五節:彼女の望み
竜馬は白い世界にいた。地面があるような感触はあるが地面も空も同一の白で広さも何もわからない。熱線に打たれて死ぬのではなかったのかと鈍い思考で考えていた。気がつくと目の前に突然色が増え、そこには黒いセーラー服を着た少女がいた。
「おお勇者よ。死んでしまうとは情けない。お前にもう一度機械の体を与えよう!」
少女は何事か宣言し、2cmほどのネジを竜馬の前に投げた。竜馬はその転がってくるネジを見つめながら、突然起きたおかしなことに頭がついていいかず混乱していた。
「セーラー・・・ウィッチ?」
竜馬はたっぷり20秒ほどして顔上げて少女をみてつぶやいた。
「その呼ばれ方はあまり好きじゃないかなぁ。私は徳子よ。竜馬くん。」
徳子は高台から降りるかのようにその場から飛び降り、実際には何もなく彼女の位置移動関係からそう見えるだけなのだが、竜馬の手前まで歩いてきた。
「厳選なる抽選の結果あなたを私の使徒候補にします。」
徳子は竜馬に向けてびしっと指を向けながら一方的に宣言する。竜馬は再び混乱して少女を見る。少女の背後のほうからすたっと黒猫が飛び降りてきてニャーと語りかける。
「騙されるニャよ少年。一定の実力があることは考慮されてるが顔で選んだからニャ、こいつ。」
「ニャルひどーい。一応、勤勉性とか不屈さとかも考慮してますよ。」
どうだかどうだかと笑って受け流しながら黒猫は竜馬の足元まで歩いて来て竜馬を見上げる。
「吾輩はニャルである。他にも随分名前があるが今はそう認識できればよい。その愚鈍な脳みそで吾輩を敬うが良い、チビ。」
なんとも言えない和やかな空気の中、突然煽られて竜馬のスイッチが入る。
「チビっつーな。この子猫がぁー。」
竜馬が叫びながら右足でニャルを蹴り上げようとする。ニャルがその足を左前足で払うと竜馬の足は勢いをつけて空振り、そのままバランスを崩して転ぶ。竜馬がイタタタと呻いていると顔の目の前までニャルが歩いてきて右前足を鼻に押し付ける。
「突然お猫様に足を上げるとは愚か者め。吾輩こんなナリだが、貴様なぞ100人いても灰にできるのだぞ?」
ニャルは竜馬を睨みながら言う。さすがに灰にできるのは70人くらいかなーと後ろで徳子は笑っている。竜馬はごろごろと後退し膝立ちになる。
「君等いったいなんなんだ。」
「緊張もほぐれてやっとお話ができそうかな?改めて紹介するわ。私は鬼人圏の支配者、徳子。まぁ・・・君から見たら神様と大差ないかな?」
「吾輩はニャル。そこの徳子に無理やり連れ出されたいたいけな、痛い痛い、ぐりぐりやめて。」
徳子は紹介の途中でニャルを踏みつける。竜馬はなんとなく関係性を理解した。神だの言っていた気もするがあまりの雰囲気に思っていたことが吹き飛ばされたので、自己紹介を返す。
「僕は如月竜馬。陸自の魔法大隊の中で小隊長をしています。」
徳子はきゃーかわいいと言いながらニャルをにじり踏み、ニャルがふぎゃーふぎゃー鳴いている。目の前の状況がカオスすぎて竜馬は逃げたくなってくる。
「以前に式典をかき回したりしてテストしていた件についてもいくらか聞きたいですが。今は置いておくとして、使徒にするとは?」
竜馬は流れを断ち切って話を進めたいと、思い切って疑問を切り出す。徳子はおっと我に帰って襟元を正して何もないところに足を組んで座る。
「こちらの一方的な言い分ではあるけど、いくらかの力を与えるので人類の進歩に協力してほしいの。」
徳子が少し下手に話す。
「思いの外極端な育ち方したからテコ入れしたいのだよ。」
ニャルが思惑に追加の情報を足す。そう取れなくもないねと徳子は苦笑する。
「こちらにも見込みと予定があってね。こう平和的平均的に育ってもらってもちょっと困るのよね。私達が欲しているのは10の力を持つ兵士100人ではなく500の力を持つ一人の英雄なの。最もここまでひどい結果になるとは思わなかったけど。」
徳子はちょっと困ったなぁみたいな感じに軽く話す。竜馬は徳子の話を聞いて震えだす。
「まさか古のものを差し向けたのは君達なのか。」
怒りと恐怖がまじりながら竜馬は問う。
