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けいおす・みそろじー  作者: 藍玉
平井徳子の章 2075年
12/50

序章結:継承される意思

 元の三界に意識を戻してきた徳子は世界状況を再確認する。魔力は即座に開放拡散したので今後の問題は大きくはない。竜族は撤退を約束させたので順次撤収が行われている。樹人達も主力二人との連結が切れたことを機に速やかな撤退が行われている。至高天から3000ほど天使兵を要請して樹人を全滅前提で追い立てる方向に話をつけておく。四界側は日和見だった世界を焚き付けて戦力を増強し反転攻勢して勢力圏から追い出した。旧ケルト領は完全に切り離されていたため、即座に奪還が不可能であったので後日対応ということでマーカーや罠の除去を徹底させ戦後処理をさせる。徳子が周囲に目をやると、部屋の中央当たりで男がニヤニヤしならこちらをみているのが見て取れる。なんとなく顔がいらついたので徳子は遠距離デコピンをして男をのけぞらせる。男は立ち直ってから何をするかと目で訴える。徳子はその顔がイラつくとさらっと返して今後の方針を考える。思いついたかのように男に向き直り指を刺す。


「いつぞや相談にのっていた話。今期の世界でやってあげるわ。」


 徳子は悪巧みをするような顔で男に告げる。男はそれに反応して目を輝かせながら首を上げる。


「よろしいのですか?あれほど渋っておられたのに。それは実行していただけるなら私は大喜びですが。」


「いくつか条件はつけるけど悪いようにはしないわ。さすがに世界のこともあるからすぐに呼ぶのは無理だけど、可能な限り早くするわ。取り敢えずその条件のすり合わせもあるから代表者の招集をお願い。」


「かしこまりました。あなたは?」


 男が承諾の礼を返し、厄介事を押し付けた徳子を礼をしながら上目遣いで見る。徳子は手をさっと振り、神職の千早衣装へと転ずる。そして楽しそうに笑みを浮かべながら告げる。


「三界の住民を引っ掻き回してくるわ。」


 男を見送ってから制御室で操作を行う。単独でできなくもないが世界内のことなら制御室の機能を使ったほうが無駄なく確実だからである。三界の住民すべてに空に自分の半身が見えるような幻覚操作をしメッセージを届ける。その布告を行うことでどれほどの混乱が巻き起こるだろうか。多くのものが死に、逆に助かるだろうと。過去の管理者達の知識からほぼ完全な予測は立っていたが目的の為には些細なことだと起こるであろう多くの不幸については考えないことにする。以前の自分ならそんなことは考えなかったろうが、やることが大きすぎて人単位の些事にまでは手が出せないと割り切らざるを得なかった。機能を稼働状態にして演説を始める。

 その時全世界の人々の目に神秘的な雰囲気を持つ女性が空に映った。多くのものはそれを見て直感的にこの世界を侵食していた苦境から助けられたと安堵したが、ごく一部のものは逆にその脅威から助けられたことに恐怖した。


『世界のみなさん。今この時を以って世界に訪れていた脅威は排除されました。』


 その優しい声はどんな言語で語られていたか誰にも理解らなかったが、その言葉は誰にでも理解できた。


『ですがこの世界は外の世界に見つかったことにより安全では無くなってしまいました。遠くない将来、再び世界は襲撃をうけるでしょう。』


 多くの人々は誘導されるように絶望した。


『ただこれより50年。あなた方が信ずる神々の力により大きな侵略からは守られます。』


 人々が神を讃えるも人の人生の半分にもならない時間しか守られないのかと嘆くものもいた。


『神々はすべての悪意からあなた方を守れません。神々はあなた方の祈りを以ってあなた方を救いますが、その祈りだけではすべてから守ることはできないのです。』


 神の無力を嘆くもの、全能の神に不可能はないと憤るもの、守ってくれることに感謝するもの反応はそれぞれである。


『あなた方に悪意から身を守る方法の一つとして魔法の力を享受します。この万能な力はおよそあなた方が想像するあらゆることが出来るでしょう。これは無個性な道具です。与え、守る力でもありますが、倒し、奪う力でもあります。全てはあなた方の心次第です。』


