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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第1章 村娘が勇者になったので、従者として一緒に旅に出るようです。
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第EX2話 余話事もなし-家に伝わる家宝の聖剣と幼馴染-

 イクスが酒場に残り、一人寂しく酒を煽っている頃。

 レイラ達は村長の、つまりはレイラの家に向かっていた。


「すまない、レイラ様……彼らをどうにか出来ないだろうか?」


 ステラと名乗った耳の長い人が、後ろの方を指さした。


 そこには酒場にいた人達だけではなく、村の住民ほぼ全てが集まっていた。


「無理じゃないかなぁ……どうせ皆面白がっているのよ。全く、私の身になってほしいわ」

「ステラ、仕方ないのです。今後もこういう事は起こりえるのです。今のうち慣れておいた方が良いのですよ」


 イースラと呼ばれていた子供の方は、既に諦めていた。


「ん~知らない人がこうなるのは怖いかも……あ、あそこが私の――

「おぉ~レイラぁぁぁああぁぁ!! 暫く見ない間に死んだ婆さんの若い頃に似てきたのぉ、ささ、儂にその顔良く見せておくれ」

「お、おじいちゃん!? 朝一緒にご飯食べたのに何言ってるの!? っていうかおばあちゃん生きているからね!? 窓から凄い形相で睨んでるから! 睨んでるから!!」


 家から飛び出してきた老人がレイラに飛びついた。

 唐突な出来事にステラとイースラは固まっていたが、直ぐに我に返った。


「お、お爺様!? こちらのご、御仁がこの村の村長なのか」


 身長はレイラの約半分ほど、頭頂部は綺麗に干上がっていた。

 そんな彼がレイラの胸に顔を埋めて抱き着いたまま、声だけを二人に向ける。


「お二人さんは王都からの使者じゃな……事情は村の皆から聞いておる。詳しい話は中でしよう」


 そういうとレイラから離れ、一人トコトコと駆けて家に入ってしまった。


「もう、おじいちゃんったら……どうぞ、二人とも」

「げ、元気なのは良い事だな……うん」

「なんか、入る前に気が滅入るのです」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 村長の家は他の民家と、特に他と代り映えのないものだった。

