第4話 その天岩戸、開いてね?
第4話 その天岩戸、開いてね?
レイラには恩がある。
それは決して小さくない。
この村に戻ってきた時、レイラだけが暖かく迎えてくれた。
この村の皆との仲を取り持ってくれたのがレイラだった。
イクスにとって、それは決して小さくない借りであった。
もっとも二人共、その事について改めて意識する事はなかった。
(どうしたもんかな……)
イクスは頭を悩ませていた。
何せもう詰んでいるのだから。
どうやらどっかのクソ神様に詐欺られて勇者にされてしまったらしい。
先ほどから、レイラは捨てられた子犬のようにこっちを見ているのだが、正直これ以上フォローの仕様がない。
なんとかしてやりたい。
してやりたい……のだが、これ以上拒否の姿勢を取り続けると、非常に不味い。
最悪レイラは殺される。
印を持つ者が勇者をしない。
印は1つ、替えはない。
じゃあどうする? 殺っちゃう? そいつぶっ殺して神様に別の誰かを選んでもらおうぜ。
と、なりかねない。
レイラを殺しても、二度目の選定が行われないであろうことはステラの説明で分かる。
少なくとも目の前の二人は、そんな短慮な行動は起こさないだろう。
が、それは果たして皆がそうだと言い切れるか?
他の奴らがそうしないという保証がどこにもない。
勇者の立場から逃げ出せば、遅かれ早かれ命を狙われ続ける人生になる。
レイラやこの村の皆が危険に晒されるリスクを考えると、ここで折れる以外なかった。
周りの男衆を見ると、皆曖昧な表情を浮かべている。
恐らく、今の俺と大差ない考えを抱いているのではなかろうか。
「ちょっと待てよ? レイラが勇者になって皆助かる……かどうかは置いておくとして、レイラ本人への見返りがどこにもないんだが?」
もうレイラが勇者になるのは避けて通れないだろう。
ならば、俺がしてやれる事はレイラが『魔王を倒した後』のご褒美を最大限引き出す事だ。
「おいおい、こんな年端もいかない女の子を勇者に祭り上げるんだ。『当然』何もないなんて言わないだろ?」
イクスは二人に頑張ってもらうことにした。
ここは二人に如何に、レイラ自身に得があるか語ってもらおう。
内容如何ではレイラのやる気も出るだろう。
物足りなければ吊り上げてやれば良い。
目線をイケメンに向けると、コクリと頷いた。
(後はまかせろ)と、そう顔は語っていた。
男同士気持ちが通じあっても、全然嬉しくないんだからねっ!!
「ふむ、まず勇者を輩出したこの村への街道及び物流の整備が行われるな。何せ勇者を輩出した村なのだから、生家や景観を見ようと大勢の人間がやってくるだろう。それにともなう当面の支援と治安を守るために、王都から警備隊は派遣される」
うん、一つ分かったことがある。
こいつ、滅茶苦茶説明が下手糞だな。
何一つ魅力的に感じないぞ。
この村は内でほぼほぼ完結している。
最近サカモトが来たものの、基本的にこの村に不満を持つ者はいない。
では何故サカモトは受け入れられたのか?
それは損得よりも細工という目新しい『娯楽』があるためだ。
(あちゃー、男衆も皆苦笑いしているよ)
そんな雰囲気を何も感じていないのか。
イケメンは尚も話を続ける。
「レイラ様個人の事でいうなら。王都で聖騎士団による戦闘訓練、宮廷魔術師による魔術訓練、神官による常識、作法といった……おい、どうした?」
「「それは拷問であってご褒美じゃない!!」」
(この唐変木がっ!!そんなんされた日にゃ、一日経たずに逃げ出すぞ?)
隣をチラッと横目で見ると、レイラは真っ青になっている。
(この役立たずっ!!)
(何故だ……あらゆる知識と教養がタダで手に入るというのに……喜ばない……だと!?)
(次はボクに任せるのです!ボクにかかればイチコロなのです!)
((まかせた!))
