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東方黄葉郷~Rest Of Battle~  作者: にいな
3/6

過去の記憶

「じゃあね早苗。」



永遠亭で、諏訪子はそう言い神奈子と一緒に帰った。

その二人の後ろ姿を早苗は見ていた。


二人を見送ったら眠くなった早苗はふと夢の話を思い出す。



(結局あの人は誰なんだろう……大切なことのようだけどわからない……)



それはここ最近入院し始めてから必ず毎晩見ている夢。


早朝のどこかの崖で早苗は倒れていて、一人の少年が叫んでいる夢。


そしてその夢は夢にしては細かく鮮明だった。



(今日はまた別の夢が見れたら良いな……)



早苗はそう思った。



「暑いわね……そろそろ涼しくなってもいいはずだけど……」



博麗神社で霊夢がそう呟く。



「幻想郷も温暖化か。」



珍しく外に出た龍二がそう言った。



「ナニソレ?」


「地球温暖化。なんか暑くなるらしいよ。詳しくはよくわからないけど。」


「龍二さんは理科の授業や社会の授業は寝てましたからね。だからわからないんですよ。」


「………って何処から湧いて来やがったパパラッチ。」



何処からともなく射命丸文が話に入ってくる。



「その台詞懐かしいです!!」


「1年も経っていないだろ。」


「まぁそうですけどね。」



笑いながら文は返事をした。


前に文は龍二達の世界へ行ったことがある。

その時から、東條雪菜との闘いは始まっていた。

東條雪菜とは本来なら文ともう一人いた女性とで解決するつもりだったのだが、龍二まで巻き込まれたのだ。



「迷惑な話だよな……いきなり転校してきた奴に力貸してくれなんて頼まれて……厨二病にも程があるって思った。」


「それは……すみません。」


「で、アンタ結局何のようで来たのよ?」



龍二の横にいた霊夢は文に聞いた。



「えーっとですね。早苗さんの入院の原因を知ってないかなぁと。」


「俺が知ってるとでも?」


「まぁ私の勘で。前まで龍二さんの事を知っていたのに龍二さんだけわからないのはおかしいですから。」


(俺が来る前からあいつ話していたのか……)「お前に言ったら広められそうだから言わねえよ。」


「……てことは知ってるんですか?」


(しまった。口をすべらせた……)



ため息をつきながら龍二はそう思った。



「まぁ、うん……あれだ。いろいろあったんだよ。」


「いろいろって何ですか?そこがわからないと新聞に書けません。」


(やっぱ新聞にするつもりだったのか!)「新聞に書くなら尚更だ。書ける内容じゃない。」



正確にいうとそれは書いてもわからない内容。矛盾が生じる内容では書いても意味がない。



「そこをお願いしますよ~」



文がしつこく頼んでいると、ふと霊夢は気になったことを口にした。



「そういえば早苗はなんで龍二のこと知ってるの?」


「あー……それはですね……龍二さんが新聞に載っちゃったからなんですよね。」


「なんで他人事みたいに、俺のせいにするんだよ。」


「だって龍二さんが暴走するから!!」


「それは……俺のせいだわ。」


「それで、結局新聞に載って早苗がそれを読んだってことかしら?」



霊夢が聞くと文は頷いて、



「まぁそんなところです。」


「実際に会ったんだけどな。」


「え?会ったことあるんですか?」



文の問いに龍二は頷いた。



「確か中学生のとき、靈奈の実家にお邪魔しに行ったことあるだろ?」


「あ~もしかして龍二さんが迷子になった時ですか?」


「まぁ迷子だな……その時、妖怪から逃げてた女性がいたんだよ。で、俺がその子を助けたってわけ。」


「その子が早苗だったのね?」


「そういうこと。一応名前は教えてもらったんだけど、見舞いに来たら忘れられてたし。」



最後の方は嘘だ。保険をかけるためにわざわざ言ったんだろう。



「へぇ……じゃあネタになることは」


「無い。つーかあっても俺は言わねえよ。」


「チッ…」


「舌打ちした!?」



聞き捨てることなく龍二はツッコミを入れた。


そのあとも文はしつこく龍二に聞き出す。


気がついたら既に夕方になって文はしぶしぶ帰っていった。

龍二も八雲屋敷に戻り、夕飯を食べてから風呂に入った。



「さて、寝るかな……」



布団に入り、ふと昼間の話を思い出す。



(早苗はあの時、どんな風に見ていたのだろうか……?)