 人々はその性質に歓迎、怯えと様々な反応を示す。


『世界に襲撃以上の混乱がもたらされることは想像に難くありませんが、これがなければ50年後には外なる世界に無力に支配されてしまうでしょう。今の混乱以上の不幸があなた方に降り注ぐことになるでしょう。』


 人々は動揺し恐怖するが、戦う意思を見せるものもいる。


『神々と共に世界を守らんと立ち上がるものは〔我が導きの力と踊る〕と聖句を称えよ。後は流れ込む魔法の力があなた方を導くでしょう。遠くない脅威の為にあなた方の研鑽に期待します。』


 恐る恐る聖句を唱えて力を手にするもの。導かれるままに手のひらに小さな光をだす。光は人の意思によって動き、人々を希望と恐怖の渦に巻き込んだ。映像は消え、演説と力への入り口だけが残された。多くの人々は神々を讃え来たるべき恐怖と戦うことを誓った。少なくない人々は野望に燃え力を求めた。歯車は回された。新たな管理者の思惑通りに。


 徳子は演説を終えた後、肩を回しながら別空間へ移動しこれから来るであろう各世界の代表者との会合の準備をする。といっても空間を広げて固定化するだけで、テーブルも椅子も用意するつもりはない。誰が来るかもわからないのにそんなものつくっても無駄であると理解っていたからだ。最初に来たのはハスターだ。会場がどうなるのかわからなかったからか1mほどの小さな形状でやってきた。徳子が侵攻防衛やベスの派遣について礼をいうと触手をふって必要最低限だけだとそっけなく答えた。次に天照大神が入ってきてノリノリでハイタッチを求めてきたので徳子も元気よく応じてやる。男エルフに意趣返ししてくれたことにお礼を言われたが、徳子としても必死だったので状況が良かっただけだと返した。その後ぞろぞろと続けて神々が訪れ部屋の各所で落ち着く。多少荒っぽいこともあったが、記憶通りいつものことなので徳子は気にしないことにする。適当に揃った所でさっさと話を切り出す。とどめて置いてもろくなことにはならない。


〔手間を省いて念話にするのでどうか抵抗しないようにお願いします。まず管理者人格変更についてお知らせします。続いて管理方針の変更について。伝送幻覚を見たものも多いと思うので細かいことは省きますが、まず30年このまま見守りなさい。その後10年三界に現界しない程度の干渉を認めます。それ以後については世界を崩壊させない程度ならあらゆる干渉を認めます。崩壊の制限として、特定文明の5%以上の消滅。文明生活圏の30%以上の消滅。同70%以上の半壊。の範囲内ならあなた方の裁量で実行しても構いません。〕


 神々の間で動揺が起こる。神話と呼ばれる時代以降は原則干渉が禁止されている状態であるのに、突然神話時代並に好き勝手してもよいと言われたのだ。あるものは狂喜し、あるものは想像しうる結果に恐怖した。


〔あなたは世界を滅ぼすつもりか。〕


 ヴィシュヌは悲痛に叫びをあげた。


〔だから世界を崩壊させない程度にと言っているでしょう。間違ってもノリでシヴァに仕事させないようにお願いしますね。ただし、現三界に直接干渉しない世界ならどう扱っても構いません。〕


 再び動揺が起こる。六界人を抱える世界ならそれこそ自由に世界を創造できる。現三界に干渉しないなら好き勝手作って良いと言われたようなものだ。今まで禁止されてきたことが突然解禁されることになにか裏があるではないかと怪しむ。