「差し向けた、かぁ。古のものがここに来るかは知らなかったけど、この時期に何かしら来るように手配はしたわ。それがドラゴンだったかもしれないし、ヴァンパイアだったかもしれないし、何が来るかは抽選にしておいたから。」
徳子はさらっと答える。竜馬は一瞬ほうけたような顔をして、怒りに震える。
「どうしてそんなことを!神でありながら人を害するなんて。その上使徒になれだなんて、仲間を殺したやつの部下になれってことか。」
竜馬は肩で息をしながら激昂する。徳子はんーと少し考えている。ニャルが鼻で笑いながら告げる。
「吾輩らからすれば今回の事は慈悲の範囲ニャいなのだよ。外世界からの敵だった場合こんな悲劇ではすミャんぞ?50年前を忘れたわけではあるミャい。あの時は相手が現地調達できニャいという足かせがあったゆえ進行速度遅かったが今同じことが起こったらあんな可愛らしいことにはニャらんぞ。」
「まぁ、抽選の結果実力と乖離があったことは認めるわ。まさか上限いっぱいを引いたら歯牙にもかけられないほどになるなんて中々ない組み合わせだったのでね。あと私は神に類するもので同じこともできるけど厳密には神ではないの。今は目的があって人類を優遇してるけど、結果が出ないなら切り捨てるわよ。」
徳子は指をチョキチョキ動かしながら答える。竜馬はこいつらも古のものと同じで立っている世界が違いすぎると感じた。人類に対して遙か高みから一方的に通達しているに過ぎない。絶望しか感じない。
「こういう話は後からしたかったのだけどねぇ。落ち込んじゃって話が進まないもの。」
「諦めて意識をもどしてやったほうが良いのではニャいかな?」
徳子とニャルはめんどくさそうに話し合っている。それを聞いて竜馬は今更のように疑問が沸き起こり思わず聞いてしまう。
「ここはどこで僕はどうなったんだ。古のものに殺されたはずなのに。」
「んー?まだ死んでないわよ。ほら。」
徳子が指を弾くと見覚えのあるシチュエーションを右側面から見ている映像がだされる。竜馬の30cmほど前までに古のものの光線が飛んできている映像だ。竜馬としてはそれを見せられることと死んでないことの関係がわからない。
「徳子。さすがにそんな物見せても何もわからんだろう。お主にもわかりやすくいうと、お主の意識だけここに持ってきていて、ここだけ時間の進み方が5万倍になっておる。ここの感覚でいうとあと1時間ぐらいでにお主はあの光線に貫かれて死ぬ。」
徳子はニャルに舌をだしてごめんねとやっているが、竜馬としてはその行為自体が異次元過ぎてついていけない。
「はは、こんな世界があるなんて。僕たちはどれだけ狭い世界で戦っていたんだ。」
「それがわかるだけお主はミャだましなほうだ。他のものは近藤とかいう一人を除いて理解すらせずここを去った。」
え?と竜馬は顔を上げた。
「近藤は・・・死んだのか。」
「そうか。お主の部下だったな。お主の集団が古のものにぶつかってすぐのころか。見込みがあったから吾輩の推薦でな。『自分はもうアレと対峙できるイメージがありません。もしくるならその席には如月隊長をお願いします』とな。」
ニャルがにやにやしながら絶望している竜馬を見ている。
「そうだな。お主が使徒になる件を了承するなら、近藤とかいうのを熨斗つけて生き返らせてやってもいいぞ?」
「ニャルっ!」
徳子はその提案を制しようとするが、ニャルが明らかに悪い顔をしながら竜馬に問う。竜馬はほうけた顔をしてニャルをみて徳子をみる。
「できるのか?」
「できるかできないかで言われたら私はもうできないと言うわ。」
「吾輩はお主らにとっては大差がニャいからやってもよいぞと言うぞ。」
竜馬は聞いてみるが徳子は難色を示し、ニャルはニヤニヤしながら自信たっぷりだ。
「あなたの知っている近藤さんはもう絶対に生き返らないわ。私達の生き返りという定義ではね。」
徳子は苦々しく答える。
「だが見方を変えればお主の知っている近藤を生き返らせる事はできるのだよ。」
ニャルが惑わすように言う。竜馬はますます混乱した。ため息をつくように徳子が種明かしをする。
