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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
平井徳子の章 2075年
3/50

序章二節:手荒にしたファーストコンタクト

 周りからの視線はともかく、他に大きな問題もなくフェリーに乗り込み、自動車に乗り込んで奈良を目指す。


「そういえば~。奈良のどこに行けば?」


 3時間ほど走ってサービスエリアで休憩中、徳子は助手席の凪をちらっと見て尋ねる。


「おとき・・・と言われていたかな。社の付近まで行ければ」


「おとき・・・おとき・・・ないなぁ。ん~、これかな?夜都岐神社。」


 スマホをさわって唸っていた徳子が凪に結果を見せる。


「んー・・・もう少し広くなららんか?あー、その辺だった。そこでよいだろう。」


 画面をみながら凪はうなずく。


「んぉーーー。もぅ半分自動車の中でぇすかのぅ。」


 思いっきり背伸びをしてから、珈琲缶を縦に押しつぶすバズエル。


「何もないのはいい事ですけど・・・何もしないのは疲れるものね。」


「くっくっく、その実一番役に立たないと思われていたものが一番仕事をしておるわけだ。」


「術なり宝貝使ってよいのでしたらもっと早くつけましたしぃーっ。」


 露が悔しがりながらジュース缶を5m程先のゴミ箱へダイレクトに投げ込む。


「ははは・・・それでは行きましょうか。」


 一行は自動車に乗り込み高速道路を進んでいく。そうして大阪市を抜ける頃


「ベスから撃破報告だ。飛竜2体。偵察に引っかかったかの。両者ともマナを使用したようだし、追撃が来るのは確定だな。」


「相変わらずベス殿はこちらに情報を回しませんのね。」


「ベス殿らぁしい配慮ではなかろぅか。徳子を気遣っておらぁれるのだぁろう。」


「そういえばベスさんって見かけませんね。」


「周辺偵察を彼にお願いしているからね。」


「自動車より・・・はやい方なんですねぇ。」


「大気圏内だから彼もだいぶ苦労はしてるみたいだよ。彼がなんとかしてくれるうちに目的を果たしてしまおう。もっとも本気では来ないと思うがね。」


「あまり考えないことにしておきます~」


 そういってアクセルを少し強めに踏む徳子であった。

 30分後、


「前言撤回だな。あのバカ本気で潰しにかかってきおった。飛竜12、竜人60、三型白竜2、五型銀竜1だそうだ。」


「こちらの戦力が把握できていないからでしょうか。ベス殿基準で選出されましたかね。それでも相当な戦力には違いないですが。」


「わぁたしがベス殿の補佐にぃつきます。自由飛行がでぇきるほうが先制にはよぉろしいでしょう。」

「ええっと・・・だいぶ危ない・・・です?」


「割と危険ね。五型だけでも戦闘余波で周辺が更地になるくらいには危険ね。」


「なんとかするだけならできるがね。今後のことを考えると節約はしたいところだ。ベスとヴェイルで空はなんとかしてもらう。竜人どもはこっち向けだろう。アレもそこまで馬鹿ではないはずだ。飛竜さえ抑えておけば露だけでも問題あるまい。こっちは見つかるまで目標まで一直線だ。早めに頼むぞ徳子。」


