第3話 カロム、ハードル上げないで……
夕飯をごちそうになります。
どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!
少しの談笑の後、アルバニアが空になった自分のカップを手に立ち上がる。
「では、私はそろそろ夕飯の支度をして参ります。皆さまはどうぞごゆっくりなさっていてください」
そう言って小さく頭を下げる。浅葱は中腰になって言った。
「僕、お手伝いします」
するとアルバニアは「いいえ、とんでもございません」とやんわりと手を振って遮る。
「お客さまであるアサギさまのお手を煩わせる訳には参りません。どうかごゆっくりなさっていてください」
これは強引に台所に行ったところで、アルバニアに嫌な思い、遠慮をさせてしまうだろう。浅葱は「ありがとうございます」と素直に腰を戻した。
「アルバニアさん、俺は? 俺も錬金術師の世話係りだからさ」
カロムが言うも、アルバニアはやはり「いいえ」と首を振る。
「カロムさまも、今はチェリッシュ先生のお客さまでございます。どうかごゆっくりとお待ちくださいませ」
アルバニアは「では失礼いたします」と小さく頭を下げ、奥へと入って行った。
そこでまた会話が始まる。チェリッシュはロロアの近況もだが、浅葱の元の世界の話も聞きたがった。
「この世界の街より、もっともっと発展しているんでしょぉ〜? この世界では長い移動ってお馬さんか馬車だけどぉ、アサギちゃんの世界だと別の乗り物とかあるのかしらぁ?」
浅葱は自転車やオートバイ、自動車の事を話した。自転車は電動アシスト付きがあるが、基本は自力で車輪を回して進むもの。そしてオートバイに自動車はガソリンという燃料や電気で動くもの。
チェリッシュは興味深げに眼を輝かせて浅葱の話を聞いていた。好奇心が強いのだろう。
ロロアもだろうが、そうで無ければ錬金術師の素質があっても、研究の毎日なんて続けられないのかも知れない。
「そっちの世界には、ガソリンって言う燃料があるのねぇ〜。電気はこっちの世界にもあるけど、乗り物を動かすなんて凄いわぁ。それだけ電気の仕事量が多いって事なのねぇ〜。それに乗り物の技術も凄いんでしょうねぇ〜。この世界で1番の錬金術師なんて言われていても、私には仕組みの想像が付かないわぁ〜」
「その世界で暮らしていても、僕は専門外ですから、さっぱり解りません。他にも電気で動くものは沢山ありますが、その中身がどうなっているかなんて、本当にさっぱり」
「そうなのねぇ〜。この世界で電気は明かりを灯すぐらいだものねぇ。それを思うと、本当に凄いわぁ〜。ガスはどうなのかしらぁ〜?」
「ガスもありますよ。この世界と一緒で、ガスの火で料理をしたりします。後はそうですね、暖房器具を動かすのにもガスを使う事があります」
「あらぁ、この世界の暖房って暖炉だものねぇ。と言っても使う事ってあんまり無いけどねぇ〜、そこまで寒くもならないものねぇ」
「ガス窯もありますよ」
浅葱が言ったところで、カロムが「あ」と声を上げた。
「ロロア、浅葱、うっかりしてた」
カロムは立ち上がり、棚の天板に置いた荷物の中から、土産として持って来たものを取り出した。
「僕もうっかりしていたのですカピ。大お師匠様、遅くなってしまって申し訳無いのですカピ。お土産なのですカピ」
カロムがロロアの前に置いた品を、ロロアがひとつずつ前足を使ってチェリッシュの前に移した。
「あらあらぁ、こぉんなに沢山! 嬉しいわぁ〜」
チェリッシュは言葉通りに嬉しそうな笑顔になって、胸元で手を合わせた。
「こちらは僕たちの村のお店の、ドライフルーツとナッツたっぷりの焼き菓子なのですカピ」
「あらぁ、私フルーツもナッツも大好きよぉ〜」
「こちらはアサギさんに作っていただいたクッキーなのですカピ。生姜と胡麻なのですカピ」
「あらぁ、アサギちゃんはお菓子が作れるのぉ〜?」
「僕、料理人なんです。お菓子も少しですが作れるんです」
「まぁ、凄いのねぇ〜。楽しみだわぁ。生姜って事は甘さ控えめなのかしらぁ?」
浅葱が異世界から来た事が伝わっていても、料理人だと言う事は知られていなかった様だ。
「はい。お酒がお好きだと伺ったので、甘さ控えめで作りました」
「そしてこれが、お米のお酒なのですカピ」
「お米のお酒? ロロアちゃんたちの村にはそんなものがあるのぉ!?」
チェリッシュは驚いて眼を見開く。ヨランダも「へぇ」と感心した様な声を漏らす。