「私のいう生き返りは体から失われる前の魂を元の体に返す事よ。近藤さんの魂はすでに失われていて体も焼失した。よって私の生き返りはできない。これはニャルだろうと誰だろうとこの世界である限りできないわ。それは理解ってくれるわね?」
徳子は竜馬に確認を促す。竜馬はうなずく。
「そこの・・・あえて強調するけど人類にとっても神々にとっても邪悪な生き物は近藤さんの体と魂を作り出してそれをあなたに渡すと言っているの。」
「アカシックレコードの記録にしたがって死んだ瞬間までの記憶をもたせ、第八世界にある近藤の魂を原本から精製し、懇切丁寧に作り上げた近藤の体にそれらを載せてお渡すことをお約束しよう!」
ニャルは黒猫らしからぬ動きでノリノリで解説する。竜馬にとってその言葉の端々でわからないことはあるものの近藤が生き返るような気がしてくる。徳子が深い溜め息をつきながら追加で解説する。
「いろいろわからないことがあるでしょうけどニャルのやっていることは結局の所複製なのよ。その気があったら10体でも100体でも製造が可能なね。だから私達の間では生き返りとは言わないわ。同じように見せかけておいて細工を加えることだってできるのだからね。ただ厳密に行えばあなた方の言う生き返りと大差はないわ。厳密に行われればね。」
ニャルはにやにやしながらとても楽しそうに鎮座している。徳子はそんなニャルを見ながらまたため息をつく。
「前置きが随分長くなったけど、あなたは目下死の直前にいます。以前あなた方にテストのような事をしたのは私の趣味もありますが成長した能力の確認をしたかったことがあります。最終的にはあなた方だけで外世界の敵に対応してもらう必要があるのでその確認ということになります。結果は散々でしたが一部の能力については期待以上の成長もありました。育ち方がいびつだと言ったのはそういう意味があります。それをある程度是正したいのですが、私が直接手をいれると未来が予測しやすくなって私としては非常に困ります。なぜ困るかはいずれ。それを少なからず解消するために私から祝福という形で力を与えます。他にはあなたから質問という形で助言を与えます。回答するかどうかはその時の私の思惑によりますが、回答自体は真実であることを保証します。回答することによって未来の道筋が減ってしまうことを避けたいのでご理解いただきたい。稀にこの世界のことについて干渉したい場合、私からあなたへ依頼を行うこともありますのでその時はよろしくお願い致します。ここまではよろしいですか。」
徳子が説明し終わった後竜馬は神妙な顔でうなずく。
「その祝福があればあの状況からは助かるんですよね?」
「そうでないと意味がないですからね。ただご自分でやっていただくことになりますが。」
え?と竜馬は徳子をみる。何か問題でも?と言わんばかりの徳子。
「与える祝福の意味が分かれば君ならきっと気がつけるはず。最初のアドバイスくらいはしてあげるけど。」
徳子はいたずらっぽく微笑む。
「それで祝福の内容ですが、『源泉』という祝福になります。源泉が機能している間あなたは事実上無制限に瞬間的に魔力を引き出すことができます。実際には限界があるのですが・・・この世界で使う限りは無制限と思っていただいて結構です。」
竜馬はその説明に目を見開いて尋ねる。
「え?可笑しくないですか?そんな無茶苦茶な力なんて。」
無限に魔法が使える。延々と魔力弾を撃つこともできるし、無限に物質すら精製できる。一人で世界を壊すことすら可能になる。
「ですので使用にはいくつか制限をかけさせていただきます。この祝福が発動するのはあなたが眼前にある課題を完全に諦めるか、その時のあなたの力で達成が不可能になった時です。もう一つ特殊な条件としてあなたが死に瀕した時に発動します。この力は常にあなたを助けるものではなく、今回のような無理難題にぶち当たったときだけです。この条件によってこれからあなたを幾度となく苦しむことになるでしょう。遥か高い壁にぶつかって挫折してしまった時、この力はあなたを無理やりその壁を乗り越えさせます。あなたはその挫折を背負って問題を先送りにしながら前に進み続けなけれなならないのです。」
神妙な顔つきで竜馬はその話を聞く。