「ひぇ~。うまく曲がれるか不安です~。」


 違反になってしまう速度までアクセルを踏み込む。遅れて周囲で警報を告げるサイレンが鳴り響く。奈良市方面からの避難アナウンスも流れる。


「でぇは、わぁたしはいってきぃますねぇ。」


 瞬間的に現れたときの格好にもどり、大きな羽で飛翔していくバズエル。その姿はすぐに見えなくなってしまう。


「さて、どこまで近づけるかな。」


「有象無象の敵が来たところで、私がどうにもさせません。とはいったもののこの中はちょっと狭いかしらね。敵が来たら屋根にあがらせてもらうわ。」


 露も気がつくと元の姿に戻っており、車内で埋め尽くされた尻尾で窮屈そうにしている。


-----

 奈良市上空1kmほどの位置でベスとバズエルが合流する。


「ベェス殿。おてぇつだいにまいりまぁした。」


{足手まといになるんじゃないよ。速攻落ちたら承知しないからね。}


{HAHAHA。流石にそぉこまで弱くはあぁりませんよぉ。}


{相手がどう来るかはわからないけど、さしあたってはあたいが前にでる。あたいの恐慌はそれほど強くなかいら、1割減ればいいほうだろう。あたいは銀竜を落とす。あんたはその他大勢と、牽制を頼むよ。大きさの差もあって決定打は難しい。場合によってはあんたがトドメだ。わかったかい?}


{Oh~。部下使いの粗い方でぇすねぇ。しょーぅちいたしましたよぉ}


{さぁ、お客さんのご来場だ。しっかりもてなすよっ}


{Yes、ma'am。}


 ベスは叫び声を上げながら突っ込む。バズエルは弓を構えて撃ち放つ。

 叫び声を聞いた飛竜の7体は怯み、一射十発の白く光る矢は怯んだ飛竜の頭を的確に吹き飛ばす。怯まなかった飛竜の1体は慌てて回避し、白竜と銀竜には当たる前に霧散する。飛竜に乗っていた竜人三十余名はそのまま落ちていく。


{はっはー。ちょっと鍛錬があまいんじゃないかねぇ。ひっかかり過ぎだよっ。}

 ベスはそのままの勢いで別の飛竜の首をひっかき落とし、乗っている竜人も回避させないうちに切り刻む。そして勢いを殺さずに銀竜へ突っ込む。


{Ohー。竜人を落とぉしてしまいましたぁ。一匹ぐらい脱落してくれぇるといいのぉですが難しいでしょうねぇ。るぅー、落とぉしてしまったのでたぁのみますよぅ。}


{あなたちょっと雑すぎよ。こっちは保護対象がいるんだからねっ。}


{しょぉがなぁいですねぇ。おまぁけですよぅ}


 露に叱責されたバズエルは落下中の竜人に二射放ち追撃を行う。その結果を確認することもなく。


{だぁほ。よそ見してると落ちるよっ。}


 白竜から放たれた1mほどの氷塊がバスエルに当たりそのまま吹き飛ぶ。竜人の20体は矢に貫かれて上半身を吹き飛ばされる。


{Noー。こぉれは手痛い。おぉもいのほか感知がむぅずかしい。}


 200mほど吹き飛ばされたところで氷塊を破壊し、停止し弓を構えて二射。追い打ちで飛んできた氷塊7つを破壊。余りを反撃に白竜に向けているが当たる前に霧散する。


{とっととゴミ掃除を終わらせな。そんな吹き矢じゃ牽制にもならないよっ}


{こぉれはもぉしわけぇない。}


 バズエルは飛竜に向かって弓を構える。それに合わせて飛竜から残りの竜人が飛び降りて降下。飛竜4体はバズエルに向かって全速突撃を敢行。合わせて白竜2体から2m級の氷塊が4つ、3つと放たれる。


{Ohー。こぉれはまぁた、るぅーにどやされぇまぁすねぇ。}


 と困り顔で三射。飛竜4体竜人5体氷塊5つを破壊。破壊できなかった氷塊に当たり吹き飛ばされる。


{おっと銀色だけ見てると思ったら大間違いだよっ}


 ベスが白竜の頭を蹴り吹き飛ばす。そのまま反転して銀竜に再び挑みかかる。


{Woー。手厳しいぃ~一撃でぇした。さぁて、お次はどぉこまで耐えられまぁすかね。}


 体のいくつかに氷塊の欠片を刺したままバズエルが戦場に戻ってくる。構えて一射4発。青白い矢が白竜にむかって放たれる。到達速度の違う矢の1発目を回避、回避先の2矢を叩き落とされ、4発目は霧散することなく体に刺さる。加えて外れた後反転してきた1発目が背中に刺さる。刺さった矢は筋肉を侵食するように氷の根を広げていく。


