五節:余計なお世話
竜馬は戻ってきた近藤の報告を受けて映像を確認。2度ほど映像を見直して梨本樫男の能力を様子見る。
「観測状況からすると確かにどこからか魔力供給されてるっぽいね。少なくとも表からでは無いみたいだけど。戦闘能力はそれほど洗練されてるとは言えないか。経験が少ないのかな。」
「ご隠居が76でしたか。当主が48。後妻が37。長男が21。楓ちゃんが17で、次女が12でしたかね。いつから駆り出されてるかわかりませんけど、市の襲撃記録からしても10回も戦ってはないんじゃないですかね。」
近藤の報告に竜馬はそれじゃしかたないかとソファーにより掛かる。
「にしても随分調べてるな。」
「一応はという程度には。もしかしたらご厄介になるかもしれませんしね。」
近藤は笑いながら答える。
「というか後妻?前妻は事故か何かで?」
「表向きは病死と言うことになっていますね。ただ当時の様々な記録からする行方不明というのが一番正しようです。今、調べても病死ということ以外わからないでしょうが。まぁ、権力を盾にちょちょちょーっと。」
近藤の説明に竜馬はうへぇと声を出す。
「件の長男樫男と楓ちゃんは前妻の次女の梢ちゃんは後妻の子のようです。こちらは改竄の後は見受けられませんでした。」
「ていうか近藤。本当にいつ調べたの?」
竜馬の問いを近藤は笑って聞き流した。
「初代巨大樹の管理者で現在ご隠居中の杉夫氏は7年前から戦闘には参加しておりません。現当主で管理者の唐松氏が市の最大戦力ということになっています。そうはいっても巨大樹の恩恵があって私と同じか少し下くらいですね。一般的な魔法使いとしては下の方ですね。」
竜馬は怪しそうに近藤を見るが、これ以上聞いても答えまいと思って情報だけは聞いておくことにした。
「杉夫氏の妻は?」
竜馬の問いに近藤はニヤリとして答える。
「襲撃時に敵対人外種に殺されていると記録にはあります。ですが実際には現場ではなく病院で治療中に亡くなっているようです。入院期間は2週間ほどあります。」
竜馬は眉をひそめて考える。
「なんだそれは・・・死亡記録を改竄しまくってるのか。」
「梨本家がやったという証拠は有りませんが、彼らの秘密を隠すかのように改竄はされていますね。」
竜馬は頭を抱えながら考える。
「巨大樹が現れたのと杉夫氏の妻が死亡したと思われる日は?」
近藤は楽しそうな目をして指をならしてビンゴと答える。
「なにそれ。最初から真っ黒ってことじゃーん。」
竜馬は腕を投げ出してソファーで伸びてばたばたする。
「方法まではわかりませんが巨大樹ができたのを堺に杉夫氏は精力的に人外種を狩っていますね。一時期は反人外種の旗頭的存在だったようです。市の防衛を一手に引き受けた18年前ほどから積極的に狩りには出ていませんが攻めてきたものには容赦がないですね。」
竜馬はため息をついてダレる。
「取り敢えず明日からは梨本家とその周辺の調査から始めようか。」
近藤はかしこまりましてと挨拶して部屋から出ていった。
翌日、二人は市内を歩きながら梨本家方面へ向かう。ホテルを出て5分もしない内に尾行されていることに気がつく。
{近藤、あれどう思う?}
竜馬は普通に歩きながら近藤にマーカーを送りつつ念話で問う。
{尾行のつもりなんじゃないかと思いますけど。始めは別の方とかくれんぼでもしてたのかと思いましたが。}
近藤は隠蔽マーカーで尾行者の頭の上に赤い花マルを描く。竜馬は笑いを噛み締めながら遊ぶなと諭す。
{大ぴらに調査したせいか、楓さんのせいか。どちらにせよ梨本家関連よな。}
{私関連という可能性もほんの少しだけ。}
竜馬が問い、近藤がふざけてそうだろうと答える。竜馬はなにかに気がついた振りをして近藤の尻を叩き走り出す。それに続いて近藤も走り出し、遅れて尾行者も走り出す。路地裏に入って手早く隠蔽魔法を使い3mほど飛び上がって重力制御で空中に留まる。尾行者が路地裏に駆け込んでキョロキョロしているが二人を見つけられないでいる。
(意外とこういう子供みたいな手は有効だよね。)
竜馬は尾行者に意識を低調化させる魔法をかけて様子をみる。尾行者はぼーっとしながらよたよたあるき始める。竜馬は後頭部を上からつかみ記憶を探る。目的のことを調べたら路地の入り口に男を起き直し、少し離れてから魔法を解除し路地裏を走る。尾行者ははっとして竜馬達を追いかけ始める。竜馬達はキョロキョロしながら走るのを止めまた大通りをあ歩き始める。尾行者は尾行を続けている。
{どうでした如月くん。}
{まあ予定通り梨本家からの依頼のようだ。使用人っぽい人から紙を渡されていたよ。何を調べているかと久屋原か町田方面に移動したら報告するように頼まれているらしい。}
{町田だと梨本家方面でしたかね。もう片方は心当たりは無いですね。}
竜馬と近藤は念話と何気ない会話をしながら歩く。
{少し早い気もするけど梨本家をつついてみるか。}
竜馬はそういいつつ町田町方面へ移動する。歩き始めてしばらくすると尾行者はいなくなった。途中で心変わりしたらどうなるんだろうと思いながら歩いていると広域に魔力が放たれたのを感じる。
(人払いに似た術式のようだけど一瞬しか出なかったな。何をしたんだ?)