「私の目的に沿わない限り発動は保証します。私利私欲にまみれすぎている時、世界そのものを破壊しようとする時は祝福は発動しないでしょうが、あなたの命自体は守られます。戦闘に無理やり勝つこと自体が私利私欲みたいなものですから、それが本筋になって無茶をしない限りは大丈夫です。世界を破壊することが私の目的そのものに反するのでどういう理由であれ行使できないと思ってください。ちなみにその祝福で私を倒そうとしても効果は発動しますし、こちらから供給を遮断することも有りません。むしろできるならそれを歓迎しますよ。それは私の思惑を越えたことでもありますから。」
徳子はくすくすと笑いながら説明するが、そんな力程度では自分を倒せないと言っているようにも聞こえる。
「要約すると祝福をあげるのでたまに私の手伝いをしてください。あと広く人類の強化に努めてください。ということです。お返事はいかがでしょうか。そうですね、あと40分くらいは悩んでくれても大丈夫ですよ。」
竜馬は考える。言っていることは理解を越える話であるし、そもそも彼女らの言っていることが胡散臭い。ただ、古のものが放置されてさらに被害が拡大するのも気になる。他にも色々問題点はあると思うが、洗い出すには時間が足りないと感じている。自分が断ればそのまま死んでしまうことを考えると受けたほうが得策なのだが、どうしても彼女らを信用することができない。15分ほど悩んで結論をだす。
「その話受けたいと思う。僕が受けなければ被害が出た後他人に渡るだけなんだろう?それなら今からの被害を食い止めたい。あと近藤のこともお願いしたい。怪しいことには違いないけど、今は近藤にいて欲しい。」
徳子は満面の笑みを浮かべた後、近藤の話を聞いてニャルを睨む。ニャルはそんな手は加えませんって前足を振りながらニヤニヤしている。徳子はジト目でニャルをしばらく見た後大きくため息をついてから竜馬に向き直る。
「では私の命においてあなたを使徒にします。この契約はお互いの同意の元でのみ破棄できます。私から、またはあなたから契約を一方的に破棄できないことを世界の根源の元に保証します。」
『監視の糸は流れる。その糸は世界において糸にあらず。糸は見るためにあらゆる現象を生み出す。』
『糸の端を彼のものに。糸の流れは彼の心を守るために流れる。』
徳子が朗々と唱え竜馬に指を指す。ニャルは見えない地面を一心不乱にカリカリと引っ掻いている。
「これで〈源泉〉はあなたに宿りました。どこかのだれかのせいで技術の進歩が少し飛びながら進んでいるせいであなた方には本来の流れで得られるはずの技術がありません。まず魔力を流す過程において圧縮に似たことがされていいないので短時間で放出する魔力が異常に低くなっています。まずこの技術を知ってさっと身につけてください。」
徳子が竜馬の手に触れながら竜馬の魔力を無理やり動かす。竜馬の中で魔力が妙な動きをしているように感じられるが、先程言われたように魔力を圧縮したり解放したりしているのだろうと理解する。なんとなく理解ってきて左手の方で自分で圧縮と解放をぎこちなく繰り返してみる。その様子をみて徳子がうなずく。
「しばらく試してみて瞬間的に大きく圧縮できるようにしておいてくださいね。慣れてくればより多くすばやく圧縮できるようになります。いずれ蓄積する段階で圧縮しておけば、蓄えておける魔力の量も上昇するはずです。魔力の流れを感じてもらうのに解放したりしましたが、通常解放する必要はないと思います。圧縮状態での運用に慣れてください。あなた方が今まで使っているような感覚で使用できるはずです。今からの問題になりますが、源泉の魔力はあなたの許容量の限界まで圧縮されるように供給されてしまうので、普段と少し運用方法が変わるので注意が必要です。癖みたいにやってる収束が必要無くなるだけですが。」
徳子は簡単に竜馬たちの水準で抜けている技術を補完していく。竜馬はそれらの技術のさわりだけを身に着けていった。
「とりあえずそんなものでいいでしょう。現段階でも古のものと余裕で戦えるだけの能力には至ったはずです。」
徳子は若干不満そうだが時間もないしねと打ち切った。