 これもこの村が、貨幣価値が存在しないほどの僻地に存在しているからなのかもしれない。

 上下関係がなく、本当にただの取り纏め役としての存在なのだろうと、中に入った私とイースラは感じた。


「二人とも、なんか失礼な事を考えてない?」

「「そんなことない(のです)」」

「そりゃあ王都と比べたらみすぼらしかろう。そんな事よりも……うちの可愛いレイラを連れていくそうじゃな」

「そのとおりだ」

「はい、なのです」


 向かいに座った村長は神妙な面持ちで切り出した。

 それに対してこちらも失礼がないよう身を正す。


「村長という立場からすれば、是非もない。王都の決定に逆らえるほど、この村は逞しくない。それでも、儂はこの娘の祖父なのだ……言いたい事は分かってくれるかのう?」

「もちろんだ、我々が必ずレイラ様をお守りすると誓おう」


 私の即答に、イースラも頷いて合わせた。

 それを村長がどう受け取ったか、レイラ様を含めた私達には分からなかった。


「レイラよ……覚悟はあるか? 外の世界に出る覚悟。戦いに身を置く覚悟……命を奪い、奪われる覚悟を」

「分からないわ……その時になってみないとね。でもきっと何とかなるわ……皆が支えてくれるもの」


 皆というと誤解が生まれると思う。

 レイラ様が言った皆とは、私とイースラ……それとあの粗野なイクスとかいう青年だけだろう。


 酒場でもそうだったが、レイラ様の青年に対する信頼は尋常ではない。

 あの青年に何かあるのか。

 はたまた二人の間に何かあるのかは分からない。


 どちらにせよ、この先頭を悩ませような気がする。


 村長とイースラの様子からすると、やはりといった様子だ。

 女性の機微……と言って良いかわからないが、二人が理解するにはまだ早いようだな。


 村長は何かを納得したのか、しきりにうなずいた後スッと立ち上がり、


「ちょっと待っておれ」と言って奥の部屋に入っていった。


 村長が奥の部屋に引っ込むと、ドタバタと音がした後、一振りの剣を持って現れた。


「あれ? 家にそんなのあったんだ」

「そんなのって言わないでくれ! いいか、これこそは家の家宝にするつもりだった聖剣よ」


 つもり? と私達は首をかしげる。


「この剣は、かつて第4代魔王を打ち取ったとされる聖剣ぞ! 王都にりょ……出張した折に露店で買った」

「今旅行って言いかけたのです!」

「違う! 突っ込むところはそこではない!? 聖剣が露店で売られてたまるか!!」


 聖剣……邪を祓う聖なる剣。

 精霊と神の祝福を受けた特別な剣だ。


 とても値を付けられる……いや、値を付けて良い品ではない!


 思わず、聖剣を高らかに掲げた村長にツッコミいれてしまった。

 ただ一人、レイラ様だけがキョトンとしているが……恐らく露店を見た事がないのと、聖剣という物の存在を知らないのだろう。


「ふんっ! 儂ぐらいの通にもなると、露店でこそ掘り出し物を見つけるもんよ」

「幾らしたのです?」

「聞いて驚け! なんと金100枚! 3日間値切り倒して15枚にしてやったわ!」

「き、金貨15枚!? 仮にも聖剣に付ける値としては安すぎる!」


 金貨15枚なら中流家庭の半年分程の収入に当たる。


 この田舎にそれだけの財産を貯蓄している事には、驚嘆に値するが……これは本当に――


「それ本当に聖剣なのです?」


 私の疑念を代わりにイースラが言ってくれた。


「ふっふっふ、疑うのも無理はない。確かに本来聖剣に値など付けられぬ……だがな、そもそも露天商が聖剣だと知っていたら店に並ぶかね? 否、断じて否!」


 変なツボに入ったのか、完全に自分に酔った口調の村長を横目に、レイラ様はその聖剣を抜こうとした。


「……抜けないんですけど」

「「「えっ」」」


 何度力を込めても、剣は鞘から頑なに離れることは無かった。


「仮にも聖剣と主張する剣を、勇者が抜けないとか……教会が黙っていないのです」


 なんとも気まずい雰囲気が重くのしかかる。


「ぬッ、抜けないのもまだその時ではない証! 来るべき時が来たらこの『聖剣』は必ずやレイラの助けとなるであろう」


 取って付けたような設定を持ち出す村長に、私達は疑惑の目を向けずにはいられなかったが――


「……ま、まぁ……仮にも家宝だ……家の事情に首を突っ込むのは野暮というものだな。うん」

「勇者に聖剣は付き物なのです。家にあって良かったですねレイラ様」


 深く掘り下げる気力がなかったので、ありのまま受け入れる事にした二人だった。


「レイラよ……勇者となったお前には、この世界を救うなんて義務はあっても義理は無い。理がなければ務めを果たす事は出来ないだろう。世界を見よ。世界に生きる人を見るのだ。世界を救うかどうかはそれからで良い。偶には元気な姿を見せておくれ。」


 なんか凄く良い事を言った感じで締められてしまった。


 何はともあれ、村長からの了解は取り付けられたと見て良いだろう。

 私は内心で安堵していた。


「ごめんねおじいちゃん、ちょっと裏山にいってくるから村を出るのはその後になるわ」

「…………オゥ」


 なんとも締まりのない話だ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 家宝である聖剣(自称)を手にし、村長の了解を取り付けたボク達は中央広場にやってきました。

