四節:過保護な男
竜馬は楓を見送ってからホテル側に転移して時間を確認する。もう20分もすれば15時で一旦合流の時間になる。何をするにも微妙な時間と思いながら、ホテルの影で魔力観測機を4機生成して巨大樹周辺に飛ばす。フロントに戻ろうとすると近藤がチェックインをしているところだった。。
「おや、如月くん今着きですか?」
「いやだいぶ前かな。外に出て戻ってきたところだ。」
近藤が竜馬に気がついて声をかける。
「チェックインが終わったら僕の部屋の方で情報をまとめよう。」
竜馬は近藤の側についていう。チェックイン手続きが済んで一緒に階をあがり、近藤は部屋に荷物を投げ込み、二人で竜馬の部屋に移動する。
「おや如月くんも隅に置けませんねぇ。女の子の連れ込みですか?」
作業中は気が付かなかったが部屋に戻ってみると楓の残り香が結構残っている。
「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・人助けのつもりだったしな。」
竜馬はしどろもどろに答え、近藤はまーたまたぁと竜馬を突く。竜馬はその肘をうっとおしそうに払う。
「そのことも含めて報告と相談せにゃならん。」
「婚約の報告とか止めてくださいね。」
竜馬は近藤を蹴り飛ばした。
お互いの情報を報告しあって30分。
「梨本家の巨大樹が一番怪しいですけど、市民の人気から考えると強引な手は打ち辛そうですね。」
「あの様子からすると公権力も入りづらそうだね。」
初日短時間の情報とあって二人共似たりよったりの話ばかりであるが、二人共怪しいと思うのは急な梨本家の隆盛とそれに関わっていそうな巨大樹であった。
「如月くんが楓ちゃんに招いて貰えば一発ですよ。」
近藤はニヤニヤしながら提案するが、竜馬は首を振る。
「彼女の好意にすがるのもありだけど、おそらく当主が許すまい。彼女は比較的自由にしているけど当主には逆らえなさそうな雰囲気だったよ。」
「しばらくは周辺調査で固めますか。もしかしたら梨本家が関係ないって可能性もありますしねー。」
近藤は軽くいうが恐らくそうは思っていない。竜馬も梨本家が何かしら関係していると感じている。
「梨本家のでの彼女の立場次第だけど、恐らく足の件で何らかのアクションがあるとは思うのが。」
「そう考えると良いとも取れますし、迂闊とも取れますね。」
近藤は悪そうな笑いを浮かべる。
「当面何かしらの干渉があるまではあそこ以外問題ないということを調査してしまおう。」
竜馬はそう締めくくり、近藤は了解っと言いながら勢いよく立ち上がって部屋を出ていこうとする。
「外に出るなら1時間おきに定時連絡な。」
「えー、まじですかー。」
近藤は軽く了解っと答えながら部屋から出ていった。竜馬はそれを見送ってからソファーに体を預けて深い溜め息を吐く。集中してばらまいた観測機に視点を映しながら梨本家とその周辺を観察する。
「梨本・・・楓か・・・」
恐らく好意を寄せてきていたであろう少女の名を呟きながら屋敷を眺める。音も拾えるがよほどの音でもなければ聞こえて来まい。屋敷の庭や窓に時折使用人らしいものの姿が映る。夕方を過ぎて飯時になるまで屋敷に梨本一族らしい者の姿を見ることはなかった。結界があるせいか監視にはあまり気を使っていないのかと竜馬は思いつつ一旦観測機との連結を切り、一伸びしてから晩飯を食べるために部屋を出た。
近藤はホテルを出て町をぶらつく。調査はほどほどにほとんどは気晴らしとお遊び程度。耳の端になにか面白いものが聞ければいいなくらいのノリで人に声をかけながらぼちぼち遊ぶ。
(如月くんはなんだかんだであの女神に従順ですからねー。何か企みのはしっこでもつかめればいいのですが。)
近藤は町をぶらぶらしながら視界に入れた人や建物のの特徴を観察しながら調査する。別のつてで外部調査している梨本家や沼田市の中間報告を不定期に聞きながら。近藤は竜馬にはこの町で見聞きしたことは報告しているが外部調査の件については報告していない。近藤には心優しく精神的に未熟な上官にそこそこ平穏に過ごしてほしいと思っているため後ろ暗い事はある程度隠しておきたいという意図がある。集めた情報によるとそこそこ魔法が発達した後とはいえ100m級の巨大樹はわずか3日であの姿になったという。一年を通じて青々しく茂るその姿は梨本家の象徴でもある。しかし昼間みた巨大樹は端々が黄色くなり初秋を思わせる紅葉の気配を見せている。季節の彩りに重なっているためあまり言及されていないが、近藤は巨大樹の力が弱まっているのではないかと踏んでいる。近藤も竜馬も梨本家は巨大樹から何かしらの恩恵を受けていると考えている。近藤は梨本家の防衛戦動画から梨本家の力の源は巨大樹から強力な魔力付与恩恵を受けていると予想していた。魔法の扱いにそれほど長けているような運用では無いのに、無尽蔵とも言える魔力を使用しているのが見て取れる。
