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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第1章 村娘が勇者になったので、従者として一緒に旅に出るようです。
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第EX話 余話事もなし-待ってる間に呑む酒は美味い-

時系列的には5話と6話の間になります。

寄り道的な話ですが、本編に絡みます。


 少し時は遡り、酒場で一度解散した後の零れ話。

 イクスは誰もいなくなった酒場で、一人寂しく酒を呑んでいた。


 酒が美味い。

 レイラ達は今村長の家に行っている。

 村の皆はこぞって出歯亀中だろう。

 皆が浮き足立っている中、俺は空っぽになった酒場で酒を飲んでいる。


 一人寂しく酒を飲んで不味くはないかと思われるだろうか?


 超絶美味いに決まってる。


 王都から持ち込まれた酒は、そこらの酒とは明らかに格が違った。

 俺達が普段飲んでいるのは麦を発酵させたエール酒なのだが……これはそもそも違っていた。


 見た目の色や泡は同じ様でも、香りが違う。

 果実のような爽やかさ香りと酒独特の妖美的な香りが複雑に絡み合いながら、俺の鼻を誘惑するのだ。


 嗅いだだけで、美味いと断言できる酒だ。


 だがそれも、一口飲めばそれが如何に小賢しい感想だったのか反省するだろう。

 俺はした。


 まずは口の中で弾ける泡を楽しむ、上質でキメの細かい泡が口に広がる。

 細かい粒が弾け合いながら風味がどこまでも広がる。

 そして次に酒自身が喉を通る。

 喉越しがとにかく良い。

 このキメの細かい泡がこの喉越しの良さを生み出しているのだろう。


 そして真実に至る。


 これは舌で楽しむ酒なのだと。


 苦みはある。

 だがえぐ味がない。

 そもそもこれは麦なのだろうか?

 果実の風味がするものの、なんの果実が使われているのか分からない。

 いくつもの風味が折重なりながら、この爽やかさな酒は存在している。


 まさに至高の酒だ。

 胃袋に持っていくのが勿体ない。

 いつまでも舌の上で踊って欲しい。

 そう思わせる逸品だと言える。


 そんな酒を独り占め出来るのだ。

 嬉しくないわけがない。


 残念ながら時間は有限。

 いつ何時男衆が戻ってくるか分からない。

 奴らはこの酒の味を知っているのだから……


 収めなくては、全ての酒を!!この胃袋に!!


「くは……クハハハハ!絶望に打ち震えろ!!これらの酒は全て我が胃袋の内に——」

「お前が魔王か!?」


 後ろから頭を叩かれ軽く脳が震えた。


「いったぁー、ってボルカの爺さんかよ。一緒に呑むか?」

「……一人呑みは寂しいもんな」

「ちげーし、俺は酒を愛しているだけだし!」

「良い酒は酔う事すら忘れさせるもんじゃ、気をつけんとならんぞ」


 そう言いながら一緒の卓で呑み始めたこの爺さん。

 膝下まで蓄えた白ヒゲが特徴の『現役』の木こりさんだ。


 皆心の中では『良い加減引退しろよ』と、心配しなくもないんだが……。


(超絶元気老人なんだよなぁ)


 ムッキムキなのである。

『身体は筋肉で出来ている』を地で行く筋骨隆々のお爺ちゃま。

 村で多分一番強い……現在進行形で、いろんな意味で。


「お前さんは嬢ちゃんの所にはいかんのかい?」

「行ってどうするよ。爺さんの方は行かねぇの?600年ぶりの勇者だぜ?」

「ふんっ!勇者なんぞ酒が不味くなるだけじゃ!」

「あんたから話振ったよな!?」


 酒を呑む前から酔っ払ってんじゃねぇの!?


「で、お前さんらは山にしばかれにいくんじゃろ?」

「こえぇよ!ちげぇよ!……って聞いてたのかよ。ただの茶番だあんなもん」

「茶番?あそこは大して見晴らしなんぞ良くないぞ?」

「なんの話をしてるんだ?……なんでもあの山にはドラゴンがいるんだってよ」


「————」


 爺さんから表情がなくなる。

 なぁ、そういう表情最近流行ってんの?

