてはリスクが高く厳しいだろうなとも思う。あれが無難に社会人をやってるかと思うと逆に不思議でしょうがない。


「こんなときにも固まって。性懲りもなく変なこと考えてるんじゃないでしょうね。」


 眼鏡の女性が笑いながら声をかける。


「まだ何もしてないぜ。旧交を温めてるだけさ。委員長様。」


 柏木は柳の首を捕まえたままニヤっと笑いながら女性に答える。泉神奈。当時クラス委員でも風紀でもないのに謎の責任感で加瀬達のグループを監視していた女性である。ろくでもないことを計画しているとだいたい彼女によって先生方に通報される。時には逃げたところを追いかけてそのまま巻き込まれることから周囲からはグループの一員と思われがちだったが、当人達は当然のように否定している。


「もう、卒業してだいぶ立つんだから委員長とか止めてよ。」


「俺達にとっちゃ永遠の委員長さ。」


 加瀬も悪乗りして笑いながら答える。一人二人と見覚えのある人が中に増え、最後に長谷川が戻ってきた。


「諸君、よくこの忙しい時に私の要請に答えて遠方から参られた。今宵は昔を懐かしみながら大いに楽しんでくれ。」


 長谷川の宣言で宴会が始まり、席を替え、間に踏み込み、混沌とした宴会が始まった。ある程度参加メンバー同士での挨拶が終わると昔のグループ単位で固まって昔話が始まる。加瀬達も懐かしい馬鹿騒ぎを思い出しながらグラスを傾けた。


「そういやハセは何やってんだ。」


 柳の話も出てきたが長谷川が何をしているかまでは聞こえてこなかった。


「今か。柏木と同じかな。地方でちっちぇ警備会社に努めてる。ちょっと大変なとこだけどおもしれぇとこだよ。」


 長谷川がポテトをつまみながら答える。


「警備会社だったらうちにくりゃよかったのに。どこにいったんだ。」


 どこから取り出したが自前のブランデーを飲みながら柏木が言う。


「そこで友達たよるのってなんか恥ずかしーじゃんよ。BlackCatってとこかな。新しい所だよ。」


「あー、あそこか。最近ちらほら聞くな。オヤジのとこにも挨拶に来てた気がするわ。対外専門って言ってたからマジ辛そうだな。」


 それなーと長谷川が笑いながら柏木と話している。


「そこのしゃっちょさんもどうなんよ。」


 長谷川は加瀬に話を振る。


「うちは親父の基盤もらって整理しただけだよ。まあ整理しただけで社内の景気が良くなったのは正直どうかと思うけどな。」


 加瀬は苦笑して答える。


「それでもってたのすごいけど、立て直したのもすごいと思うよ。」


 柳が持ち上げる。


「みんなそう言うけど、親父以外なら大卒のやつなら殆どなんとかできるレベルだと思うけどな。おかげで現場も趣味もすすみやしねぇし。」


 加瀬はグラスの酒を飲んで一息つく。


「もしかして加瀬。あのネタ続いてんのか。」


 柏木が興味深そうに聞く。それに食いつくように長谷川が乗り出す。


「一応専攻してたのもあるしな、ぼちぼち進めてるよ。」


 加瀬はめんどくさそうに答える。


「機械式の自立人形なんてもう用済みだろう。愛玩用販売でも狙ってんのか?」


 柏木が笑って茶化す。


「趣味の範囲だから売るつもりはないよ。できるかどうかが問題なんであって。」


「でも自立人形とかできたら処分に困りそうだよね。AIとかでも壊さないでーとか言われたら抵抗感ない?」


 加瀬の答えに柳が問題提起をする。まあ荷物運びくらいならできるんじゃないかな、と加瀬は自信なさそうに明後日の方向を見ながら言う。


「で、出来はどうなんだよ。」


 長谷川は現状に興味がありそうで食い下がる。


「にじり寄るな気持ちわりい。手足とかマニピュレーター関連はできてるよ。少し器用さが気になるけど。あとはAIを調達してリンクさせればもしかしたらってとこかなぁ。」


「結構できてんじゃんよ。今度見せてくれよ。」


 加瀬は問題が多そうに答えるも長谷川はノリノリだ。


「つかAIがたけーんだよ。動かすシステム込でな。そこがないだけで半分もできてねーと同じだよ。」


 加瀬はグラスを飲み干してから答える。


「まあでも興味はあるよね。」


 柳も興味があるように言う。


「人形が魔法でも使えりゃ用途もふえんだけどな。」


 柏木が加瀬のグラスに自分の酒を注ぎながら言う。


「もしかしたらできるんじゃないかな。最近、無機物単独の魔法発動の成功例があった気がするよ。」


 柳の言葉に加瀬と柏木が反応して顔を向ける。


「い、いや。基礎研究の成功例の話だよ。確かスピーカーとマナバッテリーをどうにか連動させて、録音音声で魔法が発動できたとかいう実験結果があったんだよ。」


 柳が気配に押されて弱々しく答える。


「それがいけるなら無能機械人形の立ち位置もかわんじゃねかね。」


 柏木が加瀬のグラスをグラスでつついて言う。


「いや俺はアンドロイドを作りたいんであって魔法を使わせたいわけじゃないんだけどな。」


「役に立たねーもの作ってどうすんだよ。少しは人類に役立たせようぜ。」


 加瀬のぼやきに柏木が突っ込む。


「うちの社長が魔法とかそういうのやたら詳しいから今度聞いてみるわ。」


 長谷川もなんか乗り気である。


「まーたなんか企んでるの?あんた達は。」


 泉がグラスを片手に後ろから茶々を入れる。


「お、委員長様が匂いを嗅ぎつけてこられた。どうもやべえことに手を出したらしいぜ。」


 柏木が泉とグラスをカチン鳴らしながらにやけて笑う。


「え?ほんとに悪巧みなの?」


 泉は真面目に聞き直す。


「いや、法律に触れないしごく普通の趣味の話だよ。」


 加瀬はそう答えるが、周りは普通じゃねぇよと総ツッコミである。結局最初から根堀葉掘り聞かれながら話すことになる。そうやって掘り下げて行く内に議論になり語り合い、討論して同窓会の時間が過ぎていった。飲みながらの話で結局どこまでどう話したかなど誰一人完全には覚えていなかったが、各人の連絡先に一週間後に加瀬の人形を見に行こうという覚えのない約束だけが残されていた。

加瀬、長谷川、柳のメイングループ+サブの柏木、追っかけ?の泉の5人グループが周囲の認識。

加瀬だけは無難なタイプ。長谷川はやっちゃった系のトラブルメーカー。柳は仲裁折衝怒られ役。

柏木はやっちゃう系トラブルメーカー。泉は抑止と仲裁役。偏ったPTです。

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