(あの女神の祝福と似てるような気もするんですが。どっちも外から見れば電池がでかいだけとも言えますしねぇ。)
最悪徳子の自作自演であることを近藤は警戒していた。近藤は徳子の彼女にとって悪意ですらない悪意から竜馬を守りたいと思っている。
(過保護と言われりゃそれまでなんですけどねぇ。)
近藤は市内の観察と情報収集としてのナンパをしながらだらだら考える。事前に派手に動いていたのもあったろうが、監視の為か何人かに追跡されているのが見受けられる。近藤は監視者にわざとこちらの目的がわかるように行動を見せながら情報収集を続ける。日がそろそろ山に掛かりそうな頃に山側から飛行物の集団が見える。近藤は目を凝らしながら羽根を羽ばたかせているような何かを見る。女性の上半身に腕部が羽根、足は羽毛に覆われ足首付近から鳥のような鉤爪を持っている。醜悪な顔に怒りに滾らせて飛んできている。
(ハーピー・・ですかね。んー・・・20体ですか。結構な数が出てきましたね。お手並み拝見と行きますか。)
近藤は周辺記録用の観測機を4体作り出してハーピーを追いかける。事態に気がついてか巨大樹から1体の飛行体が飛んでいくのが見て取れる。観測機からの映像では事前調査で確認していた長男の梨本樫男と一致する。近藤も徳子の洗礼を受けている身から少しだけ別人である可能性を考えたが、梨本家の英雄志向的なところと宣伝効果や、技術的なことを考えると偽装ではないと判断する。樫男は200m付近で戦闘に大規模な爆発魔法を放ち、3匹を撃墜し巻き込んだ数体に負傷を追わせる。ハーピーは広く半球状に展開し正面左右上方から囲むように襲いかかる。魔力反応からみると囲むように不可視の風を飛ばしているように感じられる。樫男は上面に防御壁を展開しながら正面にむかって下降しながら加速する。ハーピーは正面のものはそのまま走り抜け左右展開していたものが振り返り、風の刃を飛ばしながら追いかける。上方展開していたものも遅れて振り返り少し上空に飛び上がりながら樫男の真上に陣取り強風を打ち下ろしながら動きを制限しようとする。通り過ぎた正面のハーピーが下降しながら反転し樫男に迫ろうとする頃、樫男も振り返って右手に準備していたと思われる魔法をハーピー左翼に向かって解き放つ。100を越える小さな火炎弾は4体のハーピーに襲いかかる。ハーピーたちは被弾しながらも回避するが、回避された火炎弾は軌道を変え再びハーピーに襲いかかる。4体のハーピーは被弾が増えるたび1体1体と落ちていき、すべての火炎弾が消費されることなく4体のハーピーは撃墜された。
(見せつけるように派手にやってるのかそれしか手がないのか。デバイスは住友のブック型に似てますが、オーダーメイドかカスタムメイドか・・・にしてもブック型は搭載キューブ数重視で魔力の調達が難点ですが、やはり巨大樹からの恩恵は魔力の無制限供給ということで確定っぽいですなあ。)
近藤は戦闘の様子を見ながら樫男の能力を観察する。樫男は風に煽られながらもバランスを崩さず、下方に回っているハーピー5体に10本の火炎槍を打ち込み撃墜。残りの8体はそれを見て逃走していくが、樫男は雷撃魔法で追撃し5体を撃墜し、残りの3体を30本の光線魔法で撃墜し全滅させた。
(得意距離は50~200mくらいですかね。標準的な中距離魔法使い・・・。狙うのが下手なのかめんどくさいのか射出系の魔法は漏れなく誘導付き。攻撃力も並。飛行機動も標準並。見込み通り魔力容量頼みのゴリ押しというですね。如月くんが出るまでもなく私でも一方的にボコれるレベルですね。成長が見られないようで何より。)
近藤は樫男の評価を確定しつつ観測機をハーピーがー逃走した方向に飛ばし山を調査する。程なくしてハーピーの住処らしいものを見つける。少し寄ってみると感づかれたのか不可視の観測機はハーピーに破壊される。
(んー、知性が低いとはいえ無能ではありませんなあ。それにしても山狩りはしてないのか。少し古めの集団のように見えましたが。)
近藤は怪しみながら考える。突然別の方向に飛ばしていた雑音と共に破壊される。
--ムヨウダ--
近藤はハッなって思わずその方角を見る。冷や汗を流しながらヘイヘイと納得してホテルに戻る。
(カミサマはいつでも傍若無人ですなぁ。おっと人で無いんでしたな。)
竜馬はほとんど事前調査をしていませんが、近藤は色々手を回して調べています。




