第9話 今回はお肉の使い方がメインでしたからね
お肉の使い方講座です。
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「何度も悪いね。今日もよろしくね!」
ルビアはそう言って、笑顔で出迎えてくれる。
「いえ、こちらこそ何度もすいません」
「悪いな、ルビアおばさん」
「申し訳無いのですカピ」
「あらあら錬金術師さままでわざわざ。こちらこそだよ。さぁさぁ入って入って。今日はアップルパイを焼いたよ」
相変わらずのルビアである。カロムは苦笑する。
「いやいや、だから俺らは料理をしに来ただけだからな」
「でも時間があるのなら食べてやっておくれよ。良い色に焼き上がったんだよ」
押し付けられる程では無いが、そこまで言われて固辞するのも失礼である。
「じゃ、少しだけな。おばさんのアップルパイ久しぶりだ」
「ああ、そうだったね。錬金術師さまと助手さんは初めてだね。今回はシナモン控えめだよ。もし苦手だったら申し訳が無いからね」
「おばさん、何で菓子ならそんな気遣いが出来るのに、料理になると大雑把なんだよ」
「ああ〜、それを言われると立つ瀬が無いよ」
カロムが呆れる様に言うと、ルビアは眉を八の字にして項垂れる。
「大丈夫です。お肉の扱い方も覚えて、マリナさんは勿論旦那さんにもマルスくんにも、美味しく食べて貰いましょう」
浅葱が言うと、ルビアは顔を上げて力強く頷いた。
「そうだね! じゃあアップルパイを食べて、早速教えておくれ。座って待ってておくれね」
「はい」
ルビアはお茶とアップルパイの準備の為に台所に向かい、浅葱たちは椅子に掛けた。
アップルパイはとても美味しかった。さくさくのパイに包まれた林檎煮は甘さ控えめてとろりとしていて、なのにしゃくしゃくとした歯応えがほのかに残り、シナモンが林檎の風味を引き立てている。
浅葱はシナモンたっぷりのアップルパイも好きだが、ロロアなどはこれぐらいが嬉しいと言う。カロムはどちらでも美味しくいただけるのだそうだ。
こんなに美味しい菓子が作れるのだから、料理もほんの少しの気遣いで確実に上達するだろう。
何せ料理より、菓子作りの方が余程繊細なのだから。
作る事が楽しいと思える事が出来れば、それは簡単なのだ。
さて、すっかりと空いたアップルパイの皿と紅茶のカップを手早く片付けて。
肉の種類や下処理などを説明しながら、料理を進めて行く事にする。
まず、浅葱はルビア宅に来る前に、商店で買って来た包みを取り出す。
「これは何だい?」
「豚肉の中でも脂が1番少ない部分です。ルビアさんたちにはもしかしたら物足りないかも知れないですが、柔らかくて美味しいですよ」
包みを開くと、そこには長細いピンク色の豚肉。脂身も無い。浅葱の世界でヒレ肉と呼ばれる部位だ。
「ああ、あったねぇ。綺麗だなとは思ったんだけど、脂身が無いから味気無いかなと思って買った事無かったよ。へぇ、美味しいのかい」
「はい、とても。僕の世界では高級部位ですよ」
この世界では肉は赤身として一纏めで売られているので、部位ごとの値段の差は無いのだ。
「で、こちらと」
もうひとつの包みを開ける。赤身と脂身が横向きに半々程の割り合いで入っている豚肉。所謂バラ肉のブロックだ。
「ああ、これだよ、うちで使うのが多いのは。これを、何だい? 電話で言ってたゆでこぼし? ってのをしなきゃならないんだね?」
「そうです。美味しい部分ですけど、脂も灰汁も多いですからね。灰汁は旨味だと言う言葉もあるので、そこは好みだと思うんですが、余分は脂は除いた方が良いです」
浅葱は言うと鍋に水を張り、バラ肉を入れて火に掛けた。
「へぇ、水から茹でるのかい」
「はい。湧いて来たら、お湯の色が変わりますよ。見ていてください」
その間に浅葱はヒレ肉を一口大にカットしておく。
さて、湯の色が濁って来た。艶々とした脂が浮き、茶色の灰汁でみるみる鍋の表面が埋められて行く。
