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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第1章 村娘が勇者になったので、従者として一緒に旅に出るようです。
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第12話 古樹竜の試練ーその2ー

 俺達は山の山頂へ向かう事にした。

 俺達がこの洞窟に篭っているのを奴は気付いているはずだ。

 なら出口で待ち構えていておかしくはない。


「それなら俺達は別の出口から出れば良い。この蜘蛛の巣の様に張り巡らされた洞窟には、必ず外に繋がる別の道があるはずだ…………たぶん」


「一つ前の粋がった言動と今の自信のない言動のギャップが凄まじいんだが……」

「うるさいよ!? 別の出口はステラとイースラ頼みになるんだから仕様がないだろ!」

「泉を見つけたのも二人のおかげだしね」


 二人の耳と鼻があれば風の流れとかを都合良く読み解いて、出口の一つや二つ見つけてくれるだろう。

 探査系の呪文とか合ったら良いんだが、どうやらそこまで好都合なものは無いようだ。


「ねぇねぇ」


 背中をツンツン突きながらレイラが言う。

 剥き出しになった素肌を直接ツンツンするんじゃありません!


 今の自分は上半身裸という、何とも情けない恰好になっていた。

 古樹竜の炎に焼かれてたのだから、むしろこれで済んだのは上々と受け止めるべきなのだろう。


「その肩の痣って何? さっきから気になっていたのよね……なんだろ、丸に星が描かれてる様にみえるわね。でもその上からバツを付けてる……?」


 …………痣?


 あぁ、そんなのもあったな。――と、イクスは思い出す。

 正確には痣ではなく『焼印』なのだが……。


 左側の肩甲骨の辺りにそれはあり、今の今までその存在を忘れていた。

 鏡なんて上等なものもないし、気にしなければ無いのと同じだ。


「レイラは知らなくても良い事だ」

「え?」


 ステラが切って捨てた。

 いや、別に隠したいわけでも……やっぱり隠しておこう。


「世の中、知って損する事もあるのものだ」


 そうだな、レイラには少し刺激が強い内容だ。

 …………ステラは『コレ』が何か知ってるんだな。

 エルフであるステラがコレの事を知っていてもおかしくはないんだろう。

 レイラの方も俺が村を出た理由を知っているなら、大方予想は付くだろうし。特に構えて語る事じゃないのかもしれない。


「言っておくがコレは蒙古斑じゃないぞぼるぉっ!?」


 レイラは思いっきりボディーブローを入れるとスタスタと前に行ってしまった。

 入れ違いにイースラが寄って来た。


 今度は何だ? と思いながらイースラに話しかけようとして躊躇した。

 不安そうな表情を浮かべている。


「お兄さんは、本当に見つからずに頂上へ辿り着けると思うのです?」

「え? 普通に見つかるけど?」

「「「え?」」」


 え?なんで三人とも驚くんだよ。

 先に歩いてたいレイラもギョッと驚いた表情で振り返っていた。


「この山はあいつの領域なんだぞ。どこにいたって見つかるのは当然だろう? それに外は見通し良いし、隠れるところなんてほとんどないぞ?」


 その言葉に三人は顔を青く染める。

 今朝の出来事を思い出したのだろう。


「あーそれにな、俺達を見失ったあの糞トカゲ、たぶん村まで降りてくるんじゃね?」

「「「あ」」」

「俺達はむしろ見つからないといけないんだよ。その上で逃げ切る。な、簡単だろ?」

「あはは……確かに言うだけなら簡単だな!!」

「この人さっきまで死にかけてたの忘れたのです?」

「バカなの? 死にかけて知力置いてきちゃったの? イクスそんな子じゃないでしょ?」


 なんでここまでボロクソに言われんといかんのだ?


「大丈夫、作戦ならちゃんとあるから」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「よし、奴の気配はないな」


