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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
如月竜馬の章 第二部2127年 英雄たちの選択
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13節:開かれた未来

 竜馬が意識を周囲に向けたときそこは山の中だった。目の前には徳子とニャルがいる。


「お勤めご苦労さま。」


 徳子は優しく声をかけるも、ニャルはなんとなく不機嫌そうだ。竜馬は二人に警戒して思わず盾を構える。


「あらあの凶悪な悪魔は信用できても私は信じてくれないのかしら。よよよよよ。」


 徳子はわざとらしく楽しそうに演技する。


「あなた達の目的はなんだ。僕たちを人類を弄んで。」


 竜馬は怒りを込めて言う。


「弄んでるつもりはないのだけど。私はいつもいつも大切に扱ってるわよ。その生も死も私が関わったものは全て覚えているし、その後の出来事に生かされているわ。確かに私の進化という自己利益の為に世界をいじっていることは認めるわ。」


「本当にそれだけが目的なのか。」


「あなた達に理解できない概念を含んでいるから一番近い進化という表現をしているに過ぎないわ。真に理解したいならそれこそあなたが進化するしかないわ。少なくともナイアくらいまでにはね。」


 竜馬の疑問に徳子は隣の猫を見ながら答える。ニャルはなんとなく偉そうに背筋を伸ばす。


「ロードの言から推察するに梨本家のいざこざは常に起こっていると考える。この悲劇を繰り返すのはなぜだ。」


 竜馬は警戒しながら疑問をぶつける。


「煽るつもりはないのだけど都合がいいから、ね。とても興味深い現象なのだけど、力を与えた使徒をこの梨本家の問題に投入すると、これから起こりうる未来に起こる大きな流れがおおよそ決まってくれるの。」


 徳子は竜馬の前に手のひらを出して、落ち着かせようとしながら話す。


「まだその流れがどうなるかとかは言えないわ。今、それが決まろうとしている所なの。」


 竜馬ははっとして徳子を見る。


「あなたが怒ろうとしてる気持ちも多少は組んであげられるけど、私としても正念場なのよ。」


 徳子は一息ついて首を回して答える。竜馬はそれを聞いて少し落ち着く。


「出会った時みたいに楓さんを生き返らせることはできるの?僕はそれだけでいい。」


 竜馬は告げるが徳子は悩ましい顔をする。竜馬はその反応を見てニャルに聞く。


「ニャルは近藤にしたときのようなことをしてほしいと言ったらできるのかい?」


 ニャルは話を振られて少し楽しそうな顔をする。


「できニャくはニャいが今すぐにそれをするのは吾輩の矜持に反するのでやりたくニャい。」


 ニャルの答えに竜馬は疑問符を浮かべる。


「以前説明した通りあの方法は復活できニャかったものに対する予備的手段である。その実、徳子が言ったようにコピーといって差し支えない手段であるのでその者の実際の生死は関係ニャいのな。言いたい事はわかったニャ?」


 ニャルはやりたくないことについて説明する。


「楓さんは・・・まだ生きている?あれは治せるのか?」


 竜馬は驚きながらニャルと徳子を見る。


「治せるかといえばできるわ。」


 徳子は答える。


「その方法は。」


 掴みかかるように徳子に声を上げるが、徳子は答えない。徳子が不都合であることについては沈黙をする。無言を返されて竜馬はニャルを見る。ニャルは良いことを思いついたよな悪そうな顔をして答える。


「吾輩がその術式を教えてやってもよい。だがお主が払う代償は大きいぞ?」


 ニャルはそっと手を上げる。竜馬は反射的にその手をつかもうとするが、徳子に咎められる。


「その生き物は決してあなたに良かれと思って手を上げているわけではないと理解しておいてね。断言してあげるわ。今その手を取れば生涯後悔することになるわ。少しでいいから考えてほしいわ。」


 徳子は語気を強めて言う。竜馬はびくっとして動きを止める。ニャルはなんだつまらん、とぼやきながら手を引っ込める。竜馬は立ち尽くして考える。


「僕は何をすればいいんだ。」


「それを決めるのがこの依頼の最後の仕事よ。」


 竜馬苦しいつぶやきに徳子は答える。沈黙の時間が5分流れる。竜馬は意を決したように顔を上げる。


「僕は僕の力で楓さんを取り戻す。そして手が届くすべてを守る。」


 徳子ははっと竜馬をみて拍手する。ニャルはめんどくさそうな顔で顔を洗う。


「ここまで来てどうしてこうニャるかねぇ。」


「あなたの決断を尊重するわ。真の意味であなたと私はパートナーとなりえる関係になった。私はあなたを切り捨てられないし、あなたも私の支援を捨てられない。でもあなたは私を捨てることができた時、きっと面白いことが起こるわ。」


 徳子はとても楽しそうに、そして嬉しそうに宣言する。竜馬はあまりにテンションのあがった徳子の喜びようについていけずにニャルを見る。


「あれからしてみればそら嬉しかろう。ここまできて未来が確定しなかったのニャ。お前は吾輩らが知らない未来を切り開いている真っ最中ニャのだよ。」


 ニャルの答えにはあ?っと声を上げる竜馬。鬱蒼とした林の中徳子は小躍りしながら喜んでいる。そんな姿を見て、抱えていた疑問も不信も怒りも吹き飛ばして小さく笑う。どれだけ世界を繰り返して来たのか知らないが、その中でようやく見つけた希望がどれだけ嬉しいかわからなくもなかった。人類としてはいじり弄ばれているかもしれないが、彼女はそれを無駄にせず覚えていると言った。竜馬はまだそれについては理不尽だと思うし完全に許せるわけではないが、その彼女の努力は評価したいと思った。彼女は竜馬が自分と敵対しても構わないと言った。ならば自分のできる範囲で悲劇を防ごうと。竜馬は次にやることを決めてよし、と気合をいれた。


「これからもよろしくお願いしますね。如月竜馬くん。」


 徳子はいい笑顔を竜馬に向けてそう言った。

この小さな変化が意味があるかはわからないけど、変化の中になにかあると信じて世界を回し続けています。

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