序章:世界は如何に侵食されたのか
我輩は猫である。名前は無数にありすぎて提示するのも億劫であるので割愛させていただく。もっともこの場ではあまり意味のないことであるので気にしないでいただこう。
本章では本人との世間話ととある記録から読み解いたものを、我輩なりの解釈で語らせてもらうつもりである。さしあたっては主人公たる者が巻き込まれるにいたり、世界の状態を記録から抜粋したものと合わせながら説明させていただこう。
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西暦2072年4月 ロシア、巨大なの原生林上空2500mに100mほどの「二次元の黒い円」が発生する。
円は二次元というべき厚みのない円であり、物質他、光、電気、電波あらゆる地球上の物
体、現象を透過せず、それでありながら側面からはまったく観測できない正体不明の存在
であった。以後「黒円」として呼ばれ、観測対象となる。
西暦2072年5月 黒円より地球上観測されない生物が「落下」した。体長40mにおよぶ羽の生えた蜥蜴。各地にのこる伝説の生物に似たそれは第一印象の通り「竜」と呼ばれることとなり、ロシア軍によって秘匿され研究が進められる。
西暦2072年11月 秘匿された竜の情報が世界各国に漏れ、国家間の論争が始まる。
西暦2073年8月 対立が激化する中、黒円より塔の様な建造物が落下。そこから500体におよぶ爬虫類人が現れ周辺を征圧。以後地球人類と敵対することとなる。
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爬虫類人は地球上における中世のような剣、槍、鎧を装備した姿にもかかわらず、ライフル弾を防ぎ、戦車砲をもしのぎ、有毒、生物兵器にすら対抗したそうな。当時の人類からも「魔法」として認知された彼らの力はたいそう恐れられたろう。
後々この世界にも浸透する魔法という法則は自然物理法則に優越する法則であるゆえ、それを知らないものにとっては害を与えるのは非常に困難であるといえよう。もっともすべてを無力化できるわけではないので爬虫類人にも少なからず被害はでていた。だが、その後増援として現れる爬虫類人、竜種は日々増え続け人類の抵抗むなしく「彼ら」の支配地域は加速度的に増大していったのだ。
塔を中心に1000km圏内を支配下に置かれたころ、人類は戦術核の使用を決断し執行した。が、少々遅すぎた。爆発による損害は地域のわずか0.1%程度。本来消え去るはずであった森ですら破壊することなく役目を終えた。残留放射能により追加の被害を与えてはいたが、それも三日後にはきれいになくなったそうな。愚かなる人類はたいそう混乱したであろう。
この事件が起きた後、爬虫類人は支配地域を飛び地でつくるようになり、何かを探すように周辺を動き回った。人類も3ヶ月は激しい抵抗をしたが、徐々に抵抗を減らし、爬虫類人の勢力圏から撤退をしていった。
人類としても幸いであったことは彼らに害を与えようとしなければ、好んで襲い掛かってこなかったことであろう。探し物をしているようなので出会うことはあったが、速やかに逃げていれば殺されることはなかった。
人類は更なる混乱を迎える。。
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西暦2074年3月 日本の種子島上空1000mほどに直径50mの黒円が出現。
西暦2074年4月 日本の黒円より地球人類に似た生物が現れる。物語に出てくるような尖り目の耳をもつ彼らは「エルフ」と呼称される。周辺地域の制圧を始める。
西暦2074年7月 抵抗を試みるも爬虫類人と同様に戦果はほとんどなく、抵抗は中止される。
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鹿児島の南端を制圧した彼らはその後、人類生活圏を避けるように飛び地を作りながら北上。当時島根県出雲付近に展開していた爬虫類人と衝突。見るものによっては花火をぶつけ合うような大規模な戦闘が行われた。その時はエルフが勝利を収めたものの、以後は日本海沿岸を一進一退の攻防が続いていった。
エルフは中国山地沿いに京都圏まで支配地域を広げていったが、人類とは基本不干渉で爬虫類人との戦闘がほとんどであった。しかし、彼らもまた周辺で何かを探索しているような動きをみせていたのである。
爬虫類人もヨーロッパ方面の進出を緩め、日本中部を制圧しつつエルフに対抗するように支配地域を広げていった。
ということがあってだな。地球人類としてはたまったものではないだろうが、手の出しようのない生物が潰しあっているのは歓迎していたようであるな。どちらにせよ対話もしようがなく見ているしかないのが事実である。
翌年2075年3月10日広島の厳島で「彼」が目覚め事態は収束する方向に向かっていくのである。と、そんなところで彼らの動きを追っていこうか。




