第8話 自分が納得できる結論を出して欲しいぜ
さぁ、浅葱はどうするのか。
どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!
浅葱はショックを受ける。元の世界に帰ったら、この世界の記憶が失われてしまう事に。
浅葱にとって、この世界での出会いや経験は、まるで宝物の様な大切なものだった。
いつかは元の世界に戻る。そう心の奥底で思っていた。だから期間限定の、特別な時間の様に感じていた。
だから、この世界での出来事はとても良い思い出になるだろうと思っていたのだ。
ロロアたちとの別れは勿論とても悲しいだろう。
だが浅葱はこの世界の人間では無い。言うなれば異物だ。
この世界の人たちは皆、快くそんな浅葱を迎えてくれた。異世界の人間だと言う事に驚きつつも、すぐに受け入れてくれた。
そんな懐の深さ、広さは本当に有り難く、仲間に入れて貰っていた。
それはとても楽しく、嬉しいものばかりだった。
それが全て、無かった事になるのだ。何も無かったかの様に、元の生活に、あの御神木に触れたその瞬間から再開されるのだ。
確かに浅葱は覚えていないのだから傷にはならないだろう。時間だって遡るのだから。
しかし。
「忘れるなんて、嫌だ」
そう零していた。
「アサギちゃん、ゆっくり考えてくれて大丈夫なのよぉ。この錬金術はねぇ、アサギちゃんと私とこの術具があれば、いつでも出来るものなんだからねぇ。お願いねぇ、アサギちゃんが後悔しない様にしてちょうだいねぇ〜」
チェリッシュの優しい言葉に、浅葱は「はい」と呟いて頷く。
「アサギさん、僕もそう思いますカピ。僕はアサギさんがこの世界に来てくれて、本当に楽しい日々だったのですカピ。なので、出来たら僕たちの事を忘れずにいてくれたら嬉しいのですカピ。ですが、アサギさんは本来なら別の世界の方なのですカピ。帰りたいと思われて当然なのですカピ。なので、僕はアサギさんの選択を支持するのですカピ」
「ああ、俺もだ。自分が納得できる結論を出して欲しいぜ」
「……うん」
ロロアとカロムの真摯な言葉に、浅葱はまた頷いた。
「直ぐに結論なんて出せないよ。僕もこの世界に来てから楽しかった。沢山の人と関わって、お料理もして、少しだけ手助けなんて事も出来て、喜んで貰えて、僕も嬉しかった。それが無かった事になるのはやっぱり嫌だ。でも元の世界も気に掛かってる。だからちゃんと考えるよ」
浅葱が言うと、ロロアもカロムも、そしてチェリッシュも、笑みを浮かべて頷いた。
結論。
それは確かに出すのが難しい事だ。
しかし、今の浅葱が大事な事、それを考えると、もう決まっているとも言える。
「チェリッシュと術具と浅葱があれば、いつでも帰れる」
それもまた、浅葱の答えを後押ししていた。
しかし、こんな大事な事をそんな簡単に決めてしまって良いのだろうか。それが浅葱の気持ちに歯止めを掛けている。
その日はもう1日、チェリッシュの村の宿で世話になり、その翌日の朝に村を出た。
家のある村に向かう馬車の中でも、浅葱は悶々と考える。ロロアとカロムは静かに待っていてくれた。
ふたりは浅葱がどんな決断を下しても、それを受け入れてくれるだろう。
だからこそ、安易に決めてはいけないと思っている。
途中の村で昼食を取ったり、休憩なども挟み、村で食材の買い物などもして、家の近くまで戻って来ると夕方に近かった。少し陽が陰って来ている。往路よりも時間を掛けていた。
家が見えて来ると、前に馬車と人の影が見えた。おや、誰だろうか。
近付いて行くと、馬車の中からレジーナ、そしてオリーブが顔を出した。
「お師匠さま!?」
ロロアが驚いて声を上げる。レジーナたちの馬車の横にカロムが馬車を停めると、レジーナたちが降りて来た。浅葱たちも荷物はそのままに、慌てて降りる。
「やぁ、ロロア、アサギ、カロム。会うのは久しぶりだね」
「ロロアちゃん、アサギくん、久しぶりね! カロムくんは初めましてね!」
「お師匠さま、ご無沙汰しているのですカピ。今日はどうされたのですカピか? あ、お待たせしてしまってご免なさいカピ」
「何を言っているんだい。勝手に待っていたのはこっちさ。急にふたりで押し掛けて済まないね。家でじっとしていられなくてね」