〔今期は計画していたことが不可能になったのでガス抜きのつもりで好き勝手やろうということです。思いついた短期計画は消化していきますが、それは私個人の話になるので特に説明はしません。協力が必要な場合はその都度交渉ということにします。その代わり各界同士の干渉も肩入れするつもりはないので自衛の計画は仲のいいところ同士で早急に詰めておいてください。もう好きなよーうにしてください。〕


 徳子は向けられる目線に少し気だるそうに答える。


〔管理下にある世界に関する初期化再生については従来どおり機能させますが、理解っての通り記憶の再生まではできませんので大事な世界は厳重に守ってくださいね。〕


 茶目っ気たっぷりに通告する徳子だが、その実弱い世界は永遠に崩壊し続けるしか無いともいえる。


〔10ウェル以降の話になりますが、現三界の防衛事情に目処がついたら旧ケルト領の奪還だけこちらで企画しますので、その時は協力お願いしますね。なるべく3ウェル前には通達します。以上で今回の招集は終了になります。来られた世界には後ほど粗品をお届けしますのでお楽しみに。〕


 喜び勇んで帰るもの、不満たらたらで帰るもの、どうでもいいもの、不安でどうすればいいか悩むもの様々な事情を抱えて客員帰還していった。すべての神々が帰還したあと、その空間に残っていた徳子と首のないヒトガタであるナイアルラトホテップ。


「なにかご不満?大体理想通りになっていると思ってるのだけど。」


 徳子は首なしに語りかける。


〔不満などない。これからどれだけの混乱がすべての世界に巻き起こるかと思うだけで身が震えるわ。〕


 それはなによりと徳子は告げる。徳子はナイアルラトホテップに近づき肩に手をやって言う。


「ただ、あなただけは野放しにしておけないんですよね。前科があるからわかりますよね?取り敢えず今すぐ、ここに、トラペトヘゾロンをすべて出しなさい。」


 徳子は肩を掴む手に力をいれてナイアルラトホテップを脅す。仕方がないと手でオーバーアクションすると部屋に無数の輝く正四面体が現れ、それらは一つに統合される。徳子はそれを拾い上げて胸元にいれてナイアルラトホテップを見る。ナイアルラトホテップはもう無いと言わんばかりに懸命に両手を振る。それを見て徳子は正四面体からコピーを一つつくりナイアルラトホテップに投げて渡す。


「一つもないと流石に困ることがあるかもしれないからそれだけ使用を許可するわ。」


 徳子は不敵な笑みでナイアルラトホテップを見つめる。


「アザトースの招請準備が整うまであなたは各制御室と分室の管理防衛任務を与えます。後私はしばらく三界を見て周るつもりだから、旅行中のあなたの所業の確認用も含めてお供に一人よこしなさい。」


