第7話 アサギお兄ちゃん、ありがとう!
さて、子どもたちの反応は?
これにて5章完結です。
どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!
30人程の前でピーマン料理を披露したその日の晩から翌日の晩に掛けて、浅葱たちの家の電話が何度も鳴り響いた。
「うちの子がピーマン食べてくれたわ! 特にポタージュが美味しい美味しいって飲んでくれたの! ありがとうね!」
「凄いよ。ピーマン苦い苦いって顔顰めて食べてたあの子が、美味しいって言うんだよ。本当にありがとう!」
「勿論ピーマンもなんだが、他の野菜でもポタージュ作ってみたんだよ。もう大好評さ! ありがとうな!」
内容はそう言った感謝ばかりだった。
その度に浅葱は恐縮しきりで、受話器を手に何度も頭を下げた。そんな浅葱を見ながらカロムは「眼の前にいないのになぁ」と笑った。
子どもに替わった時などは、辿々しい、だが可愛らしい声で「アサギお兄ちゃん、ありがとう!」と言われ、何ともほっこりしたものだ。
「けど良かったな。子どもたち、皆ピーマン食える様になったみたいじゃ無いか」
「みたいだね。美味しいとまでは行かない子もいるみたいだけど、食べられるだけで凄いよ。これで慣れて行って、ゆっくりでも普通に食べられる様になったら良いな」
「ピーマンに良い印象を持ってくれたんなら、それで充分なんじゃ無いか?」
「そうだね」
浅葱が頷いた時、研究室からロロアが出て来た。
「またお電話があったみたいですカピね」
「あ、ロロア。煩くしちゃってごめんね」
「全然大丈夫なのですカピ。お子さま方、ピーマンが食べられる様になったのですカピか?」
「そうみたい。ありがとうね」
言うと、ロロアはきょとんと首を傾げた。
「僕は何もしていないのですカピ」
「一緒に来てくれて心強かったよ。あんな大勢の前で料理とか緊張するもん」
「でも浅葱は料理屋に勤めてたんだろ?」
「厨房とフロアは完全に別だったからね。オープンキッチンじゃ無いから、お客さまの前で料理するとかは無かったよ」
「そっか。よし、そろそろ晩飯の準備だな。何か最近ピーマンばっかり食ってた気がするぜ」
「実際はそこまででも無いんだけどね。昨日は食べたけど」
浅葱は小さく笑う。最近は家での食事では、ピーマンは食べていなかった。
さて、夕飯の支度である。
まずはスープを仕込んでおこう。鍋に砂出ししておいた浅蜊と水を入れ、蓋をして蒸す。
浅蜊の口が全て開いたらボウルに乗せた笊に上げ、殻から身を外す。
鍋にバターを引き、溶け始めたらざく切りにした玉葱を炒め、透明感が出て甘い香りがして来たら短冊切りにした燻製豚を加えて炒める。
角切りにした馬鈴薯を入れ、さっと混ぜて油を回したら、ブイヨンと塩を入れ、ことことと煮込んで行く。
その間にもう一品の準備。卵に塩を少々入れて解きほぐしておく。
レタスは適当な大きさに千切り、豚肉は一口大のスライスにし、塩胡椒で下味を付けておく。
ここでスープの鍋に、浅蜊の蒸し汁を目の細かい笊で漉しながら加えておく。
フライパンを火に掛けて、オリーブオイルを多めに引く。しっかりと温まったら卵液を流し入れる。
縁からふんわりと盛り上がってくるので、中心に巻き込む様に火を通し、ふわふわの炒り卵を作っておく。
同じフライパンをさっと綺麗にし、オリーブオイルを引く。まずは豚肉を炒めて行く。
火が通ったら白ワインを入れて、しっかりとアルコールを飛ばし、鍋底の旨味成分を刮げながら煮詰めて行く。
水分が少なくなったらレタスを入れ、しゃきしゃき感を残す様にさっと炒め、塩を振り、炒り卵を加えて全体を混ぜ合わせ、粒胡椒をたっぷりと振る。
器に盛ったら、豚肉とレタスと卵のさっぱり炒めの出来上がり。
スープの鍋には浅蜊の身と生クリームを入れて、弱火で温める。
こちらも器に注ぎ、彩りのパセリを振ったら、クラムチャウダーの完成である。
それらにバケットを添えて、夕飯が整った。
食卓兼居間に運び、ロロアの前に置いてやると、ロロアは嬉しそうに眼を細めた。
「今日も美味しそうなのですカピ」
「簡単な炒め物だけどね。じゃあ食べようか」
全員でテーブルに着き、感謝を捧げ、いただきますと手を合わせた。
まずはクラムチャウダーを掬う。具沢山に仕立ててあるので、どこを掬っても具がごろごろである。
浅蜊の旨味が溶け出したなめらかなクリーム味のスープに、甘い玉葱。燻製豚からも旨味がしっかりと出ていて美味しい。
チャウダーにバケットを浸して食べてみる。するとバケットの香ばしさが加わって、こちらも美味だった。
さて、炒め物である。
豚肉の甘い脂は程良い差しで、しゃきしゃきのレタスは爽やかさを生み出す。ふんわり卵も良い塩梅。
しっかり煮詰めた白ワインが膨よかで、粒胡椒のアクセントが良い。
「ああ、旨い。この炒め物にもすっかり馴染んだなぁ」
「はいですカピ。とても美味しいですカピ。さっぱりしているのに、黒胡椒がぴりっとしていて美味しいのですカピ」
「ありがとう。僕の世界では、炒め物が手軽で、煮込み料理が凝ってるってイメージなんだよね」
「そうなのか? 煮込みは仕掛けたら後は放っておけるだろ。炒めたり焼いたりする方が、俺らには難しく感じるぜ」
「焼くのは火加減が難しかったりもするから、僕も手軽だとは思わないけどね。これからも、煮込みは勿論作るけど、こんな感じの炒め物も作るから、食べてくれたら嬉しいな」
「おう、勿論。アサギの料理はどれも旨いもんな!」
「はいですカピ。毎日ご飯の時間が楽しみですカピ!」
「ありがとう」
ふたりの賛辞に、浅葱は照れた様に笑みを浮かべた。
「しかしこの炒め物の味付けって、素材の味がしっかりと判るから、レタスをピーマンにしたら、それこそ子どもたちから逃げられちまうな」
「あはは、そうかもね」
「でもピーマンの炒め物も美味しそうなのですカピ。今度食べてみたいのですカピ」
「うん。じゃあ今度作ってみるね」
そうして穏やかに食事の時間は流れて行った。
ありがとうございました!(* ̄▽ ̄)ノ
次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。