「私も本当にそわそわしちゃって。大師匠さまのところに行くって聞いたから」
「それについては、私もうっかりしていたよ。本当に済まない」
レジーナがそう言って苦笑いを浮かべる。
「とりあえす中に入りましょう。ロロア、アサギ、俺馬繋いで来るから、先に入っててくれ」
カロムが言って、また御者台に上がる。
「カロムくん、うちの馬車このまま置いておいて大丈夫? 厩舎に入れた方が良い?」
オリーブが聞くと、カロムは「じゃあ厩舎に」と応える。オリーブは「ありがとう」と、馬車を移動させる為に御者台に乗った。
浅葱は馬車から持てるだけの荷物を降ろして、家のドアの鍵を開ける。たった3日足らず開けていただけで、少し埃っぽくなっている様な気がする。浅葱は荷物を棚に置いて窓を開けた。
「お師匠さま、どうぞお掛けくださいカピ。オリーブさんとカロムさんが戻って来られましたら、お茶を淹れて貰いますカピ」
「そんな気を使わないでくれたまえ。そうそう、まずはアサギに謝らなきゃならない事があるんだ」
「何でしょう」
椅子に掛けたレジーナの正面に浅葱も座る。
「大師匠の存在をすっっっっっかりと忘れていた。そうだよな、確かに大師匠ならアサギが元の世界に戻る方法を知っている可能性があったんだ。彼女は私たちが知らない事も知っているからね。本当に申し訳無い」
レジーナは言うと、額がテーブルに付いてしまう勢いで頭を下げた。浅葱は慌てる。
「ああ、頭を上げてください。僕は気にしていませんから」
しかしレジーナは頭を上げてくれない。そのタイミングでカロムとオリーブが戻って来た。レジーナの様子を見てふたりとも眼を剥く。
「ちょっと先生! 何されてるんですか!」
「ちょ、何事だよ。アサギ、何やってんだ」
「あ、謝られちゃってるんだよ。僕は本当に気にして無いのに」
浅葱が慌てふためくと、カロムは「何の事だよ」と首を傾げた。
「大お師匠さまの事ですカピ。アサギさんがこの世界に来られた時、当然元の世界への戻り方を聞かれましたカピ。でもお師匠さまも僕も判らないと言ってしまったのですカピ。大お師匠さまの事がすっかりと抜けてしまっていたのですカピ。それは僕もお詫びしなければならないのですカピ。アサギさん、本当に申し訳無かったですカピ」
ロロアも言って、椅子の上で深く頭を下げる。
「あああああ! もう本当に気にしていないから、ふたりとも頭を上げてください! お願いします!」
浅葱が叫ぶ様に言って、漸くふたりは頭を上げてくれた。
「いやぁ、言い訳じゃ無いんだがね、アサギも会ったから解ると思うが、あの通りの強烈な個性だろう。普段は思い出さない様にしているんだ。勿論尊敬すべき凄い方だよ。私たち末端の錬金術師は、その能力の足元にも及ばない。だがね、あの姿を思い出すだけでダメージを受けてしまうんだ、私は。まだまだ未熟だよ本当に」
レジーナは苦笑しながらそう言って、頭を掻く。
「僕もなのですカピ。本当に凄い方なのですカピが、僕は初対面から抱き上げられて頬擦りをされた事が、トラウマの様になっているのですカピ」
ロロアはそう言って、また遠い眼になった。
「そう言う事か」
「成る程ね」
カロムとオリーブが納得した様に、揃って息を吐いた。
「私も大師匠さまの存在は知っていたけど、私はお会いした事が無いし、錬金術そのものには関わりが殆ど無いから思い出しもしなかった。それは私もうっかりだったわ。ご免ね、アサギくん」
「いえ、本当に気にしていないので。それよりオリーブさんも座ってください。カロム、どうしようか。お茶にしようかなと思ったんだけども、ちょっと早めの晩ご飯にする?」
「ああ、そうだな。そうするか」
「カリーナさんもオリーブさんも食べて行ってくださいね。あ、そう言えば今夜はどうされるんですか?」
「村に宿を取っているよ。夕飯も村の食堂で食べる予定だったんだけどね。お言葉に甘えても良いのかな?」
「勿論です。じゃあ待っててくださいね。やっぱりお茶要るね」
「そうだな。飲みながら待ってて貰うか」
そうして浅葱とカロムは台所へと入って行った。
ありがとうございました!(* ̄▽ ̄)ノ
次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。