竜馬は近藤を見上げるが、近藤も首を振る。しばらく歩いていると情報から男が降りてくる。梨本樫男だ。
「お前らか。楓の足を直した阿呆共は。」
まさかの長男登場で驚きを隠せない竜馬達。どうしようかと考えていると樫男がさらに問う。
「楓の足を直したのはお前らかと聞いているんだ。」
竜馬は取り敢えず話を合わせてから問いただそうかと思って手を上げる。
「楓さんの足を直したのは僕だ。本人の希望もあったのでね。」
竜馬は涼しい顔をしながら答える。樫男は憤りながら叫ぶ。
「あれは治らないはずだった。どうして今更希望を与えてしまったんだ。お前がやったことは妹を、市民を、俺たちを苦しめるだけだ。」
「どういうことか詳しく教えていただけると僕も反省ができるんですけど。」
「うるせぇ。そのまま黙って死にやがれ。」
樫男は右手にキューブを握りしめて特大の火球を竜馬達に向けて放つ。竜馬は魔力の高まりを見て手早く防御壁を斜め上方に傾斜をつけて張る。火球は防御壁にぶつかり進行方向に指向性爆発する。
(アメリカ開発の指向爆発火球か。)
竜馬は余裕をもって火球に対処したが、樫男は驚き動揺している。
「いや僕でなくても隊員と比較しても展開速度が遅いよ。その程度のレベルなら僕の防御は永久に敗れないよ。」
竜馬は軽く挑発しながら樫男に実力差の理解を促す。
「そんなことはないこの力があれば人間なら耐え続けられないはずだぁ。」
樫男はムキになって火球を放つ。魔力がチャージされ次第追加で放つ。竜馬はだるそうに防壁を維持しつつ、水流防壁に切り替える。火球は水流に飲み込まれ爆発すること無く消失する。3度4度と放つも防壁はびくともしない。
「どうする?別のキューブにしても構わないけど。」
竜馬はだるそうに宣告する。もう諦めろと。近藤は直立不動の構えでにやにやしながらその姿をみている。懲りずにそのまま火球を連射してくるが状況は何も変わらない。竜馬はため息を付きながら火球が防壁に着弾すると同時に無形縛で樫男の動きを拘束し小氷弾を50発ほど全周囲に展開し告げる。
「もう諦めてもらえるかな?」
樫男は縛の中でもがいていたが氷弾をみてうなだれた。それを見て竜馬は魔法と解いて樫男に近づく。樫男は力なくその場に膝をついてうなだれている。近藤がそれをみて吹き出しそうになっているが竜馬は取り敢えず無視することにする。
「さて僕は彼女に何をやらかしてしまったのかな?」
竜馬は樫男に語気を強めて聞く。
「アレは忌み子なんだって父さんは言ってた。なんでかは俺も知らない。ただ生かさず殺さず接しろって・・・昨晩も足が治って喜びながら家族に報告してたんだ。俺だって嬉しいと思ったよ。治るもんじゃないって聞いてたしな。だけど父さん達は違った。歩く姿を見て青い顔になって、喜びながらもう家族に迷惑をかけないと言っていた妹を父さんは殴り倒したんだ。妹はキョトンとしてたよ。俺だって訳解んないし。その夜の内に妹は久屋原の施設に送られたって。妹は意気消沈して車に乗っていったよ。その後父さんは誰だあんなことしたやつは町を調査してる自衛隊員の仕業かって怒鳴り散らしてて・・・母さんも下の妹抱えて文句ばっかり。もう家の中ギスギスだよ。お前ら一体何したんだよ・・・」
樫男は地面を叩きながら現状と心情を吐露した。竜馬はわけがわからんと言いながら怒りに震えて拳を握りしめ、近藤はそれで久屋原ですかと冷静にぼやいた。
「楓さんがいるのはどこなんだ。」
「久屋原の一軒家だって。うちの持ち家で地下に隔離施設があるんだって。古いシェルターらしいんだけど。妹は魔法が使えないからって。」
竜馬はそれだけ聞いてポーチからデバイスを取り出し飛行術で飛んでいった。それをぽかんと見ている樫男の肩に手を置きながら近藤はにこやかな顔をしながら。
「もうちょっと詳しい話を聞きたいんで近所の喫茶店でもどうっすかね。」
右手の親指でをくいっとしながらと提案する。
「え、あ・・歩いて15分くらいかかる、ますけど・・・いいですか?」
樫男は乾いた声で答えた。
樫男は妹の楓が大切で大好きですが、お父さんには逆らえません。
世の中に核シェルターを個人で買った人がどれだけいるか知りませんが、地下シェルターって少し浪漫があると思います。
近藤さんのおごりで飲み食いしましたが経費で落とす気満々です。(一応通った