そんな疑問が、彼の中で留まり続ける。しかし今は関係ないと彼は考え、眠りについた。


2年前の京都、修学旅行で訪れた早苗はその日もまた虐められていた。

彼女は同じクラスの女子に虐められていた。中には早苗を助けてくれる女子もいたが、やはりその女子達の前では『逆らったらいけない』ので、早苗を避けていた。



「あ~あ!キモガエルと一緒とか最悪~!!」



虐めっ子の女子はわざとらしい感じで大きな声で言う。

早苗が彼女に虐められていた理由はただ『髪が緑色だから』。キモいからと、見た目だけでそう判断した。まぁ大体のいじめはそうだろう。


そして早苗も、そんな理由で虐められていた。



「あ~あ荷物重い……アンタ持ちなさいよ。」


「え?」


「ほら!!」



そう言い虐めっ子はスクールバックを早苗に投げつけた。

早苗はそれをなんとかキャッチする。

すると虐めっ子が早苗に近づいてきた。



「ちゃんと運んだら、夜良いことしてあげる。その代わり、運ばなかったら………何があっても知らないわよ?」



早苗の耳元で彼女はそうささやいた。



「…………」



みんなが楽しそうに歩く後ろで一人だけ悲しそうな表情を浮かべて歩く早苗。


その時だった。



「きゃああ!?」



突然悲鳴が出る。

目の前には一匹の狼がいた。

飢えた目をした狼は彼女達を睨み付けながらじっと近づく。



「に、逃げるぞ!!」



近くにいた男子がそう叫ぶと同時に、みんなその狼から逃げるようにただ走った。

そして早苗も勿論、しかし―



「いたっ!」



早苗の背中を誰かがおした。



「アンタは私達の身代わりになるのよ!!」



押した犯人は例の虐めっ子だった。

他のクラスメートは自分のことで頭が一杯で、誰も早苗のことは気にかけない。


早苗はすぐに立ち上がるが、狼は既に間近まで迫っていた。



「あぅ………」



早苗まで後5mもないところで狼は飛びかかった。

目を瞑り、顔を伏せて叫ぶ。



「誰か助けて!!」












痛みを感じない。

何かが貫く音がする。早苗はすぐに目を開けた。


すると先程まで目の前にいた狼は吹き飛ばされてたのだ。



「大丈夫か?」



後ろから声がしたので早苗はすぐに後ろを振り向く。


紺色の髪の少年が刀を持ちながら歩いてきていた。

見たことがあるその姿。



(新聞に載ってた……もしかして……)


「アンタ、どこかに行く途中だったんじゃないのか?」


「え?あ、うん……京都駅まで……」


「そうか、俺と一緒だな……行くぞ。」



そう言い少年は歩きはじめた。「えっ……」


「どうした?せっかくだから京都駅まで護衛してやる。かと言って、護衛出来る自信があるわけじゃないが……」


「いえ、有難うございます…」



歩く少年の後を早苗はただついて行く。


途中現れた妖怪も少年が追い払った。



「あの……」


「?」



しばらくして、早苗は少年に聞く。



「何故……助けたんですか?」


「何故……そりゃあアンタがピンチに見えたから。」


「私の見た目を見て何も思わないんですか?」


「アンタを見て逆に何か不思議に思うことがあるのか?」


「例えばこの髪とか……気持ち悪いとか思わないの?」



早苗が自分の頭を指すと、少年は少し笑みを浮かべる。



「別に。しいて言うなら、綺麗な髪だなってことぐらい。」


「それだけ?」


「それだけ。」



少年の答えに早苗はきょとんとしていた。

今まで気持ち悪いと言われていたこの髪を、綺麗だと言ったのはたまたま彼が初めてだからだ。



「なんで……?」



早苗は思わず聞いてしまう。



「なんでって、そう思うからだよ。多分俺のクラスメートならみんな言うよ。他に変わった奴を沢山みたことがあるからな。」



笑いながら少年は言う。



「だから、アンタがどんな風に生きてきたのかは知らないけどさ、自分の見た目を気持ち悪いとか言うなよ。アンタの個性なんだからさ。」



少年がそう話すと京都駅が見えてきた。



「さて、俺はここから向こうに行くけど……アンタは?」


「私はあっちです。」


「そっか。大丈夫か?」


「はい有難うございました。」



笑顔で早苗は礼を言う。

少年も笑みを浮かべて答えた。



「これからは気をつけな。」


「はい、あの……名前は?もしかして……」



早苗がそう言うと少年は首を横に振り、



「名乗るほどの者じゃない。俺はただの…しがない学生さ。」



少年はそう言い去って言った。

時は現在、目を開けるとまだ太陽は出ていないが、朝を迎えようとしていた。



(夢……か。)



早苗は体を起こしながらそう思う。

夢にしては、鮮明だったと早苗は感じた。実際早苗は虐められていた。

そして彼の姿も確かに新聞で昔見たような気がした。



(よく覚えてないけど……退院したら神奈子様や諏訪子様に聞いてみよう……)



同時刻、無名の丘の例の崖で東條雪菜は風に吹かれながら東の空を見ていた。



「どうだ?久しぶりに彼に会った感想は……」


「別に…全く話してないし。」



後ろから話しかけてきた男性にそう答える。



「敵が警戒を解くとでも思っていたのか?」


「まさか……」


「そうか。して、“あいつ”の記憶はどうしたんだ?」


「どうもしてないよ。勝手に僕の頭の中に残ってる。僕の記憶じゃないのに勝手にね……」



そう話すとため息をついて、また話を続ける。



「何故だろう……まるで僕のように思えてくる。なのに僕の記憶じゃないという記憶が僕を虚しくする。そして彼女が憎くなる……妬ましくなる……」



話してるうちに、彼女の手に力が入るのが男性はわかった。



「……ゴメン、今日はもう少し寝ていたい……」



彼女はそう言い去っていった。



「………そうだ、そのままあいつを憎み続けあいつを狙え……そうすれば奴が……藤崎龍二が動くだろう……」



出し始めた日の光を浴びながら男性はそう呟いた。

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