{Nー。あぁたるだけぇですかぁ。数でかぁゔぁぁしまぁすかぁね}


 と、飛び回りつつ矢を不定期に打ち続ける。

 ベスは自分に対して遥かに巨大な銀竜を相手に殴りつけ、ヒットアンドアウェイを繰り返して少しずつ傷つけていく。相手の攻撃が当たればただでは済まない状況と攻撃手段の乏しさが慎重な攻撃を繰り返させる。銀竜は腕を払い、噛み付き、体から氷柱をはやしベスを追い詰めていくが、一度たりとも捉えられていない。白竜は何本かの矢をうけてしまってから、銀竜の補助にまわりベスとバズエルを牽制する。氷塊と氷矢が入り乱れ、大きな銀の周りを小さな銀が跳ね回る。両者似た構図になり長期戦の構えを見せる。


-----

高速道路を下りて、天理市内道路を徳子が自動車を走らせる。避難警報が出ているだけに徳子達の方向に向かう自動車は皆無で、反対車線が渋滞気味である。まれに逆走車がみられる。


「はぁ~。大丈夫ですかねぇ。」


「なんとかしてもらうしかないね。最も、いざとなったらどうとでもできるからそこまで心配する必要はないから安心するといい。」


「主にそれをしていただかないように我々が何とかいたします。・・・上方700m竜人29確認。感知されますが術の使用許可を。」


「構わない。よろしく頼むよ。」


 凪は後部座席の露にむけて手をひらひらと降る。それを見てすり抜けるように自動車の天井に上り立ち上がる。


「あわわわ、速度落としといたほうがええですか?」


「術が使えるなら振り落とされたりはしないから、気にしなくても大丈夫だよ。」


「さて・・・差し当たっては無難にいきましょうか。」


 そうつぶやきながら両手をごそごそ袖に入れ、出された手には手品師のように指の間に土褐色の玉が挟まれている。手首を返すように手を振ると両手が火に包まれる。


『玉棘以火彼穿』


 掛け声と共に右手の玉を上手から竜人に向かって投げる。左手の玉を下手から空に向かって投げる。右手の玉は数秒後に竜人達に届き、5mほどになる数十本のトゲを伸ばす。巻き込まれた竜人10体は十数本のトゲに刺され絶命する。数本だけ刺さった者たち15人はは死にはしないものの自由な動きを阻害される。そこへ斜め上方から無数の礫が竜人達に突き刺さり、地面へと叩き落とされていった。


「全部は無理だったかな。かけた力に比べれば戦果は上々かね。」


「少し抑えすぎました。すべて仕留めるつもりだったのですが、思いの外丈夫でしたね。」


「全く見えんですけど、もしかしてあの点とも言えないのだったんでしょうか・・・」


 神社に向かって自動車を走らせること5分。前方から竜人5体が走ってくる。


「ひゃ。どうしましょう。あの曲がり角の先なんですけど。」


「ならそのまま進むといい。前のは露がなんとかしてくれるよ、ね?」


「とりあえず払い除けます。そのまま進みなさいっ。」


 自動車の上でゴトゴト足音がする。


『疾』


 露が勢いよく右手を払うと、竜人たちが何かを打ち付けられたように吹き飛んでいく。そこへ自動車を走らせ、曲がり角を曲がっていく。曲がり角の先には1体の竜人が槍を構えて待ち構えていた。


「ひゃぁぁぁ、にゃぁぁぁぁ~」


 徳子は回避しようと慌ててハンドルを切ってしまい、自動車は制御を失い大きく蛇行してしまう。


「徳子!落ち着きなさい。変に動いてはこちらも助けられません。」


「こうなったらどうやって戻せばいいか分かりませ~ん。」


 徳子は泣き声気味叫びながらにハンドルを右左に切っていく。露は舌打ちをしながら、近くにいる竜人の足元から7本のアスファルト杭を出現させ串刺しにする。そうしているうちに先程吹き飛ばした竜人が自動車にむけ槍を投擲。槍は空中で6つに分裂し自動車に向かって降り注ぐ。


