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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
如月竜馬の章 第一部2125年
18/50

六節:輝く玉虫色の未来

 竜馬が意識を戻してくるともはや死ぬ寸前なのを思い出し、無形障壁を展開し光線を上方に受け流す。それを見た古のものの気配が変わる。


〔何が起こった。今の貴様にそんなことはできなかったはずだ。それにその莫大な魔力はどこから。〕


〔1時間ほど講習を受けてきたのでね。〕


 竜馬は確認の為に高出力レーザーを古のものを囲むように20本ほど打ち込む。古のものが防壁を展開し、それらが防壁に当たると防壁の境界を滑るように移動し始めた。


(なるほど光線に関してはこうなるのか。もしかしてあの状態では目視でこちらを見ていないのか。音が聞こえないと困るから音波は通ったのかもな。)


 竜馬は説明された状態を確認しながら倒す手順を考える。種が理解ったせいか不思議と余裕がある。古のものは光線で反撃してくるが余裕をもって氷壁を展開し攻撃を防ぎきる。魔力圧縮のおかげで術式への充填速度が早く、なおかつ更に多くの魔力もつぎ込める。圧縮様様である。使っても使っても魔力は源泉の力で勝手に補充される。何かに使わないともったいないと思ってしまうほどだ。


(これは専用に術式を組まないといけないね。)


 竜馬はそう考えながら効率無視で高出力に術式を組み立てる。


〔やつらの干渉がはいったか。だが1時間程度で何ができる。〕


 古のものの周囲から40の光源が現れ竜馬に放たれる。竜馬は短距離転移で古のものの後方に移動する。正面に向かっていた光線は消え、光源から即座に別の光線が竜馬に向かって飛んでいく。


〔どこに逃げようと貴様に向かって打ち続ける。そのまま蒸発しておれ。〕


 古のものは得意げだが余裕もなさそうだ。一方的だった相手が急に同等になって焦っているのだろうか。竜馬はそう考えつつ近場で逃げても無駄と判断して氷壁で受け止める。さすがに数が多いので徐々に破壊される。時間を稼いでいる間に相手の魔法の解析を行う。氷壁が破壊されそうな所で短距離転移。また位置を検知され光線を撃たれる。古のものからの別の光線も追加された。増えた所で対処は変わらないが、攻撃があまりに単調すぎるのも気になってくる。光線魔法の解析が終わり構造の目処がたったのでそれ用に術式を組み立てる。氷壁が砕けて光線が迫ってくる瞬間に組み上げた術式を解き放つ。


【魔法破壊】(マジックブレイク)


 竜馬の胸元から放射状に広がる目に見えない魔法の力は、それに触れた光線を消し去りながら古のものまで広がる。驚く古のものをよそにすべての光源が消失する。その驚いている一瞬の間にその前に組み立てておいた術式を続けて発動する。


【ヒートウェイブ】


 音波が通るならと雑にマイクロ波を試す。古のものの体から一瞬白い煙のようなものが見えて体の一部が爆発したように見える。一応生物ならと電子レンジばりに水分子をターゲットにしたが当たったようだ。古のものの姿が消える。輝霊領域からの置換状態を解除したのだろう。竜馬はその場で魔力探査の術式を少し組み替えて輝霊領域と同時に探査できるように変更し術式を発動する。治療をしているのか魔力体の位置はほとんど動いていない。追加術式として輝霊領域干渉を組み込みつつシュレッダーを発動する。観測していた魔力体の動きが乱れる。程なくして現実世界に傷だらけの古のものが出てくる。


〔やってくれおったな。この下等生物がぁー〕


 古のものが叫び触腕を振り回す。竜馬の後方から石の槍が無数に現れる。魔力反応に気がついていたのでそのまま無形盾で押し止める。さらに四方八方から槍が飛んでくる。短距離転移を行おうとすると術式が妨害される。


〔それは対策済みよ。そのまま死ねぇ。〕


 ワンテンポ遅れてしまい盾も間に合わない。槍が竜馬を串刺しにしようとした時に竜馬の姿が消える。槍はすり抜けてそのまま通り過ぎ霧散する。古のものは驚き周囲を観察する。古のもののすぐ後ろに竜馬が突然現れる。