 今度俺もやってみようかな。


「そのドラゴンを討伐して、名実ともにレイラは勇者として祭り上げられるのでした」


「————」


 表情のない顔から湧水の様に汗があふれ出した。

 爺さん多芸すぎるだろ。


「なんつってな。ヤラセだよヤラセ。居るわきゃねぇんだよなぁ……ドラゴンなんて」

「…………じゃのぉ」

「ドラゴンなんていたらとっくの昔に食べられてるってのになぁ」

「ドラゴンが皆肉食なわけではないんじゃぞ」

「え?そうなの?」


 なんか爺さんが語り始めた。

 お年寄りとは語りたがるものだ。

 よく村の男衆たちはまたかよと頭を悩ませるが、俺は割と好きだったりする。

 俺より数倍も長く生きている、そんな人が何を語るのか、興味は尽きない。


「遥か昔、空はドラゴンの領域じゃった」


『遥か昔』って昔話の冒頭で良く使われるけど、いまいちふわっとした表現で感情移入しずらいよな。


「その頃の竜は皆ありとあらゆる言語を語り、ありとあらゆる種族と交流を持っていたのじゃ……何故そんなことが出来たと思う?」

「さっき言っていた『肉食じゃないから』に繋がるのわけか」

「正確には違うんじゃが……まぁそういうことじゃ」

「でも、今のドラゴンは人を食うよな。人だけじゃない、動物も魔物も、それこそあらゆる種族を……」

「あれはな……ドラゴンとは言わんのじゃよ」


 爺さんは忌々しそうに、また悲しそうに俺に言葉を返した。

 爺さんドラゴンに感情移入しすぎじゃね?

 そういう信仰なのかもしれない。


「あ————っお前さんにも見せてやりたいのぉ。『本物』のドラゴンの姿を」

「やめろよ!マジでやめろよ!!死ぬから!うっかり村に連れてくんじゃねぇぞ!!」


 この爺さん嬉々として持ってきそうだからな。

 なにせ、若い頃は冒険者をしていたらしい。

 世界中を駆け回り、それはそれは面白おかしく暮らしていたそうだ。

 そりゃあドラゴンの一匹二匹相手にしててもおかしくない。


 でもドラゴンだぞ?

 ドラゴンこそが恐怖の代名詞。

 魔王?なにそれ、それよりもドラゴンの方が怖いから!が、一般的な感覚だったりする。


「見せてやるにしても、お前さんも嬢ちゃんもいなくなるから当分はお預けじゃのぉ」

「お預けのまま墓の下まで行ってくれ。——って、村を出るのはレイラだけだけど?」

「…………なぬ?」

「山には行くけどな。たぶんそれでレイラ達とはお別れだ」


 恐らく、俺が皆と村を出ることはないだろう。

 俺はただの村人でしかないから。

 勇者の一行の中に『村人』がいたらどう思うよ。

 お偉いさん方には受け入れられる事はまずないだろう。


「かぁ————————っ、男が廃るのぉ!」

「だよなぁ」


 レイラの事が心配だ。

 かといって村を出て行くのは嫌だ。


「自覚してるのが尚立ち悪いの!」

「爺さんならついていくか?」

「あ、儂は年寄りなんで」


 真顔で返された!


「くっそ!ほんとこの爺いくそだわ!」

「儂と違ってお前はまだ若いんじゃぞ?やりたい事をやりたいようにすれば良いんじゃよ。嬢ちゃんの事が心配で心配で堪らんのじゃろぉ〜?」

「えぇい突くな!年寄りが若者ぶるんじゃねぇ!」

「若者ぶる年寄りと、女々しい男……どっちも気持ち悪くて相性抜群じゃの!」

「女々しいのは認めるけどホモじゃねぇよ!」


 その後永遠と爺さんの『武勇伝』(性的な意味で)を聞かされ続けた。


「近くにいるだけで訴えられる……嫌な時代じゃ」

「自業自得って知ってるか?」


 やらかし過ぎて、この村に来たそうだ。


 …………帰って登山の準備しよ。

更新日は土曜日の朝10時にしようと思います。


※こぼれ話のサブタイトル表現をEXに変更しました


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