〔ちょっと扱いがひどくないですか?私としては忠実に守ってたはずなんですがね。〕


 ナイアルラトホテップは自分の扱いについて不満を述べる。


「その忠実な努力と今までとそしてこれから企んでたことを秤にかけたらどちらが重いか明白でしょ?全部白状する?」


〔それを言われるとどうしようもないですなぁ。謹んで任務を拝命致します。〕


 最初に見たエセ紳士のような格好に変わり慇懃無礼に礼をする。徳子は手の指をぽきぽき鳴らしながら


「ちょっと動かない駄竜にお仕置きしてくるわ。」


 と転移していく。ご随意にとナイアルラトホテップは答えて見送り、自分の計画の修正と主の帰還への楽しみに小躍りし胸を躍らせるのだった。


 富士山麓の森で竜皇は凪の亡骸を見て久しく感じなかった悲しみに包まれていた。遠い昔の約束を果たすためだけに体を明け渡してきた友だったものを見て、なぜ生き延びてくれなかったのかと、なぜ助けを求めなかったのかと。自暴自棄でもなく、鬼人特有の誰かが引き継いでくれればよいという竜皇には理解できない考えが憤りを呼び、そしてまた悲しみに包まれる。控えていた金龍には全軍の撤退の指示をまかせ、再び亡骸を見つめる。傷をつけ合うほどではなかったが、あの時友はその時の全力で戦おうとしたのだと。そしてその戦いに自分は勝利したのだと言い聞かせて、悩んだ末に友の亡骸を喰らった。その時に左手からきらびやかな少女が現れる。竜皇の知識の片隅にもあった高天原関連の神職装束だったか。ちらりと見つめて友であった凪の後継であると理解する。この娘が凪に生を放棄させたのかと思うとどす黒い怒りが湧き上がってくる。口の中にあるものを噛み締めながら少女を睨む。少女も怒りに体を震わせながら竜皇を睨む。少女の姿がぶれ、竜皇の目の前に現れ、


〔その口に入っとるもんを吐き出さんかぁー!〕


 中央の首を拳で思いっきり殴り飛ばした。しゃんっと小気味よい鈴の音と共に竜皇の頭は思いっきり右の首にぶつかり、その衝撃で口の中に残っていた足首を吐き出す。足首は地面を勢いよく転がるが、それに追いつくように徳子は足首を抱えあげて大事そうに抱く。そして再び竜皇を睨む。


〔どうして凪くんを殺したぁ!〕


〔それはお主が一番理解っておろう。正式な戦いの結果、わしが勝った。そして報酬を得た。むしろお主こそその体の欠片を返さんか!〕


 徳子が叫び、竜皇が叫び返す。徳子は悟ったかのように無表情で立ち上がり、左手の鈴をシャンっと鳴らす。徳子の額から10cmほどの一本の角が生え、虹彩が闇色に染まる。竜皇はその姿をみて正面に向き直り、両脇の首が吠える。


〔やるのか。〕


〔やらいでかっ。〕

 徳子答え、右手首を返し鈴を鳴らし唱える。


『その剣は母を害した子を切り罪に濡れ』

『太陽のたる姉の疑心を弟の誓いに変え』

『誓いは力に奢るが法により縛り』

『その身の力は剣に宿り龍すらも切り裂く』

『我が手に集え、天羽々斬』


 左手を振り上げ重ねて唱える。


『その刀は鬼の手にあり人を斬る』

『その刀は人の手に渡り鬼を斬る』

『鬼に有りても人に有りても力を携え敵を斬る』

『三振りが一つ我が手に集え、大通連』


 その3秒ほどの出来事の間に竜皇の三首は大きく息を吸い込み。


【Auflösungsatemzug】 溶解ブレス


 竜皇前方120度に展開する円錐状の水滴と泡の混じったブレス。触れたものを即座に分解し消滅させる酸のような粘性液体で構成されている。落ち葉と地面を蒸発させながら徳子に迫る。徳子は少し嫌そうな顔をしながら左手の大通連を下手に下げ一気に振り上げる。


『風纏て絡み、回りて巡り、流れて捕らえる、剣気縮風』


 切り上げた先から飛び出した拳大の土煙の塊は1mほど進むと急激に巨大化しブレスの動きを吸い上げるように巻き込み竜皇に迫る。竜皇はブレスを止め、右の首が吠える。


【Silberne Schuppen zum Blockieren】  遮断する銀鱗


 竜皇の体から飛び出たかのように広がった傾斜のついた銀色の壁はブレスを巻き上げた風の塊を上空へと誘導し弾いた。弾いた直後に飛び込んできた徳子は右手の剣で銀鱗を上から唐竹割にし、左手の刀で竜皇の左首をかち上げ、右手の剣を竜皇の左首根本に向かって切り上げる。竜皇は狙いに気がついて右回転気味に後ろにバランスを崩しながら尾を正面の徳子に向かって振り回す。剣の狙いは少しそれ竜皇の左首中程あたりを寸断する。徳子は尾の接触を刀で受け止めつつ尾の動きに合わせて飛び退る。2m先で尾から刀が離れた所で真下に落ちて着地。切られた竜皇の左首切断跡の肉が盛り上がり即座に新しい左首が生えてくる。徳子が右手の剣で竜皇を指しつつ叫ぶ。


