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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
如月竜馬の章 第一部2125年
14/50

二節:それは小さな小隊長

 2114年、如月竜馬は優秀な魔法医師である如月和馬の長男として生まれ不自由なく幼少期を過ごした。平均より高めの魔力を持って生まれ後継者として大きな期待を受けていた。2115年特定魔法師育成推進法が可決。才能ある子供を国家ぐるみで優秀な魔法使いに育てるという名目で発布されたが、国家主導の青田買い、現代の徴兵と揶揄されたこの法案は任意参加とされながらも施行10年目の事件が起こるまではほぼ強制的に参加を強いられた。2121年に7歳となった竜馬は魔法使いとして優秀であると判断され、親元から離され国家魔術学院に編入させられた。こうした事態は各地で起こり非難を呼んだが、強制的な編入で自由に帰郷することこそできなかったが、優秀な教育、規定時間内なら面会は自由と当事者の親子として不満が無いわけではないが世間がいうほど高くはなかった。竜馬も最初こそ不安に思ったが徐々にそれらは解消され勤勉に修練に臨んだ。集められた子供の中では突出して才能が会ったわけではないが、全てにおいて高い成績を収めた彼はトップにこそなれないものの常に10位以内の成績を修め、7年後にはその卒のない能力を買われて陸戦魔法小隊の隊長に上り詰めた。大人も交じる小隊員20名の殆どが彼の能力を侮り不満を述べたが、1年の間でそれを言うものはいなくなり周囲に認められていった。こうした編成はいくつかの部隊で散見されたが、どの小隊長も脱落することはなかった。


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「如月くーん。いらっしゃいますかー?そろそろお時間ですよー。」

 竜馬の副官である近藤義行准尉(36)はわざとらしく呼びかける。


「僕はすぐ下にいるだろが、いつもいつもお前がでかいからって馬鹿にしてー。」


 竜馬は近藤の太ももにむかって拳を叩き込む。竜馬の身長は142cmと一時期から伸びず低いままであった。対して近藤は大柄な男で210cmとかなり高めであった。


「集合の時間ですので迷子になっていないかとお迎えにあがりました。」


 近藤は深々と礼をするが、竜馬はやっぱり馬鹿にされていると不満である。


「僕が一度でも迷子になって時間に遅れたことがあるのかっ。」


 竜馬はしゃーっと牙を向く。近藤は、んー記憶にありませんねぇととぼけて見せた。


「緊張されて式典でドジふまれても困りますのでね。これで多少はほぐれたでしょう。」

 近藤は少し真面目な顔になり言葉を続ける。


「世間様ではあなたのようなお子様を隊長を据えることに懐疑的です。ここで失敗でもすれば彼らに口実を与えることになります。既存とした態度で臨んで彼らの口を塞いでいただき、国民に認めていただかなくてはいけません。」


 竜馬は嫌そうな顔をして口を尖らせる。


「一昨日くらいから幕僚長とかからずっとずっと同じこと言われてて耳タコにもほどがある。そこまで言われなくても僕らは理解ってるし、こんなところではつまずかないよ。ここで頓挫すると鍛えてくれた人に申し訳がたたん。いくよ、近藤准尉。」


 竜馬は自分のデバイスを持ち、先に歩き始めた。陸戦魔法隊としての共通装備であるスタッフ型に類する160cmほどの丸棒状デバイスである。近藤もデバイスを持って後ろに追従する。同じデバイスを持っているはずなのに自分とのデバイスとの対比が有りすぎて、隊長はかわいいなあと思わず吹き出す近藤がいた。