ちなみに全ての会話は視線で行われ、費やした時間は十秒満たなかった。
「レイラ様、レイラ様?」
イースラの声にレイラは顔をあげる。
「王都には世界中から人が集まります。それはそれは見たこともない美味しい食べ物が、服に宝飾が、演劇が毎日のように入れ替わり立ち替わりあるのです」
「演劇がよく分からないケド、食べ物には興味があるわ!」
ちなみにレイラには服と宝飾には余り興味を示さない。
存在を知ってはいても、馴染みが無さすぎるのだ。
着飾るのなんて結婚式ぐらいなもので、田舎の景色に宝飾品は只浮くのみである。
「さらに、勇者となれば世界中を旅して回ることになるのです。そうなれば、行商人が扱えないような新鮮な食べ物も食べられるのです!」
「お、おぅ」
「山のように!」
「山のように!?」
徐々にではあるが、レイラの瞳が輝きだした……わかりやすいなぁ。
なかなか良い感じの流れになりつつある。
やるじゃないかちっこいの。
と、思っていた矢先やらかしたのだった。
「あ、ちなみにこれは飴という食べ物なのです」
「飴ぐらい知ってるもん!!田舎者だと思って嘗めないでよ!」
(飴だけにってか? 上手くないからな?甘くもないけど)
なんにせよ、イースラの勧誘も失敗に終わってしまった。
田舎者と侮った結果である。
ちゃっかり飴を貰い頬張っているものの、心の距離は遠退いてしまったようだった。
二人が俺の事を見つめてくる。
次はお前の番だと云いたいのだろう。
俺としてはレイラと勇者というのは、余りにイメージがかけ離れている。
何かの間違いで、本当の勇者は別のところにいました。
何ていうのが最高で理想なんだが……それが、逃避だと自覚している。
やってほしくない、本音だった。
でも、それが叶わないとも理解してしまっている。
正直、勇者をやるしかないわけだが……。
本人の意に沿わない選択はさせたくないし、そもそもそんなものは選択とはいわない。
何かを強要される辛さを、出来ることならレイラには味合わせたくなかった。
「レイラ」
「なに?」
「勇者になれ」
「わかった」
「「え?」」
レイラの即答に二人は驚いた。
……ついでに俺も驚いた。
「……良いのか?」
「うん。たぶんイクスは私よりもいっぱい考えてくれたよね? そんなイクスが出した答えなんだったら、それが『正解』なんだと思う。たとえ違っても『それ以外』なかったんだって信じられるから」
さすがのイクスも絶句した。
そこまでレイラに信頼されていることに……。
確かに幼い頃に一緒に遊んだ事もあったのかもしれない。
再会してからは2年程度しか付き合いがない。
その2年間も、お互いの距離感は何も変わってはいない……はずだった。
そんなイクスを横目に、レイラはどや顔して言うのだった。
「それじゃあイクス、一緒に魔王を倒しましょ」
照れ臭そうに手を差し出す。
「え? なんで? 嫌だけど」
いつから俺が手伝う流れになった? これが分からない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
イクスが悩んでいた。
勇者と宣言を受けた時、他人事の様にしか受け取れなかった。
少し聞いたら改めて無理だと思った。
だって私は『この村』から出たことがない。
剣も魔法も使えない。
そんな『本当の意味』で村娘の私が勇者としてやっていける訳がない。
なんとかイクスに側にいてもらった。
イクスなら多分、何とかしてくれるんじゃないかと思った。
ところが、イクスは何か悩んでる。
その『何か』はもちろん『私』の事なんだけど、恐らくはそれだけじゃない。
村の事、イクス自身の事、向かいに座っている二人の事……いろんな事がその『何か』に当てはまっているんだろうなって思う。
そういう所は小さい頃と同じで……イクスは昔とは全然変わってしまったけれど、変わっていない所もあって……いけないと思いつつ嬉しくなってしまう。
ところがどっこい。
この男なんと敵側につきました。
二人があの手この手で私の勧誘を始めたのです。
あれ?この場合はあの口この口?
ともかく、私の乙女心はそれなりに傷ついたわけです。
(あれ? イクスが向こうにつくって事は勇者をなったほうが良いのかな?)
イクスは誰かが一方的に被害を受けることを良しとはしない。
この場合は私……でいいよね?
つまり私は勇者をするよりも、しない方が『危ない』という事?
魔物や魔王よりも危ない……人?
私が勇者を断って一番困るのは目の前の人達……だと思う。
その人達が敵になる……あ、間違いなく私死ぬね。
私だけなら……でも村の皆は?
そこまで考えて、ようやく私は自分の置かれた状況を理解した。
恐らくイクスは私よりもっといろんな事が見えている。
外を知っているイクスだから。
優しかった彼が、凍えるように冷たい目をするぐらいの何かを経験をしてきたイクスだから。
なら彼が出した答えを信じよう。
この時点で私の気持ちは決まっていた。
でも勇者になってしまったら……彼と離れ離れになってしまう。
それは……嫌だな……せっかくまた会えたのに……毎日楽しかったのに……寂しいな。
そんな時、イクスから声をかけられた。
「レイラ」
「なに?」
真っ直ぐ私の目を見つめてきた。
それは決して強い意志ではなく、むしろ嫌々言わされているようで、でも自分で決めた義務感のような眼差しだった。
「勇者になれ」
「わかった」
嬉しかった!
イクスは誰かに何かを強要することを嫌っていたから。
私はイクスに選択を迫られるかと思っていた。
私が自分で決めた事なら、イクスには何の責任もなくこの先の道は別れてしまう……そう思った。
でも違った。
イクスは私に『なれ』と言った。
つまり、責任はイクスが持つっていう事であり、この先も一緒にいるという事にほかならない。
と、その時は思っていたのです。
2017/07/15 修正