〔女の子相手にいきなりメルトブレスとか変態かっ。〕


〔女の子とかいう体ではないだろうに。そもそも貴様らの体なんぞ興味もないわ。貴様こそいきなり首元から切り捨てようとするとかどういう了見じゃ。〕


 竜皇も折り返して文句をつける。そうしないといくらでも生えてくるじゃないと徳子はどこ吹く風でつぶやく。竜皇は右手に力を込め、それを感じた徳子は右手を突きに構え竜皇に飛び込む。竜皇の右手が振られると30の爪撃が隙間無く重ねられ徳子に迫る。爪撃が徳子の体を通り抜けると数多の肉片になり、剣が慣性に乗って10cm進んだ頃に徳子の全身は何事もなかったかのように再生され、そのまま剣を竜皇に突き刺し、ひねり上げて中央首まで跳ね上げ、空になっている左手を竜皇の体に添えて発勁のように踏み込む。


『血を止め、魔力を止め、意思を止める。全ては忘却の彼方へ。』


 体を衰弱させつつ意識を停止を奪い精神の死へと至る魔法。竜皇は倦怠感につつまれつつ左手で徳子の肩をつかみ、えぐりそのまま左方向に投げ捨てる。


『我が意思が止まる時、我が意志を反復する。』


 竜皇は魔法の進行は止めずにそのまま完了させ、止まった意識を放棄し、複製した意識で上書きする。吹き飛ばされた徳子は空中で体制を立て直しつつ樹の幹に降り立ち、肩の傷を再生し、左手で虚空から布を掴んで払い千早を着直す。そのまま木の幹に立ったまま、爪撃で飛ばされた大通連を左手に呼び戻す。


〔およそ先程のブレスを変態よわばりしたものの行動ではないよなぁ。〕


〔やだ、恥ずかしいわ♪〕


 徳子はひとしきりくねくねしてから樹から竜皇に向かって飛び込み剣を振りかぶる。竜皇はその時点で飛び退るが右頭部を少し切られる。徳子は剣を振り切る。地面に着地。着地と同時に右の首が吠え、徳子の地面が陥没。徳子はそのまま地面とともに下げられる。


【Kiefer zerdrücken】 すり潰す顎


 陥没した地面の壁面に無数の歯が生えてきてそのまま穴が変形して中にあるものを潰す。歯ぎしりをたてるようにすり潰す。10秒ほどがりがりしていた所で急に地面の動きが止まり、元通りの穴に戻る。徳子は竜皇の後ろに現れ、右首を切り落とそうとするが間に入ってきた尾に阻まれる。剣が尾の肉に食い込むが中程まで行った所で金属質なものに阻まれる。


〔竜は切れても剣は切れぬのだろう?〕


 右裏拳を徳子に打ち込み接触と同時に魔力的な網で絡め取り、地面に向かって叩きつける。そのまま上空に飛び上がって徳子に向き直り吠える。


〔さぁて前回のおさらいじゃ。ちゃんと生き延びるんじゃよ?〕


【Zersetzungsatem】  分解ブレス


 竜皇の三つ首から放たれる白い粒子状のブレス。白い粒子でありながらブレスの通り道は光すらも消滅し黒くなる。視線も空気も、空間すらも削りながら徳子に迫る黒い円柱。徳子は悩む。回避するだけならできなくもないが、それでは星への被害が大きすぎる。修復するこちらの身にもなってほしいと思いながら、やはりめんどくさがらずに隔離結界を使うべきだったかと反省する。体から魔力を放出し巻き付いた網を寸断し、吹き飛ばす。


『巡り巡る道、今は表、次は裏、表裏一体の道は延々と巡る。』


 指定した空間を捻じ曲げ白い粒子の動きそのものを空間ごとループさせる。空間を削りながら動く粒子の軌道を誘導しながらループ空間を収束させ最終的に一点で動き続ける状態にまでにする。対処されて意味が無くなったので竜皇はブレスを止めて地上に降りる。