 新宿で式典行進のあとで陸上幕僚長からの演説。魔法隊は整列して静聴。


{こういうだるいパフォーマンスのときも内々でだらだらできるのは魔法のいいところですよねー。}


 近藤は真面目な顔をしながら不謹慎な念話を飛ばしてくる。


{戦闘中でないにしろお前はもう少し真面目にやれ。}


 竜馬は近藤に注意する。ついでに小隊員にも怒気を飛ばして気を引き締めさせる。ほんの少しだけ気配が変わった。名前も出てこない導きの女神を引き合いにだし、対外勢力から国民を守り国家を支えると宣言し演説を締めた。竜馬も国民を守ることについては依存はないが幕僚長の演説は長くてくどいと思ってしまう。政治的にも対外的パフォーマンスは必要だから仕方がないのだろうがと事情は察せなくもないのだが。この後お披露目用の演習のため国立競技場に移動する。とはいったものの広さを確保するために競技場事態は一旦別の場所に隔離されており、周辺は広めの広場になっている。指示にしたがって空中の目標に一斉魔法、空中機動からの移動目標に対する打ち込み。訓練の成果を見せるためとはいえこちらも見た目重視のパフォーマンスである。部隊としての演習が終わった後は隊長同士による模擬戦、という名の演舞である。安全の為ということもあって最初から最後まで手順は決まっている。相手が守ってくれればだが。そういう意味では自分の相手である矢崎昴三等陸尉(16)は不安な相手である。基本的にはいいやつなのに勝負事になると熱くなりすぎる。自分に成績が近いせいかやたらと突っかかってくる。正直うっとおしいとは思っている。何も起こりませんようにと何気なく神に祈り会場に移動する。


「引き続き陸戦魔法隊隊長同士の模擬戦を行います。始めに第4小隊矢崎昴三等陸尉と第8小隊如月竜馬三等陸尉になります。」


 アナウンスがかかり二人が演習場に進み出ると会場からはどよめきがでる。戦闘部隊に子供がいるという不自然な環境が世間に疑念を生んでいる。


「チッ。驚くくれーなら、おめーらでやれよ。やらねーから俺らが拉致られてんだろうが。」


 時期的にも当然矢崎も強制参加組である。親別れもひどいものであったらしく制度自体は相当なレベルで嫌っている。ただ、魔法部隊の仕事自体は嫌いなわけではないので積極的に参加している。何もしてくれない「大人」が嫌いなのだ。


「彼らも何も無く急に命を懸けろといわれたら、それは厳しいというものだろう。」


 竜馬はため息を付いて答える。


「だったら俺らは獣の中に投げ込んでもいいってーのかよ。おめーも相当いい子ちゃんだな。悟りすぎだろ。」


「それについては僕も反論しづらいな。」


 乾いた笑いを浮かべながら定位置に向かう。アナウンスでは竜馬達の略歴と優秀さを淡々と読み上げている。10m離れて相対しお互い礼をする。両者デバイスを構える。


「それでは始めてください。」


 開始のアナウンスと同時に矢崎が仕掛ける。彼の正面から火球が6発竜馬に向かって放たれる。それらは2m手前で散弾となって弾ける。竜馬は自分の正面に大きめの無形盾を展開し後ろに流さないようにすべて防ぐ。普段ならこんな無駄な防ぎ方はしないが観客がいるための措置だ。散弾の目くらましを防ぎながら反撃の魔法を執行。足元から4本の青白いラインが前方放射状に伸び内側二本は矢崎の前より左右から外側二本は少し遅れて後方左右から氷塊の槍を囲むように展開し襲撃する。矢崎はわざわざ相性の悪い火炎壁を周囲に展開しそれらを防御する。これらの攻防に遅れてそれぞれの攻撃と防御に関する解説がアナウンスされている。火炎壁が解かれて、矢崎が距離を詰めながら次の魔法を撃つ。正面から見えづらい風の塊が飛んでくる。これを無形盾に角度をつけ上方に受け流す。加えて背後から飛んでくる風の塊を別の無形盾で受け止めつつ、矢崎のほうに飛ばされる。矢崎はデバイスを右脇に構えて、飛んでくる竜馬に合わせて突きを行い接触する瞬間に大爆発を起こす。それを予定通り無形盾で受け止め上空に吹き飛ばされる。7mほど吹き飛ばされておいて衝撃エネルギーを魔法で霧散させて飛行術を起動して空中で静止。


