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水筒の女神アテネちゃん

作者: 江ノ木右座

 「今週の課題は、物語の創作です。面白いお話を作ってみてください。お部屋の中だけで考えるのではなく、外に出て取材をしたうえで書きましょう。だからといって空想してはいけないということではありません。空想も大いに結構。ただ題材は出来るだけ取材活動の中から見つけましょう」


 今度出た国語の宿題は難しそうだ。取材なんてどこに行けばいいんだろう?頭の中の空想だけで、書ければよかったのにな。元々空想癖のあるモンザという少年は、宿題の為に公園に出掛けて取材活動を試みた。


 まず目に付いたのがベンチに座って編み物をする婦人だった。モンザはこの人をモデルに、第一の登場人物「モード」を作った。そして次にスケッチをする老人を見つけ、第二の登場人物「マエストロ」を作った。さらにジョギングをするお姉さんが目に入ったので、これを第三の登場人物「アテネ」とした。最後に一人でラップの練習をしている若者を見つけ、第四の登場人物「ヨーヨー」を作った。


 こうしてモンザの取材活動は終わった。後はこれらの人物を使い、物語を作ればいいのだ。ただそれは簡単なことではなかった。公園で作った四人の登場人物にどうやって接点を作り、全員を物語に絡ませるのか。そこでモンザはもう一つのキャラクターを加えることにした。それは四人の登場人物の創造主にして偉大なる神「モンザ神」である。


 「水筒の女神」作・モンザ


 春の暖かい日。それは地上のことであって、天国はいつも暖かい。そんな天国から、モンザ神は地上に下っていった。モンザ神は地上の人々を試すために、わざとみすぼらしい格好をして、公園をよろよろと歩いた。すると公園のベンチで編み物をしていたモードという女の人が、駆け寄ってきた。


 「大丈夫ですか?どこか苦しいのですか?」モンザ神は苦しそうな声で言った。「水を…のどが渇いて死にそうなのです…」そう言われてモードは焦った。「私はこんなときに水筒を持ってくるのを忘れました。どうやってあなたに水を飲ませられましょう」


 すると遠くの方に、水筒を肩に掛けながら公園でジョギングをするアテネが見えた。「ああ…あれはアテネ。水筒の女神。おじいさん、私は今からアテネを捕まえて、水筒を取ってきてあげます」モードはそう言うと、モンザ神を残して行ってしまった。モンザ神はポケットから手帳を取り出してメモした。「モード 親切度◎ 判断力△」


 するとそこへ画家のマエストロがやって来た。「おじいさん、大丈夫ですか?」モンザ神は今度こそ期待して頼んだ。「水が欲しいのじゃ」「すみません、神様。今日は水筒を持ってきてはおらんのじゃ」モンザ神手帳「マエストロ 親切度○ 存在感ゼロ」


 気を取り直したモンザ神が公園の中を歩いていると、一人で何かを喋っている男がいた。しかしそれはただの無駄口ではなく、ラップだった。このラップ男ヨーヨーは、一人フリースタイルでキメていた。モンザ神は再び人々に試練を与えた。「うう…のどが渇いた。死にそうじゃ」


 するとヨーヨーはラップ風に答えた。「オマエの問題、オレには論外、オレ水筒持ってねえし、ホレ水道だってないわけじゃねえし、勝手に水飲みなヨ、待っててバカを見なヨ、オマエが渇いてるウチに、オレは帰るぜウチに」モンザ神手帳「ヨーヨー 正直度◎ フリースタイル×」


 モンザ神は嘆いた。なんて意地悪で役に立たない民なんだ。こんな人たちは、もう一度洪水で流されてしまえ!しかしそこに女神が現れた。それは水筒の女神アテネちゃんだった。アテネちゃんは、困った老人を助けるために、息せき切ってモンザ神のところまで走って来たのだ。おお…女神!


 「モンザ神様、大変お待たせいたしました。これが命の水でございます」そしてアテネちゃんが飲ましてくれた水筒の水は、生き返るように、美味しかった。「アテネちゃん、お前は正直な娘だ。よってお前を天国に連れて行ってやる。お前は天国で水筒の女神アテネに生まれ変わるのだ」


 こうして一人の女神が生まれた。それはアテネちゃんが正直だったからであり、純真だったからである。(完)


 先生の評価「楽しく読ませてもらいました。モンザ君は神様だったのですね。しかしちょっと不公平な神様ですね。アテネちゃんにばかり優しすぎます。もっとみんなに親切にしましょうね。それが四人の登場人物を作った神様の責任感だと、先生は思います。次の作品にも期待してますヨ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうもこんばんは。 小説内小説、メタフィクションってやつですね。 作家は神様。そして、登場人物は人間。 こういった考え方は好きですね。たまに自分の作り出した人間が暴走してしまって、筆の…
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