〔ふむ、ちゃんと対処法は考えておったようじゃな。〕


 左の首が吠えて無数の火球を生み出し徳子に放つ。徳子はすっと刀を持ち上げると、周囲が水たまりのようになり、そこから伸びでてきた無数の触手が火球を払う。まれに徳子の足に絡みついてるものがあるが、徳子は無感情に刀で切り捨てる。右の首が吠えると徳子の上方から落雷が落ちてくる。徳子は落ちてくる気配と共に反応し刀を振るう。地面から金属質の糸が伸び徳子の周りを覆って雷を受け流す。ため息を付いて竜皇を見る。


〔まだ頑張る?〕


〔今回はここまでじゃな。もう魔力が残っておらんわ。もう少しやりたかったが急ぎで出てきたから手持ちが少なかったわい。〕


 竜皇はしょうがないといった風に構えを解く。左の首は強気だが、右の首はげんなりしている。


〔それにしても凪みたいな戦い方をしおって、お主も同類か。〕


 竜皇は少しだけ疑問に思って尋ねてみる。


〔私は調整していないのもあるけど自分の戦い方はしてないわ。あの戦い方をしたのは私が成る前の凪くんの戦いの意思を少しだけ繋げてあげただけよ。そうよ、力さえあれば負けなかったのよ。そうでもなきゃ、あんな再生任せの力押しなんて・・・服も残らないし恥ずかしくてしかたがないじゃない。〕


 徳子はふくれっ面で竜皇の質問に返す。


〔そういうもんか。まあ、先の楽しみが一つふえたの。〕


 竜皇はカラカラと笑う。徳子はそんな竜皇を見て、凪の足首を魔力体に包んで竜皇にふんわりと投げ渡す。


〔気に入らないけどそれはあなたのものだから返すわ。その代わりこっちはもらっていくわね。〕


 と視界の隅にあった竜皇の左首に天羽斬々を突き刺して持ち上げる。


〔むー、仕方がない。今回は特別じゃぞ。〕


 竜皇は指差すが、徳子は正当な報酬です、とべーっと舌を出して反論した。


〔気が済んだならそろそろ戻って頂戴。準備の為にもうちょっとだけ閉じ直しますからね。忙しいのよ。〕


〔しょうがないのう。では、新たなる友よ。また会おうぞ。〕


 竜皇が羽ばたくとその姿はぼやけるように消える。次のお茶会には会えるわよ、と消えゆく姿に手を振り見送る。世界から気配が消えたことを確認し、制御室に転移する。制御室でナイアルラトホテップに出迎えられ、首を部屋の隅に転がし、武器を送還する。虚空に手をやり作業を進める。


〔首を一ついただけるとは景気のいいことで。〕


〔孫の就職祝いみたいなものじゃない?ちょっと目についたからふっかけたつもりだったけど。〕


 ナイアルラトホテップと他愛もない話と今後の悪巧みの話をしながら外世界との断絶作業を完了させる。


〔あとは旅行用の姿見を、〕


 と次の作業に移ろうとした時に世界に転生者の出現を確認する。え?っと不思議に思いナイアルラトホテップをジト目する。ナイアルラトホテップは関係ないと全力で手を振る。じゃあ、と思いながら首をかしげると部屋の隅にある樹木が目に入り、それだ、と指を指す。ナイアルラトホテップも少しおどけながら驚き、これは申し訳ないと個別に封印を施す。


〔それをマーカーにされちゃったか。あの婆さんも仕込みが早いわねぇ。世界に根付いたものは仕方がないし破綻するまで不干渉ということで。もしかしたらうまい具合に歯車が噛み合うかもしれないしね。〕