 レイラ様はご自宅で動きやすい服に着替えてもらいましたのです。

 栗色の髪と同じ色のシャツに、黒いズボンというおよそ勇者どころか冒険者にも見えなかった姿だったのですが……。


 どこかで装備を整えなくては、なんて話をしながらお兄さんとの待ち合わせの場にやってきましたが……当の本人の姿はありませんでしたのです。


「ふん、女性を待たせるとは軟弱な男だ」

「まぁそのうち来るんじゃないかな? ほら、あまり時間に捕らわれないし」

「……だめだ、時間が勿体ない。レイラ様の装備を見繕ってくる」


 レイラ様のフォロー空しく、ステラは子供に遊ばれていた騎士と女官の元に駆けていってしまった。


 彼らはこの村まで一緒にやってきた護衛と付き添いの方々なのです。

 元々、この村にはボクとステラの二人だけで来たわけではなく、彼らと共にこの村に来ました。


 レイラ様にお会いするのは、少数の方が好ましいという理由から、ボク達二人だけで酒場に入っていったというわけなのです。


「イースラも散歩してくる?」

「大丈夫なのですよ。じっとしているのは慣れているのです」


 内心では心惹かれる申し出だったのです。

 この村はどことなく、ボクが生まれた所に似ています。


 穏やかな雰囲気の景観と、気ままにその日を過ごす人々。


 郷愁の情とはこの事をいうのかもしれないのです。


 ですが、この身は神に仕える身。

 勝手な真似は許されません。


 レイラ様の傍に仕え、お支えするのが使命なのです。

 この方のみが、この世界を救う事が出来る……。


 レイラ様、一目でわかりました。

 どこにでもいる平凡な方だと。

 にも拘らず、その身に受けてしまった大いなる使命を全うできるように、ボクは死力を尽くすと気持ちを新たにしたのです。


 そうした矢先、気の抜けるような甘ったるい声が耳に届きました。


「あらぁ~、これはこれは勇者様ではありませんかぁ?」

「あ、クューニア。ザングも一緒なのね、こんにちは」

「やぁ、こんにちはレイラ」


 レイラ様がクューニアと呼んだ女性。

 赤毛の三つ編みとそばかすが特徴の……愛くるしい? そんな女性でした。


 そして、傍にはザング呼ばれた青年。

 畑仕事をしているのでしょう。ほっそりとして見えますが、身の引き締まって良い筋肉をしています。

 ボクもこのような筋肉が欲しいのです。


「あなたも大変ねぇ、まさか勇者になってしまうなんてねぇ。私達は幼馴染として鼻が高いけれどぉ、ちゃんと務まるのか心配しちゃうわぁ」

「んー同感。でも何とかなるんじゃないかな? イクスがいるし」


 まだお兄さんが一緒に旅に出るとは決まっていないのですが、レイラ様の中では確定している事だったようなのです。


「あなたはいつもいつもイクスイクス、なのねぇ。そんなに彼が頼もしいのかしら? いつも酒に溺れているだけじゃない」

「たまにはちゃんと働くよ?」

「レイラの言うとおりだよ。彼には僕の畑の手伝いもお願いすることがあるし」

「なぁにぃ? ザングはレイラの味方なのぉ? 私恋人なのよぉ?」


 クュ―ニアと呼ばれた女性はプンプン怒った様子です。


 何でしょう……ボクの目には彼女が嘘くさく映ります。

 本気で怒って無いようで、本気で怒っているような……。


 恋人であるザングと呼ばれた青年も、それは分かっているようで彼女をなだめるのに必死なのです。


 と言いますか、目の前でイチャイチャされるのはキツイものがあるのです。


「私達、今度二人で旅行で外に出ることにしたのぉ。もしかしたらどこかで会う事もあるかもしれないわぁ」

「そうなの!? おめでとう! 今からとても楽しみね!!」

「っ……そ、そうねぇ。行きましょうザング、邪魔しちゃ悪いわぁ」

「う、うん。じゃあレイラ、またね」


 クュ―ニアと呼ばれた女性は、そのままザングを置いてスタスタと先に行ってしまったのです。

 何だったのでしょう……? 何かしたかった? 彼女達はレイラ様のところに一直線にやってきたので、何か用があったのではと思ったのですが。


「……ぃぃなぁ」


 ボソっと呟いた声を、ボクは聞かなかった事にしたのです。


 その後、どこからか全身鎧を抱えてやってきたステラと合流し、その装備に魅了されたレイラ様の無茶に振り回される事になるのですが、ここでは割愛するのです。


 ただ、一言だけ。


 登山なめんな、なのです。

2017/07/22 新規書下ろし。

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