第5話 バリーさん、美味しいですよ!
おや、バリーさんが……?
どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!
すっかりと食事を堪能し、皿には浅蜊の殻だけが綺麗に残されていた。
「ああ、お腹一杯だ。旨かったなぁ」
バリーが満足そうに溜め息を吐いた。浅葱たちも満たされている。
「バリーさん、お酒を飲まれる時、何か食べてますか?」
浅葱の問いに、バリーはふるりと首を振った。
「いいや。食べる気にならんでなぁ」
「お酒だけを飲むって言うのは、身体に良く無いんですよ。出来たらそうだなぁ、チーズが良いですね。チーズでしたら切るだけですからね」
「商店に頼んだら、好きなサイズに切ってくれるぜ。一口大とか。それで買っても良いんじゃ無いか? 作業料金少し払う事になるが」
それは浅葱は知らなかった。それなら包丁や俎板は汚れないから、もっと手軽だ。
「後はナッツ類ですね。胡桃もですけど、アーモンドとかも。食べ過ぎは良く無いですけど、適量摘んだら胃にも肝臓にも優しいですよ。あ、きゃべつを生のままばりばり食べるのも良いです」
「そうかぁ。心掛ける事にしよう」
本当は飲酒量を減らして欲しいところだ。酒は「百薬の長」とも言う。飲み過ぎなければ、適量ならそう悪いものでは無いのだ。
しかし深酒が寂しさから来ているのであれば、医者でも無い浅葱たちが「減らせ」と言うのも酷である。
これは根本を解決しないといけないのでは無いだろうか。その方法は、今はまだ判らないのだが。
それから3、4日に1度、バリーの家にお邪魔する事になった。
バリーに料理を教えながら、一緒に作って食べるのだ。
始めた時は、簡単なものからだった。この世界の人に馴染みのある煮込み中心だ。
馬鈴薯や人参は、皮を剥かなくても綺麗に洗えば皮ごと食べられるし、肉類も薄切りで無ければそう難しいものでは無い。
玉葱もざく切りで充分だった。
そうして徐々に、バリーは包丁に慣れて行った。
馬鈴薯の皮剥きも、始めた頃は手付きも危なっかしく、剥かれた皮も厚かったり薄かったり、仕上がりもぼこぼこだった。
それも数をこなしている内に、滑らかに剥ける様になって行った。
そうして調理技術を上げて行き、そして今日。
「今日はアサギくんの教え無しに、いちからひとりで作るんだなぁ。緊張するなぁ」
「大丈夫ですよ。バリーさん、本当にお料理上手になりましたもんね」
「いやいや、アサギくんが教えてくれていたからこそだ。儂ひとりじゃと、どうかなぁ」
「もし判らなければ聞いてくださいね。でも包丁の使い方も、本当にお上手になりましたから」
「アサギくんにそう言って貰えたら、何だか心強いなぁ」
そう嬉しそうに微笑んで、バリーは調理に取り掛かる。
まずは海老の下処理。殻も頭も使うので良く洗い、殻を剥いて頭を落とす。
尻尾は先端を切り落とし、中に含まれる水分を包丁で刮ぎ出す。
それらを火に掛けてオリーブオイルを引いた鍋で香ばしく炒め、ブイヨンを入れて海老の旨味を煮出して行く。
海老の剥き身は、背の部分に包丁を入れて背腸を取り、片栗粉と塩、水を入れたボウルに入れて良く揉む。
汚れと臭みがしっかりと出せたら、水で綺麗に洗って、塵紙で水分を拭き取っておく。
次に玉葱を薄切りにする。最初の頃はざく切りすらも恐々だったのに、もうすっかりと慣れたもので、玉葱はすっすっとスライスされて行く。
馬鈴薯は皮を剥いて、適度な厚さの半月切りにし、水で表面に浮いた澱粉を洗い流しておく。
鍋を火に掛けてオリーブオイルを引き、玉葱を炒めて行く。全体にオイルが回ったら塩を振る。
しんなりして甘い香りがして来たら、馬鈴薯と海老を加えて更に炒める。
海老の表面が赤く色付いて来たら、海老の頭と殻を煮出し、海老味噌も溶け出したブイヨンを漉しながら入れて、煮込んで行く。
海老に火が通ったら、一旦取り出しておく。
馬鈴薯に火が通ったら火力を弱火にし、そこに牛乳を入れ、ふつふつと小さく沸いて来たら、常温に戻しておいたクリームチーズを加える。
クリームチーズが溶けたら、海老と下茹でしたグリンピースを加えて混ぜて、塩と胡椒で味を整えて。
海老と馬鈴薯とグリンピースのクリームチーズ煮込み、完成である。