〔これはひどい魔法だね。種がわからないと戦いにすらならないのもわかるよ。〕


 竜馬はそのまま古のものを魔力鎖で拘束する。竜馬は槍が当たる瞬間に輝霊領域に遷移。そのまま前進して古のものの後ろの現実領域に遷移してきたのである。古のものは鎖から逃れようとするが破壊もできず移動もできない。


〔輝霊領域への移動も阻害済みです。降伏してください。お互いあの女に騙されたようなものですから大人しく元の世界に戻ってくれればこれ以上は何もしません。〕


 竜馬は降伏勧告を行う。


〔ここが貴様らの世界のような口を利くんじゃない。ここは我々のものなのだぁぁぁ。〕


 古のものは身を引き裂かんばかりに暴れる。その動きは体の一部を引きちぎりながらも自爆するかのように切断系の魔法を発動させる。竜馬はその魔法から逃れるために飛び退いて距離をとってしまう。


〔要請などしったことか。甚だ不本意ではあるが下等生物に情けをかけられるよりはましだぁぁ〕


『いあいあシュブニグラス。万物の母に願う。その祖たる豊穣の力を我に。すべてを喰らい尽くす獣たれ。』


 すべてを投げ捨てた詠唱。傷だらけの古のもの体の一部が黒く盛り上がる。ヤギに似た足が飛び出る。鳥の足のようにも見える醜悪な細い足が出る。小さく引き裂かれた傷口から牙を揃えた大きな口が盛り上がる。古のものは狂喜するような叫び声を上げている。その声に呼ばれるかのように手足が伸び古のもの傷から這い出てくるように徐々に姿を大きくする。その醜悪な姿が呼び起こす恐怖は古のもの比ではない。この場ですべてが終わってしまうかのような恐怖が目の前にある。底が見えない力をどう防ぐか考えている所に上空から黒いものが落ちてきて肩に止まる。


「やれやれ、よほど悔しかったとみえる。己の誇りを捨ててでもお主を倒しておきたかったのかの。」


 ニャルが肩で毛づくろいをしながら喋る。


「ニャルさん?」


 竜馬は驚きつつニャルを見る。


「吾輩は偉大なる猫様であるが、平時この姿の時はニャルでよい。」


 偉そうに胸をそりながら喋るニャルを見てはぁと気の抜けた返事をする竜馬。ニャルは這い出てきそうな黒いものを見る。


{我が妹よ。その姿を見せるにはまだ早い。遠くない時期に我らが父上がおいでになられる。ここで管理者を怒らせるのは得策ではない。ここは父上のためにも引いておいてくれ。}


 しばらくうねうねしていた醜悪なものは今度は逆再生するかのように引っ込んでいった。


「ふはは、吾輩の眼光に恐れをなして逃げていったようだな。にゃぉう。」


 竜馬にはわけも分からず威張りだしたニャルに醜悪なものから黒いナニカが飛んできてニャルの頭に当たって吹き飛とんでいく。あの恐ろしいものが引いていくのはありがたいことだが、いろんな覚悟と緊張感をニャルがすべて持っていってしまったような感覚に陥る。黒いモノがすべて戻っていった後には干からびた抜け殻のような古のものの体が残り葉が落ちるかのように緩やかに地面に向かっていった。竜馬は突然溢れ出るほどあった力の流れが止まったのを感じる。障害がなくなり源泉の力がとまったようだ。教えられた技術があっても古のものに勝てただろうか。頭の中で整理し反芻しながら自問自答する。突然でわけも分からず倒してしまうことになったが、なんとも言えない喪失感を感じる。