「くっ」『金器消以火』


 振り払うように振られた右手からでる火は大きく広がり槍を防ぎ、打ち消してゆく。しかし、大きくそれて降り注いだ槍は自動車の進行方向の地面にいくつか突き刺さる。蛇行していた自動車は刺さっていた槍にぶつかって停止し、飛び出すエアバッグ。


「ぶわっ、なんだ面倒な。止められはしたがあの道を進んだ先にあるのであろう。出るぞ徳子。露は足止めを頼む。そのまま倒してしまっても構わん。聞くことはほとんどないでな。」


 飛び出てきたエアバックをどかしながら外へでる二人。


「任されました。主は早く分室へ。」


 露は走り出す二人を軽く見送って竜人に向き直る。竜人の一人は手に持った槍を二人に向かってまっすぐ投擲する。露はそれを軽く手を降って出した火によって消失させる。


「私がいる限りここからあなた方の肉片一つ通しませんわよ。」


--------------------------

 奈良上空では戦闘を優位に進めながらも決定打を与えきれない戦いが続く。ベスとしては一撃も受けるわけにも行かず、慎重にことを運ぶはざるを得ないことから戦線は押され気味で徐々に南下していく。白竜から氷塊が放たれベスが危なげなく回避、そこを狙って銀竜の魔法から18の氷槍が出現し周囲から襲いかかる。バズエルはすでに構えていた矢を放ち射出前の氷槍を4つばかり破壊する。ベスは大きめに開いた包囲網の穴からすばやく回避する。続けてバズエルから銀竜の頭に4本の矢が放たれるも銀竜はすばやく回避。回避先でベスが銀竜を切りつけるも大きな傷はつかない。銀竜の軽い反撃を回避しつつ離れると、白竜と銀竜の魔法により傷は塞がってしまう。


{これでは送り出した我が主に面目がたたんわ。}


{あぁちらはぁ、魔力供給ぅがある分持久戦ぎぃみではありますな。こちらはもぉちこみ分だぁけですからねぇ。}


 ベスとバズエルは若干の焦りを感じていた。お互い周辺被害や今後のことを考慮しなけれは一気に殲滅する手は残っているが、ここで使い切って良いものか、いきなり大きな戦力を投入してきた敵の全体を把握できないために判断できないでいた。


{あたしはこの[魔法]てやつが得意じゃないんだ。}


 ベスの唐突な告白。


{むしろ何もできやしない。精々体に巡らせて殴るだけさ。ただ、非常手段に組んでもらった術式がある。それを使えばここはどうにでもできる。だが、ここでは使いたかぁない。わかるね?}


 ベスの問にバズエルはうなずく。


{ただ、それは最後の保険なんだ。あたいでは再構築ができない。}


{つぅまり、わぁたしがその術のかぁわりをでぇきれば解決するというこぉとですな?}


{あたいも細かいことはなんにも知らないから欲しい事象だけ言うよ。あいつらとあたいを巻き込んだ空間を、空気なにいっさい無い状態にしてもらえりゃいい。1秒も維持する必要なんてないよ。一瞬でいいさね。}


