第6話 竜のいる山
「なぁ……どこまで登るんだ?」
ガシャコンガシャコン
「獲物が見つかるまでだな、見逃さないように気を抜くなよ」
ガシャコンガシャコン
「……なぁ————」
ガシャコンガシャコンガシャコンガシャコン
「だぁぁぁぁぁうっせぇーーーさっさとそんなもん脱いじまえ!!」
「んっーーーぬげないぃよぉーー」
そう答えたのは我らが勇者のレイラ・カミュナ。
現在は全身鎧を着込んでいるため、知らない奴が傍目から見れば、これがレイラであることは分かるはずもない。
「あぁもうめんどくせぇ、剥いてやるからじっとしていろ!」
「お兄さんが乱心したのですーーーー!?」
今俺達は村から北にある山を登っている。
村の周辺には森があるが、山には草木一本生えておらず、むき出しの岩や土が一面に広がっていた。
何故こんなところに来ているのかと云えば、目の前で先頭切って歩いているステラが事もあろうにドラゴン退治を言い出したからなのだ。
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「ドラゴン退治?……エルフって馬鹿なの?」
「まぁ最後まで聞け、ドラゴンとはいえ最弱の肥翼竜だ。肥えて飛べず、その竜皮は柔らかく、体毛に覆われて竜というより鳥に近い」
「そんなもんあの山にはいないぞ?あと青筋たてんな怖いから」
そんなものが居れば、流石に村にもその情報が出回っていなければおかしい。
「当たり前だ、我々が放したのだからな」
「え? なんだって?」
「我々が、放してきた、この村に来る前にな!」
胸を張るステラ、一瞬胸が動いた気がした。
精霊術師なんてやっているから運動不足なのだろう。
「……やっぱりエルフって馬鹿なのか?」
「なんだとぉー!?」
「まぁまぁステラ。お兄さん、これも作戦なのです」
「はくへん?」
給仕係で勇者のレイラは仕事を放り出して飯を食べていた。
「んぐんぐ、ぷはーっ、良いじゃない私も混ぜてよ!」
「ま、当事者だから当然なんだがな……で、作戦って?」
「正直、勇者の印だけでは国内外での宣伝には弱いのです。幸いというのも何なのですが……今回はとてもじゃないですけど、人様の目に印を晒すわけにはいきませんのです」
「そこで、手っ取り早く功績を立ててしまえば良い、というわけだ」
「とんだ茶番だな」
要は国が立てた勇者に説得力を与えるための『ドラゴンスレイヤー』なのだ。
この勇者は竜すら倒せるのだと。
(確かに、勇者だと言われてレイラが出されても……な)
横目でレイラを見る。
美味しそうに飯を食い、リスのように頬を膨らませている。
(何事もありませんように)
その後レイラは、村長……レイラの爺ちゃんに家宝の聖剣を貰い。皆と色々話して、国からは全身鎧を貰った。
それを纏ったのだが……なんというか似合ってない。
まず、鎧が体に合っていないため、全身から金属がぶつかる音がして兎に角うるさい。
体に合っていないのに、無理に歩こうとするためがに股になり、鎧の重さに重心がぶれてさっきから体がふらついている。
レイラ自身は鎧が気に入っているのか、脱ごうとしない。
仕方ないのでそのまま山に入ったのだった。
そんな経緯で今に至る。
ちなみに酒場の外にいたであろう女官を始め、竜を運んできた業者達は、既にヴァルスティン神聖王国に向けて既に出立していた。
自分の仕事に疑問を持っていないのなら良いんだけどな。
そしてイクスはやっとのことでレイラの全身鎧を剥ぎ終わった。
傍目から見られると勘違いされそうな気もしなくもない。
レイラは両手で顔を隠して体を小さくし、横たわっている。
大丈夫、服まで剥いではいない。
「「…………」」
若干二名の視線が痛いが、とりあえず無視することにした。
剥いだ全身鎧から使えそうなものだけを選ぶ。
(胸当ては無いと駄目だな。肩当ては……いらねぇか、重いし。あとは籠手だな。これ以上は重さに体が耐えられない)
レイラが倒れ込んでいるのも、半分以上は無理して鎧を着込んでいたせいだった。
「レイラ様、今癒しますのですよ。……癒しの女神オルテュスの、その慈悲深き御心へ、我が信心を捧げ奉り、我らが勇者に祝福を与えたまえ。リフレッシュ」
そう祈るとレイラの体が淡く光る。
「……およっ? 体が軽くなったわ!?」
改めて神聖術ってすごいのな。
なんだっけ、『お優しい女神様なら信者の私のために、このポンコツ勇者をどうにかしてよ!』とかなんとか言ってたっけ?
すげぇよ、そんなこと言われて言うこと聞いちゃうとか女神様かよ。
あ、女神様だったか。
「ほれ、レイラ立てるか?」
「うん、問題ないと思う」
「じゃあ後コレを装備しておけ」
「はーい」
うむうむ、一応は見えるようになった。
今のレイラの装備は先程の全身鎧をバラした胸当て、籠手と俺が着てきたマントだ。
「なんかボロボロなのです」
「お前のを剥いでも良いんだが?」
「冒険者みたいでカッコ良いのですーー☆」
調子がいい子供である。
「逆にお前は元の農民に戻ってしまったな。まぁ賊にしか見えなかったから良いのだが」
「やかましいわ!? この試練の主役はあくまでお前達なんだから、俺の格好なんて二の次で良いんだよ」
今の俺は従者として同行しているわけだが……。
装備は特にない。
麻の上着にズボン、武器となりそうなものは薬草を採るためのに使っている短剣ぐらいなものだった。
一応、二人の荷物を背負っている事で従者として体面がギリギリ保たれている状態だった。
それでも、全身からやるきを感じさせない出で立ちには変わりなく、二人も元々今後の旅に連れていく気がないからか、文句も言われなかった。
あと全身鎧の残りカスはここに置いていく事にした。
俺がこの残りものを装備する手もあるが、遠慮させてもらった。
帰りに回収すれば良いだろう。
「これでもそれなりに高価な装備なのだが……」と未練がましくステラは言っていたが、そこは無視した。
こんなものを持って登るとか体力以前に心がやられてしまう。
徒労刑って知ってるか?
「それで、デブ竜はどこにいるんだ? 当てもなく登山なんてしたくないんだが?」
「うーん、見えないわねぇ。木々なんてこの山には生えてないから、見渡せばすぐに見つかると思うんだけど」
「登りながら探すしかないのです?」
「放してからそう時間は経っていない。とはいえ仮にも竜なのだから、山頂にいる可能性も無くはないな」
「竜と鳥は高いとこがお好きなのです」
ついでに馬鹿も仲間に入れてあげよう。
そうして俺達馬鹿は当てもなく山頂を目指すのだった。
ダ〇の大冒険のアノ話はすごく愛してます。
2017/07/15 一部修正