「こりゃあ凄いね! これが灰汁なのかい?」
「そうなんです。部位にもよりますが、こうして茹で溢して灰汁と余分な脂を取った方が美味しい場合もあります。茹で溢さなくても、ブイヨンで煮込んでいると灰汁が浮いて来るので、掬い取ったら大丈夫です。勿論気にならないならそのままでも大丈夫です。僕は癖で取っちゃいますけど」
「へえぇ。肉なんて煮りゃあ良いもんだと思ってたよ」
ルビアが関心した様に言うと、カロムが「ははっ」と笑った。
「本当に料理に関しちゃ乱暴だな。俺でも煮る前に焼き付けたり、脂が多かったら取り除いたりするぜ」
「そりゃあカロムは、錬金術師さまのお世話係りになれる程の料理上手なんだろうけどさ」
「いやいや、俺もまだまだだって浅葱に出会って熟思ったぜ」
カロムが言うと、浅葱は照れた様に苦笑する。
「僕の世界ではいろいろな調理法があるってだけですよ。もうね、美味しいものを食べたい作りたいって、沢山の料理人がしのぎを削ってますよ」
「そうか。アサギの世界は広いんだな」
「そうだね。ええと、通信網が発達してるから、世界中の情報が簡単に手に入るんだよ。何キロも離れた国であった事とか」
「そりゃあ凄いね」
浅葱はその頃が懐かしくなり、眼を細めてしまう。
「そうですね。それが当たり前になって麻痺しちゃってましたが、確かに凄い事なんですよね。そう言えばマリナさんがお肉駄目なのに、豚肉は良く使ってたんですか?」
急に話が変わり、ルビアは「あ、ああ」と眼を瞬かせた。
「牛も鶏も使うよ。マリナの分は肉なんかを入れる前に別に避けて、あの子が食べられるものを入れてたね」
「何だ、ちゃんと分けて作ってたんじゃ無いか」
「あの子が肉嫌いって事が分かって、肉だけを避けて出してみたんだよ。そしたら煮汁に溶け出した脂も辛いって言うからね。手間だけどそうしてやらなきゃねぇ」
確かにバラ肉を茹で溢しもせずに使っていたのなら、煮汁にも相当量の脂が溶け出ていた筈だ。マリナで無くとも食べ難いかも知れない。夫もマルスも大丈夫だったのだろうか。
「あ、そろそろお肉良いですね」
浅葱はコンロの火を切り、バラ肉の鍋を流しに移す。流水で肉の表面を良く洗い、まな板へ。火が通り易い様に、適度な厚みに切って行く。
「これで茹で溢し、豚肉の下処理は終わりです。今日は洗いましたが、時間があったら茹で汁に浸けたまま常温まで冷ましてください。でも豚肉でここまでするのは脂身が多いこの部分だけで、他は普通に煮込んで貰って大丈夫ですから。あ、でも出来たら塩胡椒で下味を付けて焼き付けてくださいね。その方が香ばしくて旨味も逃げないので美味しく出来上がります」
「そうなんだね。うん、しっかり覚えた。次からはそうするよ」
「じゃあ進めて行きましょう」
玉葱とにんにくを微塵切りにし、トマトは粗微塵切りに。
鍋をふたつ出し、まず片方の鍋にオリーブオイルを引いて、塩胡椒で下味を付けたヒレ肉を焼き付けて行く。
その間にもうひとつ鍋にもオリーブオイルを引いて、にんにくをじんわりと炒める。香りが出たら玉葱を加えて炒める。甘い香りが出て透明になったらトマトとブイヨンを入れる。
煮立ったら半量を焼き付けが終わったヒレ肉の小鍋に移し、元の鍋には茹で溢したバラ肉を入れる。
それぞれにローリエを乗せて、そのまま煮て行く。
仕上げに塩胡椒と砂糖で味を整えたら。
簡単トマト煮、完成である。
「野菜は玉葱以外入れて無いんだね」
「今回はお肉の使い方がメインでしたからね」
「じゃあ野菜はスープにでもたっぷり入れるかね。そろそろマリナたちも帰って来るだろうからね」
ルビアは言うと、冷暗庫や食材庫から、マリナが嫌いで無い野菜を色々と取り出した。
ありがとうございました!(* ̄▽ ̄)ノ
次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。