{ふぅむ。なぁるほど。4セグ戴きましょぉう。矢と共に撃ち出しまぁす。その間のぉ支援はぁ無いとおもぉってくださぁい。}


{よし、決まったね。スカしたらお仕置きだからねっ。}


 ベスは念話を打ち切り竜に苛烈に突撃を始める。


「N~、部下ぁ使いの荒ぁい。手ぇ早くいくとしぃまぁすかぁ。主よ、奇跡を賜らん・・・」


 バズエルは祈りを捧げて弓を構える。撃つ気はなくフリだけである。頭の中で支持された条件を満たすべく術式を組み上げていく。ベスの突撃に合わせて再開される交戦。銀竜の攻撃をぎりぎりで回避しつつ攻撃を加えていくが、牽制がなくなたことにより白竜からの攻撃が多くなり、攻撃の機会は大きく減少していった。白竜からさらに攻撃が増え、その攻撃を回避できなくなってきていたベスを見ていた銀竜がふとバスエルへ視線を移したとき、彼は今まさに矢を撃たんとする瞬間であった。


『主よ、我らが盟友の為に風の奇跡を。』


{気がつくのがおせぇ、どあほが。}


 一射十発の輝く矢が銀竜達に向かって放たれる。それぞれの含有魔力は多くなく、回避するまでもないと銀竜は判断し、ベスに向き直る。予想通りに着弾してきた矢は体に当たることなく消えていく。7本目の矢が消えたとき突然周辺の空気が消失し周囲の感覚が急激に変化する。銀竜が危機感を感じたその時、目の前に見えたかのようなベス姿。


{受けとんな・・・釣りは思い出したら持ってきなっ。}


 瞬間。まばたきが閉じるまでもないほどの一瞬のうちに銀竜の目が殴打され、潰れ血を吹き出す。その血が吹き出す前に顎が下からの打撃を受けて浮き上がる。衝撃により破損した歯の欠片が歯から飛散する前に、首に無数の穴が開けられる。その首がだらりと下がり中折れしそうになる前に、白竜の胴体に大きな穴があく。そして響き渡る鞭を打ったような乾いた音。一拍おいて轟音とともに空間内に風が吹き荒れ、竜たちが煽られ力無くきりもみする。風が弱まった頃に重力に引かれて竜の死体は地面に向かって落下していった。数秒後響き渡る振動と破壊音。


{かぁーーー、落としちまったねぇ・・・ま、最小限ってことで勘弁してもらうかね。}


 全身血まみれでぼろぼろになった腕を力無くだらりと下げる。


{ベス殿、おぉ見事でぇす。負傷のぉ治癒をいぃたしましょう。}


{わーるいね。頼むわ。}


 バズエルが手を傷に掲げるとみるみるうちに傷が治っていいく。2,3分治療を続けベスの体からは傷が見当たらなくなる。


{知らない体構成だろうに。うまく治すもんだね。あんがとよ。}


{そぉれ故に主のぉ奇跡でぇあーりますからなぁ。さて露が見ぃ逃すとも思えませんがぁ、報告もかぁねて合流ぅしましょう。}


 ベスとバズエルは目的地の神社へと飛翔していく。


-----

 神社への道を走る凪と徳子。右手から物音がしたかと思うと、突然大きな竜人が1匹飛び出してくる。


「く、まだ潜んでおったか。振り切れるか?」


 その期待も虚しくあっさりと回り込まれて道を塞がれる。


「これは・・・どうしましょう。」


「さてな・・・徳子はなんとかできるか?」

{なにかしら気を散らすだけでもよい。あとはこちらでなんとかするゆえ。}


 全力で首を振る徳子。


「鬼人圏、凪殿とお見受けします。おとなしく捕縛されてくれるとありがたいですが。抵抗していただいても叩きのめして連れてこいと竜王様からいわれていますので、どうぞご自由に。」


 槍を構える竜人。苦笑いで言葉を繋げない凪。そんな中徳子がポケットをごそごそとポケットを探る。凪はちらちら周りを見るふりをしながらジリジリと下がる。


「まさか勧告をいただけるとは思わなかったよ。話をしている間になにかされるとは思わなかったのかな?会話をする暇があったら殴り倒すのがアレの信条だろうに。」


「他世界とはいえ上位の方ですので敬意を払っているつもりです。我々でもマナの無いこの世界で活動するのは大変でしたのでね。貴方様ではなおさらでしょう。手ひどい抵抗を受けたらそれはそれでよいと、竜王様もいっておられましたし。雑談はこの辺に致しまして、気絶でもしていただきましょうか。そちらのお嬢さんは三界民でしょう。死ぬ目に会いたくなければおとなしくしていることです。」