 洞窟の入口よりさらに高い位置に別の出口があった。

 イクス一人、外の様子を伺う。

 近くに古樹竜がいないのを確認すると、離れたところにいるレイラ達に合図を送った。


「いいか、手筈通り頼むぞ皆。あとレイラ、その聖剣(失笑)を借りるな」

「笑いながら言わないで! ポッキリ折れちゃってるけど家宝なんだから! ちゃんと返してよね!」


 レイラから剣を引っ手繰ると側に落ちていた石ころを拾い上げ、ボロボロになった自分の上着だった布で石と剣をグルグル巻いてくっつけた。


「イースラ、守りを」

「任せてくださいなのです!」

「ねぇ私は? 私だけ何も言ってもらってないんですけど?」

「ステラ、レイラとイースラを絶対守れ、二人よりも絶対生き延びるな」

「さっきも思ったが君は私にだけ酷くないか!?」

「仕方ないだろ? イースラはこのチームの生命線だし、レイラが死んだら世界は終わる。俺とお前で絶対に守らなきゃなんねぇんだから」

「ねぇ、私は? いい加減泣くよ?」


 ……仕様がないだろ。

 相手が古樹竜相手じゃレイラに出来ることなんて無いんだから。

 なんて言えばいいんだよ。

 正直に言ったらどのみち泣くだろうに。


 イースラが俺達に守りの術をかけていく。

 感謝の気持ちも手伝ってか、無意識にイースラの頭を帽子越しに撫でた。


「お、お兄さんまたっ!?」

「あぁ、ごめん子供扱いしたいわけじゃなかったんだ。皆の事よろしく頼んだぞ」

「…………はいなのです」

「いくぞ、皆!」

「ねぇ、私は?」

「とにかく走り続けろ!!」


 そして俺達は走り出した。


 山は俺達が登っていた時と同じように、静かなものだった。

 生物の気配がない。


 昨日ステラがおかしいと言っていた。

 確かにおかしい。

 今のイクスにも現状の違和感をはっきりと感じていた。


 古樹竜が近くにいれば空気が震える、大地が揺れる。

 それだけアイツの存在は強烈なのだ。


 にも拘らず、この静けさはなんなのだろう。


 思えば、奴は唐突に姿を現した。

 それこそなんの前触れもなく、突如として俺達の前に『いた』のだ。


(それっておかしくないか?)


 ここにきて疑問が湧いた。

 どう考えてもおかしい。

 幻覚?

 いや、あいつの吐く息や炎の熱、それだけじゃなくもっと根本的な生々しさがあった。


(アイツはもしかして、姿を消せるのか?)


 視覚的に見えないようにする術は……ある。

 けれど、アイツの場合は存在そのものを隠せるのかもしれない。

 そんな術は……俺は知らない。


(何を馬鹿なことを)

 と、妄想とも違わない考えにイクスは一人ごち、空を見上げた。


 合った。


 瞬間震えることになる。


 こちらを見ている目と目が合った。


 空が割れていた。


 亀裂が入り、割れ目から獰猛な瞳が確かにこちらを見ていた。


「上だああああああああああああ!!」

「「「!?」」」


 イクスが叫ぶのと同時に、割れ目から古樹竜は姿を現し、重力に身を任せ降ってくる。

 強烈な音と共に大地は揺れ、砂煙が舞う。

 最悪なことに、古樹竜は四人の進路を阻む形となってしまった。


(くそっ!? また奇襲を許した!! 奴に時間を与えちゃだめだ!!)


 せめてレイラだけでも先に行かせないとマズイとイクスは判断した。


「いくぞレイラ!」

「うひゃっ!?」


 イクスはレイラの襟元を掴み上げ、アンダースローのフォームで竜の股ぐらに向けて投げた。


「うひゃああああああああああああああああ、あっなんか見えた!?」

「!?」


 レイラは何度が跳ねながら、竜の股ぐらを越えて尾の先へ辿り着いた。


(ん? なんか古樹竜が動揺したような……)