「今でこそ村で作られて商店で買えるのですカピが、元はアサギさんが持ち込んでくださったお味なのですカピ。アサギさんの世界の作り方をこの世界でも作れる様に、アレンジしてくれたのですカピ」
「まあぁ、アサギちゃんはそんな事も出来ちゃうのぉ。凄いのねぇ〜!」
チェリッシュは早速米酒を包んでいた布を開き、その瓶をしげしげと眺める。
「透明なのねぇ〜。お米のお酒って言うから白いのかと思ったわぁ〜」
「まずは白いお酒が出来ます。それを濁り酒って言うんです。それを漉して透明にするんです」
「それは漉す必要があるからそうするのよねぇ」
「濁り酒は味が強くて、好みが分かれるかなって思います。僕はそんなにお酒に強く無いので、濁り酒だと少しきついんです」
「そうなのねぇ。機会があれば漉す前のも飲んでみたいわぁ〜」
それはすっかりと酒飲みの台詞である。
「晩ご飯の後、是非開けてみたいわぁ〜。おつまみは何が合うのかしらぁ〜」
「あ、じゃあそれを僕に作らせて貰えませんか?」
浅葱が言うと、チェリッシュは「あらっ」と眼を丸くする。
「アルバニアちゃんの台詞じゃ無いけどぉ、お客さまにそんな事して貰うなんて申し訳無いわぁ〜」
「いえ、僕、料理をするのが楽しくて好きなので」
「うちの昼飯と晩飯は、アサギに作って貰ってるんですよ。この世界には無かった調理法とか調味料とかもあって、本当に勉強になるんです。それに米酒の味とそれに合う料理を1番知ってるのはアサギなので、ここは任せてみませんか。勿論俺も手伝いますし」
カロムの口添えに、チェリッシュはまた「あらあらあらぁ〜」と声を上げる。
「カロムちゃんまでぇ〜。でも確かにそうねぇ。私もだけど、アルバニアちゃんもお米のお酒の味を知らないものねぇ〜。じゃあ申し訳無いけどぉ、お任せしちゃおうかしらぁ。お願い出来るかしらぁ〜」
「はい!」
「任せてください。作るのはアサギなんで、絶対に旨いもんが出来ますから」
「カロム、ハードル上げないで……」
浅葱が焦って言うと、チェリッシュは「まぁ、おほほ」と楽しそうに笑みを浮かべる。
その時、奥からアルバニアが顔を出した。
「皆さまお待たせいたしました。夕飯が完成いたしました。ヨランダさん、申し訳無いのですが、お運びするのをお手伝いいただけますか」
「ああ、良いよ」
ヨランダが腰を上げる。
「今日は量も多いだろうからね」
そんな事を言いながら、アルバニアに続いて奥に消えて行った。するとチェリッシュも立ち上がる。
「皆さぁん、お紅茶は飲み終わったかしらぁ? カップをお下げするわねぇ〜。ついでに私もお運びお手伝いしようかしらぁ」
言って、トレイに空になった全員のカップを乗せて、奥に入って行った。それから間も無く、料理の皿を乗せたトレイを手にしたチェリッシュたちが現れる。
「はぁいお待たせ〜。今夜はアルバニアちゃん特製、トマトクリーム煮込みよぉ〜」
そうして、ほかほかと湯気の上がる皿が浅葱たちの前に置かれる。それにサラダとパンが添えられた。
「さぁ、いただきましょう〜」
全員で神に感謝を捧げ、浅葱たちは「いただきます」とそっと手を合わせた。
早速スプーンを取り、トマトクリーム煮込みを掬う。
具は玉葱と馬鈴薯にブロッコリ、海老と帆立がごろごろと入っている。しっかりと炒まった玉葱から出る甘味。トマトの酸味は生クリームが抑えてまろやかに仕上がっている。
馬鈴薯はほくほく、ブロッコリはしゃきしゃき、海老と帆立はぷりぷりだ。どれもとても良い食べ応えである。
サラダはとても色鮮やかである。千切ったレタスに茹でて粒に解した玉蜀黍、千切りの人参は生で。
ドレッシングはシンプルなフレンチドレッシングである。なので口をさっぱりとさせてくれる。
どちらもとても美味しく、やはり錬金術師の世話係りと言う人は、家事のプロフェッショナルなのだなと痛感する。
「アルバニアさん、とても美味しいです」
「ああ。本当に旨いですよ」
「はい。とても美味しいのですカピ!」
「でしょお〜。アルバニアちゃんはお料理だってとてもお上手なのよぉ〜」
浅葱たちが賞賛すると、アルバニアは少し口角を上げて「ありがとうございます」と、嬉しそうに首を小さく傾げた。
ありがとうございました!(* ̄▽ ̄)ノ
次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。