 ちらりと徳子を見て、槍を右腰だめに引いて今にも振り回さんとする竜人。


「皆さん頑張ってるので、私もねっ。」


 徳子はポケットから防犯アラームを取り出し竜人の右肩方向に軽く放り投げる。そして鳴り響く爆音。示し合わせることもなく凪は竜人の左手側へ、徳子は右手側へ走り出す。


「何かは知らんが、魔力も無いこんなものっ。」


 竜人はおもわず槍を上げアラームを切り裂く。返しで脇を走り抜けようとする凪を殴打しようと槍を振り下ろすべくに力を込める。


「もう一つどうぞっと。」


 徳子は車載発煙筒に火をつけ竜人の顔に向かって放り投げる。緩やかに縦回転しながら勢いよく火と煙を吹き出しながら竜人の前を通過していく。


 「この期に及んで目くらましなどと!」


 そのまま凪がいるであろう位置に槍を振り下ろす。ガツッっと土を打ち付ける音。予想外の出来事に驚き一瞬硬直する竜人。周囲を見回すと、薄い煙のだいぶ先を猛スピードで走る凪と、竜人のすぐ後ろには人の域を出ないそれほど速くもない速度で走る徳子がいた。竜人はぎりっと歯ぎしりをして徳子を睨むも、力強く地面を蹴り凪の後を追いかけていく。


「ふーーーーー、発煙筒まではいらんかったかなぁ。」


 徳子は大きく息を吹いて走るのを辞めた。もう追いかけても追いかけなくても、追いつけても何もできないと思ったからだ。未だ火と煙を吹いている発煙筒を拾い上げ、上に掲げてクルクル回す。普段使わない発煙筒の本来の使い方をしてみたかったという思いと、空に飛んでいったバズエルの目に止まればいいなぁと思ってのことだった。比較的安全に暮らしていたこともあって敵に見つかることは何一つ考慮はしていなかった。