「いまいち実感がわかないけど。そもそもあの防御を抜けられるのでしょうか。」
竜馬は不安そうに尋ねる。
「現場でちょっと考えてほしかったけど、基礎知識的な話もあるから結論に至るのが難しいかなぁ。」
徳子は少し悩みながら、空間に手を伸ばしどこからともなくホワイトボードを取り出してさっさと絵を書く。ホワイトボードの真ん中に一本線を引いて、上側の領域に小さな丸を2つ書く。片方に竜馬くんと書き、もう片方に古とかく。自分と古のもののことかと竜馬は思っておく。古の丸に大きな丸を書き、下側の領域に同じように小さな丸と大きな丸を書く。下の領域の丸から上の領域の丸に矢印を引いて「置換」と書く。思い出したかのように上側の領域の端に「現実領域」と書き、下の領域に「輝霊領域」と書く。
「だいぶざっくりいうとこんな感じね。この輝霊領域の概念がないから古のものが何をしているかわからないのよね。」
徳子はホワイトボードマーカーで下の領域を叩きながら説明する。竜馬は首をかしげながら図を見る。
「現実領域と輝霊領域の間では通常不干渉なんだけど、魔法を使うと選択的に干渉できるようにできるのね。たぶん古のもの姿がはっきり見えていたから、光?というより波を干渉できるようにしてたんじゃないかしら。たぶん攻撃に使ってるのは太陽光みたいなのを魔法で束ねて使ってるんだと思うけど、正確には知らないわ。当然何も処理を加えていない魔法だと現実領域から輝霊領域に干渉できないから、古のものが見せている領域の端で攻撃が止められている感じね。輝霊領域動こうと思うと一旦置換部分を戻さないといけないから余裕ぶっこいて動かなかったんじゃないかしら。」
徳子が予想を含めて説明すると、竜馬は深い溜め息をついて知らないとどうしようもないじゃんと嘆く。
「相手の攻撃と同様の事を行うか、さっきみたいな音波攻撃はそのままでも有効だろうね。たぶん光線系には対策してるとおもうけど、音波までは考えてなかったみたいね。もしかしたら単体で強力なのを使われたら一旦隠れるつもりだったのかもしれないけど。」
徳子は現実領域の竜馬から輝霊領域の古のものへ波線を書いていく。
「現実から輝霊への移動術式はこうだから・・・魔法そのものを輝霊に移動させながら攻撃するのも可能ね。」
徳子は術式の実演をしながら解説する。
「そこまで分かればなんとか。後はなんとかしてみます。」
竜馬は古のものの戦いに向けてどうするか考えながら答える。
「それではご武運を、ていうほど苦労もしないと思うけどね。」
徳子は手をひらひらさせる。竜馬は意識が曖昧になっていく中、ふと思い出して尋ねる。
「あなた達の目的は一体何なんですか?人をなんとも思ってないように見えても随分丁寧に世話を焼く。」
「個体の進化過程の観察。生物的な進化の話でもなく、人が神になるような進化の話よ。ここは人が優れていて数が多いから優遇してるだけなの。他に宛があるならそちらでもいいわ。」
徳子は冷たく言い放つ。竜馬はやはりそんなものかとうつむいてこれからのことに意識を向ける。
「ただ、個人的にあなたは気に入ってるわ。期待してるわよ。」
徳子は満面の笑みで答える。竜馬はそれを見てきょとんとした顔を向け、逆にそれも怖いなと笑いながらこの領域から意識が消えた。
「あれに力を与えたのはどうニャのかね。どこまで先を見たか知らニャいけど。」
ニャルが徳子の肩に乗りながら聞く。
「正直あの子的には大変でしょうね。どこまで理解してもらえるかが一つの分岐かな。どちらに進んでも私達的には楽しめるところはあるよ。進んで欲しい方向性はあるけれどもね。」
徳子が正面に竜馬の戦いを映しながら答える。
「おー、怖い怖い。吾輩よりよほどえげつないことをしよるわ。」
「あなたに言われたくない・・・とは思うけれども、どんぐりの背比べよね。」
「ニャはっはっは。あの少年も災難よの。」
二柱は笑いながら戦いを眺める。
徳子さん介入。中度のショタコンさんです。
とある転生者の仕業で技術革新がとびとびで導入されてしまっていて、中間要素が意図的に抜けるように発展させられいる状態です。基礎技術なしに応用結果だけを与えられています。