これはバリーが包丁の扱いが慣れて来た頃に、一緒に作った料理なのである。
これも勿論肝臓の為の料理だ。甲殻類である海老にもタウリンは豊富だし、馬鈴薯のビタミンや、グリンピースの繊維質やタンパク質も必要な栄養素だ。
「凄く美味しそうに出来てますよ、バリーさん!」
「そ、そうか? 旨く出来てると良いがなぁ」
「大丈夫ですよ。僕が何も言わなくても、さっさって調理出来てました。ばっちりです」
「そうか。それは良かった」
バリーは安堵した様に頬を綻ばせた。
「早速いただきましょう」
煮込みを注いだ器とパンを盛った籠をトレイに乗せて、食卓に運ぶ。パンは、今回はシンプルなバケットだ。
「ロロア、カロム、出来たよ〜」
「お! バリーさんがひとりで作った飯だな。楽しみだ」
「とても良い香りがするのですカピ!」
テーブルに置いて席に着き、祈りを捧げ、いただきますをして。
早速スプーンを手にする。クリームチーズのソースをしっかりと纏わせた海老とグリンピースを掬い、口に運ぶ。
濃厚で、しかし程良い酸味でどこか爽やかさも感じさせるクリームチーズ、そして含まれる海老の風味が合わさって、とても良い旨味を生み出している。
程良い火通しでぷりぷりの海老の歯応えは抜群だ。グリンピースもぷちぷちと弾ける。
次に口にした馬鈴薯はほっくりと仕上がっていた。
「バリーさん、美味しいですよ!」
「本当だな! 凄く旨い!」
「はい! 美味しいですカピ!」
大袈裟では無い。本当に美味しかった。
レシピは確かに浅葱のものだ。バリーは以前に教えて貰った通りに作っただけだ。
だがそれは、料理の技術が無ければ不可能な事なのだ。浅葱も口出しは一切しなかった。
バリーは毎回熱心にその技術を習得した。この料理がその証なのだ。
「そ、そうか。それは本当に良かった」
バリーは安堵した様に口角を上げた。自分でも食べてみると、「おお」と表情を輝かせた。
「儂にしては、確かに良く出来ているなぁ。アサギくんが何も言わんものだから不安だったんじゃが」
「何も言う必要が無かったんですよ。だってバリーさんちゃんと作っていたんですから」
「そうか。うん、うん。嬉しいなぁ」
そうして笑みを湛えたまま、また一口。満足そうに口を動かした。
「儂なぁ、アサギくんたちに、飲む時は何か食べながらと言われてからそうしているんだが、そうすると酒の量が減ったんだよ。お陰でしんどくなる事も減ってなぁ」
「それは良かったです」
「本当に無理しないでくださいよ、バリー爺さん。俺らも心配ですから」
「お辛いのが少なくなったのは良い事なのですカピ。良かったのですカピ」
「勿論錬金術師さまのお薬のお陰も大きいなぁ。ありがとうございます、錬金術師さま」
「いえいえ、とんでも無いのですカピ」
頭を下げたバリーに、ロロアは恐縮した。
「しかし、これで家で飯を作れるなぁ。やはりアサギくんがいないと不安でなぁ、皆が来ない日は外食か惣菜だったんだが」
「やっぱり家で作った方が、味も自分の好みに出来ますし、温かいですからね。今は僕の作り方をお伝えしてますけど、もう少し甘い方が良いかな? とか、もう少し塩を減らしても良いなか? とか出て来ると思います。そう言う調整も出来る様になりますよ」
「そうかぁ。そうすると、それは「儂の味」になるのかなぁ」
「そうですね。調味料の量を少し変えたぐらいじゃ失敗しませんから。味見しなから作っても良いですし。材料もいろいろ試してみてください。牛肉は癖が強いのでクリーム系には合いにくいかもですが、マスタードとか赤ワイン煮込みとかで美味しいですし、いろいろなお野菜も合いますしね」
「そうだなぁ。そうだ、妻が作ってくれた料理を思い出して、作ってみようかなぁ。儂の妻なぁ、料理上手だったんだよ」
バリーはそう言って、懐かしそうに眼を細めた。
「はい。今度、バリーさんのお料理を食べられるのを、楽しみにしてます」
「また来てくれるかなぁ」
「はい。勿論です」
浅葱の返事にロロアとカロムも大いに頷き、バリーは嬉しそうに微笑んだ。
ありがとうございました!(* ̄▽ ̄)ノ
次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。




