第4話 3キロ前後は見ておいてくれれば
さて、運動を始めます。
どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!
夕飯の後片付けは浅葱とカロム、申し出てくれたルーシーで行う。カロムが洗ったものを浅葱が濯ぎ、ルーシーが拭いて行く。そんな流れ作業で、後片付けはすぐに終わる。
食後は珈琲や紅茶などを淹れてゆったりと。少し落ち着いたら。
「さぁ、運動をしましょうか」
浅葱が言うと、ルーシーは眼を閉じて嫌がる素振りを見せた。
「私本当に運動とか苦手でぇ……どうしてもやらなきゃ駄目ですか?」
「はい、やって貰います。大丈夫ですよ、運動って言っても室内で出来る簡単なものですから。少し身体を伸ばす感覚でやって貰ったら」
浅葱がそう言って立ち上がると、カロムも続く。
「俺も一緒にやるからさ」
「カロムさんは運動神経も良さそうだから大丈夫なんでしょうけど」
ルーシーは拗ねた様に言って、唇を尖らせた。
「僕にも出来そうですカピか?」
「2本足で立てたら出来るよ。ロロアもやってみる?」
「はいカピ!」
ロロアは元気良く言って、すっくと軽やかに2本足で立った。するとルーシーたちが驚いて眼を見開く。
「ええっ!? 錬金術師さま、カピバラなのに2本足で立てるんですか!?」
「はいカピ。そうで無ければお薬の調合も研究も出来ないのですカピ。能力持ちの動物の殆どが2本足で立てますカピよ」
「そうなんですかぁ……」
呆然とそう言って、ルーシーは感心した様にロロアを見る。ロロアは照れた様に、だが少し得意げに首を傾げた。
「錬金術師さままでされるんだったら、嫌がっている場合じゃ無いですね。頑張ります!」
漸くルーシーが重い腰を上げる。「では」とアントンとクリントも椅子から離れた。
「じゃあ私も一緒にやりましょうかねぇ。ほら、カリーナも」
立ったウォルトに促されるとカリーナは眉を顰め、渋々と言った感じながらも立ち上がった。
浅葱が皆の前に立ち、他の全員が浅葱と向かい合う様に立つ。
「前後左右を、腕を伸ばした分開けてくださいね。他の人に当たらない様に」
皆は思い思いに腕を上げ、スペースを広げて行く。テーブルを囲む様に位置取って行った。
「では、まず両手を真っ直ぐ上に上げて〜真横に下ろしま〜す。腕はそのまま掌を下に返して、腕を下ろしま〜す。これをもう1回〜」
浅葱が言いながらする動作を、皆が真似をする。簡単な動きなので、動くのが苦手だと愚図っていたルーシーも、問題無く付いて来れている様だ。
浅葱が皆に教えているのは、ラジオ体操第1である。
小学校から高校まで、体育の授業で準備運動として実施された体操だ。
周りが面倒そうにだらだらと手足を動かす中、真面目だった浅葱はしっかりと腕を伸ばし、膝を曲げ、とやっている内に、その有用性を実感していた。
これは浅葱の考えだが、ラジオ体操はきっちりとやると、かなり有効なストレッチ運動なのだ。勿論正確にはストレッチでは無いのだが。
全身の筋を程良く伸ばして解してくれる。老若男女が出来る様に考えられている運動の為、激しい動きが無いので、これなら続けられるのでは無いだろうか。
浅葱もこれをきっかけに、合宿が終わっても続けようと思う。あまり身体を動かす機会も無いので、運動不足になりがちではあるのだ。
そして、最後の深呼吸の運動を終えて。
「終わりです。どうですか?」
聞くと、屈強なカロムは「俺には物足りないかな」と笑い、ロロアは「僕には丁度良かったのですカピ」とにっこり。
アントンは「儂みたいな年寄りでも大丈夫じゃな。これは良いのう」と頷く。
「全身を伸ばすからかな、何だかすっきりした気がします。難しく無いし、これなら私でも出来ます。良かったぁ」
ルーシーが安堵した様に言う。良かった。
「出来たら毎日やってくださいね。代謝も良くなると思います」
「そうですねぇ。毎日時間を決めて、家族でするとしようか」
ウォルトがそう言うと、カリーナがうんざりした様な顔をしたが、これまでのカリーナを見ていると、何だかんだとウォルトの言う事を聞いているので、ラジオ体操も付き合ってくれるだろう。
「それは良いですね」
ひとりだと、面倒だと思ってしまえばさぼってしまう事もあるだろう。そうしている内にしなくなってしまうものである。
だが複数人でやるなら、声を掛け合って促す事が出来る。そうすると続けやすくなる。
こうした事は、続ける事が大切なのだ。病気などの都合で出来ない日があるのは仕方が無いが、出来るなら継続して欲しい。
「よし。では儂らは病院に戻るかの。運動はこれで終わりかの?」
「はい、終わりです。ですがもう少し待ってください」
「おや、何かあるのかの?」
「はい。ルーシーさんの体重を計ります。毎日運動の後に計って記録を付けます」
すると、ルーシーが仄かに顔を赤くして俯いた。
「解ってはいても、やっぱり体重を知られるのは少し恥ずかしいですね」
そう言って苦笑する。
「とても失礼だとは思うんですが、この合宿中は我慢してください。体重の推移を把握するのも大事な事です。ルーシーさん、最近はいつ体重を計りましたか?」
「昨日です。減量を始めてから毎日計っています。お米だけを食べていた時は、しんどい割にあまり効果無かったんですが」
「お通じが悪くなってもいましたからね。その所為もあると思います。合宿を始めたばかりなので、今日はあまり成果は出ないと思いますけど、明日からを楽しみにしましょう」
「はい。じゃ、じゃあ体重計ります」
そう言って、更衣室へ向かう。体重計は風呂場に繋がっている更衣室に置かれていた。
この世界の体重計は、土台があり、そこから上に軸が伸び、上部の丸い版に時計の様な目盛りが付いているものだ。中心から出ている針が周り、土台に乗った重さを示すのである。
浅葱の世界では、昔からある銭湯などに同じ形状のものが置かれているのを見た事がある。今の時代では骨董品扱いかも知れない。
ルーシーが体重計を前にごくりと喉を鳴らす。恐る恐るといった様子で靴を脱ぎ、片足ずつそっと土台に乗った。
すると針は勢い良く周り、小刻みに揺れながら数字を指し示した。浅葱とカロム、アントンがそれを見つめる。ルーシーはやはり恥ずかしいのか、下を向いたままだ。
「……丁度70キロ、ですね」
「だな」
「ふむ。ルーシーよ、減量を始める前の体重はどうだったんじゃ?」
「な、71キロです……」
消え入りそうな声である。
「確か減量を始めて米だけを食べていた期間は、10日程じゃったな?」
「は、はいぃ……」
と言う事は、10日でたった1キロしか落ちていないと言う事である。それは確かに効率は良く無い。
「アサギくん、アサギくんの方法じゃと、10日でどれぐらい体重が落ちるものなんじゃ?」
「個人差はありますけど、3キロ前後は見ておいてくれれば。大きければ5キロ落ちるかも知れませんし」
「そんなに!?」
ルーシーが驚きの声を上げる。
「はい。なのでルーシーさん、是非それを実感して欲しいです。頑張りましょう!」
「はい!」
ルーシーが気合いの入った声とともに、胸元でぐっと拳を握った。
ありがとうございました!(* ̄▽ ̄)ノ
次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。