『冷たき乙女は姿変わらぬの眠りへと誘う』


 竜馬は詠唱と共に魔法を起動。矢崎に向かってダイヤモンドダストが散りばめられた冷気の塊と領域をぶつける。矢崎の一部に氷の塊が付着しはじめて動きを阻害する。このまま2秒も動かなければ矢崎の氷漬けの出来上がりだが、魔法の中心から矢崎の姿が消える。その時点で魔法を解除。全周囲球状に無形盾を展開し、予定通りの場所をみて矢崎がいることを確認する。矢崎は案の定いらいらした顔をしている。攻め手と受け手が交互に入れ替わり、いちいち戦闘を単発で中座しながら行っているので双方やきもきしている。空中で相対しまた矢崎が魔法をうち、竜馬が防ぐ。そしてまた入れ替わる。パフォーマンス要素全開の攻防が追加で5手行われる。次の手順に入ろうとしたとき竜馬は不思議と気分が高揚していることに気がつく。型撃ち訓練のようなものだと思って無心でやっていたつもりだが面白くなってきたのだろうか。そうして矢崎を見たとき興奮しながら今にも雄を上げそうな顔をしているのを見てゾッとした。彼がこんな茶番を楽しむなんておかしいと。即座に竜馬は自己診断魔法を起動し、自身の心拍数が上昇し高揚気味であることを自認。自分周辺の自己治癒魔法と魔力探査を並行実行。高揚効果を排除する。その後すぐ、自分たちが展開している魔法以外に精神干渉魔法を検知。魔力の流れに意図的な隠蔽が施されている魔法で単なる悪戯にしては少し度が過ぎている。さらに範囲を広げて魔力探査を実行。そんな状態から矢崎の魔力が膨れ上がるのを感じる。


『煉獄の炎の欠片は炭を消し去るまとわりつく』


 矢崎のデバイスから4匹の炎の蛇が放たれる。予定と違って2本多い。正直勘弁してほしいと思いながら、竜馬は魔力探査を並行しながら別の魔法を起動する。


『火を喰らう霧の獣は静かにたゆたう』


 自分周辺に濃いめの霧がでて魔法的に視界を阻害する。これも本来とは違う手順。戦闘が見えにくくなるため使用魔法が変更されていたが保険で残しておいたもの。霧を炎の蛇に向けて伸ばし蛇を覆い尽くして急速に術式を解体して無力化する。周囲からは霧で見えないが術者は霧を見通せる。精神魔法の出どころを追いかけて観客を見渡す。追いかけた先で黒いセーラー服を着た少女と目が合う。肩に黒猫を載せた少女はこちらを褒め称えるようにのんびり拍手をし、軽く投げキスをしてからじゃあねと言わんばかりに手を振って踵を返した。竜馬は状況に恐怖した。隠蔽が施された魔法、それを追いかける動きをすべて知った上で待ち構え、見えないはずの霧の向こうからこちらの状況を認識して正体を見せてから撤退した。模擬戦をかきまわしてこちらをテストしていたかのように思える。


{本部。こちら竜馬。模擬戦中に精神干渉魔法を確認。被害は矢崎のテンション以外は軽微。術者は黒いセーラー服の少女。黒猫を同伴。関係性は不明。魔法の隠蔽具合と状況から5級魔道士以上と判断。術者の方をお願いします。こちらは予定を破棄して模擬戦終了手順を踏みます。}


 竜馬は非常事態が起こった場合の状況ケースどおりに本部に通達。矢崎に模擬戦強制終了の合図を送って大型の氷塊を7つ作成。矢崎も真面目な顔で対応して7つの火球を作成。手順通りに打ち合い相殺させて派手に爆発させて直下に着地。


「すばらしい模擬戦をありがとうございました。矢崎三等陸尉と如月三等陸尉に拍手をお願いします。」


 二人は周囲に丁寧に礼をし拍手で迎えられた。二人は足早に歩きながら会場からでる。模擬戦終了のアナウンスがされ次のプログラムの案内がされている。矢崎は気が付かずに精神汚染されていたことに歯がゆそうな顔をしている。本部のテントに戻って渡辺大隊長に報告。受けた魔法の魔力パターンを提出。観客を混乱させないため隠蔽術を使いながら低空から捜索ということになったが、3時間の捜索の上該当者は見つけられず一旦探索は打ち切られた。並行して式典は正常に終了し、新編成の魔法部隊のお披露目は成功したという形で終えられた。

現代陸自情報を参考にしていますが、こんなことはねぇという所は多々あると思います。

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