「このまま置いておいて火事になったり、ゴミになっても心苦しいしね~。」


 独り言をつぶやきながら発煙筒を掲げ、とぼとぼ神社に向かって歩みを進めた。

 一方先を走っていった凪は境内までたどり着いて愕然としていた。


「感じる気配はそのままだが入り口がないとは?どういうことだ。」


 深く考える間もなく後ろからザクザクと土を蹴る音が聞こえてくる。追いかけてきた竜人が境内に入ってくる。


「思った以上に身体能力が高いようで驚きましたよ。あなたが連れていた三界人に気を取られたのもありますが。」


「皆々、我が連れておるからといって特別な目で見すぎるといういい例じゃな。とはいったものの予想以上の働きをしてくれているのは確かだがな。」


「まあもう悪あがきもこれまでということで、お覚悟っ。」


 竜人が槍を凪に向かって鋭く打ち込む。凪は反応して右にステップを踏むも左腿を大きく切り裂かれる。衝撃と痛みでバランスを崩してそのまま勢いよく倒れ込む。


「もう逃げられませんな。しばらく眠っていただきますよ。」


 竜人は槍を持ち直し大きく振りかぶって凪に打ち付ける。その途中でカァンと甲高い音がなり槍が右手方向に大きく吹き飛ばされる。

「我らが管理地で狼藉を振るうことは許しませんぞ。」


 古風な衣褲(きぬはかま)姿の青年が厚ぼったい剣を振り抜いて槍を弾いていた。


「フツヌシ・・か・助かる。」


「申し訳ありませぬ。あちらも立て込んでおりまして気がつくのが遅れてしまいまして。お怪我もしておられますし、手早く致しますので少々お待ちを。」


 そう言って剣を右下手に下げて、さも軽く振り上げる。竜人は襲いかからんと槍を構えようとしていたが、


「最前線の軍神がよもやこんなところに・・・」


 それが最後の言葉となった。体から力が抜けるかのように揺れ、左脇腹から右肩口まで槍の柄ごと切断され、分断されながら地面に落ちる。


「治療できる者を呼びましたので、すぐに直させます。」


 五秒もたたないうちに虚空から衣裳姿女性が現れ、即座に凪の傷を術で直していく。


「すまんな。制限と終点が見えずに力の消費加減が難しい。してこの状況はどういうことだ。」


 女性はふるふると首を振って下がり来たときのように虚空に消えていった。経津主神が考えをまとめながら口を開く。


「40タームほど前から侵攻がはじまりまして、立て直しながら防衛をしております。現在高天原勢は前線にて防衛と支援を・・」


「そちらの方は別のものから聞いておる。分室が無くなっている件についてだ。」


「ん?分室は無くなっておりませんよ。こちらの都合で春日と社地を交換してしまったので雰囲気が違うかもしれませんが、元々の夜都岐のあったところに残っておりますよ。座標精査していただければ少しだけ位置がずれておるのがわかりましょう。」


「はぁ。そういうことか。現状自分では魔法がつかえんからな。小さな確認のためには力は使っておらんのだよ。」


「確かに。我々も社地から出れば活動は難しいですからな。後ほど案内できるものをつけましょう。」


 そう話しているうちに徳子が発煙筒を掲げながら歩いてくる。


「徳子もご苦労であったな。よもやあそこまでできるとは思わなんだが。」


「お役に立てたようでなによりですぅ。そちらの方は?」


 未だ煙と火の出る発煙筒をどうしようかと手を上げ下げしながら話しかける。


「ここの神社の祭神の一柱である経津主神である。此度は良い働きであったと聞いおる。大儀であった。そちらの筒は不要ならこちらで処分しよう。」


 経津主神が手を出すので思わず発煙筒を差し出す徳子。受け取った経津主神が手を下げる頃にはいつの間にか発煙筒と煙は消え去っていた。そんな挙動をみて徳子は「オー」と驚きの顔で見ているのだった。凪がそんな姿をみてくすくす笑っているところに上空からバズエルとベスが降りてきた。経津主神は一瞬警戒するも、一瞥して力を抜いた。


「しぃつれい致しますよぉ。上空の敵はぁ排除ぉ完了いぃたしました。落下物によるぅ現地の被害が少々出てぇしまいましたがぁご容赦をぅ。」


 バズエルは着地後、手を両側に揃え直立不動で報告する。


「すんませんね。粉砕するにはちーとでかすぎたんで、節約ってことでヤっとくだけにさしてもらいました。」


 バツが悪そうに頭を掻きながら珍しくベスが発声し、バズエルと徳子が「オー」と驚きながらベスを見た。


「三界人にあまり死体を渡したくはなかったが仕方がない。先が見えない以上そこまで消費するわけにもいかんしな。なんにせよご苦労であった。」


 凪はバズエル達にねぎらいの言葉をかけていたが、徳子はあまり見ていなかったベスに興味津々で眺めたり触ったり、質問したりとしばらくまとわりついてた。凪と経津主神、バズエルは情報交換のため、少し離れたところで相談と今後の方針を決めている。そうしているうちに露が周りを警戒しながら歩いてきた。


「私が最後でしたか。周辺の竜人はすべて排除できたと考えます。8割方の死体の処分も完了いたしました。」


「Oh-。おぉ疲れ様でぇしたぁ。」


 バズエルが茶化すように話すと、露が半分以上はお前のせいだと言わんばかりに睨みつけた。


「露もご苦労であった。いらぬ邪魔が入らぬうちに分室の方に移動しよう。そちらの方で今後の方針を決めてしまおう。」

わりと変な単位が使われていますが雰囲気的なもので序章より後は現実単位が中心になります。

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