 おっと、それどころじゃない。


「ステラ!!」

「吹き撒け黄砂! 相環を裁ち、暗き明度に誘う檻とする! サンドスモーク!」


 ボフっという音とともに、さらに大量の砂煙が一帯を覆う。


「黄岩の薔薇は咲き乱れ、括れ、結わえ、その棘は帰する事能わず! ロックスパイク」


 古樹竜の周りの岩から石の蔦が伸び、絡め取る。

 更にそこから返し付きの棘が生えたが、古樹竜の硬い竜皮を貫く事は出来なかった。

 だが幸いな事に、棘の返し部分が鱗の隙間に入り込み、古樹竜がもがけばもがくほど絡め取られていった。


 ロックスパイクは本来相手を貫く魔術だ。

 洞窟の中でステラの持っている手札を確認していた時に、こういう使い方は出来ないかとイクスが提案した。

 結果は御覧の通り。


 一方サンドスモークは視界を塞ぐ魔術、ではない。

 吹き上げた粉塵で相手の肺をズタズタにする魔術だった。

 もっとも、あまりの卑劣さからステラも本来の用途では使った事はないらしい。


「二人共! レイラを連れて駆け登れ!」

「はいなのです!! でもその前に、マイティーフォース! フィジカルタンク!」


 マイティーフォースは腕力を、フィジカルタンクは持久力を上げる神聖術だ。

 効果時間はもって5分。


 作戦とはいたって単純だ。

 ステラが魔術で古樹竜を地面に縛り付け、イースラの神聖術で強化した俺が囮になる。

 その間に三人には出来る限り距離を稼ぐ算段だ。


 作戦というにはお粗末すぎる内容だが、ドラゴンなんて規格外な相手では何をしても小細工にしかならないのは分かりきっている。


 現にステラの魔術もいずれは破られるだろう。

 イースラの神聖術も5分しか持たない。

 俺はこのわずかな時間でレイラ達を頂上まで登る時間を稼ぎながら、なおかつ逃げ切らなければならない。


 当初、この作戦には三人とも大反対された。

 三人に伝えたら「「「それを作戦とは言わない」」」とハモられてしまう始末だ。

 だが、目標は古樹竜の討伐じゃなく逃走なのだと伝え、この作戦が一番『皆が』生き残れる可能性が高いと説明した。

 難色を示した皆も、代替案がないという事で渋々納得した形となった。


「向こうで待っているのです! 絶対なのです!!」


 イースラが良い子でお兄さんは嬉しいよ。

 そんな思考を遮るかのように古樹竜は吼える。


「愚汚汚汚汚汚汚汚汚汚汚汚汚汚汚汚汚汚」

「うるせぇトカゲ野郎!! てめぇの相手は俺だよ!!」

「!?」

「時間稼ぎ? 囮? それで俺の気が晴れるわけがねぇだろうがっ! てめぇのお蔭で丸焼きにされるわ半裸にされるわ要らん夢見させられるわ散々だ!」


 悪い皆。と心の中で謝っておく。

 逃げる気なんて毛頭ない。

 この5分間で必ず奴を沈める。

 神聖術の効果なのか、体中の活力が全身を循環していくのがわかる。


 古樹竜も待っているつもりはないようで、口から火の粉が散っている。


「疾ッ!」

「!?」


 イクスは古樹竜の前足から駆け上りる。


「これだけ近づけば火も吐けねぇよな?」


 首元に立つと持っていた折れた剣の鍔を鱗の隙間に差し込むと梃子の原理でそれを剥がした。


「苦我我我我我我我我我我我我我我我」


 まさか人間に鱗を剥がされると思っていなかったのだろう。

 悲痛な叫びを上げながら、古樹竜の瞳が怒りで染まる。

 痛みのせいか、はたまた振り落とそうとしているのか暴れようともがいている。

 絡め捕っている蔦の岩も、既にひび割れてもう持ちそうにない。


「お前に俺達は殺せねぇよ、お前はもう狩る側じゃねぇ」

「!?」


 首元からさらに駆ける、顔へと。


「お前は勇者でもなく、英雄でもない只の村人に倒されるんだ!」


 純粋な殺意の決意。

 今朝の絶望感はもう欠片もない。


 理性も本能もこいつを殺せと叫んでいる。

 殺せると分かっている。


 だから、俺は笑って――


 古樹竜の目に思いっきり拳を叩き込んだ。


「のぉおおおおぉぉおああああああああああああ目がああああああああああああ」

「……あ?」


「痛ぅうううううう信じられんわい普通目玉狙うかの!?失明したらどうしてくれるんじゃクソが!!全くどんな教育されたらこんなんに育つんじゃ!あ、なんか痛み引いてきたわい。やっべ、儂ったら再生能力あるんだったわー伊達に長く生きてないわー……あっ」

「…………」

「…………が、がおー」

「誤魔化すのかよっ!?」


 なにこのドラゴン喋ってるんですけど!?

 え?ドラゴンって喋れるの?

 …………そういやボルカの爺さんがそんな事言っていたっけ?


 戸惑っているイクスをよそに、空から声が轟く。


「せいや━━━━━━━っ!!」


 それは先へ行ったはずのレイラだった。

 空から落ちてきたレイラの足は綺麗に古樹竜の脳天に落ちた。


 いやいや、その程度で古樹竜が倒れるわけが━━


「ぐあああああやられたああああ、おのれ勇者ぁぁああ」


 古樹竜はそのまま崩れ落ちた。


「……ナニコレ!」

「助けにきたよ! イクス!」


 飛びついてきたレイラを抱きとめる。


「エ? あ、うん……アリガトウ」

「えへへ」


 無邪気に笑っているレイラをよそに思わず叫んだ。


「俺の決意返して!? ねぇ誰でも良いから返して!!」

2017/07/30 一部修正

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