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祝福の赤い月  作者: violet
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祝福は赤い月夜に始まった

ラヴィダルは、眠るオリビアの横についていた。

「血を取り過ぎたか。」

そっとオリビアの手を取り、握りしめる。


魔力は変わらない、変わったのは身体だ。

ツェールに斬られた時、今までは瞬時に傷が消えた。

なのにあの時は、オリビアの血が必要だった。傷の治りが遅い。


いつか自分がいなくなる時が、来るのかもしれない。

その時の為にも、獣人達の居場所を作っておきたいと思う。


できれば、オリビアがいつか寿命を(まっと)うした時に、一緒に逝きたいと願う。






「見てくださいな。私が作りましたのよ。」

ラヴィダルに手作りのケーキを見せているのはオリビアだ。

「今日は、これでお茶にしましょう。

庭のテーブルに用意させてますの、早くいらして。」

午後のティータイムはすっかり定着した。


「このお茶はいい香りですね。」

「デリスの出身地の特産なのですって。

これを大々的に宣伝したら、売れると思うの。」

どうやら、オリビアは世界征服を諦めたようだが、大公領の特産品を広める事に力を入れるらしい。

開国した時の為に用意をしているらしく、カイザルにお使いをさせている。

ウェザラードの侵攻から数カ月が過ぎ、オリビアとラヴィダルは穏やかな日々を過ごしていた。


「今日は、ラヴィ様にプレゼントがありますの。」

「ほう、なんだい?」

そう言って、この前はお揃いの指輪を出してきた。

いつの間にか、作らせていたらしい。


「ラヴィ様が喜んでくれると嬉しいのですが・・」

「オリーのプレゼントを喜ばないなんてありませんよ。」

あの、と言ってオリビアが俯く、少し頬が赤いようだ。


「どうしました?

顔が赤いですね、熱があるのではないのですか?」

「いえ、お医者様にはまだ診てもらってないのです。」

オリビアの言葉で、ラヴィダルが立ちあがる。

「アート、医者だ。

オリー、どこが痛いんだ?」

家令を呼び、今にもオリビアを抱き上げて、室内に入ろうとする。


「ラヴィ様、赤ちゃんができたのです!」

あわててオリビアが声をあげた途端、ラヴィダルの動きが止まる。


「ラヴィ様?ダメですか?」

反応のないラヴィダルに、不安になったオリビアが聞くと、ラヴィダルが、オリビアを抱きしめた。

オリビアがラヴィダルの顔を見上げると、瞳が潤んでいる。

「ありがとう。」

それ以上の言葉が続かないようだ。


「夢のようだ。僕の子供。」

こわごわに、ラヴィダルがオリビアの腹を触りにくる。

「まだ、医師には診てもらってませんが、多分。」

腹にあるラヴィダルの手の上に、オリビアが手を重ねる。


「きっとね、小さな赤ちゃんがいますの。」

ふふふ、と笑うオリビアに見惚れるラヴィダルだが、思いだしたようにオリビアを抱きあげて室内に向かう。


「外など、冷えるではないか。

大事な身体だ、すぐに医師に診てもらおう。」

オリビアがラヴィダルの胸に頭を預けて言う。

「赤い満月の夜に生まれてよかった。

だから、ラヴィ様と会えた。」

「君こそが奇跡だ。僕の女神だ。」

二人の視線が絡まり、ラヴィダルのキスがオリビアの唇に落ちてくる。


オリビアが生まれるのを、待っていた。長い時を待っていた。

もう希望はないのでは、と思いもした。

はるか昔から、この日は始まっていたのかもしれない。それに気がつかなかっただけだ。

赤い満月の夜が運命の時だ、とラヴィダルは思う。



医師の診察を受け、妊娠が確定すると、ラヴィダルはオリビアが歩くことさえ心配しだした。

「心配してくれて、ありがとう。

だから、頑張って産むために散歩してくるね。」

運動、運動とラヴィダルを連れて部屋を出る。

「一緒に散歩してね。」

あれは、初めて見る花ね、これは何、と話をしながらオリビアとラヴィダルが歩く。


ラヴィダルは赤ちゃんがお腹の中で動いた、といっては喜び、ベビー用品を際限なく揃えてはオリビアに呆れられた。

そして、とうとう出産の日を迎えた。



満月の夜、オリビアは男の子を出産した。

「可愛い、可愛い。男の子だ。」

オリビアのベッドの横でラヴィダルは赤ん坊を眺めている。

「ありがとう、オリビア。

僕と同じ瞳の色だ。僕に子供が出来た。

よく頑張ってくれた。」

瞳だけではない、髪の色も、顔形も同じだ。

ラヴィダルは感動が止まらないらしく、瞳を潤ましたまま、オリビアの顔にキスをしている。

「オリー、君は綺麗だ。」


赤子は小さな手で、ラヴィダルの指1本を握りしめている。

「小さな手で、一生懸命生きている。

これを幸せというのだと、実感するよ。

君に幸あれ。」

ラヴィダルは赤子の額にもキスをする。


「オリー、君が僕に全てを与えてくれる。」

この奇跡は、赤い月の力かもしれない、ラヴィダルは思いながらオリビアに話しかける。


「ラヴィ様が好きだもの。」

オリビアの手がラヴィダルの頬に添えられる。

「ずっと一緒よ。」

オリビアが言うと本当になる気がする、オリビアはラヴィダルを置いていかないと思えるのだ。


オリビアとラヴィダルの小さな幸せを、夜空の月も祝福をしているようだった。




それから(しばら)くして、ラヴィダルのもとに、ツェールの戴冠式の招待状が届いた。

カルデアラ王国に、ラヴィダルとオリビアが子供を連れて、姿を見せる事になる。


時代が変わろうとしていた。

これにて完結になります。

甘いお話を書きたくて始めましたが・・・・どうしても、それだけで済まない・・

楽しんでいただけましたなら、嬉しいです。

お読みくださり、ありがとうございました。

violet

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