「これを抱えて進まなければならないということか。」


 竜馬は突然後ろから左肩を叩かれとっさに振り向くと人差し指が頬に刺さる。


「いってぇ」

 竜馬は正面に向き直って手で頬を押さえる。


「不肖近藤副隊長。戻ってまいりました。」


 竜馬が恐る恐る振り返るとそこには最後に見た無事な近藤が敬礼をしながらそこにいた。


「近藤!」


 竜馬は思わず近藤に抱きつく。


「ははは如月くん。私にはそんな趣味はありませんよ。」


 近藤は竜馬の頭をぽんぽんと叩きながら軽口を叩く。半泣きでよかったとつぶやきながら竜馬は強く抱きしめる。


「大丈夫じゃなかったはずだけど大丈夫だったか?」


 竜馬は顔をあげて訳のわからない質問をする。


「大丈夫じゃなかったはずなんですけど大丈夫みたいですね。自分もなぜここにいるのかよくわからんのです。」


 近藤も首をかしげながら答える。


「徳子さんとかニャルとかのことは?」


 竜馬は近藤の状態のことを聞いたときの事を思い出して確認してみる。近藤はだれですかそれはのような反応を返してくる。よくよく考えてみればニャルは死んだ時の記憶までと言っていた。でも、あそこの話は死ぬ寸前の話だったのでは?と竜馬はどういう時間軸だったかわからなくなってきたが、概ね解決したので良しとしようかと問題を棚上げした。


「宮村、田中、鈴城・・・私が確認したところまででも10名の小隊員が殉職しました。大隊全体で考えたらそれどころじゃないですが。私だけが生き残って良いものか。」


 近藤は周囲の惨劇を見ながら神妙な顔でつぶやいた。


「あの後、加賀屋と外村がやられたよ。つまりうちからは12名か。きついな。それでも僕は近藤に生きていてほしかった。」


 竜馬は手を握りしめて答える。


「彼らの分も頑張りましょう。今度はちゃんと国と仲間を守れるように。」


「そうだな。取り敢えず古のものの死体を持っていって富山本部に状況報告しよう。そっから報告書だろ、どうせ。」


 どこまで説明すればいいやらと竜馬が悩みながら降下する。そんなこといったら私こそどう報告すればいいやらと近藤は追従して降下する。確かにどうしようなぁと笑い合いながら竜馬たちは古のものの死体を持って帰還する。


 出動からわずか2時間で死者415名、負傷者223名を出した大事件は幕をおろした。本部からの発表があるも、親族やマスコミから問題がなかったか対応がどうだとか言われもしたが、想定外は事実だが結局は平謝りするしかなかった。責任をどうするかの話もあったが失われた人員的にもそんなことをしている余裕はなくその後数ヶ月は調整と再編成に追われた。各国も似たような襲撃事件が起きていたが大小被害はでたものの日本よりひどかったところはなかった。徳子のいうとおりたまたま運が悪かったということなのだと竜馬は悲しく思った。手にした技術は国内で秘匿すべきという意見も多くあったが、ゴリ押しで世界中に公開し多少懲罰は受けたが大筋では仕方がないということで決着した。この行為は世界中で概ね歓迎されたが、犯罪を激化させたということで多少の批判はあった。竜馬としては使い手次第なのだから勝手にしてくれとしか言いようがなかった。それ以前に来るべき日に備えてもらわないと困るというのが本音であった。竜馬のうけた祝福に関しては自主的な発動ができないこともありうまく理解されなかったが、お騒がせの中心人物である徳子の来訪により無理やり解決させられた。上の方で随分と議論されたようだが誰一人徳子をどうすることもできずにそうならざるを得ない結果となった。竜馬は表向きは目黒魔法大隊所属ということだが、裏では特殊小隊と指定され緊急時には大きな裁量権と行動の自由が保証された。徳子は一体何をしたんだと思いながらもその辞令を受け訓練と研究の日々が続くこととなった。その後散発的に強力な敵対人外種が現れるようになり、そのつど現地部隊対応できなければ竜馬が対応するということが続いた。送れば勝てる、という外聞だが竜馬としては連敗続きである。祝福の力なくして勝てる敵はそれほど多くなかった。それでも竜馬は訓練と手順の改善を行い続け急速に力をつけていった。危うい精神の綱渡りをしながら。外からは英雄として祭り上げられながら、自分の中では惨めな敗北者であり、その心は徐々に蝕まれて行くことになる。少年が救われるのはいつの日か、彼の苦悩は今しばらく続いていく。

竜馬が心の平穏を取り戻すのは随分先の話になります。それでも彼は期待を背負わされて進んでいきます。近藤が陰ながら分散させながら支えていきます。

次は次回投稿予定の予告になります。本編には大きな影響はありません。

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