 若干だけ不安要素はあるものの概ね楽しみができたと歓迎する。そしてナイアルラトホテップと雑談、指示をしながら作業を再開するのだった。


-------------------------

 その後10年世界は魔法のせいで大混乱に陥る。既存の武器とエネルギーは徐々に無力化していき魔法に置き換わっていく。暴力、犯罪が激増し法と国家は身動きが取れず無力化した。魔法の開発が進んださらなる10年で各国家は力を取り戻し治安は徐々に回復していった。魔法が発展して余裕がでてきたその後の10年では世界大戦が勃発。世界に大きな傷跡を残しながらも魔法の力はさらに大きく発展した。戦争のさなか人外生命体が各地で散見され、人類に脅威を与え始める。人々は30年前の恐怖を思い出し、戦争は勝者なきまま和平が締結され人外種への対応へと追われる。人類に友好的な種も少数いたが、大多数は敵意をもって人類に接触してきた。人類も人外種に対して敵対行動を取るようになる。友好的な種は早いうちに協定がむすばれたが、数年は差別され、それが世界で禁止された後でも差別は少なからず残った。それでも50年目の脅威のために両者は少なからず手を結び共闘していくこととなった。そして約束の50年目の10月を迎える。


 徳子は若めの姿に黒いセーラー服を着て新宿に降り立つ。


「今日は人外種対応部隊のお披露目ですってよ。どうですかニャルさん。」


〔ARFでしたっけかニャ。実質訓練のみでどこまでやれますかニャー。〕


「まあ、多少準備不足は否めませんがなんとかしてもらわないとねー。」


 徳子は肩の黒猫と話ながら、雑踏を歩く。世界には魔法が溢れ始めている。その動きを感じながら、対応できない敵が来ることですら楽しもうと人々の様子を見ながら練り歩く。


「うぇるかむ、けいおすわーるど!さぁ足掻け。私は見ているぞ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 吾輩は猫である。名前はニャル。名前は無数にありすぎて提示するのも億劫であるので割愛させていただく。もっともこの場ではあまり意味のないことであるので気にしないでいただこう。

 最近就任した鬼上司の付添を命じられ世界を行脚している。怪しい事件をみつけるととりあえず吾輩の性にして怪しんでくる。実際3割ぐらいは吾輩の仕込みでだったのであるが、全てを吾輩の性にされるのはひどいものである。とはいえ確認するだけでよほどひどいと思われたものでなければ見逃されるので苦労が水の泡になるほどではない。くくく、これらがすべて成功した暁には・・・ああ、そんな言ったそばから通報しないでくださいまし。上司は人の進化の為に動いておられる。上司にとっては人間も神も悪魔も自分も含めてすべからく「人」である。以前は計画的な進化を目指していたが、今は世界をごった返して偶発的な進化に期待する所である。これは吾輩の進言である。計画的にちびちびやるとかめんどくさいではないか。環境変化を強めに与えてどっと大きな進化を狙うほうが良いであろう。加減を間違えると全滅してしまうが、さもありなん。何分我々には時間と資源だけは山程ある。世界の一つや二つやり直してしまえばいいのだ。痛い痛い、耳は耳は勘弁してください。痛覚など遮断してしまえばよいのだが、この体許可がないと力の行使を許されておらず非常にめんどくさいのだ。上司は人にも世界にも優しいつもりのようだ。だがそれは資源は限界まで使い倒すと言っているようなものだ。すっぱり切り捨ててやるのも慈悲というものであろう。どちらがひどいかは意見は分かれそうなものだが、吾輩は吾輩で事を進めるだけよ。さぁ足掻け!吾輩は見ておるぞ!ニャー

序章は徳子が鬼人圏の管理者になるお話になります。本編の最初は徳子に選ばれた少年が苦労して右往左往しながら頑張る話になる見込みです。短編でまとまったら投稿になるので間は空いてしまいますが出来るだけ進めたいと思います。ここが変だとか知りたいとかあったらまとめて投稿するかもしれません。ぼちぼち宜しくおねがいします。

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